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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
あなたのいないお茶会は
34/92

22 七光りのもと

「それは・・・いったい・・・どうなさったの、ティボーさん」


脈絡がなくて全くわからない。


だいたい、ソイトゲルって何? 


削い砥げる?

疎意研げる?

粗衣棘る?


もしかして、新しいお菓子?



するとスティーブは反対の手を胸の前に当て、忠誠を誓うように言った。


「ああ、セレスティーヌ様、先ほどまでのように、私のことは名前でお呼びください。先日お会いして、噂とは違う、なんと可憐で優しげな方なのかと、私はなんと酷いことを言ってしまったのかと、ずっと気にしておりました。あなたを思うと、眠れないこともありました。それを私は、浅はかに、あなたを傷つけた故の、私の後悔だと思っておりました。でも、今、お会いして、わかったのです。あなたを想っていると。あなたのお心が欲しいと思っていたのだと、わかったのです」


頭の中を、今言われた言葉が目まぐるしく駆け巡る。


可憐で優しげとは?

あなたを想っているとは?

心が欲しいとは?


「あなた様はウェベール殿と将来を誓う身。ですが、まだ成婚したわけではありません。ウェベール殿は優秀な方。そう、一介の子爵の商売屋ではなく、王宮での要職に就くような、もっと広いご活躍ができる方です。失礼ながら、公爵令嬢といえど、三女であるあなた様ではなく、別の方を選ぶ方が理にかなっております。それに、私はあなたを子爵夫人になどしたくありません。私は伯爵家次男ですが、兄が家督を継ぐのを嫌がっており、私か弟に譲ってもいいと言っております」


スティーブは私をじっと見つめて言った。


「ですから、セレスティーヌ様、あなたが私と添い遂げてくれると仰るなら、兄の申し出を受けていいと考えております。そして、そうすれば、あなたを思惑から救うことができるでしょう。ウェベール殿を救い、あなたをも救えるのは、私だけだと信じております」


延々と語るスティーブの口調に、なんだか誰かが重なった。私はピンとひらめいた。


「あ、もしかして。わかったわ、ティボーさん。ルイにもっとふさわしい方って、ユニス様のことでしょう?」

「え?」

「先日も、おっしゃってたでしょう? ”ルイ様が選びそうな誰か”って、ユニス様の事ではないでしょうか?」


一瞬、沈黙が訪れた。


なぜだか、後ろからすごい視線を感じる。何言ってるんだというプレッシャーが、六つの瞳から。え、でも、あの時、想定する相手がいたってことは、割と大きな出来事だったんだけれど?


スティーブが掴んでいた私の手を少し強く握った。


「スティーブです。今の、・・・私の話を、聞いてらっしゃいましたか」

「ええ、聞いておりましたわ。でも、申し訳ないけれど、あなたの気持ちをお受けするわけにはまいりませんの。私、子爵夫人になるつもりで今日までやってまいりましたから」

「そのような、諦めるような、お心に違うようなことを言うのはおやめください。ええ、そうです、子爵家より伯爵家の方が、今のあなた様に近いお立場を保つことができますし、釣り合いも取れます! 我が家はそれなりに広い土地もありますし、」


言い募ろうとするスティーブをクロードが止めた。


「ちょっと待って。ようやく頭に入ってきた。・・・ルイに似合うのがユニス様?」

「ユニス様は悪い方ではありません。一人娘ですから、婿をとるためにお忙しいのだと、聞いたことがありますが、真面目で良い方です」

「何も彼女が悪いと言っているわけではないですよ。セレスティーヌ嬢に婚約破棄させて、ルイと結婚するって宣戦布告したかたが? ふさわしいというんですか? ティボー殿、ルイは決して好戦的な人を好きなわけじゃない。ルイの原動力がなんなのか、君にはよくわかると思うんだが?」

「あぁ、違うのよ。ティボーさんだけの考えではないの」


私は思わず会話に割って入った。するとすぐに、スティーブが口を挟んだ。


「スティーブです」


私はため息をついて続けた。


「・・・先日、スティーブさんが噂があるとおっしゃってたのよ。ユニス様が先ほど仰ってたことは、それと同じことなの。『誰よりも優秀な"七光りのルイ"が、自分で相手を選べないなんて、可哀想』、『ただの公爵令嬢にルイのお相手はもったいない』『もっとふさわしい方がいるはずだ』って。そして、その”七光り”は私。それで、ジー姉様とアル兄様が怒り出してしまって、とりあえず、私、ルイにふさわしくなれるように頑張らなければ、って話でお茶を濁して」


そう、それで、ルイ好みのドレスを頑張って作ろうって改めて思ったんだった。


でもドレスを次々買ったって、ただの権力の象徴みたいだし、・・・やっぱり、ルイが作ってくれたというドレスが届いたら、それから研究し尽くせばいいんだと思うのだけど、それまでは、今までのドレスを確認するしかない。


「あれ?」


気づくと、再び沈黙が落ちていた。


クロードとアンドレが頭を押さえ、エヴァはスティーブをじっと見つめていた。


「ティボー様・・・”七光りのルイ”って、何ですか?」


エヴァが令嬢らしく顔をクッと上げ、上品にスティーブに話しかけた。


「申し遅れました、私はエヴァ・ポリトフ、伯爵家のものです。知っておいでかもしれませんが、直接お話しするのは初めてですわね。今の話、説明していただけませんこと?」


スティーブは笑顔のエヴァを見て、困ったように私を見上げた。私も少し困っている。跪かれてるのって、とっても恥ずかしいわ。


「・・・お立ちになって、スティーブさん。エヴァのことは、知っておりますの?」

「は、はい・・・エヴァ嬢の兄上はとても優秀で、・・・エヴァ嬢も、知っております。お二方とも、優秀な研究者であられると。私はしがない次男坊ですから、接点はありませんし、お会いするのもお顔を拝見するのも、初めてです」


スティーブが立ちながら、説明をする。


「スティーブさんは、伯爵家の方ですのね。そうしたら、スティーブ様とお呼びしなければならないわね」

「いいえ、私は騎士です。これまでのようにお呼びください。いいえ、ええ、その優しい声で呼んで頂けるなら、どのような呼び方でも構いません。そうして、私はあなたに愛を捧げたいのです」


うっとりと私を見下ろすスティーブは、騎士らしくしっかりとしていたし、その金髪もそばかすも、人懐っこい笑顔にとろけそうになっている。


困った。

この人、本気なんだわ。


私は完全に固まってしまった。これまでこんなに情熱的に、男性から口説き文句を言われたことがなかった。


どうしたらいいのか、さっぱりわからなくなって、私はただ、スティーブを見ているだけになってしまったのだった。





ルイに言われてなかったっけ・・・と思ったけど、言ってませんでした。

閑話で寝ぼけて言ってたのはカウントされていません。



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