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プルートを支えて来たのは、2つの信条だ。1つは、ジュラ国との戦争に負け、焼け跡になった白亜国を復興させること。もう1つは、白亜国を二度と戦場にはせず、戦争もさせないこと。ところが彼の気懸りは、敗戦から半世紀も経ていない今、そんな彼の気持ちを逆なでする勢力が、白亜国に台頭して来たことである。
白亜国の首都ピルパラのど真ん中にあるのが、ピルパラ英霊神社。その日、正門前には大勢の人が集まっていた。その群衆の一角、宣伝カーで設けられたステージに現れたのがプルートである。
「先の大戦で我が国は、国民に未曾有な犠牲をもたらした上、近隣諸国にも多大なご迷惑をおかけした。だが、敗戦を機に、我が国は反省をし、国を一新して、二度と戦争をしない国に生まれ変わった。にもかかわらず、A級戦犯を含め、過去の過ちと共に公式の場からは捨て去ったはずの場所に、何故、現総理ロジウムはいるのか。ロジウムは今すぐ、ここを立ち去るべきだ。そしてこれが国民の意志ではないことを、我々は世界に向けて宣言すべきだ」
その言葉で、群衆から「ワー」と歓声が上がり、すぐ後「参拝やめろ」の声があちこちで鳴り響いた。ところが、プルートが言葉を続けようした時、群衆の先の方で「キャー」と悲鳴が上がった。
見れば、老人だろうか。1人の男が、手にステッキを振り上げて、何かを大声で叫びながらステージに近づいて来る。プルートの脇に立っていた男が、
「何ですか、あれは?警察を呼びましょうか?」
とプレートに尋ねると、その男を凝視していたプルートは、
「悪いが代わってくれないか。あれは、私の父親だ」
と言って、ステージを降り、男に近づいて行った。
「父さん、何をされてるんですか。みんなが驚くじゃないですか」
プルートがその男、プルームを制止すると、プルームは、
「何が、父さんだ。わしには息子などいない!お前が生半可な知識で英霊を冒涜するから、ひと言、言ってやろうと思ったんだ」
その大声に2人の周りに人垣ができた。
「生半可な知識とは何ですか。間違ったことなど言ってません」
「お前は本当にA級戦犯が、戦争を起こしたと思っているのか」
「だったらあの戦争の責任はどこにあると言うんですか」
プルートもプルームに負けない大声で応戦し、一触即発の緊張感に包まれる。
群衆に囲まれ、大声で言い争いをした2人だったが、突然プルートがプルームとは別の方を見て叫んだ。
「何で、お前まで、ここにいるんだ」
群集の目がその言葉の先に注がれると、そこにいたのは、腕に「報道」の腕章をつけ、首からカメラをさげたマントルだった。