表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第四章 地獄の中で辿り着いた地獄
48/114

第四十五話 逆転した追走劇

ブクマ有難うございます!



≪名前≫なし

≪種族≫オークジェネラル(変異種)

≪称号≫黒い残虐

≪年齢≫37

≪身長≫223cm

≪体重≫198kg

≪体力≫23

≪攻撃力≫31

≪耐久力≫33

≪敏捷≫17

≪知力≫10

≪魔力≫13

≪精神力≫5

≪愛≫0

≪忠誠≫50

≪精霊魔法≫火:98 水:2 風:67 土:33

≪スキル≫統率:同種族系統から忠誠を30得られる。

  槍術:槍を使った戦闘で、ステータスが上昇する。


 勇也が黒いオークの後を追いながら、『鑑定』して出てきた結果がこれだった。

 高い耐久力に高い攻撃力、称号持ち、さらには変異種である。敏捷も高く、こうやって追跡しているのも、風魔法を使ってやっとの事である。普通に考えれば、いや、どう考えても今の三人の力では勝てる相手ではない。

 それでも千佳を放っておくわけにはいかなかった。

 だから勇也たちは、格上の敵を追い、追っているはずなのに追い詰められているのは自分たちであるという逆転した追走劇を演じているのである。


 勇也は同時に疑問を抱いていた。

 果たして、以前の自分であれば、千佳のためにわざわざ圧倒的強者を追い掛けるなんて真似をしただろうか、と。

 もちろん強敵が自分の前に立ちはだかれば、全身全霊で立ち向かい、抗っていただろう。かつて「銀の牙」に対してそうしたように。

 だが今回のように、自分よりも強い相手が逃げるのを追い掛けるなんて、無茶なことは普通しない。

 当然攫われたのがアナベルだったら、勇也は自分の命なんて度外視して追い掛けていただろう。

 しかし今連れ去られているのは、千佳だ。

 もしアナベルと袂を分かつことなくずっと一緒に行動していたなら、危険を冒してまで千佳を追い掛けていたのだろうか。

 答えはおそらく否だった。

 勇也はアナベルや自分の命を危険に晒してまで、そんな無茶なことはしなかっただろう。


 だが今現実には、勇也は無茶を承知で千佳を追っていた。

 後先考えず、他の大切な(・・・)仲間の命も危険に晒してまで、である。

 そう、勇也にとって、今一緒に千佳を攫ったオークジェネラルを追っている二人は大切な仲間であり、攫われた千佳も同様に大切な仲間なのだ。

 きっと攫われたのが他の仲間の誰かでも、勇也は後を追い掛けていただろう。


 だけどそれは、大切な仲間を得るという事は、勇也にとって必ずしも良いことではなかった。

 なぜなら勇也にとって、真に大切なのはアナベルのみ。アナベルのためだけに生きるというのが、勇也が持っていた価値観だったはずだからである。

 アナベルというのは勇也にとってそれだけ強い存在だった。強い存在だったはずなのだ。

 勇也はただ感情でアナベルを愛しているのではない。

 アナベルを愛するという確固たる信念を以って、自分の心にアナベルを愛し尽くすという誓いを立ててアナベルを愛しているのだ。

 だからアナベルさえいてくれれば、勇也はそれでいいはずだった。たとえ今いなくとも、彼女のことを想っていられるはずだった。

 だが勇也は自分の感情を押さえられなかった。千佳を守りたいという強い想いを。


 勇也が相反する感情と思いに悩みながらも、オークジェネラルを追っている内に、徐々に木々が開けた場所へと出てきた。

 景色が変わってきたところで、オークジェネラルがふと勇也に向かって振り返る。

 そして口の端を釣り上げた。

 それは実に嫌な笑みだった。勇也が、思わず眉間に皺が寄ってしまうほどには。


 オークジェネラルが再び前を向く。

 すると、今までとは比べ物にならない速度を出して、一気に遠ざかって行ってしまった。


「くそっ! 待て!」


 勇也が慌てて速度を上げて追おうとするも、それを凜華が止めた。


「待って、勇也きゅん。もっと前見て。建物がある」


 勇也は言われたとおり、前方をよく見る。

 すると途中から木々が完全になくなっていった。そして凜華の言う通り、木をいくつか組み合わせて作った小屋があるのだ。

 小屋と言っても本当に簡素であり、人間が作ったにしては、あまりにも雑な出来である。ただ、それが一つではなく、いくつか離れた位置に向きも配置も滅茶苦茶に建っていた。

 ダンジョンの真っ只中に人が住んでいるとは考え辛い。

 それに、ここにオークジェネラルが逃げ込んだという事は、つまりそう言うことなのだろう。


 勇也は走りながらエカレスの弾丸を、広範囲を攻撃できる『フレイムトルネード』に変えた。

 それと同時に小屋の中からオークがぞろぞろと出てくる。中にはハイオークもいるようだ。

 その後ろ、守られるようにしてオークジェネラルが歪な集落のさらに奥に向かっていくのが見えた。

 千佳を助け出すにはオークの壁を抜けなくてはならなそうである。


「一体何匹いるんだ? 凜華、魔力はもちそう?」

「んー、ちょっときついかも。勇也きゅんが先制で敵減らしくれたら、最初からスキル使ってぶっこむけど?」

「わかった。それで行こう。琴音も凜華に続いて」

「ん、了解。勇也は一人で平気?」


 どこからともなく琴音の声が聞こえてくる。


「問題ない」

「ん」


 下の名前で呼び捨てされたことにドキリとしつつも、勇也は答えた。

 軽く二、三十匹はいそうだ。決して問題ない数ではなかったのだが、あのオークジェネラルに戦いを挑むには凜華一人では心許ない。

 凜華と琴音がオークジェネラルを倒してから、戻って来るまでの間、勇也は自分一人で持ち堪えさせるつもりだったのである。


 勇也は密林を抜け、集落に近づいた瞬間にエカレスの引き金を引いた。


 ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!


 炎の柱が二本上がり、複数のオークが断末魔を上げながら燃え上がる。

 同時に、二本の炎の柱の間に空白地帯が生まれた。


「よし、行って!」

「ぐぅるぅあああ!」


 凜華がスキルを発動し、その間を突っ込んでいった。

 何匹かのオークが炎の柱を回り込んで来て立ち塞がるが、凜華はそれを一刀のもとに斬り伏せていく。

 勇也はそれを後方から援護することより、周りにいるオークの殲滅を優先させた。


 ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!


 オークが小屋ごと次々に炎上していく。

 オークたちの注意が勇也に引きつけられる。

 勇也は、これで凜華達は抜けられると思ったのだが、凜華が振るった刀を受け止めるものが現れた。

 全体が鉄で出来た槍を持ったハイオークである。

 それでもスキルを使った凜華の方が力は強いらしく、ハイオークは凜華に押されていた。しかし、他のハイオークも凜華に殺到し、自分たちの間を抜けることを必死に阻止しているようだ。


 勇也は援護に向かいたいところだったが、そうもいかなくなってしまった。

 残りのオークたちが、集落から少し離れたところで狙撃していた勇也に向かって殺到してくる。

 状況の悪さに歯噛みしつつ、勇也はそれをエカレスで迎撃していった。


 次々と炎の柱が生まれていく。

 しかし、やがてそれにも限界が訪れた。

 弾切れだ。

 尤も、勇也の持っている中級魔法の弾丸は『フレイムトルネード』だけではない。


 ズガァァァンっ!


 勇也の放った弾丸が、オークの頭部に命中する。

 同時に込められた魔法が発動し、大きな岩の塊となって、近くにいた数匹を巻き込んで圧死させた。

 中級の土魔法『ロックボトム』だ。

 巨大な岩を敵の頭上に出現させ、押し潰すという魔法である。

 これでオークの数は十匹以下になった。

 あとは大量にある『ファイアボール』の弾で対処可能だ。


 勇也は次々にオークを撃ち殺しながら、凜華の戦局を確認した。

 凜華が今相手にしているハイオークは二匹。地面にもすでに二匹倒れていた。

 このままいけば凜華一人で全滅させられそうにも見えるが、凜華もかなり損耗しているようで、肩で息をしながら二匹の相手をしている。

 勇也は周りにいるオークを撃ち殺しつつ、凜華の元に向かって駆けた。

 凜華のためにも援護が必要だが、早く千佳を救い出さなくてはいけない。急がなければ、彼女がどんな酷い目に遭うかわかったものではないのだから。


 ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!


 ヘッドショットが二発、オークを一匹、二匹、さらに二発目の『ファイアボール』はすぐ真横にいたオークも巻き添えにして燃え上がった。

 残りは五匹。

 勇也はシリンダーをスライドさせ、素早く弾丸を込めつつ、駆け抜ける。

 弾の装填が完了したら、すぐさま近くにいるオークを標的に定め、引き金を引いていく。

 そうして勇也が凜華に辿り着くときには、オークは全て燃え上がって全滅していた。

 後は凜華の相手にしているハイオークだけだ。


 勇也はここを凜華に任せ、自分がオークジェネラルを追うか一瞬躊躇するが、やはり力を合わせてハイオークを倒し、全員でオークジェネラルを追うことを選ぶ。

 千佳のことを思えば一刻の猶予もないのだが、ここで凜華を置いていけば凜華がやられてしまうことだって考えられた。

 どこかに琴音が隠れていることもハイオーク達は気付いているようで、警戒しているらしい。下手をすれば、凜華も琴音もやられてしまうことだって有り得るのだ。

 それに、三人で力を合わせてオークジェネラルを相手にした方が、勝てる確率も上がるだろう。


 勇也はそれらのことを考え付くぐらいには冷静だった。

 戦いに呑まれやすい彼ではあるが、仲間の危機に頭を冷やすことぐらいは出来たのだ。

 だからそれが起きたのは、勇也の責任とは言い難い。

 少なくともそれを責める者はいないだろう。

 勇也自身を除いて。


 勇也は凜華の元に駆けつけ、叫んだ。


「琴音! 僕の後ろに下がれ!」


 しばらくすると、またどこからともなく声が聞こえてくる。


「いいよ」


 勇也は射線上に琴音がいる心配をすることなく、ハイオークに引き金を引いた。


 ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!


 元から凜華が戦い、だいぶ弱らせていたおかげで、足取りの重いハイオークたちは回避行動を取る間もなく、次々と頭を撃ち抜かれ炎上していった。


 これで残存する敵はゼロだ。

 勇也は一つだけ息をつく。

 そのほんの僅かな瞬間だった。

 どこから現れたのか、まるでその気を窺っていたかのように、いや、事実それ(・・)はこの瞬間を待っていたのだ。


 ――BUHYIIIII!


 絹を裂くような甲高い声、裂帛の気合いと共に、突如黒い塊が勇也に向かって突っ込んできた。

 それは追っていたはずのオークジェネラルだ。

 オークジェネラルは、一度は奥に逃げていたのだが、集落に響き渡る破壊音を聞いて、戻って来ていたのである。

 そして、勇也たちがかなりの強敵であることを察し、隙を窺っていたのだ。


 漆黒の鉄の槍が、勇也の体を穿たんと差し迫る。

 完全に隙を突かれた勇也は対処することができなかった。

 確かにそれは勇也に焦燥感をもたらしたが、一方で勇也は落ち着いていた。刺し殺すつもりならそれでも構わなかったのだ。なぜなら勇也は刺し殺されたぐらいでは死なないのだから。


 だが、勇也にその穂先が届くことは無かった。

 勇也の目の前で穂先が止まっている。

 勇也にはオークジェネラルの驚愕した表情が見えた。

 そう、透明なままの彼女の体を通して。


「……琴音?」


 勇也は震える声で彼女の名前を呼んだのだった。



※次回は10/4(水)20:00に第四十六話「狂戦士」を投稿します。


※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ