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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第五章 旅立ちと新たな出会い、そして再会
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第六十一話 帰れない

ブクマ有難うございます!


「あ、あは、あははは、い、嫌だなぁ、冗談ですよ。覚えていましたって」


 いつもより数段歯切れの悪い笑い声が洞窟内に小さく響いた。

 勇也とツヴァイ、そして妹たちと、全員で骸骨地竜の頭蓋骨にジト目を向ける。


「え、えーっと、今回は何をプレゼントしましょうかね。ああ、そうだ。暴君を狩るつもりなんですって?」


 なぜそれを知っているのか、などという疑問は、最早勇也は浮かばなかった。

 この世界のすべてが記されたアカシックレコードを持つ邪神に、知らないことは何もないのだ。


「では、うん。ちょうど良いものがあるのでそれを差し上げますよ。はぃそぉーれっ」


 またふざけた掛け声とともに、ぼんっと煙が上がり、それが消えるとそこには宝箱が現れている。

 宝箱はまたかなり大きなサイズで、加州清光の時と同様、人一人が入ってしまえそうだった。

 また刀かと、勇也は首を傾げつつ蓋を開ける。


 だが、勇也の予想に反して、そこにあったのは刀ではなかった。

 宝箱に納まっていたもの、それは一言で言えばライフルである。

 黒い銃身に茶色の本体、さらに黒いスコープが付いていることから、これがスナイパーライフルと呼ばれる類のものだろうと、勇也は当たりを付けた。


「さて、そいつですが、A-Square社製のハンニバル・モデル・ライフルと言います。面白いのはそいつに使われる弾丸の名前がね、.577 T-REXライフルと言って、『ティラノサウルスでも殺せる弾丸』をコンセプトにして作られているんです。ね、ちょうど良いと思いませんか?」


 勇也は頷きつつ、その長大なライフルを取り出した。


「そいつはボルトアクション式でして、その手前にあるレバーみたいなのを引っ張ってみてください。それを引っ張ることで排莢、押し戻すことで弾の装填が出来ます」


 勇也は早速ボルトを引っ張り、そこに「ファイアーボール」を唱える。

 するとエカレス同様、弾丸が生成された。

 だが、そのサイズはエカレスとは比べ物にならないほど長大だった。

 長さは勇也の掌を超えており、その直径も人差し指と親指で輪っかを作ったのと同じくらい太い。

 正しく暴君を狩るための弾だ。


「号は『サイコファンタム』。意味は『システムの破壊者』です。

 かなりの反動があるんですが、ま、今のあなたなら使いこなせるでしょう」


 ハンニバルは銃の扱いに慣れた者でも、撃つ際にバックステップして威力を殺さないといけないほどに反動が強い。

 しかし邪神の言う通り、その身体能力、さらには外見までもが人間離れしてきている勇也であれば、衝撃をそのまま受け止めることが可能だった。


 勇也は満足そうにその黒い銃身を撫でる。

 まだ試し撃ちなどはしていないし、威力の程はわからない。

 だが、「サイコファンタム」と名付けられたその銃は、勇也にその秘められた強力な力を伝えているのだ。


「気に入っていただいたようで何よりです。あ、それはそうと、一つあなたたちのクラスの方たちに伝言をお願いしたいんですよね」


 邪神の言葉に、つい今しがたまでの勇也の上機嫌だった表情は霧散した。

 勇也のクラスメート。

 すぐに勇也が思い付いたのは、千佳達だ。その中にはもちろん自分を襲った、否、自分が劣情を抱いてしまった凜華の姿もある。そして今は亡き、琴音の姿も。

 勇也は、もう彼らには会わないつもりだった。

 このまま離れて魔物を狩り続けるのが勇也の目的である。自分の体が朽ち果てるまで。果たしてそんな時が来るのかは別にして。


「嫌だなー。そう硬い表情をしないでくださいよ。あと、あなたのクラスメートって他にもいませんでした?」


 明らかに邪神は勇也の考えを読んでいるのだが、勇也はそれには気付かず、花たちのことを思い出して、嫌な顔をしただけだった。


「うーん、難しそうですね。まぁ、気が向いたらでいいですよ。で、伝えて頂きたいことなんですが……」


 邪神は何気ない調子で続ける。

 だから勇也は、邪神の言葉を一瞬聞き逃してしまうことになった。


「六階層に向かうように言ってあげてください。そうしたら地球はもうとっくに滅んでるんで帰せないですけど、別のもっと安全な異世界に送って差し上げます」

「……え?」

「だーかーらー、六階層に向かえって言って欲しいんですって」


 勇也はかぶりを振る。

 その後だ。邪神はその後に何か重要なことを言っていたのだ。


「ああ、地球が無いって話ですか。地球なんて、もう一万年以上も前に無くなってますよ。ていうか、実質ここが地球みたいなもんですし。この星は地球が消滅した後に同じ軌道上に火星を基に作った星ですからね。なので明けの明星はもうありませんよ。あっはっはっはっはっは」

「明けの明星は、金星です……」

「い、いやだなぁ。し、知ってますって。じょ、冗談ですよ」


 またわかりやすい反応を邪神はしているのだが、衝撃的な事実を知った勇也はそれどころではなかった。


 地球がすでにない。

 それはそう簡単に受け止められることではなかった。

 勇也にとって、自分が生まれ育ってきた世界がもうないというのだから。


 しかし邪神は、そんな勇也の様子を不思議そうに尋ねた。


「地球はあなたにとって、そんなに大切な場所でしたか?」


 まるで、勇也がどんな生活を送って来たか知っているような風に邪神はそう言った。


 勇也は、はっとして頭蓋骨を見やる。

 邪神の言う通り、地球がどうなろうが勇也には興味のないことなのだ。

 もしたとえ仮に、地球を滅ぼしたのが邪神だったとしても、勇也がそれを責める必要はなかった。

 あの世界にあったのは、勇也にとっては辛い事ばかり。勇也は地球に未練などないのである。


 だが、地球が滅ぶのは別に構わないとしても、勇也には一つ疑問が生まれた。

 自分は過去からこの異世界、いや、未来の地球に召喚されたのか、という事だ。

 無論、物語などではよくあることである。猿の支配する惑星に辿り着いてしまったと思ったら、実は未来の地球だったとか。


 その答えを知っているのは邪神ただ一人である。

 勇也は邪神に尋ねようとするのだが、


『ユヒトくーん、もうすぐスーパーライダー始まるよー』


 突如地竜の頭骸骨から女性の声が聞こえてきた。

 ちなみにスーパーライダーとは、勇也の時代にもテレビ放送されていた特撮番組のことである。


「あ、わかったー、すぐ行くー。

 すいませんね、もう少しお話していたかったんですが、どうやら時間が来てしまったようです」

「え、いや、ちょ……」

「それではさようならー」


 ……。

 辺りが静寂に包まれた。

 その場に邪神の気配は一切残っていなかった。

 残されたのは、地竜の頭蓋骨に、中途半端に手を伸ばしている勇也と、呆気に取られた表情のツヴァイたちだけである。そして、地球がもう無いという衝撃的な事実と邪神の正体だ。

 邪神の正体、それは最後に女性の声が呼んでいた「ユヒト」という名前の者である。

 ユヒトといえば、この世界にアイテムをばら撒いている者の名だ。

 だがそれは、考えてみればわかることだったのかもしれない。

 勇也は驚くというより、納得してしまっていた。


 地球が無いという事実に、ここが未来の地球(正確には違うのだが)だという事実、邪神の正体とその目的。勇也には考えるべきことが多々あったのだが、勇也は笑って一つかぶりを振った。


「……くふふ、あははははは!!」


 勇也の笑い声が青白く輝く洞窟内に木霊する。


 どんな謎があったって自分には関係ない。それが結局勇也の辿り着いた答えだった。

 この世界で朽ち果てるまで戦うことを決めた勇也にとって、この世界が何で、邪神の目的が何であろうと、最早どうでもいいのである。


 ただ、それでも気になることがあった。

 邪神の言っていた仮面の男だ。

 千佳たちの話を聞いている勇也も、イーターと呼ばれる男が相当の実力を持っていることを知っている。

 邪神の助言を聞くのであれば、その危険人物と戦って、殺すのではなく仮面を破壊しなくてはいけないのだ。

 果たしてそんな事が可能なのか。

 邪神ユヒトは、それが出来るとは言っていなかった。注力しろと言っていただけだ。

 だが、そこでも勇也は考えることを放棄した。

 そんなことは関係ない。邪魔であれば、アナベルにとって脅威となるのであれば、排除すればいいだけなのだ。勇也はまたしても、そんな答えを選んだのである。


「今日はここで休んで、明日暴君を狩りに行きましょうか」


 勇也はサイコファンタムを抱えたまま岩の上に腰を下ろした。


 その周りに妹たちが集まるのを、ツヴァイはただ見つめている。

 勇也とユヒトの話を、彼女は完全に理解していたわけではない。

 それでも勇也が故郷を失い、家族ともう会うことが出来ないという事はなんとなくわかっていた。

 だが、勇也はそれを全く気にせず、いつものようににこにこと笑っている。

 最初こそ衝撃を受けていたようだが、今はまったくの平常運転だ。

 その姿を見たツヴァイが思い出したのは、ユヒトの「壊れた」という言葉だった。

 ユヒトの言っていることが正しいのであれば、勇也は依然ユヒトに接触した時には、もっとまともだったという事になる。

 だがたとえ勇也が壊れてしまっているのだとしても、ツヴァイに出来るのは勇也に付き従い、何があっても彼の盾となり牙となることだけだ。

 ユヒトの予言した仮面の男との対決。それがどんな結末を迎えようとも。



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