第三十九話 アナベルとチートスキル
ブクマ有難うございます。
今回はアナベル視点です。
「ユーヤぁ、ユーヤぁ、ユーヤぁ、ユーヤぁ、ユーヤぁ……」
アナは滂沱の涙を流しつつ、ユーヤの背を見送ります。
今のアナにできることは、それしかないのです。
アナだって本当は走って勇也を追い掛けたい。でも、皆さんを見捨てることなんて、アナには出来ません。
でも、でも、でも、行かないでください、ユーヤ。アナの傍にいてください。
「あーあ、永倉の奴最低だな」
「こんな可愛い彼女を見捨てるなんてね」
「俺なら絶対離したりしないぜ」
違うのです。ユーヤは悪くありません。
ユーヤ一人を選べなかったアナが悪いのです。
きっとユーヤの目には、アナがユーヤを見捨てたように映っているでしょう。
でも、それでも、アナはユーヤを愛しているのです。
「あなたたちいい加減にしなさい。元はと言えば、あなたたちが永倉君に酷い事を言ったのが原因でしょ。永倉君も勝手だとは思うけど、あなたたちも反省しなさい」
「す、すいません、先生……」
「謝るなら、アナベルちゃんに謝りなさい。あと、あなたもいつまで石になってるの? 大石君」
「……」
「駄目よ、先生。こいつ当分使い物になんないわ。ま、元から大して使えなかったけど」
アナが泣いていると、アナの周りに何人か集まってきました。
「ごめんね、アナベルちゃん」
アナは首を振って応えます。
悪いのはすべてアナなのですから。
「あ、アナベルちゃん、大丈夫だよ。永倉君って、なんだかんだ言って、ステータスは私たちのクラスで一番高いんだよ。それに、沖田さんだっているんだから」
今まで一緒に三階層を冒険してきたエミさんがアナを慰めてくれます。
「ちょ、ちょっと待て、それは本当か? 永倉はそんなに強いのか?」
エミさんの言葉に、なぜかオカダシュウイチ様が食いついて来ました。
エミさんはなぜか緊張して、オカダシュウイチ様を見ています。
「う、うん、スキルなしだと一番強いと思うよ。あ、でも、どうだろう。岡田君と大して変わらないかもしれない」
「お、俺が一番強いと思っていた……」
オカダシュウイチ様がしばらく俯いていた後、すっと顔を上げ、アナを見つめてきました。
「あ、アナベルちゃん、永倉がいなくなってしまったのは、君にとって辛いことだと思う。俺にもなんとなくだがわかる。だから、こんなことを早く終わらせるためにも、力を貸してくれないだろうか。きっとここから出られたら、永倉とだってずっと一緒にいられるさ」
「……アナはここから出られないのです」
「ん? どういうことだ?」
「アナベルちゃんはここで生まれた魔物だから、ここから出られないんだって。出るには確か、ドラゴンボ……願い玉とかいう、何でも願いが叶う玉が必要なんだってさ」
「本当にファンタジーなんだな……。いや、いい。俺もだいぶ慣れた。
それにしても、アナベルちゃんは魔物なのか。とてもそうは見え……なくはないな」
アナは歯を食いしばります。
もしかしたら、ユーヤはアナが魔物だから、一緒にいるのが嫌になってしまったのかもしれない。そう思ってしまいました。
でも、そんなことあるわけないのです。
ユーヤは魔物であるアナを、あんなに求めてくれたのですから。
やっぱり悪いのはアナなのです。
「す、すまない。傷つけるつもりはなかったんだ。許してくれ」
「うわ、岡田が女の子泣かせてるぜ」
ヒジカタヒロト様が笑いながら近づいてきました。
さらにコンドウサクラ様、サイトウユキナ様、ヤマナミメイ様もやって来ます。
「大丈夫だって。永倉強かったじゃないか。それに沖田もさ」
「もう、そういうことじゃないでしょ。乙女心がわからないんだから」
ヒジカタヒロト様とヤマナミメイ様が何やら言い合いをしていると、先生がアナの方に来て、優しく微笑んできました。
「でも、岡田君の言うことももっともよ。永倉君がアナベルちゃんとこのダンジョンに残る道を選ぶにしたって、五階層には行かなくちゃいけないんだから。先生たちは、そうね。あの悪い貴族をやっつけて、人質にでもして王様とかと直接交渉するしかないかしらね」
「そうだよ、アナベルちゃん。そのためにもあなたの助けが必要なんだから」
さらにカホさんがアナの頭を撫でてきます。
やはり皆様優しいのです。
アナにはこの方たちを置いて行くことなんてできません。
「そうだよ、アナベルちゃん。これから宜しくね」
「そうそう、いっそのこと永倉なんか忘れて、俺の恋人になるっていう手もあるぜ」
「いや、お前は無理だろ」
ついには皆様がアナを取り囲んで、アナに声を掛けて来てくれました。
アナは涙をぬぐい、頷きます。
アナが皆様を助けなくてはいけないのです。いつまでもくよくよはしていられません。
それに、皆様を助けることが、きっとユーヤのためにもなるのです。
「わかりました。アナは精一杯皆様を助けるのです」
「おお、ありがとう!」
「頼りにしてるよ」
「アナベルちゃん、よろしく!」
「アナベルちゃん」
皆様がアナを歓迎してくれます。
ああ、何度アナが夢見てきた光景でしょう。
ここにユーヤがいてくれたら、もっと幸せだったのに。
でも、大丈夫です。アナは必ずユーヤを取り戻して見せます。委員長さんなんかにあげないのです。
皆様がここから出て行ってしまわれても、ユーヤは必ずアナの傍にいてくれます。
そうなってしまったら、少し悲しいですが、ユーヤが傍にいてさえくれたらアナはそれで構いません。
「ところでさ、なんか食べる物ないかな? 俺たちもう腹ペコで。食料ももう残ってないし」
アナが決意を新たにしていると、キヨオカソウスケ様がお腹を押さえて聞いてきました。
「それなら、さっきリンカが倒したグラコンダを回収しましょう。結構美味なのですよ」
「え? あれ食えるのか?」
キヨオカソウスケ様が引き攣った表情を見せます。
きっとそういうものなのでしょう。先生たちも初めは食べることを躊躇していました。
ん? でも、ユーヤは平気そうに食べてましたね……。
「だから言ったろ。きっと魔物を食うしかないんだって」
「ですが、食べられない魔物もいるので、注意は必要なのです」
ヒジカタヒロト様がキヨオカソウスケ様に呆れた表情を向けますが、アナが指摘すると、そっくりそのままの表情をキヨオカソウスケ様がヒジカタヒロト様に向けました。
「アナベルちゃん、そしたら、皆連れて行ってくれる?ついでにスキルの確認もしておきましょう」
「わかりました。ですが、あのお二人はどうしますか?」
アナの指差した先には、茫然としているリョウさんとタナカナイト様がいらっしゃいます。
リョウさんは委員長が好きだったのでしょう。そして、確かタナカナイト様はリンカの元恋人だったと聞いております。
「あの二人は放っておいていいわ。スキルも把握しているしね」
「そして二人とも大して役に立たないし」
「もう、島村さん。余計なこと言わないの」
とりあえずアナは先生に頷き、言われたとおり、残りの皆様を外に連れ出しました。あ、カホさんと先生はこの部屋に残るみたいです。
そして、スキルの確認を行っていったのですが、結果はアナの想像を超えるものでした。
まずはオカダシュウイチ様の『光刃の剣士』ですが、剣を振るうと斬撃が光って飛んでいき、硬いグラコンダの体を真っ二つに斬ってしまったのです。
威力としては中級、いえ、威力だけなら上級ぐらいあるかもしれません。しかもそれを詠唱無しの魔力消費1で撃ててしまうのです。正しく物語に出てくる、勇者様のような存在です。
次はヒジカタヒロト様の『竜の息吹』ですが、これはその名の通り、ドラゴンが放つブレスだと思うのです。
嫌な予感がしたので、何もない方向に向かって撃ってもらいました。
ヒジカタヒロト様が息を吸い込み、思いっきり吐くと、口の前に見たことのない複雑な魔法陣が発生して、そこからブレスが発射されました。
ドラゴンのブレスは、ドラゴンにとって最大最強の技なのです。魔物の種族ではトップに立つドラゴンの、です。
キンっという耳をつんざくような音が聞こえ、次には遥か先から聞こえてくる大爆発、そして射線上の地面が抉れていました。
間違いなく災害級の威力なのです。
「……土方、お前のスキルはよっぽどのことが無い限り、使用禁止な」
「お、おう」
オカダシュウイチ様が真顔で言い放ちます。アナも同意見なのです。
その次はキヨオカソウスケ様の『蛙飛び』です。
キヨオカソウスケ様が跳躍すると、天井までは届かなかったものの、だいぶ高い所まで飛んでいきました。十四、五メートルは飛んだでしょうか。そして、泣きながら落ちてきました。
着地もスキルの能力に含まれるようで、無事に着地したものの、腰が抜けているようで立てません。ただ、全く怪我はしていないようでした。
その様子を見て、ヒライユズキ様とマサキケイ様が大笑いしています。
「わ、笑うんじゃねぇよ! まさかあんな飛ぶとは俺だって思ってなかったんだからよ!」
今はちょっとみっともないですが、慣れればきっと戦力になるでしょう。
中級魔法の『ウォーターキャノン』を消費魔力2で撃てるというのも、効率が高く、実用的なのです。
次にコンドウサクラ様の『黒き棺の呼び手』を試すことになりました。
「つ、ついに荷電粒子砲をお目に掛かれるのですな」
イトウソウマ様が緊張した面持ちで、成り行きを見守っています。
アナには荷電粒子砲が何のことかさっぱりわかりません。
他の方たちも同じようで、首を傾げています。
撃つ本人のコンドウサクラ様は理解しているのか、少し緊張しているようです。
「じゃあ、撃つね。危ないかもしれないからみんな私の近くにいて」
言われたとおり、コンドウサクラ様の周りに皆さまが集まります。
コンドウサクラ様が集中すると、三十メートルほど先の空中に、直径五メートルほどの魔法陣が現れ、赤い光の柱が降ってきました。
アナが良く使う『紅蓮の柱』に似てはいますが、あのような派手さは無く、ブォォォォォンという聞いたことのないような音を立てています。熱がここまで伝わってくるという事もありません。
やがて光が消えると、赤い光が当たっていた場所から湯気が昇ってきました。地面は真っ黒になっています。
「さ、さて、どうなったか……」
イトウソウマ様がその場所に近づいて行きます。しかし、
「熱っ!」
すぐに戻って来てしまわれました。
「そんなに熱いのか?」
オカダシュウイチ様も近づいて行きますが、五メートルぐらい手前で止まってしまわれました。
「駄目だ。これ以上は近づけない」
オカダシュウイチ様は火魔法を穴の上に飛ばして、どうなったかを確認します。
「……近藤、お前もそのスキルは滅多なことでは使うな」
アナ含め皆様で近付けるギリギリまで行ってみると、そこには円状にぽっかりと空いた深い穴がありました。
「わ、わかったわ」
間違いなくこの中で最強の威力を誇っているのです。
これは驚愕すべきことですが、もしかしたら威力だけなら災害級を超えているかもしれません。
しかも目標を指定できるので、使い勝手は良さそうです。
しかし、この威力ではおそらく、対象を溶かしてしまいそうなので、狩には向かなそうです。
「ぬう、順番がおかしいですな。この後に自分の番かと思うと……」
そう、最後はイトウソウマ様の番なのです。
後の方たちは試すことができなさそうなスキルだったので、今回はこの五人を見せてもらうことにしたのです。
「よし、では……『イマジンクリエイト』!」
なぜ叫んだのでしょう? 声に出す必要はないと思うのですが。ん? でも、ユーヤも確か同じようなことをしていた気が……。
イトウソウマ様の前には、緑色の太くて長い筒のようなものが現れました。
イトウソウマ様がそれを担ぎます。
「ロケットランチャーか」
「まぁ、とりあえずは、ですな」
「よし、行きます! ファイアっ!」
バシュっ!
ヒューーー、ズドォォォォォンっ!!
「おう、まぁまぁですな」
それでもかなりの威力だとは思うのですが。
この中では低いというだけで、中級魔法と同等以上の威力があります。
撃ち終わると、「ロケットランチャー」というものは消えてしまいました。
これで今試せる方は全員試したわけですが、これだけの威力があれば、魔物の群の一つや二つ、簡単に駆逐できるのです。
これは想像以上の収穫となりました。
待っていてくださいね、ユーヤ。
これだけの力を持った方々が揃っていれば、五階層制覇は遠くないのです。
これで今回の確認は終えて、細切れにしたグラコンダの肉を持って帰ることになりました。
クロを連れて来なかったのは失敗だったのです。
クロなら何の苦労もなく、これぐらいの肉は運んでしまうのです。
ですが、十人もいれば何とかなるでしょう。
アナたちは肉を運びながら、また宝箱部屋に戻りました。
そこで肉切れをクロに渡すことにしました。
クロにはこれからもお世話になりますからね。
しかし、アナが目の前に行くと、クロは冷たい目で睨んできました。
肉を渡そうとしても、そのままプイッとそっぽを向き、皆様がいるのとは反対の方向に歩いて行ってしまいます。
クロはどうやら、アナがユーヤについて行かなかったことを怒っているようでした。
そう……ですよね。
クロだって、本当はユーヤと一緒が良かったでしょうし……。
「アナベルちゃん、どうだった?」
先生が笑顔で声を掛けて来てくれました。
アナも気持ちを切り替えて、先生に微笑みを返します。
「皆様、とても優秀でしたよ。これなら五階層制覇も問題ないと思うのです」
「そう、それは良かったわ。他の子たちのスキルの確認もそのうち出来たらいいわね」
先生はそこまで言うと、サイトウユキナ様を呼び止めました。
「斎藤さん、あなたの能力なんだけど、考えて使わないと駄目よ」
「はい、花ちゃん先生。私、可愛い魔物を捕まえてきます」
「もう、それじゃあ意味ないでしょ。とりあえず先生と相談しましょうね」
「えぇ~、しょうがないですね。わかりました」
先生はサイトウユキナ様に微笑みます。
しかし、アナはその言葉に別の意味があることなんて、気付かなかったのでした。
※さて、今更ですがスキル名にいくつか使っている元ネタには気付いていただけたでしょうか?
※次回9/13(水)20:00に第四十話を投稿します。
感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m