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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第四章 地獄の中で辿り着いた地獄
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第四十一話 危険な傘

※水曜に更新した四十話の後書きですが、思いっきり間違えてました。

 正しくは「9/16(土)20:00に第四十一話」ですね。

 今更言っても……。

 

≪名前≫なし

≪種族≫レックスドラゴン

≪称号≫暴君

≪年齢≫25

≪体長≫1458cm

≪体重≫7829kg

≪体力≫35

≪攻撃力≫43

≪耐久力≫39

≪敏捷≫23

≪知力≫9

≪魔力≫11

≪精神力≫6

≪忠誠≫0


『暴君』は不思議そうに辺りを見回していたが、やがて考えることをやめたらしく、川岸に落ちていたフライハンマーの死骸をバリバリと喰い始めた。


「さて、アレをどうやって狩るか……」


 勇也が呟いた途端、千佳、卓、心結が彼を取り押さえる。


「お願い、さすがにアレはやめて」

「そうですぞ。アレはさすがに無謀過ぎますぞ」

「永倉君は馬鹿なの? 死ぬの?」


 三人が必死に勇也を止めるのも無理はない。

 今まで戦ってきたどんな魔物よりも巨体で、グラコンダを超える耐久力に、クロを凌駕する攻撃力を誇っているのだ。

 恐らくはバジリスク級であろう怪物だった。


「勇也きゅんがどうしてもやるって言うならついてくけど、ウチもさすがにアレは無いかなって思うよ」

「……」


 どうやら他二人も同意見のようである。尤も、琴音は何も言っていないが。

 勇也はもう一度『暴君』を見る。

 恐竜図鑑で見たことのあるティラノサウルスによく似ている。というよりも、そのままだった。

 問題は倒せるかどうかだが、恐らくエカレスは通じない。

 だが、『プラネットフレア』であればいけそうな気はする。

 勇也は悩んだ。


 おそらく、勇也は自分一人なら戦いを挑んだだろう。

 だが、この場にアナベルがいれば逃げる道を選んでいたに違いない。

 大切な彼女に怪我を負わすわけにはいかないからだ。

 しかし、この場にいる者たちが全く大切ではないかと聞かれると……。


「わかったよ。とりあえず森の中に入って迂回して行こう」


 五人は安堵したのだが、


「あ、でも、チビ眼鏡さんの毒を喰ったら、やっぱり殺ろう」


 未練がましく、『暴君』の様子を観察し始めた。

 しかし、『暴君』は丸焼けになっている死骸にはそもそも興味が無いらしく、他にもあった丸焼けの死骸は全く無視している。


「食べなさそうでござるな」

「うん、だね。迂回して行こう」


 今度こそ五人は安堵したのだった。




 一行は『暴君』から離れるように木々の中に分け入って行き、かといって川から離れすぎないように距離を取ってから、再び進み始めた。

 どうやら『暴君』のせいで魔物が近くにいないらしく、密林の中は異様に静かである。

 魔物が現れないならそれに越したことは無いのだが、勇也だけは暇そうにしていた。「あの恐竜、殺りたかったな」と顔に書いているようだ。

 しかし、そんな勇也の手持ち無沙汰な感情は、思っていたのとは違う形で解消されることになった。


 ピチョンっ。


 何か濡れたような、と思い、勇也が頬に手をやると、確かに濡れている。

 こういう時上を見上げれば、獰猛な魔物が涎を垂らしているのがテンプレであるが、どうやら違ったらしい。


 ザーーーーーー。


 勇也が上を見上げた途端に、バケツをひっくり返したかのような豪雨が降ってきた。

 そう、ジャングルのテンプレと言えばスコールである。


「うわぁ、最悪」

「これじゃあ火魔法も意味ないね」


 勇也が女子たちの声に反応し、そちらを見た途端、


 ピカッ!


 勇也にだけ比喩的な意味の落雷が落ちた。

 初日も見た光景ではあるが、今日は火魔法で服を乾かしながら進んでいたため、見られなかった光景だ。

 それが二対目の前に広がっている。


「な、永倉君、そんなにじっと見られると恥ずかしいんだけど……」

「……私は良い」

「す、すみません」


 勇也は慌てて目を逸らす。

 そこにはさっきまでの獰猛な戦闘狂(バトルジャンキー)はいなかった。

 だが、ここに新たな戦闘狂(バトルジャンキー)が誕生することになる。


「ねぇ、藤堂さん、濡れちゃって大変みたいだから、私のマントを使って」

「え? でも、そしたら今野さんが濡れちゃうよ」

「いいから」

「でも、やっぱり悪いよ」

「いいって言ってるでしょ」


 千佳は遠慮する心結に構わず、マントを脱ぎ捨てて半ば無理矢理彼女に着せた。

 そして自分は一切の迷いも見せずに雨に打たれ始めた。

 濡れるのが不快だとかいった感情は欠片も見受けられない。そこに雨があるから打たれているの、とでも言わんばかりの大胆さである。

 やがてびしょ濡れになると、準備は整ったとでも言うように、勇也に近づいて行った。


「ねぇ、勇也君。私濡れちゃったな」


 さすがに、これには一同ドン引いた。

 勇也の陰でチラ見していた卓も「これはないでござる」と呟いているし、無理矢理マントを着せられた心結も頬を引き攣らせている。

 凜華も「千佳ちゃん、さすがにそれはないわ」と、呆れた表情を向けていた。

 だが、当の勇也にだけはちゃんと効果があったらしく、顔を真っ赤にして、かといって目を背けることもできずに千佳を凝視してしまっている。


「あの、その……」


 しどろもどろになりながら何とかする方法を探しているようだが、もちろんそんな方法はなかった。

 この後どうするんだという流れではあるが、千佳の一人勝ちの状態であることに違いはない。

 しかし、それに否を唱えるものが現れた。


「……私も、見て」


 この猛獣による狩りの中に、一人の暗殺者が参戦したのである。

 また突如として勇也のすぐ近くに姿を現した琴音が、千佳同様勇也に向かって迫って行く。


「え、いや、えっと」


 勇也はますます混乱に陥っており、もう今にも湯気が出そうだった。

 このままでは目を回し、倒れるだろう。


「お二人ともいい加減にしないと、勇也殿がパンクするでござるよ」


 卓が見かねて止めに入るのだが、二人が止まる気配はない。

 だが、ここで凜華があることに気付いた。


「あ、雨止んでるし」


 この四階層で一度降り出したスコールが簡単に止むことはあまりない。

 半日で止むこともあれば、一日以上降っていることもある。だが三十分も経たずに、というのは考えられない事だった。

 ふと勇也が思い出す。


『スコールが突然止んだら頭上に注意するのです』


 愛しいアナベルの言葉を、勇也が忘れるはずがなかった。


「全員木の根元に!」


 勇也が大声で指示を出す。

 すぐに全員その言葉に従い、木の根元に移動する。

 勇也のすぐ傍には千佳と琴音、少し離れたところに凜華、卓、心結がいた。

 非難が完了してしばらくすると、頭上からするすると黄色くて太いロープのようなものが垂れ下がってきた。

 それが木々の隙間をゆっくりと移動している。


「何、あれ?」


 千佳がロープのようなものを見つめてそう言うと、勇也が上を指差した。

 そこには、


≪名前≫なし

≪種族≫バルーンゼリー

≪年齢≫127

≪体長≫258cm

≪体重≫223kg

≪体力≫41

≪攻撃力≫15

≪耐久力≫21

≪敏捷≫5

≪知力≫―

≪魔力≫10

≪精神力≫―

≪忠誠≫0

≪スキル≫魔素浮遊:空気中の魔素を利用し、空中に浮くことが可能になる。

 生命力吸収(ライフドレイン):対象の体力と生気を吸収する。


 地球上の生物でいえば、海月である。

 これが見える範囲で計五体浮かんでいた。つまり、ロープに見えるものは触手だったのだ。

 一見すると体力がやたら高いのと、耐久力が高い以外にはそれほど特筆すべきことはなさそうであるのだが、問題はこの魔物の内蔵魔法にあった。

 海月が持っている物と言えば、毒だ。

 当然こいつらも相手を痺れさせる毒を持っているのである。


「どうするの?」


 戦うという選択肢もあるが、勇也はあまり気乗りしなかった。

 今ここで戦えば、少し離れたところにいる『暴君』を呼び寄せる羽目になるかもしれないし、できれば『プラネットフレア』の弾で一気に殲滅したいところだが、恐らく自分たちも巻き添えを喰らうし、食べられはするみたいだが、長い下処理が必要みたいだし、相手はただふわふわ浮かんでいるだけの海月だし……。

 かといって留まっていては、それこそ『暴君』がいつ帰って来るともわからない。それに触手の餌食にされるという事も有り得るのである。


「逃げよう」


 勇也は雨が降っている辺りを指差し、そこに向かって走って行くことを提案した。

 千佳と琴音が頷く。

 勇也が凜華達に視線を向けると、彼女たちも頷いて見せる。

 珍しく満場一致で意見がまとまったため、あとは実行あるのみだ。

 勇也が先頭に立って走り始めた。

 だが、どうやら海月の目が割と良かったらしく、走る勇也に向かってするすると触手が伸びてきた。


「このっ……!」


 ズガァァァンっ!


 触手が吹き飛ばされ、そこから火の手が上がるものの、どうもダメージを負っていないようにも見える。

 そうこうしている間にも、触手が次々と伸びてきた。


「はぁっ!」


 千佳が気功弾を飛ばし、凜華、卓、琴音が魔法で応戦する。

 心結も毒を飛ばして戦っているのだが、どうやらそれが一番効いているらしい。

 毒攻撃が飛んでくる度に、嫌がってそこから逃げているようであった。

 ニヤリと心結が笑って、「ポイズンショット!」の掛け声とともに、次々に毒を飛ばしていく。

 どうやら調子に乗ってしまったらしいのだが、彼女の快進撃はそう長く続かなかった。


「後ろ!」

「え?」


 勇也が心結に注意を飛ばすが、一歩遅く、背後から近づいてきた触手が彼女に絡みついた。


「きゃあ!」


 ズガァァァンっ!


 すぐさま勇也がエカレスで触手を断ち切り、切れた触手ごと彼女を捕まえるのだが、


「ぎっ!」


 痺れた。

 そして、そのまま地面にダイブしてしまった。


「な、永倉君どうしたの?」

「びびべば(痺れた)」


 なぜか直接絡まれた心結は無事である。


「勇也きゅん大丈夫!?」


 すぐに勇也が倒れたことに凜華が気付く。

 凜華は勇也の元まで走ってきて、自分の背に背負った。


「わぁ、沖田さん力持ち」

「うっさいし! 藤堂は自分で走れんなら、自分で走んな!」


 凜華は勇也を背負ったまま走って行き、心結も後に続いた。

 その間も迫りくる触手を魔法とスキルで撃退していく。

 ただの撤退は、いつの間にか撤退戦へと変わっているのだった。



※次回は通常通り9/20(水)20:00に第四十二話を投稿します。


※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m

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