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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
今日もドレスの戦いを
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06 近衛騎士の制服

 苦笑いをして、アルフォンスが言った。


「しかし、ルイがあの制服を着るとはな」

「そうね! 近衛騎士の制服は素晴らしいわよね、兄様!」


両手で拳を握って、ジネットが急に悶絶しだした。


「私には見える・・・これだけ男前のルイだもの、近衛騎士の中でも、一、二を争う見た目のはず。あんな威厳のある制服着ちゃったら、きっとキラキラして見えると思うわ。若さも新任のフレッシュさもいいわね。いくら婚約してるって言っても、令嬢たちから人気が出ると思うの。近衛騎士としては、黄色い声すら無下に出来ないから、もちろんにっこり微笑んじゃったりして。男性からも憧れられるわね、だってその若さに加えて、今までの功績は華々しいわ。剣術に学問、加えて礼儀作法、全て国から表彰されてるレベルだし? 性格も性根は置いといて表面上はいい人だし、何よりセーレと言う揺るぎない完璧な婚約者がいるから女性に人気があっても取られることがない! 憧れの優良物件! あやかりたいって思っちゃうわよね。きっと着ている服にも興味津々よねぇ。差し入れもされちゃうかもね、練習の時とか。そしたらそしたら・・・なんというビジネスチャンス! これも制服効果! 素晴らしいわ、制服! だからこそ、理想の制服を一つでいい、手掛けたい!」


一気に言い切ったジネットが清々しい。私には半分もわからなかったけど、ルイにはよくわかったようだ。ルイが目を細めた。


「・・・制服マニアか」

「そこが引っかかるのか? お前は」


アルフォンスが呆れたように言う。


「褒められ慣れてるのか理解していないのか・・・、わからんやつだ」


ぶちぶちというアルフォンスの言葉の上からかぶさるように、ジネットが熱意のある声で返事をした。


「いいえ! ただのマニアではありません! 作りたいのです!」

「いやお前、マニアは認めるのかよ」


ルイは突っ込んだが、私は逆にハッとした。


「もしかして、姉様、服も作ってるの?」


ジネットが微笑んだ。


「ええ、最近ね。手始めに、このドレスを作ってみたの。機能的で動きやすくて、それでいてかわいい! いいでしょ?」

「ええ、姉様! 素晴らしいわ。とっても素敵。実はいいなぁって見てたの」

「あらぁ! だったらルイ」

「は?」

「あなたが作ってあげたら?」

「は? お、俺が?」

「当たり前でしょ。婚約者が欲しがってるんだもの。それに、ドレスの一つや二つ、作れない経済力じゃないでしょ?」

「・・・だが」

「ルイが? 作ってくれるの?」


私の笑顔は、有無を言わせないくらいに輝いていただろう。ルイが言葉を失った。


「う・・・」

「ルイの好みで?」


ジネットがじわーっと綺麗な笑顔を見せる。


「そうよ、セーレ。きっと好みのを作ってくれるわ」

「だったら、・・・作って欲しいわ・・・」

「大丈夫よルイ、法外な値段をふっかけたりしないから。作ってあげなさいよ」


ジネットの後押しで、ルイはため息をついた。


「・・・わかったよ」

「ありがとう、ルイ!」


やったわ! ルイ好みのドレスよ! これできっと綺麗だと言うこと間違いなし!


・・・でもこれって、勝負のうちに入るのかしら? ルイが作るんだから、これで綺麗だって言ってもらったところで、あまり嬉しくないかもしれない。なんだか少し、ズルい気がするし。


うん。ズルはやめよう。あくまで、私の見極めでルイの好みを追求することにしよう。


「・・・勝負にはカウントしないから、思うように好きなドレスにして?」


私が言うと、ルイが不思議そうな顔をした。


「お前が気に入らなければ意味がないだろう」


何を言ってるのだろう。今後の参考にするためには、ぜひともドレスを作ってもらわねば! ルイが好きなドレスを。好きなように。・・・どんなドレスにしてくれるのかしら。私は気になってもじもじと落ち着かなくなってしまった。


「ルイの好みで、いいの。好きにして?」


私が両手を組んでお願いの姿勢でルイを見ると、ルイの喉がヒュンと変な音を鳴らした。


「・・・ぜ、・・・善処する」


言いながら、耳まで真っ赤になったルイを見ながら、アルフォンスがジネットにため息をついた。


「なんかもう、あれだな、苛立ちを通り越して面白くなってきた」

「でしょ」


ジネットがクスクスと笑うと、私に向き直った。


「ね、二人の世界に入ってないで。ドレスのことより、近衛騎士の制服よ、制服!」


ルイがジネットをジロリと睨み、私を見た。


「セーレは制服よりドレスじゃないのか?」


ぎくり。


「そ、そんなことないわよ。制服を着たルイを見てみたいわ。きっと素敵よね! お兄様が宰相補佐の制服を着てみせてくれた時もとっても似合ってらしたけど、ルイもとっても似合いそうだもの。あ、でも待って、制服って、ルイはどんなのを着るの? お兄様とはだいぶ違うわよね? ジネットは見たことあるの?」


ジネットは張り切って胸を張った。なぜかルイは放心している。


「式典用のは真っ白でねぇ、これまた素敵よ。アンドレの初受注だって聞いてるわ。シルヴィー商会はよく頑張ってるわよね。予算ないのにあれだけの服。近衛騎士の式典服なんて、注文多いのに」


ルイが驚く。


「詳しいな」

「ちょっと気になったから。だってねぇ、・・・うちの店はね、新興だけどそれなりに大きいし、気に入って御用達にしてくれる貴族の方もいるわ。でもその反面、うちの店のことをろくに知りもしないくせに、こき下ろす人たちもいるからね」

「そうなのか?」

「そうよ。服はシルヴィー、それ以外はあり得ないっていう風にね。目の前で言われてごらんなさい。見合いなんてするもんじゃないって思うわよ」

「ジネットに向かって言うなんて度胸あるんだな」

「誰も私の店だなんて知らないもの」

「知らないのか?」

「そうよ。公爵家の威光で懇意にされたって何の感慨もないじゃない。ただ製品が好きだから、コンセプトが好きだから、品質がいいから、そういうことで選ばれたいの」


アルフォンスが笑って言った。


「・・・ジネットらしい。君の自分に対する考えそのものだ」

「どういたしまして。私が貴族らしくないことはわかってるわ。でも、そういうのがたまにはいたっていいでしょ」

「でも舞踏会には参加するのか?」


ルイの素朴な疑問に、ジネットは立ち上がって拳を握って、天井を仰いだ。


「当たり前! 市場調査は大事だもの。この目で見て聞いて調べて、みんなが欲しいものを売る、それが商売ってものよ!」


鼻息が荒いジネットはとても可愛らしい。とてもじゃないけど、こんな素敵な姉を、そんじょそこらの男性と結婚させたくない。私の自慢の姉。キラキラと前向きで未来を自分で作れる、とても楽しい人だ。


「だって、ルイもそうでしょう? 騎士団に入ったのだって、強いて言えば家のためだって、おじさまから聞いたわよ」

「はぁ? あの人は誰にでも何でも喋るんだな」

「仕事上、必要だっただけよ」


ジネットが悪い顔で笑う。


「それで、私、量産型の服の請け負いから始めてるの。割とメイドのお仕着せなんかも、評判良いのよ。ああいう特別なのはあまり作らないけど、シルヴィー商会とライバルになるのはハードル高いわ。あまり手広くやるつもりもないし。あ、そうそう、制服よね」


ジネットは紅茶を少し飲んでまた続けた。


「セーレ、平常時の制服は、立場で違うのよ。他の隊はほとんど同じだけどね! 人数も少ない上に色のバリエーションは豊富で、みんな洒落者だから、大変。一つくらいは任せてもらえないかなぁ」

「アンドレに頼んでみては?」

「いやー、それが難しいのよ。近衛騎士でも隊長しか着られない、あのロイヤルブルーは特別よ! あの色を作ることができれば・・・! でも出せない・・・!」

「せいぜい頑張れよ、制服マニア・・・」


アルフォンスは諦めた目で苦悩するジネットを見た。ルイは興味がないようで、何も聞いていない。


「ね、姉様、じゃ、普段、ルイは何を着るの?」

「え? ああ、ルイはね、えーっと、濃紺色よ、らしい色でしょ。そこからちょっとずつ薄くなって、最後がロイヤルブルー。正直、鬼畜の注文よね」

「見てすぐにわかるの?」

「わかるわよ。みんな素敵に着てるもの」

「そうなんだ」


私が納得するのと同じくらい早く、ジネットは切り替えてパッと顔をルイに向けた。


「あ、そういえば聞きたかったんだけど、練習着とか、どうなってるの? ほつれたり破けたりは? 丈夫なのはもちろんのこと、替えがきくほうが良いわよね」

「練習着は・・・基本的に自分たちで繕っているが。まぁ、新品を自由に手配できるなら嬉しいよ。当たり前だけど、予算は決まってるし」


ルイは肩をすくめた。


自分で繕うとは。私は驚いた。


そしたら、もうドレスって、自分で作れちゃうんじゃない? 私の服のサイズをチャチャっと直しちゃったり・・・アダムに聞いても最早わからないかもしれないわ。仕事中はついてはいかないのだし、ご主人の趣味趣向を全てにおいては把握していないかもしれないし・・・


「・・・見てみたい」


制服を本当に繕えるのか。繕うってどんな風に?


「私も!」


ジネットがピョコンと跳ねて手を挙げた。ルイがぎょっとして声を上げたが、それは少し遅かった。


「え、ちょっと待」

「二人が行くなら、私も行こう。そうすれば、その時間、アガットたちも休憩ができるだろう」


親族であり王宮文官のアルフォンスがいるのなら、女性二人でも大丈夫だろう。それはありがたい提案だった。

「で、ですが」

「どうだね? それともセレスティーヌが来ては困るかな?」

「・・・そうではありませんが」


言いながら、ルイはすごく嫌そうな顔をしていた。ちらりと私を見てきたが、私も譲るつもりはない。


ルイの新しい制服! 絶対見たい。練習着を繕ってるところ!


私は、ルイが近衛騎士になったのが自分せいで、申し訳なく思っていることをすっかり忘れて、ルイに真正面から挑戦的な笑顔を向けた。


ルイはうぐぅと言葉を詰まらせ、真っ赤になって頭を抱えた。




次は、ルイを見に、近衛騎士の見学に行きます。


補足

後々出てきますが、アンドレ・シルヴィーのおうちはハイブランドで、布地作りから縫製までをやっています。

シルヴィー商会に作ってもらうのが貴族のステイタスで、大口顧客やお得意さん相手が基本です。

『服はシルヴィー、シルヴィー商会で素敵な夜会服を!』がキャッチフレーズです。



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