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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
今日もドレスの戦いを
13/92

03 年上の従兄

「伯父上?! ・・・あぁ、セレスティーヌ!」


バタバタと背の高い青年が入ってきた。こんなに落ち着きないなんて珍しい。


「アルフォンス兄様?」


私は驚いて彼の名を呼んだ。


私と同じブルネット、私よりも少し濃い、モスグリーンの瞳。叔父に似た精悍な顔つきの従兄、アルフォンス・パストゥールだ。いつも穏やかな顔が今日はなんだか乱れている。というか、髪もボサボサで、いつも身綺麗にしっかりとリードしてくれている姿はどこいったという感じだ。


「何してるんだ? 男とこんなに近づいて」


アルフォンスはつかつかと私たちに近寄ると、あれよあれよという間に私をルイから離した。アガットが動転しているし、シドニーは困っている。ぽかんとしていたルイがハッと気がつき立ち上がると、私の腰を自分に引き寄せた。


「お久しぶりです、アルフォンス殿。ご自分の従姉妹の婚約者をお忘れですか」

「・・・ルイ=アントワーヌ=レオン・ウェベール!」


気づいたアルフォンス兄様が歯ぎしりするように言えば、ルイは輝くような笑顔で頷いた。


「名前を覚えていただけて何よりです、アルフォンス・パストゥール殿。先日、正式に、セレスティーヌと婚約を致しました。妹とも思えるセレスティーヌが大切なのはわかりますが、私も婚約者としての節度は守っております。見知らぬ”男”ではありませんゆえ、アルフォンス殿が思う悪い虫などではございません。次からは私たちの逢瀬をお邪魔なさらぬよう、お願いいたします。ほら、セレスティーヌも驚いています。・・・大丈夫かい?」


いきなりアルフォンスが現れて、私の頭の中は、処理できずにパンクしてしまっていた。だが、耳元で労われ、私はハッと我に返った。


「ええっと、・・・何しにいらしたの? 兄様」


私が目をパチクリとさせて尋ねると、アルフォンス兄様は不機嫌に言った。


「聞いてない! それに・・・距離が近すぎる!」


私は首を傾げた。私とルイの距離は確かに近いが、婚約者としては、まぁ、割と普通だ。私も慣れているわけではないが、舞踏会等ではもっと近づく必要もあるだろうから、今後は慣れないとならない。


「仮婚約の間は近づかなかったから、てっきり成立しないものかと油断していたら・・・! そのときは俺がと思っていたのに・・・!」


でもそもそも、アルフォンスは以前、十歳も年が離れていて妹にしか思えませんよって言ってませんでしたっけ?


「もともと、仮婚約の間は、若いゆえ、互いを見極められるよう、あえて距離を置くことを決めておりました。ですが、正式に婚約したことにより、それは必要ないと考え、適切な距離で絆を深めようと思っている次第です。私たちはお互いの気持ちを確認した上での婚約ですので、万が一でもアルフォンス殿の気を揉ませることもないと思いますが、無理にセレスティーヌの気持ちを無視し、勝手なことはなさらないようにしてくださいね?」


ルイのセリフに、私は目を白黒させた。


な、なんですってー?!


死ぬほど驚いたが、それを顔に出すほど躾がなされていないわけじゃない。どんな場面でも、例え誘拐されて死ぬ直前でも表面上は平静さと笑顔を絶やさないように躾られてきた。今回だって、それを思えば大した衝撃じゃない。


ええ、まぁ、驚いたけど。すっごく驚いたけど。


 だって、ルイが言ったことは私の前提を覆すものだ。あえて距離を置いた、つまり、実は私と仲よくしたかったと言う意味になる。なにそれほんと? 今まで、そんなこと一言だって言わなかったのに。


 でも考えついた。そりゃそうだ。私は一度も聞いていない。なんで私をブスと言ったのか、絶対に婚約破棄すると言ったのか、全く話してくれなくなったのか、笑いかけてもくれなくなったのか。私は何も知らなくて、婚約が正式になってから、ルイがいたずらっ子になった理由もわからない。


「その間、セレスティーヌは私を信じて待っていてくれたのです。社交界デビューする一年前まで。十五歳になれば、判断もつく頃ですからね。それまでにセレスティーヌが嫌と言えば、成立しなかったんでしょうけれども」


優雅に、にっこりとルイが微笑む。


うん、なるほど・・・? 私が断るわけがないって知ってたってこと? よね? 悔しいけど合っている。


「そうだよな、セーレ」


ルイの言葉に私はこっくりと頷いた。すると、アルフォンスが目を見張った。


「せ、セーレ、だと・・・この家族同然の私が許されていない、特別な家族の中の愛称を、貴様が使っている、だと・・・?」

「え? ・・・ええ、そうですけど。・・・婚約者ですからね」


ルイが戸惑いながら言う。私は思わず首を傾げて、ルイを見た。特別な家族の愛称? ってなに? 私の視線に気づいたルイは、私の戸惑いにも気づき、そして思案顔でコソリと耳打ちしてきた。


「・・・ヴァレリー公爵がおっしゃったんじゃ?」


ああ、確かに言いそうだ。父は、妹である私の叔母と結婚した義理の弟、つまりアルフォンスの父親を毛嫌いしていて、父親に似ているアルフォンスの事も、随分と邪険に扱う。


「でも私が許されていないのに!」


地団駄を踏みそうに怒りを募らせるアルフォンスに、ルイは困ったように、でも勝ち誇ったように言い放った。


「アルフォンス殿、あなたは兄のような存在、でも兄ではない。私は婚約者、将来彼女の夫になる身。違いは明らかでしょう」

「だが離縁すれば夫婦は他人だが、私は兄のような存在の従兄だ、絆は一生涯途切れることはない! 私の方が身内だ!」

「屁理屈はおやめください、アルフォンス殿。羨ましいのでしょうが、仕方ないことです」

「そ、そうではない!」


二人とも仲が良さそうで何より。私はくだらない言い争いを横目にソファに座り、お茶を飲んだ。白熱しているようだが、私の愛称なんてどうでもいい。第一、許すも何も、私がいいと言えばいいじゃないか。父の判断を仰ごうとするあたり、律儀というか、叔母譲りというか、彼らしいというか。


「シドニー」

「はい、お嬢様」

「二人にお酒でも出してあげて」

「かしこまりました」


シドニーが下がったが、アルフォンスもルイも言い争いをやめそうにない。少し気になって二人の従僕、ドナルドとアダムの姿を探したが、どこにもいない。まぁ、ルイの従僕、アダムに関しては、うちに来るのも慣れたものだから、好きなように過ごしていいとだいぶ前に伝えているし、とても優秀で、なぜかルイが必要な時には必ずいるのだ。何かの魔法を使ってるのかと思うくらい。心配はいらないだろう。


「アガット。ドナルドはどこにいるか知らない?」

「ドナルドさんですか? 彼なら、庭にいると思いますよ。先ほど庭師と話していましたから。なんでも、パストゥール侯爵夫人が、ご生家のバラの苗を分けて欲しいとか・・・」

「そうなの。おつかいを頼まれて大変ね」


私はアガットと笑い合った。


アルフォンスの母、カサンドル・ファンティーヌ・パストゥール侯爵夫人は私の父の妹で、とてもおおらかで可愛らしい方だ。二人兄妹だった父たちは、とても厳しく躾けられ、その苦楽を共にしたことで、父は、カサンドル叔母を今でも目に入れても痛くないほどに可愛がっている。なので、父にとって、パストゥール侯爵は大事な妹を奪った卑劣漢だそうで、義理兄弟同士は非常に仲が悪い。しかし、義理姉妹同士はとても仲が良く、母のエディスは気軽に遊びに行ったり、庭の花を株分けしてあげたりしている。そんな母は、叔母とは正反対の性格で、王族の姫にしては珍しく利発的で、窮屈な王宮では大変だったそうだけれど。


 アルフォンスは、もともと、そんな母に憧れていたはずだった。だとすれば、二番めの姉の方が彼の好みなのだけれど、あまりに自立心が強すぎて、友達のようになってしまった経緯がある。だからと言って、私に矛先を向けられても困る。アルフォンスは適齢期の侯爵家の長男、令嬢たちに人気があるのだ。私のお相手が白紙に戻れば、なんて、ていのいい嘘だ。アルフォンスだってわかっているくせに。




重複部分を削除しました。

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