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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第四章 地獄の中で辿り着いた地獄
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第四十九話 一発の銃声

ブクマ有難うございます!

 

 ユーヤから離れたチカさんは、今いる小屋で凜華にすべての事情を聞いたそうなのです。

 それからすぐにスグルさんとトウドウミユ様が合流し、なかなか戻ってこないユーヤの様子を見に行ったところ、いつの間にか現れていたクロが焼け残った小屋の前で座っており、誰も中に入れようとしなかったらしいのです。


 アナはユーヤがリンカに犯されたと聞いた時、頭の中が真っ白になりました。倒れそうになってしまい、スグルさんに後ろから支えられてしまったほどなのです。

 だけどそれが治まると、今度は胸の内を黒いものが渦巻いていくのを感じました。

 許せない、許せないのです……!

 ユーヤはアナのもの。

 それを奪ったリンカは、たとえどんな事情があろうとも許せないのです。


 でもまずはユーヤに会うことが先決なのです。

 そう、もしかしたら何かの間違いかもしれません。

 チカさんの話は人伝で、リンカも記憶が無かったというじゃありませんか。

 ユーヤに直接話を聞くまでは、アナはそんなこと信じないのです。


「ユーヤに直接話を聞きに行きます」

「それはいいけど、多分会ってくれないと思うわ」

「それは皆様だからでしょう。アナは違うのです。ユーヤにとって、アナは特別なのです」

「ええ、悔しいけど、特別だっていうのはそうだと思う。でも、だからこそ会いたくないんじゃないかな」


 チカさんの言っている意味が分かりません。

 ユーヤがアナに会いたくないはずがないのです。

 アナはチカさんの言葉を無視して、その場を飛んで離れ、ユーヤのいるという集落の奥にある小屋に向かいました。


 集落は狭く、小屋もほとんど壊れているため、ユーヤのいると思われる小屋はすぐに見つかりました。小屋の前にクロがいることからも、すぐにわかるのです。

 その小屋は多くが焼け落ちているのですが、空からではユーヤの姿が確認できません。一部焼け残っているところにいるのでしょう。


 アナは地上に降りてクロの前に立ちました。

 クロは冷たい眼差しをアナに向けてきます。


「クロ、そこを通してください。ユーヤに会わせるのです」


 しかしクロは、牙を剥き出しにして威嚇してきました。

 どうやらアナであっても通さないつもりなのです。

 そんなこと、ユーヤが望んでいるはずないのに。


「ユーヤ! そこにいるのですか!? アナなのです! 出てきてください!」


 小屋の中で人の動く気配がします。

 しかしなかなかユーヤは姿を現してくれません。

 それどころか、クロがアナを追い返そうと吠えたててきました。


「クロ、いい加減にするのです! ユーヤ! そこにいるのでしょう!」

「アナ……」


 ああ、ユーヤの声なのです。

 会っていなかったのは僅か数日なのに、こんなにも懐かしいのです。


「そうなのです、ユーヤのアナなのです。さあ、早く顔を見せてください」

「……」


 ユーヤからの返事がありません。

 一体どうしたというのでしょう。


「ユーヤ、どうしたのです? 早く出てきてください。アナはユーヤに聞きたいことがあるのです。リンカがユーヤの、ユーヤの貞操を奪ったなんてチカさんが言うのです。そんなの悪い冗談に決まっているのです。きっとアナに嫌がらせするつもりなのです。そうなのですよね? ユーヤ?」


 何の気配もしません。

 アナが辛抱強く待っていると、漸くユーヤの声が返ってきました。


「ごめん、ごめんね、アナ。今は君の顔が見れない。本当にごめん……ごめんなさい」


 ――あああああああああああああああ!!


 許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!


 アナはふらつきながらも、小屋を離れると、すぐさまその場を飛び出しました。

 向かう場所は一つなのです。

 あの女は生かしておけない、アナがこの手で息の根を止めるのです!


 小屋の前には誰もいません。

 きっと全員中にいるのでしょう。

 ですが構いません。

 アナはそのまま中に突っ込んでいきました。


 全員が仰天してアナを見つめてきます。

 でも、今はそんなことどうでもいいのです。

 アナはポシェットからヴェリタスを抜き放ち、部屋の隅で蹲るリンカにその銃口を向けました。


 リンカが顔を上げ、虚ろな目をアナに向けてきます。銃口を向けられているにも拘らず、恐怖の色は見えません。むしろ覚悟しているようにさえ見えます。

 いいでしょう。覚悟しているというなら、その通りにさせてもらうのです。


「あ、アナベルたん! そんなことやめて下され!」

「うるさいのです! アナはこの女だけは許しません!」


 アナが引き金に人差し指を掛けた時でした。


 ――っ!!


 右側面に衝撃が走り、アナは小屋の外まで吹き飛ばされてしまいました。


 すぐに立ち上がり小屋の方を見ると、ついさっきまでアナがいた場所に、腰を低く落として拳を真っ直ぐに振り抜いたチカさんがアナを睨んでいました。

 そうですか。

 アナの邪魔をするというなら、受けて立つのです。

 ちょうど良いのです。アナからユーヤを奪おうとするチカさんは、アナにとって邪魔な存在なのです。


 チカさんが小屋から出てきて、アナの前に立ちました。

 チカさんもアナとやり合うつもりの様なのです。


 しかしその前に、慌てた様子でスグルさんが小屋から出てきました。


「お二人ともやめてくだされ。我々が争ってどうするのでござる?」

「私は沖田さんを守っているだけよ。アナベルさんが沖田さんに何もしないなら、戦うつもりなんてないわ」

「あ、アナベルたん、沖田殿を許してあげて欲しいでござる。沖田殿は勇也殿を守るために、必死だったのでござる。その結果暴走してしまっただけで、勇也殿も無事だったではござらんか」


 確かにユーヤは生きています。でもそれこそ結果だけなのです。

 ユーヤは一度食べられ、命を落としているのです。

 それにアナしか知らなかったユーヤの体を、リンカは汚したのです。

 絶対に許しません。


 アナはスグルさんを無視して、ヴェリタスをチカさんに向けました。

 チカさんはアナを睨んでいます。

 この距離でアナとやり合って、勝てるつもりなのでしょうか?

 チカさんにも『遠当て』という遠距離用の技があるみたいですが、それよりもアナがヴェリタスの引き金を引く方が早いでしょう。


 アナがヴェリタスの引き金に指を掛けると、チカさんが口を開きました。


「ねぇ、アナベルさん。貴女に沖田さんを責める資格ってあるのかしら?」

「何を……」

「勇也君を見捨てたくせに」

「……」


 咄嗟に何も言い返せなくなります。

 確かにその通りなのです。アナはユーヤを見捨ててしまいました。

 だけど今となっては、どうしてその道を選んでしまったのかわかりません。

 もちろん先生たちを見捨てたくないという気持ちは今でもあります。

 でもそれは、ユーヤと天秤にかける程の事なのでしょうか?

 ユーヤを寝取られ、その命までも奪われてしまった今、アナは自分がその場にいなかったことが悔しくて仕方ありません。


「はぁっ!」


 チカさんの気合いと共に、白い拳大の塊が飛んできます。

 アナは咄嗟に両手でガードしますが、ヴェリタスが弾き飛ばされてしまいました。


 隙を突かれたのですっ! 

 いえ、動揺させられたのでしょう。


「卑怯なのですっ!」


 走り込んで来て追撃をするチカさんの拳を凌ぎながら、アナは叫びました。


「デザートイーグルを使っている方がよっぽど卑怯よ!」


 チカさんの拳を防ぎますが、一つ一つの攻撃が重たいのです。

 チカさんがここまで強いとは知りませんでした。

 だけどアナだって、負けていられないのです。

 アナは尻尾を繰り出し、チカさんの足を掴んで投げ飛ばしました。

 チカさんが泥だらけの地面に打ち付けられます。

 しかしすぐに立ち上がりながら、アナを睨んできました。

 ダメージは一切感じられません。


 アナの方がステータスでは上ですが、どうやらチカさんはダメージをすぐに回復できてしまうようなのです。

 恐らく何らかのスキルでしょう。

 やっぱり卑怯なのはチカさんの方なのです。


「二人ともいい加減にしてよ!」


 アナとチカさんが睨み合っていると、小屋の中から小柄で眼鏡を掛けた少女が飛び出してきました。

 思わずアナもチカさんもそちらに目を向けます。

 少女は怒っているようで、顔を赤くしています。

 それにどうやら、泣いていたようで、目も赤いのです。


「二人とも永倉君の気持ちがわからないの!? 今も彼、凄く苦しんでるんだよ!?」


 アナだって、アナだって苦しいのです。

 心から愛おしく思っているユーヤを奪われて、苦しくないはずがないのです。


「私はわかってるわ。わかってないのはアナベルさんだけよ。アナベルさんに裏切られなかったら、こんなことにならなかったかもしれないのにね」


 アナがチカさんを睨むと、冷ややかな視線が返ってきました。

 その目が言っているのです。お前のせいだ、と。

 そんなこと、言われなくてもわかっているのです。

 だけど、それでも許せないのです。ユーヤを奪ったリンカが、まだ息をしているという事が。


「どうするの? まだ沖田さんを殺そうとするの? そしたら、きっと勇也君は余計に悲しむわよ」

「そ、そんなこと……! ユーヤは、アナだけを……」

「どうかしら? 私たち、勇也君にとても大切にしてもらってたわよ。だから、仲間を失って、あんなに悲しんでいるんでしょ。それに、以前の勇也君なら、とっくに沖田さんを殺しているでしょうね」


 確かにその通りなのです。

 あのユーヤがそれだけのことをされて、リンカを未だに生かしているなんて考えられないのです。


 いつからでしょう? いつからユーヤは、アナ以外の人たちを見るようになってしまったのでしょうか?

 これは全部アナのせいなのです。

 アナがユーヤ以外の人たちを、大切にしようとしたからなのです。

 ユーヤの全てが欲しいなら、ユーヤだけを見続けているべきだったのです。


 自分の愚かさに涙が流れます。


 ズガァァァンっ!


 唐突でした。

 集落の奥から破裂音のようなものが聞こえてきます。

 何の音かなんて考えなくてもわかります。

 それは間違いなく、エカレスの音なのです。


 だけど一体なぜ?


「あぉぉぉぉぉんっ!」


 その直後に聞こえたクロの異常を知らせるような遠吠えで、アナは大慌てでユーヤの元に飛んだのでした。



※次回は10/18(水)20:00に第五十話「自分の殺し方」を投稿します。


※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m

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