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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第四章 地獄の中で辿り着いた地獄
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第五十話 自分の殺し方

ブクマ有難うございます!

 

 勇也は焼け落ちた小屋の中で、ただ蹲り考えを巡らせていた。

 それは囚われていたと言った方が良いのかもしれない。


 一つは自分のせいで琴音を死なせてしまったという考えだ。

 自分が一人で助けに行けば良かったのに、自分が傷つくことを恐れ、そうしなかったから琴音は死んでしまったのだ。

 もちろんそれが勇也の責任であるとは言えない。

 勇也はなまじ死ににくいため、そんな考えに至ったのである。

 きっと勇也でなくとも、似たような判断をしていただろう。事実誰も、間違った判断だとは思っていなかったし、琴音のことが勇也のせいだと思う者もいなかった。

 だが選択するという事において、後悔はつきものである。特にそれが、最悪の結果をもたらしたのであれば、なおのこと。

 結局勇也は、どんな選択をしていたとしてもそこに結果が伴わなければ、自分を責めるしかなかったのだった。


 もう一つの勇也を捉える考え、それは凜華に襲われたことである。

 あれだってもしかしたら何とかなったかもしれない。勇也はそう考えていたのだ。

 あの状況で食い殺されてしまったのはしょうがない。

 勇也はそのことで凜華を責めるつもりもなかった。

 だから勇也が思い煩っているのは、自分の貞操を奪われたことの方である。

 もちろんそれだって、あの状況ではどうしようもなかったのだが、勇也はそう思っていなかった。

 自分が反応さえしなければ、貞操を奪われることは無かった。そう考えているのだ。

 だがやはり、それだって無理がある。それは生理現象であり、上手くコントロールできない事だってあるのだから。

 それを勇也が理解していないわけではない。

 それなのにも拘わらず、彼がそう考えてしまうのは、あの時はっきりとこう思ってしまったからなのだ。


 ――気持ち良い。


 凜華に唇を奪われ、食われながら犯され、それでも勇也は抗えないほどの快楽を味わっていた。

 命を失うその瞬間まで、何度も抗えない快楽が、勇也の脳を繰り返し貫いてていたのだ。

 そして勇也にとってそんなことを思ってしまうのは、愛するアナベルに対しての裏切りだった。

 自分はアナベルを裏切り、快楽を貪った。勇也はその事実に苦しんでいた。


 ふとした瞬間、勇也の脳裏に、琴音の姿が蘇る。

 無口だけど可愛らしく、自分に好意を寄せてくれる姿。杖を渡した時に、それを大事そうに抱えていた姿。

 だけどそれはやがて、何も映すことができない光を失った瞳を、勇也にただ向けるだけの姿に変わってしまう。

 彼女は横たわったまま何も言わない。

 勇也を責めることもなければ、呪詛を吐くこともなかった。


「ごめんなさい……」


 しかしその言葉は届かない。

 勇也の謝罪は受け入れられることもなければ、拒否されることもない。それが余計に勇也を苦しめた。


 場面が変わる。

 勇也の目の前には凜華がいた。

 凜華は美しい肢体を惜しげもなく露わにし、勇也の上に跨っている。

 勇也はそれを拒絶することなく、共に快楽を貪っていた。

 ふと耳元で声がする。


「嘘なのですよね?」


 勇也の振り向いた先にいたのは、一匹の緑色のゴブリン、アナベルだ。

 アナベルは愕然とした表情を勇也に向け、苦しむように胸を抑えている。


「……有り得ない、のです」


 アナベルは涙を流し、震え、一歩ずつゆっくりと後退していく。

 もしアナベルが勇也を罵倒したなら、勇也は苦しんだだろう。激怒し勇也に攻撃したとしても、勇也はそれを受け入れつつも苦しんだだろう。


「アナの、アナのせいなのですね? うぅ、ううう、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 だけどそれでも、こんな風にアナベルを悲しませ、苦しめるぐらいなら、その方がよっぽどましだったのだ。

 アナベルを傷付け、苦しませることは勇也にとって、ただの苦しみではなかった。

 耐え難いほどの苦痛。地獄の業火で焼かれるかのような、自分の存在を否定したくなるほどの責め苦だったのである。


 勇也は頭痛と吐き気に苛まれながら考える。

 何が最善だったのか。どうすれば琴音を失わず、アナベルを裏切らなくて済んだのか。

 どんなに考えても答えは出てこない。そして答えが出たとしても、それはもうすでに手遅れなのだ。

 それでも考えることはやめられない。

 琴音の空虚な瞳。アナベルの止めどなく流れる涙。

 その姿が代わる代わる勇也の脳裏に浮かんでは消えていった。


 勇也は自問し続ける。

 何を間違えたのか? 何がいけなかったのか? どうすべきだったのか?

 自問しながら自答する。

 判断を間違えた。二人を連れて行ってはいけなかった。一人で行くべきだった。

 考えはさらに飛躍した。

 そもそも仲間なんて作るべきではなかった、と。アナベルと出会うべきではなかった、と。ずっと一人でい続けるべきだった、と。

 だがアナベルだけは、否定することができなかった。

 勇也が何もかも否定し続けても、彼女の姿は最後まで彼の中で残るのだ。

 そこでまた考えは戻ってしまう。

 自分は何より大切なアナベルを、裏切ってしまったのだという事実に。


 勇也は自らの思考に囚われ続け、苦しみ続けていた。

 その思考の渦から逃げることができず、気付けばエカレスを手に握りしめている。


(もう、何も考えたくない)


 勇也はエカレスを口に咥えた。

 それは勇也にとって何か意味のある行動ではない。ただそうすること以外、何も思い付かないだけだった。

 勇也はそのまま、エカレスの引き金を引いた。




 ************


 アナがユーヤのいた焼け落ちた小屋の前まで行くと、小屋の前でクロが必死になって後ろ足で砂を蹴っていました。

 クロはどうやら、何かに向かって砂を掛けているようなのです。

 その砂を掛けられている何かからは煙が上がっています。

 つまりクロは何かの火を消している、のでしょうか?


 意味が分からないのです。

 クロは火を起こせません。

 火を使った誰かがいたのだとしたら、それはユーヤ以外有り得ないのです。

 ユーヤが起こした火を、クロが消している。つまりそれは、ユーヤの意思に反することをクロが行っているという事なのです。

 ユーヤに対して従順なクロが、その意思に反することをするとは考えにくいのです。


 とても嫌な予感がします。

 アナは背中から冷たい汗を流しつつ、煙を上げる全体的に黒くなっている何かに近づきました。


「クロ、やめるのです。もう火は消えています」


 さっきまでアナを、親の仇でも見るかのように睨んでいたクロが、素直に言う事を聞いて動きを止めます。

 アナはそれに近づいて行き、泥のような砂を払っていきました。

 アナはその作業を行いながら、涙を流します。

 もう半ば程でそれが何なのか、わかってきているのです。


 それは首から上のない、焼け焦げたユーヤでした。


「クロ! 何が……?」


 アナの次にここに来たのはリンカなのです。

 すぐにその後にチカさんと、少し遅れてスグルさんと眼鏡の少女が到着します。

 リンカはすぐに何があったか気付いたようで、こちらに近づいてきました。


「ユーヤに近づくなぁぁぁぁぁ!!」


 アナがリンカを睨み、叫ぶと、リンカは怯える眼差しでアナを見て動きを止めました。

 チカさんと他の二人もこちらを見て、驚愕に包まれます。


「そ、そんな、アレが勇也君だっていうの? うそ、うそよ……」

「大丈夫、勇也様は生きてる。ウチとクロにはちゃんとそれが伝わってるから」


 リンカはそう言って、再びユーヤに向かって近づいてきました。

 アナは立ち上がり、リンカの行く手を阻みます。

 これ以上アナのユーヤには触れさせません。命を奪ってでも。


「お願い、勇也様のお世話をさせて」

「うるさい! これ以上アナのユーヤに触れるな!」


『紅蓮の杖』を抜き放ち、リンカにその先端を向けます。


「でも勇也様が復活したら、きっと食料が……」


 リンカはそこまで言いかけると、視線をアナの背後に移しました。

 その視線の先にはユーヤがいるはずなのです。


「ぁ、が、何か、食べ物を……」


 アナが振り返ると、そこには復活したユーヤが視線を彷徨わせて、苦しそうにしていました。


「ユーヤ……!」


 アナの横を、クロが口に何か黒いものを咥えて駆けて行きます。

 クロはそれをユーヤの目の前に突き出しました。

 するとユーヤはそれを必死に貪り始めます。

 そしてユーヤはそれを飲み下して暫くすると、納まったのかアナたちの様子を窺ってきました。


「アナ、何で凜華に杖を向けて……?」

「ユーヤぁ、良かったのです。安心してください。今すぐアナがこの女を殺すのです」

「やめて!」


 ユーヤに怒鳴られ、アナは思わず固まってしまいました。


「あ、ご、ごめん。大きな声出しちゃって。でも凜華は悪くないんだ。悪いのは僕なんだよ。あははは」


 ユーヤは笑いながら立ち上がり、ボロボロになったストラに魔力を通して、元に戻します。

 焦げた跡なんてどこにも残っていなくて、砂だらけではありますが、まるで何もなかったようなのです。


「みんなもごめんね、驚かせちゃって。ちょっとエカレスを弄繰り回してたらさ、暴発させちゃったよ。もう大丈夫だから。でも、くふふ、これじゃあ自殺もできないね」


 どう見ても大丈夫なんかじゃありません。

 時折壊れたように笑い声を上げ、足元も覚束ついていません。

 だけどなんて声を掛けていいかもわからないのです。

 それこそ、少しでも扱い方を間違えたら、本当に壊れてしまいそうで。

 アナ以外の方達も、ユーヤを心配そうに見つめるだけなのです。


「大丈夫。もう少し落ち着いたら行くからさ」


 ユーヤはそう言いながら、小屋の残骸の中に消えていきました。

 だけどアナは勘違いしていたのです。

 ユーヤの言っていた「行く」という意味を。




※次回は10/21(土)20:00に第五十一話「罪を贖うために」を投稿します。


※ちょっと最近他作品書いているため、執筆が止まり気味です。


※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m

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