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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第五章 旅立ちと新たな出会い、そして再会
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第六十二話 戦準備

ブクマ有難うございます。

最近ちょっと調子が悪いです(汗)。


 一夜明けて目を覚ましたツヴァイの目に飛び込んできたのは、青白く照らし出される洞窟だった。そして気持ち良さそうに眠る妹たちの姿である。起きているのは、見張りをしているゼクスだけだ。

 普段彼女たちは二体一組の交代で見張りをしているのだが、宝箱部屋は外と比べ安全であるため、一体ずつで見張りをしていた。

 さらに見張りと言っても、辺りを警戒していたわけではなく、ただ起きていただけだ。それだけで十分事足りるとツヴァイが判断し、事実この宝箱部屋に入って来る者は誰もいなかった。

 そして今、朝になったのだが、彼女の瞳は洞窟、妹たちを映したのち、最後に主である勇也の姿を捉えていた。


 勇也は妹たちに囲まれている。

 膝を抱え、蹲っているのだが、彼は眠ることなく目を開けていた。何事かをぶつぶつと呟き、岩床の一点を見つめている。特にそこに何かがあるわけではなく、彼の瞳には何も映し出されていないのだ。少なくとも、ここにあるものは。

 勇也は一晩中その体勢のままで、一睡もしていなかった。

 ツヴァイはそんな勇也の様子を見て、少し危険な兆候かと考えるが、今のところはそれ以上おかしくなるようなことはない。


 ツヴァイは勇也に憐憫の感情を込めて眼差しを向ける。

 いくら主を心配したところで、彼女に出来ることは何もない。こうやって心配する以外には。


 ツヴァイが勇也に声を掛けようかと思った時、妹たちが一斉に起き始めた。

 すると勇也も一緒に立ち上がり、さっきまでの暗い表情が嘘のように消え去り、あのいつもの微笑に戻る。


「さて、もうそろそろ朝ですかね。少ししたら出掛けましょうか。もしかしたら暴君も戻っているかもしれません」


 勇也は明るい調子でそう言い、姉妹たちを見回した。


「俺様たちは別にそれでいいけどよ、旦那はどうなんだ?」


 ツヴァイは恐る恐るといった風に、勇也を遠慮がちに見つめる。

 しかし勇也は、やはりというか、そんなツヴァイの様子に気付くことは無く、首を傾げたのち微笑んで首肯した。


「ええ、何も問題ありませんよ。こんな素敵な武器も頂いたことですし、今の僕たちなら暴君を狩ることだって余裕でしょう」


 勇也が朗らかに言いながらサイコファンタムを叩いてみせると、妹たちも呼応して嬉しそうに鳴いた。

 ツヴァイだけが少し疲れたようにかぶりを振る。


「はぁ、旦那がやるっていうんならやってみせるさ。

 しかし、暴君か……」


 ツヴァイは改めて暴君を狩ろうとしていることを思い出し、少し考えるように目を細めた。


 主である勇也がやると言うなら、自分たちもやる、と言った言葉に嘘はない。

 しかし、出来るかどうかとなると、それは別問題である。

 ツヴァイの見立てでは、勇也と暴君、個体の力量だけで言えば暴君に軍配が上がる。エカレスがあったとしても、上級魔法であるプラネットフレアくらいの火力が無ければ、あとは豆鉄砲と変わらない。

 だがそこに、ハンニバル・モデル・ライフル、サイコファンタムと.577 T-REXライフルの魔法弾が加わればどうなるかわからなかった。

 邪神ユヒトの言う通り、暴君にさえ通じる威力を持っているなら、勇也は暴君とも互角かそれ以上に戦えるかもしれない。

 しかしそもそも、勇也が一人で戦う必要はなく、姉妹たちと上手く連携することが出来たなら、暴君を狩るのも難しくないはずなのだ。

 そしてツヴァイが最終的に頭を悩ますのは、勇也が自分たちとうまく連携できることが出来るのか、という事だった。

 ツヴァイはかぶりを振る。

 昨日の戦いを思い出せば、それが難しいという事は容易に想像できた。


「なぁ、旦那」

「ん?」


 勇也が首を傾げてツヴァイを見つめる。


「まさかとは思うけど、暴君と一人でやり合うつもりじゃねぇよな?」


 勇也は傾げていた首を反対側に傾げ、少し思案するようにこめかみを人差し指で掻いた。


「まぁ、アレとタイマン張るのも面白そうですけどね」


 そして楽しそうにケラケラと笑う。

 

 ツヴァイはそんな勇也に溜息を吐きつつ、考え込むように首を捻った。


「あいつはさすがに俺様たちも手伝わせてくれ。旦那が負けるところは想像できないが、丸呑みにされたらさすがにどうなるかわからないだろ?」

「丸呑み……。くふふ、あははははは」


 勇也は何がそんなに面白いのか、腹を抱えて笑う。

 暫くすると笑い止み、ぼそりと呟いた。


「……そうしたら、僕は死ぬのかな?」


 ツヴァイはギョッとして勇也を見つめる。

 だが勇也は、またすぐにケラケラと笑い出し、先程の危うい様子は無くなっていた。


「あははは、まだ死ぬわけにはいきませんね。暴君を仕留めないと」

「あ、ああ、だからこそ、援護は必要だろ?」

「……ええ、わかりました。では僕が盾をやるので、適当なタイミングでブレスを撃ってください」


 なんとも雑な作戦ではあるが、ひとまず手を出す許可をもらえたことで、ツヴァイはほっと一息つくことが出来た。

 だが同時に確信してしまった。

 勇也は自らの死を望んでいるのだ。

 しかしツヴァイに植え付けられた忠誠心は、それを望んでいない。

 勇也の意思や命令を守るのは当然であるが、彼の命を守ることもツヴァイが持つ忠誠心に含まれていた。

 だがそれでも、ツヴァイは勇也の命令には逆らえない。

 たとえ勇也が死にそうになっても、手を出すなと言われれば、手を出すことが出来ないのである。


 参戦許可をもらったツヴァイは、妹たちを見渡した。


「いいかお前たち、俺様たちは旦那が戦闘に入ったら、散開して暴君を取り囲む。そんで隙を見てブレスをぶつけてやる。お互いに当たらないよう注意しな」

「くいー」

「くー」

「くえー」

「くおー」


 妹たちはそれぞれ鳴いて応える。

 これで彼女たちの準備も整った。

 勇也もすでにサイコファンタム用の.577 T-REXライフル魔法弾をいくつか用意している。

 暴君を狩る準備は万端だった。


「じゃあ、そろそろ行きますか」

「応よ!」

「くいー!」

「くー!」

「くえー!」

「くおー!」


 洞窟内に姉妹の勝鬨が木霊する。

 勇也はそれを満足そうに眺め、姉妹を引き連れて外に向かった。


 鉄製の扉を潜ると、外は再び蒸し暑いジャングルなのだが、宝箱部屋の前だけは少しだけ開けていて、地面には水溜りがあった。ちなみに今雨は降っておらず、快晴だ。一夜の間に少しだけ降ったか、何日か前に降った雨がいまだに残っているようである。

 勇也がその水面を何となく眺めていると、小さく波紋が走った。

 それに首を傾げていると、再び波紋が走る。今度はさっきより少し大きい。


「あー、旦那。ちっとまずいな。鉢合わせちまったらしい」

「くふふ、ベタだなぁ」

「?」


 勇也は不思議そうにするツヴァイを無視し、微笑みながら地上から離れて行った。

 ツヴァイと妹たちも同時に散開する。

 そしてツヴァイたちが姿を消したところで、四階層の覇者である暴君が現れた。


 勇也は現れた暴君を眺めて、腕を組んで首を捻った。


「あれ? 怪我してる……?」


 そう、それは暴君の左目に付けられた傷だ。

 それを付けたのはもちろんウィズなのだが、勇也はそれを知らない。

 それでも考えられる可能性はいくらでもある。ダンジョンの中には強力なスキルを持った同級生たちがいるのだ。

 しかし勇也が真っ先に思い付いたのは凜華だった。

 それも無理はない。

 暴君の傷は真っ直ぐ縦に入った刀傷であり、自然と凜華の持つ刀が連想されてしまう。しかもその刀は宝箱部屋で手に入ったもので、今勇也は宝箱部屋から出てきたばかりであった。


 勇也の脳裏に嫌な想像が浮かび上がる。

 それは凜華達と暴君が戦闘になる場面だった。

 事実起こったことであるのだが、勇也が思い浮かべたのは事実とは異なる想像だ。

 勇也の脳裏に浮かんだのは、凜華がスキルを使い何とか暴君に一太刀入れることに成功するが、結局凜華達が破れて暴君に食い殺される場面である。


「ああ……ぅわああああああああああ!!」


 勇也の絶叫が密林に木霊した。


 突然叫び声を上げた勇也を、ツヴァイが驚いて見上げる。

 だが、今勇也の元に近づくことは出来なかった。

 その叫び声に気付いたのは、ツヴァイや妹たちだけではなかったのだ。


 勇也のあげた叫び声に、すでにその姿を捉えていた暴君が不快そうに視線を向けた。

 

――GYAAAOOOOOOOOOOO!!


 大音声で吠える暴君に向かって、勇也が漆黒の翼を広げて襲い掛かって行く。

 四階層の覇者との戦いがついに始まった。



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