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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第五章 旅立ちと新たな出会い、そして再会
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第五十七話 暴君の塒


 翌朝、目を覚ました勇也はいつも通り上機嫌にニコニコと微笑んでいた。

 そんな勇也の様子をツヴァイは不安げに眺めている。

 勇也は平常運転といえば概ねそうなのだが、そもそもその平常運転が、ブレーキが利かない、暴走するなど、様々な問題を抱えていた。

 それに気付き始めているツヴァイは、どうにも勇也の笑顔が危なっかしいもののように見えて仕方なかったのだ。


 ツヴァイの心配を余所に、勇也は何事もなく昨日の残りのハイオークを二百グラムほど平らげ、出発の準備を整えていく。

 今のところ勇也に変調の兆しはないのだが、些細な事がきっかけで突発的に変調をきたしてしまう恐れがあった。

 だが、それがどんなことをきっかけにするかわからないツヴァイは、大人しく勇也の後をついて行くしかない。

 どっちにしたって、彼女は勇也に服従あるのみなのである。


「さ、行きましょうか」

「ああ、体調は平気か?」


 勇也は不思議そうな顔をして首を捻った。


「いや、いい。なんかあったらすぐ言えよ」

「くふふふ、長女っていうのは心配性なんですねぇ。ほら、四人ともお姉ちゃんの言うことをよく聞くんだよ。あははははは」

「くいー」

「くー」

「くえー」

「くおー」


 妹たちは別段勇也の様子を特に気にした風もなく、嬉しそうに声を上げる。

 ツヴァイはそんな勇也と妹たちの様子を見て、深く溜息を吐いたのだった。




 暴君の塒にはすぐ着くことができた。

 そこは、山と言ってもそれほど高くはなく、密林の木々より少し背の高い程度である。高さで言うなら、だいたい三十メートルくらいだ。

 密林の中でその場所だけが平たく盛り上がっている。

 広さは大してあるわけではなく、直径で百メートルほどだった。


 勇也は早速頂上まで飛び上がって行き、全体の様子を見るのだが、暴君のいる気配はない。

 塒というぐらいだから、休みに来る場所なのだろう。生憎と暴君は不在だったのだ。

 やはり昨日の内に来るべきだったかと、勇也が肩を落として地上に下りていくと、ツヴァイが勇也を見上げながら声を掛けてきた。


「まぁ、待ってりゃ、そのうち来るだろう。その代わりと言っちゃ何だが……」


 ツヴァイが視線を山の麓の一点に移した。

 勇也もつられて見てみるが、勇也の位置からは特に何も見えない。

 勇也が首を傾げていると、ツヴァイの見ている辺りから妹たちの一体、赤の縞模様のあるフィアーが現れた。


「クエー」


 どうやら彼女が何か見つけたらしい。

 全員でその場所に行ってみると、そこには高さ二メートルほどの窪みがあり、その奥にジャングルには似つかわしくない鉄製の扉があった。

 そう、それは宝箱部屋だったのである。


「宝箱部屋だな。俺様も一度入ったことがある」


 ツヴァイはそう言って自分のサスペンダーを引っ張った。


「死にかけたけどな。どうする? 暴君を相手にするなら、少しでも戦力を上げておきたいしな。それに旦那なら余裕だろ」


 勇也はしばし黙考した。

 入るのは構わない。武器も欲しい。しかし、またあの邪神に出会うかもしれないと思って気後れしてしまっていたのだ。

 だが、特に恐れる必要などないと考え直し、頷いた。


「わかりました。中にいる骨は僕が倒すので、手を出さないでください」

「お、おう。構わないけど……」


 そういうのはむしろ眷属に任すのでは? とツヴァイは思うのだが、勇也はそういう人間だと考え、敢えて口出しはしなかった。

 それでも妹たちに警戒を促し、入る覚悟を決めようとしている中、勇也は特に何も考えていないように気安く扉を開けて入って行ってしまう。


「なっ!?……」


 ツヴァイは驚愕するが、勇也がさっさと入ってしまうので、自分も慌てて入っていくしかない。

 妹たちも脅威を感じ取って、警戒しながら入って行っている。


 勇也が扉を開けた向こうには、もうすでに見慣れた青白く光るクリスタルの幻想的な景色が広がっており、案の定、骨のドラゴレックス、骸骨地竜がいた。

 強大な敵ではあるが、勇也は特に気負ってもいなかった。

 一度戦ったことのある相手である。

 確かにその時はかなり苦戦したが、今の勇也はあの時の何倍も強い。自分を『鑑定』した勇也はそれがよくわかっているし、今回目の前にいる宝の守護者からはそこまでの脅威を感じなかったのである。


「殴り合っても勝てそうだな」


 勇也はそう呟くと、おもむろに飛び上がり、骸骨地竜に向かって行った。

 骸骨地竜は特に驚いた様子もなく、勇也を迎え撃つ。

 尾を振り回し、勇也に叩きつけようとしたのだ。

 勇也はそれを避けることなく受け止めた。

 避けようと思えば避けられたのだが、敢えて自分の力を試すために受け止めたのである。


「おらぁぁぁっ!」


 勇也は空中で尾を掴んだまま、渾身の力でそれを投げ飛ばした。


 ツヴァイたちはその様子を呆気に取られたまま、見守ることしかできない。


「どんだけ怪力なんだよ……」


 ドゴォォォッン。


 勇也に投げ飛ばされた骸骨地竜は、地面に叩きつけられた。


「くふふ、あははははは!」


 勇也が笑いながら追撃を仕掛ける。

 倒れ伏す骸骨地竜の頭蓋骨に拳を叩き込み、地面にめり込ませ、さらに追加で拳を叩き込んだ。

 骸骨地竜はそれでも意に介さず、立ち上がって来ようとする。


 勇也は一旦距離を取り、空中で静止した。


「旦那! 何で止めを刺さないんだ!?」


 それを見たツヴァイが驚きの声を上げる。

 あのまま殴り続けていれば、骸骨地竜は倒せただろう。

 だが、勇也はそうしなかった。


「ちょっと、どれくらいの攻撃まで耐えられるか、試しておこうと思いまして」


 たったそれだけのためである。

 勇也がそうツヴァイに答えている間にも、骸骨地竜は立ち上がり、勇也に向かって大きく口を開いた。

 骸骨地竜の内蔵魔法、竜の息吹(ドラゴンブレス)の構えだ。

 下手をすれば命はない。

 しかし、勇也には死なないという反則的なスキルがある。いや、たとえ命を落とす危険があったとしても、勇也は同じことをしただろう。自分の命に、微塵も価値を見い出せていないのだから。そう、いつか邪神に言われたように。


 骸骨地竜の口の中に白い光が集まる。

 そして、キンッという音と共に、白い光の、まるで光線のような物が勇也目掛けて一直線に発射された。

 勇也は腕をクロスさせ、それを空中で受けるような構えを取った。


 その行為は非常に無謀だと言える。

 魔法には、その本人のステータスよりも、遥かに能力の高いものが存在するのだ。

 竜種の持つ竜の息吹(ドラゴンブレス)もその威力において、骸骨地竜の持つステータスを超え、勇也の耐久力すらも上回っている強力なものだった。


「がぁぁぁっ!」


 勇也は白い光に呑まれ、そのまま吹き飛ばされ、ブレスと共に岩壁に叩きつけられ、押し潰された。

 やがて白い光は消え、その中から全身火傷に覆われ、右腕を失った勇也が現れる。

 満身創痍だった。

 これが普通の冒険者なら間違いなくこのまま死ぬだろうし、その前に跡形もなく消し飛んでいただろう。

 だが、勇也のスキルのもまた、本人のステータス以上に強力なものなのだ。

 その不死性、そして再生力は、そう簡単に破られるものではなかった。


「くふふ、片腕持って行かれちゃったか。まぁ、仕方ないね」


 致命傷を負った状態から勇也は即座に蘇り、笑いながらめり込んだ岩壁から出てくる。


「……やっぱり旦那はとんでもねぇな」


 ツヴァイはあっという間に元に戻って行く勇也の右手を見ながら、呆れたように呟いた。

 ツヴァイの反応は尤もだ。

 他の妹たちも驚愕の面持ちで勇也を見つめていた。

 だが、骸骨地竜にはそんな感情が無かったらしく、懲りずに再びブレスの構えを取った。


「まだ撃てるんだ。ま、もう喰らわないけどね」


 勇也は言うが早いかその場を飛び立ち、目にも止まらぬ速度で骸骨地竜の元まで辿り着くと、その顎にアッパーを喰らわせ、口を力技で閉じさせた。

 さらに縦横無尽に高速で飛び回り、左拳で全身の骨を殴りつけていく。

 骸骨地竜は勇也の速度にまるでついて行けないらしく、されがるまま、一切反撃ができなかった。

 そして右手が回復すると、背後に回って背骨に向かって全力の右ストレートを叩きつけた。


 バキッ。


 骸骨地竜の背骨が砕ける。

 同時に骸骨地竜は行動を停止し、地面に向かって轟音と共に倒れ伏した。


「さ、さすがだな。旦那は」


 勝負はついた。

 ツヴァイや妹たちが勇也の元に行こうとするのだが、


「くふふ、あははははは!」


 勇也は止まらなかった。

 もうすでに動きを止めている骸骨地竜の体を殴り、その骨を粉々に砕いて行く。


「おい、旦那! 止まれって!」


 だが、ツヴァイの声は届かず、勇也はすでに動きの止まっている骸骨地竜を殴り続けた。

 背骨、肋骨、頚椎、そして頭蓋骨を破壊しようとしたところで、勇也は拳を振りかぶった体勢のまま突然動きを止める。


 ツヴァイは突然動きを止めた勇也を訝しむものの、ともかく彼の傍に行った。

 勇也に近づき、その表情を見た途端、ツヴァイはまたしても焦る。

 勇也は大きく目を見開いたまま、体を小刻みに震わせているのだ。


「お、おい、どうした? 大丈夫か?」

「ぁ、ぅあ……」


 勇也の口からはか細い声が聞こえて来るばかりである。

 ツヴァイがどうしたものかと頭を悩ませていると、突如それ(・・)が動いた。


 地面に向かって横向けに転がっていた骸骨地竜の頭蓋骨、それが突如ぐるんと動き、勇也たちの方を向いたのだ。

 ツヴァイたちは、まだ骸骨地竜に息があったのかと驚きつつも、素早く勇也の周りを囲んで彼を守る態勢に入った。

 だが、彼女たちが驚くのはまだ早かったと言える。


「まったくもう! 無茶苦茶しないでくださいよねっ! 僕が話せなくなったらどうしてくれるんですか!?」

「しゃ、しゃべっただと!?」


 そう、勇也の動きを封じていたのは邪神だったのである。

 邪神は勇也の前に再び降臨したのだった。



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