第四十三話 邪神様からのお便り
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勇也たちの探し物はすぐに見つかった。
入口のちょうど反対側、洞窟の一番奥にその宝箱はあった。
一応この中の四人、勇也、千佳、凜華、卓は、実際に宝箱部屋で宝箱を見たこともあるのだ。
他の二人も話を聞き、半信半疑ではあるが、この部屋に宝箱があるという事は聞いていた。
だから、あったというところで、そこまで驚くほどの事でもないのだが、勇也だけは異常にその宝箱を警戒している。
「では、早速開けますぞ」
卓が宝箱に手を掛けた。
途端に勇也が一歩下がる。
「んん? 勇也殿、なぜ下がるのですかな? 今まで宝箱に異常などなかったではござらんか。『鑑定』してみても、特に何も出てきませんぞ」
「あ、うん、気にしないで」
「はぁ、では、今度こそ」
勇也がまた一歩下がり、つられて他のメンバーも一歩下がった。
「ちょ、ちょっと待って下され。凄く開け辛いんでござるが」
「あ、うん。私たちは勇也君につられちゃっただけだから」
そしてその勇也が下がった理由であるが、
「いや、その、邪神の気配が……」
「な、何ですかな、邪神とは!? 初めて聞きましたぞ!」
「ほんと、気にしないでいいから」
「無理でござる!!」
勇也のせいで卓が完全に尻込みし、結局勇也が宝箱を開けることになった。
勇也が邪神を警戒しているのは、本当に何となくなのだ。
あの時現れたのは気紛れだと言っていたし、あの後は一度も会っていない。しかし、新たな階層で初めての宝箱を開ける今、もしかしたら現れるんじゃないか、と考えてしまっただけであった。
勇也は考え過ぎだと頭を振って、頭の中でケタケタ嗤う邪神の意識を跳ね除け、宝箱に手を掛けた。
宝箱はかなり大きく、恐らく勇也でも入ってしまうだろう。
重みのある宝箱をゆっくりと開けていく。
そして、中からできたのは、
「刀じゃね?」
「ぎゃーーー!」
いきなり隣に現れた凜華に、勇也が悲鳴を上げた。
「ゆ、勇也きゅん、ビビり過ぎ……」
勇也は未だに胸を押さえて荒い呼吸を繰り返している。
「とりま、『鑑定』してみるね」
≪号≫なし
≪種類≫リジェネーションブレード+
≪銘≫加州清光
≪製作者≫加州金沢住長兵衛藤原清光
≪効果≫【形状記憶】【三段突き】の永続術式が組み込まれた刀。
「「「……」」」
出てきた鑑定結果に一同固まる。
色々突っ込みどころはあるのだが、満場一致でこの刀は凜華が持つことに決まった。
実用的な面でも、この中の誰も剣の心得は無いし、それであれば『肉体強化』で部分的に強化できる凜華が妥当となったのだ。
こうして刀を腰に差した女子高生が誕生したわけだが、このダンジョンに吸血鬼はいない。
しかし、その恰好をとりあえず全員で評し始める。
「こうしてみると、様になっているでござるな」
「えへへ、マジぃ」
「うん、僕も良いと思うよ。何ていうか、香ば……カッコよくて」
「勇也きゅんに褒められちゃったぁ」
「この迷宮って吸血鬼いないんだよねぇ」
「うん、吸血鬼は魔族だから、分類的には人に近いらしいよ」
などと話していると、千佳が宝箱の中から何かを見つけた。
「何かな、これ? 手紙?」
手紙と聞いて、勇也がバっと振り返る。
こんな所に手紙を置いていくのが可能な人物など、一人しか思い当らない。
そして、勇也は千佳が差し出した手紙を震える手で受け取り、読み始めた。
『赤羽勇也様
拝啓
どうもお久しぶりです。邪神です。邪神じゃないけどね!
本当はダンディなお兄さんにプレゼントを用意したかったのですが、間に合いませんでした。なぜなら、あなたがこれを読んでいる頃、僕はきっと寝ているでしょうから。
あっはっはっはっはっは、大丈夫です。きっと次には間に合わせますので
敬具』
「こ、これが邪神ですかな? 何ともふざけた文章でござるが」
「ん? 勇也きゅん宛て? 苗字が赤羽だけど」
勇也もそのことに首を傾げていた。
赤羽というのは勇也の母親の旧姓である。考えられるのは、今頃日本では両親が離婚しており、行方不明となった勇也の親権を母親が持っているという事だ。
「多分、両親が離婚しちゃったんじゃないかな」
「「「……」」」
一同固まる中、千佳が何とか笑顔を取り繕った。
「そ、そうだ。勇也君、まだちゃんと自分の『鑑定』してないんじゃない? 今のうちにやっておきましょ」
広間内に大量の灯りを浮かべて濡れた服を乾かしつつ、各自作業に移ることになった。
千佳、卓が心結、琴音に術式魔法を教え、凜華は新しく手に入れた武器を試している。勇也は千佳に言われたとおり自分の『鑑定』を行うことにした。
≪名前≫永倉勇也
≪種族≫人族(変異種)
≪称号≫ゴブリンの友
≪年齢≫16
≪身長≫170cm
≪体重≫58kg
≪体力≫20
≪攻撃力≫17
≪耐久力≫19
≪敏捷≫16
≪知力≫12
≪魔力≫23
≪精神力≫18
≪愛≫240
≪忠誠≫0
≪精霊魔法≫火:94 水:6 風:85 土:15
≪スキル≫食用人間:捕食者の旨いと感じる味になり、肉体の再生に捕食者の寿命を使用できる。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
自己犠牲:自分が死ぬ時、仲間と認識した者の能力にブーストがかかる。
自動照準:照準能力に補正がかかる。
嫉妬:嫉妬の感情に反応し、敵と認識したもののステータスを自分と同じにし、スキルを封じる。
やはり『デッドヒート』の効果は高かったらしく、ステータスが大幅に伸びている。問題は、『ブーストヒート』と比べると、こちらの方が使用中の身体能力の伸びが低いことである。
『ブーストヒート』は使った後に、使ったのと同じ時間だけ体が全く動かなくなり、『デッドヒート』のように『アクアヒール』を使っても回復はしない。
使い勝手は『デッドヒート』の方が上であるようだが、いざとなったら『ブーストヒート』を使った方が良い場面もありそうだった。
勇也がそんな風に考察していると、あることに気付いた。
自分の名前がまだ「永倉」であることだ。
『鑑定』で見ると変わっていないだけなのか、それとも邪神の悪ふざけなのか、特に後者の方は有り得そうだったため、判断しづらかった。
勇也が自分の名前と睨みっこしていると、「出来た!」という声が広間内に木霊した。
心結が『鑑定』の習得に成功したらしい。
勇也がそちらに目を向けると、琴音と揃ってVサインをしてくる。琴音もどうやら習得したようである。
そこで全員一度集まり、夕食を取ることにした。
夕食を取りつつ今後の予定や、何か発見したことについてなど話し合う。
まず心結、琴音が『鑑定』を習得してわかったことであるが、琴音の『完全擬態』はやはり通常のスキルであったらしい。だが、心結の『毒手拳』は上級スキルだったようで、三つのスキルを内包しているようである。
心結によると、
毒生成:あらゆる毒を生成できる。
毒耐性:あらゆる毒に耐性を持つ。
部分金剛化:肉体を部分的に金剛化できる。
という、非常に優秀なスキルだった。
毒を持った敵にこれからどの程度遭遇するか不明であるが、もし遭遇すれば『毒耐性』のスキルは必ず有効になるだろう。
事実、巨大海月と戦闘になった時、勇也だけが毒を喰らい、心結は無事だったのだ。
色々と試したいことはあるが、雨が止むまでは待機するという事になった。
凜華が「試し斬りがしたい」と言い、一同ドン引きするという一幕もあったが。
とりあえず一行は、今日はゆっくり休み、新たな冒険に向けて英気を養うのだった。
この先にどんな運命が待ち受けているかも知らずに。
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アナは全速力で空を駆けていきます。
その少し後ろを、クロとクロの背に乗ったエミさんが続いていました。
何やらエミさんが「待ってぇ! 速いぃぃぃ!」と泣き叫んでいるような気がしましたが、きっと気のせいなのです。
光が見えてきました。
何やら周りも暑くなってきましたが、今はそんなことどうでもいいのです。
ユーヤ、ユーヤ、ユーヤ。
ごめんなさい。
アナのせいでいっぱい傷つけてしまいました。
すぐにアナが抱き締めてあげますからね。だからユーヤもアナを抱き締めてください。愚かなアナを許してください。
暗い三階層を抜けると、今までとは全く違う景色が広がっていました。
でも、今はそれも後回しです。
だってもう、すぐ目の前にユーヤがいるのですから。
「ユーヤぁ!」
ユーヤが振り返りました。
今までに見たことが無いぐらいボロボロと泣いています。
胸が痛い……!
アナのせいであんな表情をさせてしまったのですね。
「アナ……なの? ぐふぉっ!」
アナは速度を落とさずそのままユーヤにぶつかりました。
そして倒さないように勢いを殺しつつ、ユーヤを掴んで空中に飛び上がります。
ユーヤの顔は今アナの胸の中です。
男が泣いている時は、女が胸を貸さないといけないのです。
それにしても、漸くユーヤを抱き締めることが出来ました。ついさっき別れたばかりなのに、もうずいぶん長い間会っていなかったようです。
「ああ、ユーヤ」
「アナぁ、アナぁ、アナぁ」
ユーヤがアナの胸の中でわんわんと泣いています。アナも涙が出てきました。
「ごめんなさい、ユーヤ。アナはユーヤのモノです。二度とどこにも行ったりしませんから、許してください」
「アナぁ……」
ユーヤは答えられないみたいで、ずっとアナの名前を呼んでいます。
アナは自分の唇を噛みました。
なぜこんなに想ってくれるユーヤを、アナは裏切るような真似が出来たのでしょう。
もう二度とユーヤを苦しませたりしません。
そうなるぐらいならアナが死んでしまった方がましなのです。
しばらく泣くユーヤを抱き締めていると、だんだんと泣き止んできました。
アナはユーヤの顔を覗き込みます。
すると、ユーヤはキョトンとした表情でアナを見ました。
「本当にアナなの?」
ああ、愛しいユーヤ。うふふ、とっても可愛らしい。
「はい、ユーヤのアナなのです」
アナはユーヤの唇に自分の唇を重ねました。
アナはとても幸せです。
たとえ多く人に頼りにされていたり、囲まれていたりしなくとも、こんなに愛しい人がいるのですから。
ユーヤ、アナの愛しいユーヤ……。
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「……たん、アナベルたん」
「んん、ユーヤぁ?」
アナが目を開けると、そこにいたのはユーヤではなくエミさんでした。
そう、当然なのです。
ユーヤは今四階層のどこかにいて、アナたちは三階層の宝箱部屋にいるのですから。
それにしても、何か良い夢を見たような気がします。
内容は全く覚えていませんが。
「大丈夫?」
エミさんが心配そうにアナの顔を覗き込みます。
アナは笑顔を返しました。
「大丈夫なのです。ちょっと寝惚けていただけなのです。さ、気合を入れていきましょう」
「うん、そうだね」
今日はこのまま四階層に向かいます。
食料も十分に集め、スキルの確認も終わり、装備は少し心許ないですが、四階層に挑む準備は万端です。
さ、頑張って皆様を五階層まで送り届けましょう。
そうすれば、またユーヤと一緒になれるのですから。
待っていてくださいね、ユーヤ。
※菊一文字則宗は史実ではない可能性が高いそうですね。加州清光は使っていた(ぶっ壊した)記録があるそうです。ちなみに私の愛刀は関孫六ブレードです。キャベツと一緒に私の指をぶった切るほどの切れ味です。あ、深く切っただけですよ。
※次回は9/26(水)20:00に第四十四話を投稿します。
※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m