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3…最初の一歩は踏み出さない。

「走れっ!エレノア頑張って!!」


「待って、待ってにいちゃ!」


薄暗い路地を、幼い二人が懸命に走っている。


彼らは、孤児である。

流行り病で両親を亡くし、孤児院へ引き取られず、その幼い手を大人が誰も取らなかった。


とはいえ、周囲を責めるのも酷なことである。


人類最大の都市たるこの街も、何もこの世の楽園と言うわけではない。

絢爛豪華な規模を誇るも、そこには人の営みがあり、彼らとて己が生活を必死になって守っている。

個人や家庭と言った単位の中で、生産性を未だに持てない、孤児二人を受け入れると言うのは容易ではない。


そして、いつ終わるとも知れぬ戦争に首まで浸かっているのがこの首都に生きる人々の日常なのだ。


家庭内に二つの異物を受け入れ、そこに限られたリソースを割く。

余程のお人好しでもない限り、到底出来ることではない。

故に、彼らは一般家庭に引き取られることは無かった。




では、一般的では無いところはどうだったのか?

例えば、富裕層。

この国の舵取りを行う王公貴族、或いは経済的強者たる大商人。

彼らは、哀れ孤児となった二人に手を差しのべなかったのか。


否、差しのべてはいたのだ。

だが、幼子二人が自らその手を振り払ったのだ。


王公貴族や大商人といった人種は、常に周囲からの羨望…いや、嫉妬にさらされる。

何故アイツらだけ、特権を持つのか。

何故俺よりも良い暮らしをしているのか。

羨ましい…妬ましい…


そんな感情を常に大多数に向けられ、いざ有事になれば多数派に怯える、か弱い羊と成り果てる。

それが、経済的強者の宿命である。


しかしながら、それに対して抵抗するのが彼らだ。


普段から受ける、その強い嫉妬に対しての答の一つが孤児院への寄付である。


弱き者を見捨てない、そのポーズとして彼らは既にあるシステムへの投資を怠らない。

それが、この世界の人間達の信仰する宗教団体の運営する孤児院への寄付となる。


余談だが、この宗教には名前がない。この世界で宗教と言えば彼らの事を差すのだ。(え?他の宗教は無いのか?有るには有るが、全てが邪教扱いです。)


だが、この国の孤児院はお世辞にも評判が良いとは言えない。

別に、児童虐待がまかり通っている訳ではない。

大多数は子供たちに無事成長してほしいと言う尊い願いから運営されている。

だが、多くの人間が居ればどうしようもない奴は一定数出てくるものだ。そいつらの醜聞に尾ひれがついて巷に広がる。

大衆は何時の世もゴシップが大好きなのである。


更に、資金的な問題もある。

常時何処かで誰かが魔王の軍勢と戦い、時に襲われているのだ。

孤児の数そのものが馬鹿にならない。

いくら富裕層のバックアップが有るとはいえ、彼らの財産は無限ではない。

仮に、彼らがその財産を驚異的な博愛の精神で全て放出すれば状況が改善するのかもはしれないが、そんなことしたら漏れなく国は崩壊である。


食事は満腹食べられる筈もなく、着るものはボロだけ。

寝るときは寿司詰め蛸部屋状態。


実際はそこまで酷くないのだが、それに近しいものはある。

そこに尾ひれがついて巷に広がる。

大衆は何時の世も(省略)



そんな話は、裏路地を走る彼ら二人にもしっかりと伝わっている。

その結果、二人は幼いながらも路上生活者(ストリートチルドレン)となった。



そして今、彼らは逃げている。

露店からリンゴを盗み、その店主から逃げている。


捕まれば何をされるか分からない。

神に仕える聖職者達でさえ自分のような孤児をひどい目に合わせるのだ。

見知らぬ大人がいったい何をするのか、想像するのも恐ろしい。


歳上の路上生活者(ストリートチルドレン)は言っていた。

「尻だ。変態共はいつだって俺達(子供)の尻を狙っている。」

あのときの彼の表情は妙に迫力があった。


尻に何をするのか検討もつかないが、とてつもなく悲惨な目に合わされるのだろう。



自分の庭だと言わんばかりに、裏路地を逃げる二人だが追いかけてくるのは大人。

幼い子供が振り切れる筈もない。

じわりじわりと両者の距離は縮んで行く。


何度目かも分からないが、道を曲がったとき、兄と呼ばれた少年は覚悟を決めて賭けに出る。


どこの誰の家とも知れない建物、裏路地に面した勝手口の扉の中に逃げ込む事を決心する。


分の悪い賭けだ。

もし、家人が居れば間違いなく自分達は捕らえられるだろう。

最悪、こちらを追狙う大人が二人に増えるかもしれない。


だが、ひょっとしたら、家に誰も居なくて、追っ手をやり過ごせるかもしれない…


少年は悲壮な覚悟と妹の存在を背負い、力一杯目についたドアを開けて、中に転がり込んだ。







さて、異世界へと拉致され、無理やりダンジョンマスターにさせられた俺は、ズバリ何もせずに引きこもっていた。

お外は危険が危ないので出たくありません。

下手に何かして、付近の住人に目をつけられたりしても危険が危ないので、何もしません。


そうすれば、俺は無事平穏に生きていける筈だ!


何せ、不老不死のお陰でこの中に居ればお腹がすいたり眠くなったりする事もありません。

そう、貝のごとく静かに生きていけるのです!!




そう心に決めて多分3日くらい…俺は敵に襲われていた。

暇と言う名の敵に。


ここには娯楽がありません。

刺激もありません。


俺と一緒にここに有るダンジョン内の探索でもしようかと思ったがそこはさすがダンジョンマスター。

この内部の物は全て把握出来るようです。

はい、暇潰し手段が一つ消えました!



というか、誰とも会話が出来ないのが辛い。

いっそのこと、いつか見た映画のようにボールに顔描いて話し相手にでもしようか…

で、ボールどこよ?

無いよ?ここにはがらんどうのダンジョンと、引きこもりマスターしか無いよ?


…いっそのこと、お外に出てみようか。

でも、お外の人怖いし…




そうして、外出の恐怖とイマジナリーなフレンドの誘惑の間で悶々と悩んでいるときにそれは起きた。


起きてしまった。

脳内議会において、外出派が優勢となったお陰でドアの近くをうろうろしていたのだ。


突如、扉が空いた。

小さな影が飛び出した。

突っ込んできた。

人の形をしていた。

それの勢いは止まらない。


突っ込んで、直撃した。


俺の金的に……





「をっほぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁをぉおぁぁぁ」





俺は、言葉にならない悲鳴をあげた。

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