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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第五章 旅立ちと新たな出会い、そして再会
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第八十一話 カーニバル

本日三話目

 そこは広いリビングだった。

 天井には小さなシャンデリアが飾られ、部屋の中央には長いテーブルが置かれ、六つの椅子が備え付けられている。

 その椅子の一つに一人の少年がいた。

 その少年の特徴を一言で言うなら赤い。

 燃えるような鮮やかな赤い髪、そしてその右目が赤いのだ。

 左は黒の左右非対称の目(オッドアイ)。美しく整った中性的な顔立ち。

 一度彼を見た者は二度と忘れることができなくなるだろう。


 それらの特徴を除けば、その少年はいたって普通だった。

 どこにでもある白いシャツと、黒のジーンズを履いている。

 この部屋に似合わないことはない。

 ただ一点、彼の手にあるものだけが、普通であるとは言い難った。


 少年の手には金の板が握られている。

 黄金に輝く15インチほどの長方形の薄い板だ。

 まるでエジプトが舞台のアドベンチャー映画にも出てきそうな、いかにも宝物といった品である。

 少年はその板を両手で持ち、睨めっこするかのようにじっと見つめていた。


「まったく、僕の星をめちゃくちゃにしちゃって。エルフも竜も使えないんだから、もう」


 少年の言葉を聞く者はいない。

 本来であれば、その部屋には他に何人もいるのだろう。

 空席の五つの椅子がそれを物語っている。

 しかし少年は、その空虚さを気にした様子もない。

 どれだけの長い時をその場所で過ごしたのか、自分が家族で使うような広い部屋にたった一人でいる不自然に慣れてしまったことにも、少年は気づいていなかった。


「ま、僕にケンカを売った度胸だけは褒めてあげますけどね。これで終わりです」


 少年が黄金の板に、片手を翳す。

 すると、板の上にいくつもの魔方陣が現れては消えていった。


「さようなら、迷える子羊たちよ。あなたたちはこの世界に生まれるべきではなかった。さぁ、【カーニバル】の始まりです」


 彼以外誰もいない部屋に、彼の声が響く。

 この瞬間、彼は全世界に向けて攻撃を行っていたのだ。




*************




 今、世界中では戦争が起きていた。

 魔族を束ねる王が暗殺され、報復のため、魔族と獣人族が手を組んで、人族に戦争を仕掛けたのだ。

 だが、実際のところ、魔族の王が殺された報復というのは、魔族にとって口実に過ぎなかったのかもしれない。

 魔族は人族に対して積年の恨みがある。

 それを晴らせるというなら、建前があれば何でも良かったのだ。

 むしろ彼らの王が健在であったならば、戦争など決して起きなかっただろう。

 なぜなら、魔族の王は和平派、戦争など望んでいなかったのだから。


 もとから戦争がしたかった魔族たち、さらに本当に王を慕っていて、それを卑劣にも暗殺されたことにより激高している魔族たち、これらの勢力は合わさって強力になり、人族を劣勢に陥れていた。

 しかし、人族も黙ってやられているばかりではない。

 もともと人族は数で上回っている。それに加えて、世界でも十指に入るといわれている実力者たちが、魔族と獣人族の連合軍に立ち向かっていったのである。


 ただ、その中には名前のない者もいた。

 最強の冒険者と名高いウィズ・セシル。十指にまでは入らないが、高名な冒険者、イザベラ・スカーレット。いずれも赤の称号を持つ者たちだが、彼女たちは行方が分からなかったのだ。


 それでも、人族は次第に盛り返していった。

 何よりもある二人の人族、いや、日本人が戦いに加わったことが大きい。

 光の勇者と鋼の勇者。

 彼らやその仲間たちの活躍により、戦争は人族の優勢へと傾いていった。


 だが、失ったものは大きい。

 人族も魔族、獣人族も犠牲者は数多く出た。

 戦争に勝利したとしても、復興には時間がかかるだろう。

 誰もがそう思っていた時、その事件は起きたのである。


 その日、誰もが大地の揺れを感じた。

 その日、誰もが黒く染まっていく空を見た。

 その日、誰もが響き渡る声を聴いた。

 その日、誰もが恐怖した。

 その日、誰もが絶望した。

 その日、誰もが知った。


 ――嗚呼、世界の終わりが来た。

 

 大地を揺らすのは大群の行進。

 空を黒く染めるのは大群の襲来。

 響き渡る声は大群の咆哮。

 世界に溢れ返るのは、魔物、魔物、魔物。魔物の超大群だったのだ。


 魔物たちが、世界中にあるダンジョンから次から次へと溢れ出ていく。

 魔物の大量発生(スタンピード)という言葉があるのだが、世界中に同時に起きたこの現象はあまりにも異常だった。


 魔物の大群はひたすら突き進んだ。

 疲弊した軍隊を呑み込み、破壊された街を呑み込み、どこまでもどこまでも突き進んだ。


 残った戦力は、人族も魔族も獣人族も、すべて魔物の駆逐に翻弄された。

 もうこうなっては戦争どころではない。世界が終ろうとしているのだ。

 しかし、いくら魔物を倒しても、魔物は屍を超えて進んでくる。

 戦略級の魔法で蹴散らしても、屍の山を越えていくらでも進撃してきた。


 その動きは尋常じゃない。

 魔物たちは死を恐れなかったのだ。

 誰かに操られているとも考えられたが、誰がこんなことをするというのだろう。

 世界を滅ぼして得をする者など、そうそういないのだから。

 そもそも、この尋常ならざる魔物の群れを一斉に操るなど不可能である。

 であれば、この魔物たちは何なのか。

 誰かが問えば、別の誰かが答える。

 狂っているのだ、と。

 また別の誰かが答える。

 世界中の魔物が同時に狂うなどありえない、と。

 そして、答えは一つに行き着く。

 これは神の仕業ではないか、と。


 やがて誰もがこう思い始めた。


 ――我々は神の怒りに触れ、神はついに世界を滅ぼすことにしたのだ。


 だが、誰も考えなかった。

 この魔物の大群が、ただの布石なのだとは。

 しかし、彼らはいずれ知ることになるだろう。

 この世界の創造主の、本当の力を。

一応明日も投稿するつもりですが、今日初めての高速道路に挑戦する予定でして、もし16日投稿されていなかったら、私は、うん、その、そういう事だと思ってください。

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