無題
此処は何処だろうか。
大地しかない場所にポツンと立っている俺。
空を見上げるが何もない。太陽や月がないのではなく、本来ならある筈の空がないのだ。
その風景を形容する言葉を俺は持っていない。ゆえに空については考えるのをやめた。
その代わりに別の言葉が脳裏に浮かび上がる。
それは地獄。この場所の名前だ。
ああ、……また堕ちたのか。
そう自覚すると同時に、地獄に残していた記憶が蘇ってくる。
此処へ来たのはこれで何度目になるだろうか。百回は軽く超えているだろう。
そう考えながら歩いていた。そして、迷うことなくいつもの場所に辿り着き、腰を下ろした。
其処には彼が居た。
彼は言う。今回は早かったな、と。
そうですか、と俺は答えた。
向こうの出来事は憶えていない。
此処が地獄だと認識したのと同時に消え去ってしまった。
彼の言葉から推測するに、今回は地獄に堕ちるのが早かったようだ。
その程度しかわからないが、わかる必要のない話だと判断して考えるのをやめた。
彼はそれ以上は何も語らず、俺も語るに値する言葉を持っていなかったので静寂が訪れた。
此処は音のない静かな場所だ。俺はそれを好ましく思っている。
此処は地獄だが、俺にとっては楽園なのだ。