第四十話 戦闘狂の本領発揮
ブクマ有難うございます。
※文章中に使っている映画の台詞ですが、多分著作権に触れるなぁ、という気がしてきたので、その内全 部変えていこうと思います。
私の作品が著作権に触れてても、何の問題もないとは思うのですが、新人賞に応募した時とかに審査対 象外になってしまうので、やはり変えたいです。
・・・夢ぐらい見たっていいじゃないっすか\(^o^)/
「火よ、我が血潮を燃やし力となれ【デッドヒート】」
心結が『デッドヒート』を唱える。
一夜明け、行軍を再開した一行は再び魔物と戦闘していた。
場所は勇也がアマゾン川と呼んだ、「フォールリバー」のすぐ近くである。
アナベルにはあまり近付き過ぎてはいけないと言われていたのだが、場所を確認している内にいつの間にかすぐ川岸まで来てしまっていたのだ。
その途端に、川の中から十数匹の魚が飛んできた。比喩ではなく、文字通り飛んでいるのである。
飛んで襲い掛かってきたのは牙の生えた魚で、顔はどう見てもピラニアであるのだが、体がなぜか細長かった。
その魔物を『鑑定』すると、以下の通りである。
≪名前≫なし
≪種族≫ピラディル
≪年齢≫7
≪体長≫29cm
≪体重≫521g
≪体力≫15
≪攻撃力≫16
≪耐久力≫9
≪敏捷≫14
≪知力≫3
≪魔力≫7
≪精神力≫8
≪忠誠≫10
≪スキル≫魔素浮遊:空気中の魔素を利用し、空中に浮くことが可能になる。
「気を付けて! こいつらたぶん肉を食いちぎって、体の中に侵入してくるとかだと思うから」
その名前と形状から何かを察したらしい凜華が注意を飛ばす。
「なんですと!? こわっ!」
最前衛の卓がビビるが、千佳もすでに前衛に上がってきていて、襲い来るピラディルを次々に殴り飛ばしているため、下がるわけにもいかない。
なかなかに速く、攻撃力もある相手ではあるが、千佳は『道士』の内包スキルである『硬気功』という体に気を集めて攻撃力と耐久力を上げる技があり、そのおかげで致命的なダメージを負うことはなさそうだった。
ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!
さらに勇也が後衛から援護射撃をする。
「「風よ、我が敵を切り裂け【エアスラッシュ】」」
凜華、琴音が後に続いた。
そして、心結はというと、
「きゃー! きもい! こっち来ないでぇ!」
戦わずに、逃げ回っていた。
「折角『デッドヒート』使ったのに、意味ないじゃないですか」
勇也が文句を言うが、心結は「そんなの知るか」と逃げ回る。
イラッとした勇也が、心結の首根っこを摑まえた。
そしてそのまま、心結を盾にするようにして、ピラディルに向かって歩いていく。
「いやー! 永倉君の鬼畜! 悪魔!」
「はいはい、いいから殴るなり蹴るなりして戦ってくださいね。死んじゃいますよ」
心結は「このままでは本当に死ぬ!」と必死に襲い来るピラディルを殴って迎撃し始めた。
だが心結の攻撃力では、ピラディルに碌なダメージを与えられない。怯ませるのが精一杯だ。
心結も勇也が守っているため、ダメージは無いのだが、これでは本来の目的である『デッドヒート』の実験ができなかった。
「毒で攻撃してみたらどうですか?」
「え? そっか、うん、やってみる」
痺れを切らした勇也が提案し、自身もエカレスを使ってピラディルを撃ち落としていく。
心結も勇也のアドバイス通り、毒手拳のスキルを使って襲い来るピラディルを殴って毒を与え、次々に倒していった。
「わー、これ凄いよ!」
簡単に死んでいく魔物を見た心結のテンションが上がった。
さらに毒を生成できるという事もわかったため、心結は毒を飛ばして近くに来る前のピラディルも倒し始めた。
「いっけー『ポイズンショット』!」
無論、技名はオリジナルであり、叫ぶ必要もない。
ただ、その威力は絶大で、心結の作った毒を直接呑み込んでしまったピラディルはあっという間に地面に墜落して行った。
「ちょっと、せめて麻痺とか眠りにできませんか? あれじゃあ、食べられないじゃないですか」
「そう言う永倉君もさっきから粉々に吹き飛ばしてるけど……」
「……それもそうですね」
そう言って勇也はエカレスをしまった。
もうすでに勝敗は決している。
千佳が最後の一匹を、ちょうど殴り飛ばしたところであった。
「あ、あれ?」
心結が急に動けなくなったように、勇也の手の中で力を失った。
随分長い間逃げ回り、戦っていたため、『デッドヒート』の効力が切れてしまったようだ。
「水よ、癒しをもたらせ【アクアヒール】」
そのまま勇也が魔法を掛けて、心結の体を治療した。
「どうです? 動けますか?」
「うん、大丈夫みたい。ありがとう、永倉君」
笑顔で振り返る心結に、勇也が赤くした顔を背けた。
「別に、どうってことありません」
気を取り直して、勇也は『鑑定』を使って心結のステータスを確認する。
≪名前≫藤堂心結
≪種族≫人族
≪年齢≫15
≪身長≫148cm
≪体重≫41kg
≪体力≫9
≪攻撃力≫6
≪耐久力≫6
≪敏捷≫8
≪知力≫8
≪魔力≫20
≪精神力≫9
≪愛≫210 ※二次元は除く
≪忠誠≫50
≪精霊魔法≫火:53 水:47 風:42 土:58
≪スキル≫毒手拳:毒属性の攻撃が行える。
ステータスが軒並み上がっている。
やはり凜華の言っていることは正解だったようで、このやり方であれば効率的に鍛えることができそうだった。
実際にこの方法は冒険者や王国軍なども使っている方法だ。
アナベルがこの方法を知らなかったのは、彼女が肉弾戦を必要としない魔術師であり、その師匠であるイザベラもまた魔術師だったからである。
勇也は上機嫌で倒した魔物の回収を行った。
鍛えるのに良い方法を知ったというのもあるが、このピラディル、食べられるか鑑定してみると、
≪食用≫可:良質なたんぱく質で、美味。
と出てきたからだ。
グラコンダ以上の期待が高まった。
「勇也きゅん、いつもより大人しくね?」
「そうでござるな。いつもなら嬉々として突貫していくような気が……」
「いや、だって、今回は千佳に戦闘を任せたわけだし、だいたい魚でしょ? 戦うというよりはなんか漁でもしてたみたいな……」
要するに、燃焼不良であった。
ステータスでいえば低くない相手であるが、ただ突進してくるだけの戦い方に、今回の自分の役回りも相まって、勇也にとっては相手不足だったのである。
「ハハハ、勇也殿はもっと強い相手でないと、燃えないという事でござるな」
しかし、それを思っても口に出すのは良くない。
なぜなら、人、それをフラグというからだ。
そして卓のその言葉を待っていましたとばかりに、異変が起きる。
太陽もないのに、なぜか勇也たちの頭上を影が差した。
「っ!!」
全員何事かと頭上を見上げると、そこには頭の平たい鮫がいる。
一匹や二匹ではなく、何匹も。
水族館に行ったのが、もう何年も前である勇也はわからなかったが、千佳や凜華はそれが何なのかすぐに分かった。
日本ではシュモクザメ、ハンマーヘッドシャークと呼ばれている、体長が六メートルほどにもなる鮫である。
それが空中を計七匹泳いでいるのだ。
しかも『鑑定』してみると、こいつらがかなり厄介な相手だという事がわかる。
≪名前≫なし
≪種族≫フライハンマー
≪年齢≫19
≪体長≫583cm
≪体重≫517kg
≪体力≫22
≪攻撃力≫20
≪耐久力≫10
≪敏捷≫20
≪知力≫5
≪魔力≫10
≪精神力≫7
≪忠誠≫10
≪スキル≫魔素浮遊:空気中の魔素を利用し、空中に浮くことが可能になる。
三階層にもこれぐらいのステータスを持った魔物はいたし、グラコンダはこの種より強い。
しかし、それは一対一の話であり、勇也が勝ってきたのもそれが原因だったからだろう。
だが、今度の相手は群れであり、七匹と六人という数でも負けている。
「門田君が変なフラグ立てるから……」
「お、俺のせいでござるか……?」
心結が半泣きで、卓を責めた。
「鮫って、密林関係ないじゃん……」
凜華が文句を言うが、もちろんそんなことは魔物の知ったことではなく、フライハンマーの群は虎視眈々と獲物、つまり勇也たちを狙っているようだ。
「とりあえずここは引きましょう。多分、ピラディルの血の臭いに釣られて寄ってきたんだろうし。井上さんは逃げるのにも、反撃するのにも、とりあえず身を隠して、門田君は殿をお願いね」
「……了解」
「お、俺が殿でござるか……」
千佳が撤退案を出しつつ、全員少しずつ川岸から離れようとしているのだが、凜華がそれに待ったをかける。
「多分、無理くね」
「だ、大丈夫よ。また林の中に入っちゃえば向こうだって追ってこないでしょ」
「じゃなくてさ」
凜華がすっと指を指す。
そこにはエカレスを構え、何やら首を鳴らしている勇也がいた。
勇也から漏れ出す熱気が物語っている。「殺ってやる」と。
勇也が後退りして逃げようとしていた一堂に振り返る。
「あ、じゃあ、次は僕の番ね」
「ま、待って、勇也君。さすがにここは逃げま……」
「火よ、我が血潮を燃やし力となれ【デッドヒート】」
勇也が七匹目掛けて駆け出した。
「ほら、ウチらの戦闘狂がやるって言ってるんだから、行くしかないって」
「わかったわ。行きましょう」
「……やれやれでござる」
「えぇ!? さすがにアレは無理だよ……」
「……カッコいい」
残りの五人も勇也に続く。
勇也と心中する覚悟すら決まっている千佳、凜華は迷うことなく飛び出し、卓は若干嫌々ながら、心結はもう本当に逃げ出したい気持ちでついて行った。琴音は姿を消しているのでどんな様子なのかわからないが。
先頭を突っ走っていた勇也はエカレスを群れに向かって放ちながら、『エアジェット』を使って飛び上がっていく。
フライヘッドたちは勇也に襲い掛かって来るが、『デッドヒート』で底上げしたステータスで、ギリギリ自分目掛けて振られるトンカチ頭を避けた。
そして、勇也は一番近くにいた一匹に背後からしがみつく。
しがみつかれたフライヘッドは何とか引き離そうと暴れるのだが、勇也も負けじと離さない。それどころかますます力を入れて締め上げて行った。
たまたま運が良かったのであろう。勇也の締め上げていた場所は、この種の弱点であるエラの上だったのだ。
通常の魚であれば、そこから水中の空気を取り込むのだが、この種はそこから魔素を吸って生きている。
つまりそこを絞められれば、呼吸困難に陥り、やがて死に至るのである。
力の限り締め上げている内に、意識を失ったフライヘッドが落下していく。
だが勇也は、意識を奪ったばかりでは物足りなかったらしく、空いている左手でフライヘッドの頭を殴った。
一、二、三、四、五、六、七、八、九……何度も、何度も、何度でも殴り続けている。
しかし、フライヘッドの残りの群が、仲間ごと勇也を食べることにしたのか、一斉に落ちている個体に向かって殺到し始めた。
勇也もそれに気付き、さすがにまずいと思うのだが、
「はぁっ!」
「風よ、我が敵を切り裂け【エアスラッシュ】」
千佳の放った気功弾や凜華の放った魔法が、他の群を引き離していく。
ズズンっ。
そしてそのまま、フライヘッドが勇也ごと地面に落下した。
「勇也君!」
「勇也きゅん!」
ズガァァァンっ!
しかし、心配は無用だったようだ。
勇也の放った弾丸が、空を泳いでいた群れの一匹の頭を穿ち、炎に包んだ。
さらに、
「クフフ、アハハハハハ!」
勇也が壊れたように嗤い始めた。
ちなみにこの現象、凜華以外は初体験である。
「な、何でござるか? 何で勇也殿は笑っているでござるか?」
追いついてきた卓と、心結がもうもうと煙が立ち込めている辺りを唖然として眺める。
「アナベルさんがいなくなっちゃったショックかしら?」
千佳も心配そうに様子を窺う。
この湿度のためすぐに砂埃が晴れ、勇也の姿を五人が確認できるようになった。
勇也は、どうやら息絶えているらしいフライヘッドの横に大の字になって寝そべっており、右手のエカレスだけを油断なく群れに向けている。
さらに表情が、アナの言う大人しそうな表情とは大きく違っていた。
口の端が吊り上り、目が爛々と輝いているのだ。
「どうした!? お仕舞いか!?」
しかも、大声で魔物の群を挑発し始めた。
「あ、うん、大丈夫。平常運転だから」
「「「あれで!?」」」
「……カッコいい」
一同が驚く中、どこかからかうっとりとした声が聞こえてきたのは置いておいて、凜華が表情を引き締めた。
「ま、ともかく、今は戦うしかないっしょ。ほら、こっちにも来るよ」
「何とか一撃は耐えて見せるので、ダメージを反射した隙に倒してほしいでござる」
「わかった、私がやるわ」
「ウチも全力で行くよ。ぐぅるぅあああ!」
残った五匹を分散して迎え撃つことになった。
各個撃破、ではなく、乱戦である。
三匹が卓たちに向かってくる。
しかし突如として、一番背後にいた一匹がその身に何発も『エアスラッシュ』を喰らって切り刻まれた。
「……やった」
姿を消していた琴音が姿を現す。
さらに、一匹に向かって凜華が飛び出していった。
『獣化』を使っている凜華は、この魔物よりも素早く動き、引き裂くことも容易いらしい。
あっという間に背に飛び乗ると、爪を突き立て、牙を喰い込ませて地上に叩き落としていった。
残りの一匹が卓に向かって突進してくる。
卓は両手に盾を構えて、受け止める姿勢だ。
どごんっ!
卓の持つ盾にフライハンマーが衝突した。
「ぬぅおおおおお!」
卓が気合でそれを押さえる。
そして、その衝突の何割かがぶつかって行ったフライハンマーに返され、フライハンマーがその衝撃でふらついた。
「はぁぁぁぁぁっ!」
千佳がその隙を見逃さず、『硬気功』で固めた拳で殴り、確実にダメージを与えて行く。
すぐさま前衛と後衛を交代した卓が、魔法で援護に入って行った。
後は残った二匹であるが、その二匹は勇也と相対している。
そして、勇也は押され気味であった。
二匹が勇也を挟み撃ちにするように、旋回し、素早く動き回って狙いを定めさせないのだ。
「くふふ、そっちがその気なら、また飛び乗って殴り殺すまでだ」
勇也は不気味に微笑むと、また一匹に向かって飛んで行った。
だが、ある程度読まれていたのか、背を向けられたもう一匹の方が、一気に空中の勇也に向かって距離を詰めていく。
――しまった!
勇也がそう思った時には既遅く、フライハンマーが右手に噛り付き、地面に叩きつけんとしてきた。
右手がフライハンマーの口に丸々と噛り付かれている。
そう、エカレスを手に持った方の右手が。
ズガァァァンっ!
地面に叩きつけられると同時に、フライハンマーの頭が吹き飛び、炎に包まれた。
ピンチを脱したのは良いが、このままだと勇也も一緒に焼け死ぬ。
勇也は右手の痛みを感じる間もなく、慌ててその場をゴロゴロと転げ回り、距離を取った。
だが、その隙は見逃されなかった。
勇也が転がった先に、最後の一匹であるフライハンマーが躍りかかってきたのだ。勇也の頭に噛り付こうとしているらしく、勇也の目前に大きな咢と牙が迫る。
勇也はフライハンマーの頭を押さえて何とか凌ごうとしているのだが、体格が違い過ぎた。今は強化した腕力で抑えていられるが、効果が切れればあっという間に餌となるだろう。
(まぁ、いいか。それでも)
心のどこかでそんな投げやりなことを考えていると、
「ポイズンフィスト!」
フライハンマーのエラに、心結の『毒手拳』が突き立てられた。
途端にフライハンマーが身を捩って苦しみだす。
「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」
ズガァァァンっ!
「アーメン」
勇也は全力でフライハンマーの体を蹴り上げ、何とか燃え上がり始めたその巨体の下から抜け出した。
と、同時に『デッドヒート』の効果が切れ、再び仰向けになって倒れ込んだのだった。
その勇也を上から心結が見下ろしてきた。
「大丈夫?」
「ええ、何とか。やっぱり筋肉痛ですね。これは」
「動けないの?」
「はい、全然」
「もう、しょうがないなぁ」
そんなやり取りの後、心結は渋々と言った様子で、しかしどこか満更でもなさそうに、勇也に『アクアヒール』を掛けて行く。
次第に動けるようになった勇也は、立ち上がって何となく心結の頭を撫でてしまった。ちょうど同じような高さにあった頭を、撫でていた時の癖である。
「あ、すいません。つい」
「う、ううん。別に気にしなくていいから」
心結が顔を赤くしてもじもじと体をくねらせる。
しかし、
「……抜け駆け?」
「キャアっ!」
さっきまで誰もいなかったはずの空間から、琴音が姿を現した。
さらにフライハンマーに止めを刺した残りの三人も近付いて来る。
「あっれぇ? おかしいなぁ。藤堂さんは勇也君のこと、狙ってなかったんじゃなかったっけ?」
「あ~、ウチが勇也きゅんに回復魔法掛けてあげたかったのに」
「はっはっはっ、修羅場ですぞ」
琴音が必死に「違うの! たまたまだから!」と言い訳をしている中、勇也は戦闘後の虚脱感を味わっていた。自分の中の熱が抜けていく。例えるならそんな感じだろうか。
つまり、勇也はその時冷静だった。
そして、それが功を奏したのだった。
――揺れている?
「全員森の中に隠れて!」
勇也の常ならぬ声音に、全員がはっと息を呑み、慌てて勇也の指示に従う。
それぞれが気の陰に隠れて、様子を窺っていると、
――GYAAAAOOOOO!
この密林の『暴君』が姿を現したのだった。
※次回9/13(水)20:00に第四十話を投稿します。
※来週はもしかしたら週一になるかもしれません。
※感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m
※千佳が魔法使えないという設定を忘れてた件……。書き直しますた。