21 突然の出来事
「ウェベール殿が、ご自分で・・・?」
スティーブが混乱したようにつぶやく。
「そうよ、ルイはルイ。いつもいつでもセーレのルイよ」
エヴァが投げやりに言った。昔から、エヴァがルイをからかう時のセリフだ。これを言うと、ルイは渋い顔をするが、そういえば、エヴァに何かを言ったことがなくて、エヴァはいつも笑っていたっけ。そう、こんな風に。
「それでもセーレでなくては」
エヴァの言葉に、クロードが腕を組んでうんうんと頷いた。
「ルイにとっちゃ、近衛騎士になって、よりレベルの高い仕事をこなすのは楽しいみたいだけどね。なりたかったわけじゃないからね、高評価すぎてちょっと困ってるくらいで」
それを受けて、アンドレがやれやれと言いたげに肩をすくめた。
「でも、セレスティーヌ嬢のためなら仕方ないじゃないか? なぁ、セレスティーヌ嬢。君のために、トリュフォー商会でドレスを作ってただろう。うちの生地を使うからっていうんで、参考に、ルイのドレス注文を見に行ったけど、注文がうるさくてびびったわ。あのセレスティーヌ・マニアっぷりは、さすがとしか言いようがない」
さすがルイ。ドレスに関しては並々ならぬ情熱を捧ぐのは、忙しい合間でも変わらないらしい。
私のためという大義名分があれば、ルイはどれだけドレスに注文をつけても愛を注いでも、不自然じゃない。うん、わかってる。私はわかっているから。あとはサイズの注文が違ってこないように注意しなきゃ。そしたらその先は、アダムの仕事になる。私はそのサイズでいいと了承しなきゃならないし、もらったふりをしなきゃならないし、・・・もしかしたら、内緒で私のサイズを作らなきゃならなくなるかも?
「みんな、そんなにおっしゃらないで。スティーブさんはルイに憧れておいでなのよ。あまり夢を潰すようなことは・・・」
「いえ、簡単に壊れるようなことは、ございません。ウェベール殿は素晴らしい方であることにいささかの疑問はありませんから」
「でもスティーブさん、」
つい先日、私のようなつまらない公爵令嬢は、ルイにふさわしくないとまで言っていたじゃないですか。私は言いかけて、空気が重いことに気がついた。
「・・・”スティーブさん”、ねぇ」
不意に、アンドレが言った。言葉の鋭さが少し怖い。私は何がいけないのかと首を傾げた。
「あら。アルフォンス兄様がそうおっしゃってたから、そのまま呼んでしまったのよ。ダメだったかしら?」
「いいや? 悪くないよ? でも、ルイは知ってるの?」
「さぁ? ルイとはあまりお話ししたことがないっておっしゃってたけれど。そうなの?」
私が振り向くと、スティーブは頷いた。
「はい」
「なら、やめたほうがいいんじゃない」
「そ、そうだったのね。申し訳ありませんでしたわ、スティーブさ・・・ええっと、ティボーさん。私などが騎士様に話しかけたりして、よくありませんでしたわね」
「そんなこと、ございません! 私のようなものが、あなたのような方に話しかけていただけるなど、それだけで、名誉なことでございます。本当に、・・・可憐で、お美しくいらっしゃる・・・」
「はぁ、・・・?」
私は首を傾げた。スティーブが私を、やけにキラキラとして目で見、エヴァたちが、しまった、と頭を抱えて表情を固め。
そして、スティーブは私の前にいきなり跪き、私の手を取った。
「セレスティーヌ様。もし、・・・あなたのお心を手に入れられれば、私のような者でも、あなたと添い遂げられるのでしょうか?」
「え? ・・・えぇ?!」
今、・・・何が起こったの?




