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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第四章 地獄の中で辿り着いた地獄
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第四十七話 喪失

一応閲覧注意です。

 

 狂戦士(ベルセルク):理性と引き換えに、強靭な力を得られる。周囲に動く者がいなくなるまで、理性は戻らない。

 自動体力回復:狂戦士(ベルセルク)発動時、一秒毎に体力の十分の一が回復する。

 肉体補填:狂戦士(ベルセルク)発動時、体力をダメージの回復に回せる。


 凜華の体力が回復し、次いで肩の傷が治癒していく。

 さらに全身から真っ黒なオーラが立ち上った。


 凜華はまず黒い残虐の左手を両手で掴む。

 そして万力のような力でギリギリとその腕を締め上げて行った。


「ナ、何ダコイツ、ドウナッテヤガル!?」


 黒い残虐は、力を使い果たしたと思っていた獲物が、突如怪力を発揮したことに瞠目した。それも、さっき戦っていた時とは比べ物にならないほどの力なのである。


「り、凜華……?」


 勇也も横たわったまま、凜華の異変を見ていた。

 いや、見ていることしかできないのだ。そして彼女の名前を呼ぶことぐらいしか。

 だが勇也の声に応えたのは、最早凜華のものではなかった。


 ――GUUURUAAAAA!


 なぜならそこにいるのは、すでに凜華ではないのである。理性を失い、周りに存在する全ての生あるものを殺し尽くすまで止まらない、一体の狂戦士だった。

 獣化(ビースト)を使った時のように、全身の筋肉が膨張し、血管が浮き出てはいるが、爪が伸びたり牙が生えたりはしていない。

 それでもその力は、獣化(ビースト)を使った時の非ではなかった。『憤怒』の効果が発動していることも、その尋常ならざる力を発揮している要因の一つだったのだ。


 凜華はその力を以ってして、ついに黒い残虐の左腕を破壊し、肘から先を引きちぎった。


 ――BUHYIIIII!


 黒い残虐の悲鳴が響き渡る。

 しかしそれで凜華の動きが止まることは無い。

 黒い残虐の腹を正面から殴り、防御できない左の脇腹を蹴り飛ばした。

 黒い残虐が必死になって繰り出してきた槍を掴み、只人を超えた膂力でそれを奪う。


 黒い残虐に焦りの色が現れた。

 呼吸が荒くなり、全身を冷たい汗が流れている。

 そして目に映るのは、自分を確実に殺し尽くすことのできる“恐怖”そのものだった。


「マ、待テ!」


 狂戦士に待つなんて概念も、止まるなんて概念もない。

 頭にあるのは殺戮、それだけだ。


 凜華は槍を逆手で構え、それを黒い残虐目掛けて突き出す。

 技術など一切無視した突きであったが、純粋な力だけの一撃は黒い残虐の肩を貫き、地面に縫い付けた。


 ――BUYHAAAAAAAAAAAAAA!


 黒い残虐は悲鳴を上げながら、何とか逃れようと試みる。

 だがすでに左腕は無く、出来るのはただもがくことだけだった。


 ――GUUURUAAAAAAAAAAAAAA!


 凜華が天に向かって吠える。

 それは勝利の雄叫びだ。そして獲物を喰らうことへの喜びだった。


 凜華が黒い残虐へと近づいて行く。

 そして右足の付け根を自分の足で抑えつけ、黒い残虐の右足を掴み、持ち上げた。


「ヤ、ヤメ……!」


 凜華はその右足を強引に引き千切った。


 ――BUHYIIIIIIIII!


 左足も同様に引き千切る。

 四度目の黒い残虐の絶叫が響き渡った。

 だが五度目は無かった。


 凜華は黒い残虐の足を放り捨て、顔のすぐ傍らまで行くと、足を振り上げた。


「ユ、許シテ……!」


 足が黒い残虐の顔目掛けて振り下ろされる。

 その一撃で黒い残虐の頭は潰れ、物言わぬ死体と成り果てたのだった。


「凜華……」


 戦いは終わった。

 勇也たちを苦しませ、仲間の命まで奪った敵は、凜華が新たなスキルに覚醒することによって、呆気なく撃破することができたのだ。


 勇也は深い悲しみと後悔に打ちのめされながらも、今はただ凜華と仲間を失った悲しみを分かち合いたかった。自分のせいで危ない目に遭ったことも、謝りたかった。

 凜華は服を引き裂かれ、もう少しで凌辱されるところだったのである。今もなお、彼女は全裸のままだ。

 勇也はそれも自分のせいだと思っている。


 勇也自身は不死身だ。

 千佳が攫われた時、勇也は自分一人で行けば良かったと思った。


(初めから僕が死ぬつもりで戦えば、一人でも戦うことができたはずだ。殺されたふりをして隙を作るとか、やりようはいくらでもあった。それができなかったのは……)


 怖かったからだった。

 琴音の言う通り、勇也は自分が傷つくことを恐れていたのだ。

 それでも千佳を助けたくて、凜華と琴音を危険な目に遭わせてしまい、その結果琴音を死なせてしまった。

 だから勇也はこう思ってしまう。

 自分には覚悟が足りなかった、と。


 ――ぐぎゅるるるぅぅぅ。


 勇也の腹が鳴った。

 ダメージを回復しようとしているのだろう。肉体が体力の回復を求めているのだ。実際に体力が回復した分だけ、腕が生えようとし、足の傷が塞がろうとしている。

 勇也は、こんな時でも腹が減ってしまう自分を恥じ入った。


 だが腹を空かせていたのは、勇也だけではない。


 ――GUUURURURU……。


 凜華が勇也を振り向いた。


「り、凜華……?」


 その瞳にはまだ知性の光が戻っていない。

 なぜなら狂戦士は、その場に命がある限り、止まることがないのだから。

 しかも今の凜華は完全に理性を失っている。

 殺戮の意思と本能だけで動く凜華の瞳に、勇也は果たしてどんなふうに映るのだろう。


 凜華が勇也に近付いて行く。

 勇也は凜華の返り血を浴びたその裸身を、ただ見つめていることしかできない。

 そして見つめている内に悟る。

 ああ、自分はこれから喰われるのだ、と。

 勇也はそれを受け入れた。琴音を失わせてしまった罰だと、凜華を危険に晒した罰だと。


 凜華が勇也のすぐ傍らまで来ると、凜華は身をかがめ、勇也の着ているストラに手を掛けた。


「凜華、何をして……?」


 そして凜華は、それを引き裂いた。


「――っ!!」


 勇也は声にならない悲鳴を上げる。

 凜華のやろうとしていることは、服を引き裂いてから喰らおうとか、そういう事ではなかった。

 その欲望に塗れた野獣のような瞳が物語っている。これから凜華が何をしようとしているのか。


 凜華はさらに下の服にも手を掛け、いとも簡単に引き裂いて行く。


「頼む、凜華! それだけはやめ……ん、むぐっ」


 勇也の口が塞がれた。凜華の唇によって。

 アナベル以外に許したことのない勇也の唇が、凜華に啄まれる。

 口腔内にヌルヌルとしたものが侵入し、勇也の舌を絡め取った。

 アナベルとの口づけでは、感じたことのないような快感が勇也を襲っていた。


 さらに凜華は、勇也の口の中のいたるところを舐め回した。

 頬の内側、歯茎の裏、口腔内の上部と下部、そして舌を執拗にかき回し、吸い上げ、やっと舌が引っ込められたとところで、上唇を噛まれ、そして引き千切られた。


「がぁぁぁぁぁっ!!」


 勇也が絶叫する。

 しかしその痛みさえも、反応してしまった下半身を落ち着かせる役には立たなかった。

 凜華も止まらない。

 今凜華の頭にあるのは、目の前にあるのも犯し、喰らうことだけだ。


 そうして勇也はその日、何もかもを失ったのだった。




 ************


 アナたちは今、フォールリバーの上を移動しています。

 いえ、上というよりは中なのです。

 まさかこんな所を移動することになるとは、思わなかったのです。


 それを可能にしているのは「潜水艦」というものでした。

 この潜水艦、イトウソウマ様の兵器創造(イマジンクリエーター)のスキルで作ったものなのです。

 中の一部が透明になっているのですが、さっきからモンスターが噛り付こうとしたり、体当たりしたりしていますが、この艦は傷一つ付かず、衝撃すらありません。

 しかも中は温度を自由に変えられるそうで、アナには関係ありませんが、他の皆様は快適そうにしています。

 内部もかなり広く、一人一部屋自由に使える空間があります。もちろん洞窟内に比べたら狭いのですが、これだけの機能があれば十分なのです。


 エミさんが「うわっ、チート能力だわー」と呆れた口調で仰っていました。

 チート、というのは、ズルいという意味だと聞きました。

 全くその通りなのです。

 アナも、まさかこんなに簡単に四階層を進めるとは思っていなかったので、驚きを通り越して呆れてしまいました。


 アナたちはそんな風に、「地獄」を楽々と進んでいるのですが、ある程度時間の間隔を空けて、浮上しなくてはなりません。

 偶に滝があるのと、クロが外に出たがったからなのです。

 最近のクロは誰とも触れ合わず、ずっと一人で機嫌悪そうにしています。

 そんなクロには誰も逆らえず、クロの求めるままに艦を浮上させていました。

 恐らくクロはユーヤを探しているのでしょう。

 アナもユーヤが気になります。

 出来ることならユーヤにも一緒に来てほしいのです。

 でもユーヤは、アナを許してくれるでしょうか……?


 艦が今日三度目の浮上をしました。

 クロはいの一番に外に飛び出していきます。

 アナもクロの後に続きます。

 外に飛び出したクロは、鼻を空に向けて匂いを確認しているようでした。


 クロはいつもそうやってユーヤの居場所を確認し、暫くすると中に入って行きます。

 その時クロは、いつもどこかを眺めているので、もしかしたらユーヤの居場所をちゃんと把握しているのかもしれません。


 今回もクロは同じようにしていたのですが、途中で体をびくっと震わせ、真っ直ぐ密林の中を眺め始めました。

 そしてアナを一瞬振り返りますが、すぐに前を向いて、一足飛びで岸まで辿り着き、そのまま駆けて行ってしまいました。


 ユーヤに何かあったのかもしれません!


 アナは近くにいたエミさんに「クロの後を追うのです!」と声を掛け、飛んで追い掛けました。

 クロの足はかなり速く、恐らく全速力なのでしょう。

 あっという間に離されてしまいました。

 ですがクロはまっすぐ進んでいますし、ぬかるんだ地面にはクロの足跡がくっきりとついています。

 アナだって空を飛んで追うことができるので、見失うことはありません。


 早くユーヤの元に辿り着かなくてはいけないのです。

『不死身』のユーヤが死ぬことは、簡単には考えられませんが、ユーヤが心配なことには変わりありません。


「ユーヤ、ユーヤ、ユーヤ……」


 早く、一刻も早くユーヤの元に……。




※次回は10/11(水)20:00に第四十八話「失ったもの」を投稿します。


※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m

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