第四十四話 包囲戦
評価&ブクマ有難うございます!
※前回9/26(水)って表記しちゃってました_○/|_ なんか最近そんなミスが多い・・・。
「あ、オークだ」
宝箱部屋を出た一行がしばらく進んでいくと、木の根を齧るオークを発見した。
そんなものを齧っても腹の足しにならないだろうし、美味しくもないはずなのであるが、どうやらよほど腹が空いているらしい。
そんなオークの様子を眺めていた勇也が、口元を笑みの形に歪める。
オークは旨いし量もある。しかも大して強くないから絶好の獲物なのだ。
「……勇也君凄く悪い顔してるよ」
「いやぁ、旨そうだなって」
「た、食べるの!?」
心結が驚いて訊いてきたのを、勇也は唇に人差し指を当てて黙らせる。
オークはまだ木の陰に隠れる勇也たちに気付いていないが、あまり大きな声を出してしまえば気付かれるだろう。
尤も、気付かれたところで、腹を空かせたオークは逃げるのではなく、勇也たちに襲い掛かってくるのであるが。
「よし、僕が気配を消して忍び寄るよ。井上さんは逃げ出した時のために、隠れて待ち伏せしておいて。あ、『エアスラッシュ』で攻撃してね」
「……了解。あと、琴音でいい」
「う、うん。頼んだよ、琴音」
勇也が少し恥ずかしそうにするのを、千佳がジト目で睨んだ。
勇也はそれを無視し、早速行こうとするのだが、凜華が文句を言ってきた。
「えぇ! ウチの試し斬りはぁ?」
「うーん、じゃあ、後詰めよろしく。僕が弱らせるから、首を斬り飛ばして」
「えへへ、やったー」
というわけで、一匹のオークに対して三人で襲い掛かることが決定した。
オークは勇也が一階層で出会った個体より若干強い程度で、明らかに勇也のステータスよりも劣っている。明らかに過剰戦力だった。
そんなのは知ったことかと、勇也が先頭に立って木の陰に隠れながらゆっくりとオークに近づいて行く。
その距離は十メートル、五メートル、三メートルと徐々に減って行き、あと少しで飛び掛かれる距離に入ると言うところで、勇也は異変に気付いた。
――このオーク、辺りを一切警戒していない……?
だが、勇也が異変に気付いたのは一歩遅かった。
――BUYHIIIII!
――BUYHIIIII!
――BUYHIIIII!
辺りから複数のオークの雄叫びが聞こえてくる。
「くそっ! こいつ囮か!」
勇也は驚くと同時に、有り得ないとも思えた。
オークは異常に知力が低いのだ。あの原田よりも低いぐらいである。
それが待ち伏せなんて戦法を取るとは、普通では考えられなかった。
だが事実、今勇也たちは襲われている。
疑問は残りつつも迎撃するよりほかない。
まず勇也に、後ろから一匹が棍棒を振りかぶって襲い掛かってくる。
勇也目掛けてその棍棒による一撃が振り下ろされるが、勇也はそれを難なく避けた。
まんまと罠に嵌められたとはいえ、所詮はオーク。その動きは他のモンスターと比べても明らかに鈍重である。
他の面子にも一匹ずつオークが襲い掛かっている。
千佳はすぐに硬気功のスキルで迎え撃ち、心結は『部分金剛化』でオークの攻撃を防いでいた。
なぜか卓だけ二匹であったが、恐らくこの面子の中で一番強いと判断されたのだろう。確かに体格だけなら卓が一番大きいのだ。
「勇也殿~! 早く助けて下され!」
「分かった、すぐに……」
言いかけたところで、初めからいた囮役のオークが勇也に向かって突っ込んできた。
これで勇也も一対二である。
しかも勇也はエカレスではなく、凜華の使っていたダガーを構えていた。
後で食べることを考えれば、その方が、肉が傷つかないと判断したのだ。
ここでエカレスに武器を変えるという手もあるが、勇也は不要だと判断した。
なぜなら、
――BUYHAAAAA!
勇也を背後から襲ってきた一匹の首が飛んだ。
琴音が得意の不意打ちで『エアスラッシュ』を放ち、一匹を仕留めたのだ。
「琴音、卓君の援護を頼む」
「了解」
どこからか返事があった。
これであとは一人一匹ずつ仕留めていけば終わると勇也が思った時、木々の間からさらにオークが躍り出てきた。
いや、それはオークに似て非なる魔物である。
オークのような人型のシルエットをしているが、全身にはこげ茶色の毛が生え、大きさも一回り大きい。
見た目でそれがオークの上位種であることがわかった。オークの上位種といえばハイオークだろう。
それが三匹現れ、形勢が有利であった勇也、凜華、千佳にそれぞれ向かっていく。
手には棍棒ではなく、槍を持っている。
勇也の元に向かってきたハイオークが鋭い一撃を繰り出してきた。
「くそっ、なんだこいつ! オークより強い!」
間一髪避けながら、勇也が悪態をつく。
勇也はすぐさまエカレスを取り出した。右手にエカレス、左手にダガーを逆手で構える。
そして、そのままハイオークを狙うも、射線上に凜華がいたため引っ込めた。
勇也は一つ舌打ちし、距離を取る。
しかし初めからいたオークが、ハイオークから距離を取った勇也に迫ってきた。
勇也は二匹の魔物に追い詰められていた。このままではジリ貧だ。
乱戦ではエカレスの力を発揮することができない。
離れたところにいる千佳たちもハイオーク達に苦戦しているようだが、特に千佳がオークとハイオークを同時に相手にし、かなり苦戦している。外気功の使える千佳は、実質体力が無限にあるのだが、その外気功を発動するまもなく責め立てられている。
だが苦戦しているのは、千佳と卓だけであった。
心結が戦っているオークは、徐々に鈍くなっているようだった。心結が少しずつ麻痺毒を撃ち込んでいたのが、効いてきたのだ。
凜華もすでにオークは斬り殺し、刀の扱いに慣れてきたのか、ハイオーク相手にも善戦していた。
「くふふ、負けてられないね」
勇也は苦戦しつつも嗤った。
もう獲物を狩るという事を忘れ、ただ目の前の敵を“殺す”という事に意識を切り替えたのだ。
同時に打開策を思い付く。
「風よ、我に疾風の加護を【エアジェット】」
勇也が空に舞い上がった。
ハイオーク達がなす術もなく、勇也を見上げていた。
そして、
「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」
ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!
『エアスラッシュ』の弾丸をオークとハイオークの眉間にそれぞれ撃ち込み、頭を吹き飛ばしたのだった。
「アーメン」
勇也は着地すると同時に戦局を確認した。
凜華は放っておいても勝つ。
卓を襲っていたオーク二匹のうち、一匹はすでに琴音が影から仕留めたようだ。もう一匹を仕留めるのも時間の問題だろう。
心結が戦っていたオークは、地面に倒れていた。
一番苦戦しているのは千佳だが、一番近くにいる心結が助太刀に入れば問題なく倒せる。だが、その前に千佳がやられてしまうことだって有り得る。
勇也はそう判断し、千佳の助太刀に入ることを決めた。
そして、千佳たちの方に向かって駆けて行こうとした時、そいつは現れた。
――BUYHIIIII!
豚の雄叫びとともに、木々の間から二メートルは優に超えている巨大な黒い魔物が現れた。
よく見れば、豚鼻に下から上に向かって伸びた牙、オークに近い外見をしている。
そいつが現れた場所は千佳のすぐ近くだった。
千佳はただでさえ同時に二匹を相手に苦戦しているのに、これ以上敵が増えると敗北するのは必至だ。しかも相手は、ハイオークよりさらに巨大で、屈強そうな肉体を持っているのだから。
勇也は地面を蹴って駆け出した。
同時にダガーを持った左手の上でエカレスを構え、狙いを定める。
だが勇也が辿り着く前に、千佳と戦っていたオークたちが突如として動きを変えた。
――BHIIIII!
ハイオークとオークが雄叫びを上げながら、自分たちのダメージも厭わずに千佳に突貫する。
「きゃっ! 急に何なの!?」
動きを変えたオークたちに、千佳が怯んだ。そしてそれが隙となってしまう。
新たに現れた黒いオークが地下の腹目掛けてボディブローを放った。
「千佳!」
あれほどの巨体に殴られれば、弾き飛ばされても不思議ではないのだが、千佳は「うっ」と呻き声を漏らし、そのまま気絶しただけで済んだようである。
黒いオークに思ったほどの力が無かった、というわけではなかったようだ。
黒いオークは気絶した千佳を満足そうに眺めている。
勇也は黒いオークに狙いを定めるも、千佳がかなり近くにいたため引き金を引くことができなかった。
何が狙いなのか、勇也は疑問に思いつつも自分の中で答えがもうほとんど出ていた。
前にアナベルに「雄オーク」と怒られたことが頭をよぎった。
黒いオークが千佳を肩に担いだ。
「藤堂さん! 黒いオークを止めて!」
「うん!」
しかし心結の前にオークとハイオークが立ち塞がり、彼女の行く手を阻んだ。
「邪魔だ!」
ズガァァァンっ!
ハイオークの頭が弾け飛ぶ。
だが、その隙に黒いオークは木々の中へと後退してしまっていた。
「くそっ、卓君、藤堂さん、残りのオークをお願いできる?」
「任せて下され!」
「大丈夫だよ!」
「凜華!」
勇也が凜華を振り返ると、ちょうど彼女はオークの頭を斬り飛ばしたところであった。
「琴音! 二人は僕と一緒に千佳を追うよ!」
「わかった!」
「了解」
どこからともなく声が聞こえてくる。
こうして三人は残りのオーク二匹を、卓と心結に任せ、攫われた千佳を救うべく追跡を始めたのだった。
※次回は9/30(土)20:00に第四十五話を投稿します。
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