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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第四章 地獄の中で辿り着いた地獄
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第三十八話 満天の星空と新たな仲間たち


「そう言えば永倉君って、いっつも一人でいたからわかんなかったけど、読書以外に趣味とかってないの? 例えばラノベとか、ゲームとか、アニメとか」


 一行は枝の上で未だに体を休めていた。

 凜華や心結、琴音が空腹だったこともあり、グラコンダの干し肉を取り出し、火魔法で服を乾かしつつ、そのまま夕食を取ることにしたのである。

 そんな中、心結が唐突に、勇也に声を掛けてきたのだ。


 勇也は「ラノベは読書では?」と、首を傾げつつも口を開いた。


「はぁ、ゲームもアニメも、まぁ多少は。そこまで詳しくはないですけど。あとは我流ですけど、ボクシングとサブミッションもやったりしますかね。多分こっちの方が時間は掛けてると思いますけど」

「へぇ、勇也きゅんって、オタクだったんだねぇ」

「まぁ、そう言われるとそうかもね」

「何を言っているのでござるか? その程度でオタクなわけないではござらんか。どこの世界にサブカルチャーよりスポーツに時間を掛けるオタクがいるのでござるか」

「まぁ、うん、そう言われるとそうかもね」

「オタクっしょ」

「非オタでござる」


 勇也は「なんかの漫画で同じ状況を見たことがあるな。これが前門の虎、後門の狼というやつか」などと遠い目で考えていると、千佳がさらに話し掛けてきた。


「で、でも、勇也君の一番の趣味って読書でしょ? ラノベ以外にも読むんだよね?」

「うん、キングとか、ハルキとか、夏と死体の作者とか、マルドゥックの作者とか、S&Mの作者とか」

「あ、私、ハルキは呼んだことあるよ。えっと、羊を巡る……」

「ああ、それだったら、その続編もお勧めだよ。何だったら僕はあれが一番好きかも……」


 勇也は話している途中で首を傾げた。

 そもそも何でこんな話をしているんだったかと……。

 そう言えば話を振ったのが心結だったことを思い出し、勇也は彼女を見た。不安そうな彼女の視線とぶつかる。

 心結はこのメンバーに入って、自分たちが足を引っ張っていることに負い目を感じていたのだ。しかも、このメンバーは勇也が認めているという事もあり、妙な連帯感がある。

 もしこの場に、二人とも親しい山崎笑美がいれば、少しは違ったのかもしれないが、彼女はアナベルが残ると言った時に、一緒に残る道を選んでいた。

 このメンバーに何の繋がりも持たず、新しく入った心結や琴音が疎外感を抱くのも当然だったのだ。


 こういう時、委員長だったかつての千佳であれば、二人の不安に気付いてあげられたのかもしれないが、残念ながら今勇也の隣にいるのはただの肉食獣である。

 勇也は視線を卓に向けた。お前、何とかしろ、というサインだ。

 果たして卓は気付いた。勇也にバチコンっとウインクを返し、おもむろに語りだしたのだった。


「実は俺も昔は苛められていたのでござるよ。勇也殿の言うように、ピザでござるからな」


 何を唐突に語り出すんだ、こいつは? という訝しげな表情が卓に集中する。

 卓に放り投げた張本人である勇也も、同じく眉根を寄せている。

 勇也は、ちゃんと通じたのかな、という不安が出ていた。


「しかし次第に俺の周りにも、俺と同じような趣味を持つ同類が集まりだして、苛められるということは無くなったのでござるよ。俺たちを馬鹿にするような人間はいくらでもいたでござるが」

「うん、私もわかるよ。オタク、キモいっていう人、けっこういるもんね」

「……」


 心結が卓の言葉に同意し、琴音も無言ではあるが、同意しているようである。


「あー、ウチらのグループも、ウチとりっくん以外はそんな感じだったかも」

「私たちの間では、あんまりそんな話しなかったかな。咲良とかはゲームぐらいやってたみたいだし」


 友達のいなかった勇也には関係のない話だった。

 なぜなら彼は、そもそもオタクとして認知されていなかったのだ。彼はクラスの中では最底辺の苛められっ子にしかすぎなかった。

 そんな彼に、誰も興味を示さなかったのである。千佳を除いて、ではあるが。


「そんな中、高校に入り、俺の周りにはまた同類が集まってきたのでござる。いや、もうすでに伊東殿以外は……。おほん、申し訳ない。話を戻しますぞ。俺たちのクラスで、俺たちが馬鹿にされることはあまりなかったのでござる。なぜなら、その、勇也殿がいたからでござる」


 卓が少し不安そうに勇也を見やるが、勇也は特に気にしていなかった。

 卓は怒らせていないことに胸を撫で下ろし、話を続けた。


「勇也殿が苛められている限り、俺たちが標的にされることは無かったのでござる。それに勇也殿は苛められているのを気にしていないのか、不登校にもならず、友達を作ろうとすらしなかったでござるからな。

 正直、内心俺はそんな勇也殿を馬鹿にしていたでござる」

「ほう……」


 さすがにそれは駄目だった。

 勇也の手がエカレスに伸び、卓をハイライトのない笑顔で見つめる。


「わー! 怒らないでほしいのでござる。それは昔の話で、今は尊敬すらしているのですぞっ!」


 勇也は一つ舌打ちをすると、腕を組んで卓を半目で睨んだ。


「勇也殿はこうして複数の女子に言い寄られても、ずっとアナベルたん一筋でござった。きっと俺だったら、舞い上がってハーレムを築こうとか思ってしまっていたでござる。勇也殿のその自分を貫ける姿勢に、俺は心を打たれのですぞ」

「僕はただ、アナのことを愛してるだけだよ。それにちょっと勘違いしてるみたいだけど、苛められていたことを本当に何も感じてないわけじゃないんだ。この世界でだったら、復讐してやりたいとすら思ってるよ」

「そうだよね、勇也君は辛い思いしてたもんね。あんな人たち、恨まれて当然だよ」


 千佳が勇也の言葉に追従した。

 しかし、結局卓は何が言いたかったのだろう、やっぱり伝わってなかったのか、と勇也が思い始めた時、凜華が一同の誰も思ってもいなかったことを話し始めた。


「イジメってさぁ、そりゃ、される方に問題が無いっていうのは当然じゃん。でもさ、別にする方が悪いってことでもないんじゃないかなぁ」


 珍しく勇也に従わない凜華を、勇也が眉根を寄せて見つめる。一体どういうつもりなのだろう、と。


「あ、もちろん勇也きゅんが、復讐するの手伝えって言ったら、ウチ何でもしちゃうよ。だけど、そもそも復讐する必要ってあるのかなぁ、って。

 だってさぁ、イジメって本能みたいなもんでしょ。群れを作る動物なら、ほとんどイジメをするって聞いたことあるよ」


 勇也の脳裏に、あの女だか男だか、大人だか子どもだかもわからない声が再生された。


『愚かな本能の命令に過ぎないんです』


「だ、だからって、勇也君が酷い目に遭ってきたのは事実じゃない。勇也君の苦しみが無くなったりもしないでしょ!?」

「だーかーらー、勇也きゅんは復讐なんて忘れて、自分のために生きればいいんだよぉ。今までみたいに」


 確かに凜華の言う通りであった。

 勇也は今まで、苛められなくなる努力ではなく、苛められても一人で生きていけるようにする努力をしてきたのだ。

 尤も、今の勇也が“一人”とは言い辛いのだが。

 それに、何より勇也の心には、自分の命よりも大切な存在がある。たとえこの場にいなくても、彼女を失うことだけは考えられない。

 勇也は、彼女さえいてくれるなら、復讐なんてどうでもいいのだ。

 ただし、彼女のために命を奪う必要があるなら、そうするだろう。


「あ、でもぉ、群れを作る動物の中にも、イジメが全然ないチンパンジーの仲間がいるんだよぉ」


 勇也は、何でこいつこんなに博識なんだと思いつつ、首を傾げた。

 凜華がなぜか、怪しい笑みを浮かべている。


「ボノボっていうんだけどぉ、そのお猿さんたちはねぇ、ストレスを感じると相手が誰でもぉ、……交尾しちゃうんだって。そのおかげでイジメとかが無いんだってさぁ。だからぁ、勇也きゅんも辛かったらアナベルちゃん以外ともしちゃえばいいんだよぉ」


 凜華はその後に「例えばぁ、ウチとかぁ?」と続けようとしたのだが、それは卓によって阻止された。


「おぉ、俺も知っていますぞ。確かホカホカといって、雄同士、雌同士でもするようですぞ。えっ? ということは、俺と勇也殿が……」

「は? いや、ウチ……」

「最低だよ! 凜華!」

「沖田さん、何考えてるの?」

「ちょっと、そのカップリングは無理があるよね」

「……ない」


 凜華は全方位から集中攻撃を受けた。


「で、結局、門田君は何が言いたかったの?」


 勇也が若干キレ気味で言う。


「ああ、そうでしたぞ。俺の話は終わってないのでござる。で、俺が聞きたかったのは、藤堂殿と井上殿も勇也殿の魅力に気付いて、ハーレムに加わるべくついて来たのでござるか?」

「さっきの話の結末って、そんなことだったの!?」


 勇也は思った。尊敬していると言われ、ちょっと照れてしまったあの感情を返せ、と。


「ち、違うよ。私はそんなつもり……。永倉君だって迷惑じゃないかな? アナベルさんに今野さん、沖田さん、皆可愛い子ばっかりだし。私なんて……」

「……」

「はい、迷惑です」


 勇也が正直に言うと、心結は苦笑いした。というより、他に反応のしようもない。

 琴音は相変わらず、無反応であるが。


「ですが、チビ眼鏡さんも無口さんも、可愛いとは思います。もちろんアナほどじゃないですけど。そもそも、僕は別にハーレムなんて作ってないので、千佳や凜華が可愛いとか、僕には関係ないんです」

「はっはっはっ、勇也殿にその気がなくとも、もうすでに出来ているでござる」


 勇也が冷たい視線を卓に送った。

 そんなものは無い、と勇也は思っているのだが、そう思っているのは勇也だけだった。


「そ、それより、チビ眼鏡って私? 無口が琴音ちゃん?」


 勇也は当然のように頷いた。他に誰がいるのかと。


「勇也殿はそういう方ですぞ。かくいう俺もピザと呼ばれて……あれ? さっき門田君と呼びましたかな? はっ! しかも敬語じゃなくなってるでござる!」

「い、嫌ならピザ君に戻すけど」

「嫌なわけないではござらんか! ついに俺も勇也殿に認めてもらったのですぞ。ですが、欲を言えば卓君にはならないですかな?」

「す……卓君」

「勇也殿ぉぉぉ!」

「「「キモい……」」」


 女子の心が一つになった。


 そんな気色の悪いやり取りをしている時、ふと、静かな声で爆弾を投下する人物がいた。


「……私は、ハーレムに入ってもいいと思う」

「「「えっ?」」」


 一同が驚いてその声の主である琴音を見る。

 彼女は前髪で目が隠れているため、その表情を伺い知ることは出来ない。


「こ、琴音ちゃん、でも、そうしたら、琴音ちゃんの夢はどうなるの? アイドルになりたいんでしょ?」

「さすがに、井上殿にアイドルは無理ではござらんか?」


 すると、琴音はスっと前髪を上げて、素顔を晒した。


「なんと!」

「「「っ!?」」」


 勇也と心結以外の三人が驚く。

 視線の集中する先、そこにはアナベルにも負けず劣らずの(勇也だけは絶対に認めないが)美少女がいたのだった。

 一同が確認すると、琴音はまた前髪で素顔を隠してしまった。


「琴音ちゃんはね、普段は素顔を隠してネットアイドルしてたんだよ」

「そうだったんだね。でも、アイドルになりたいっていう夢があるんでしょ? じゃあ、勇也君の彼女になりたいなんて思っちゃ駄目だよ。夢を優先させなくちゃ、ね!」

「必死でござるな……」


 しかし、琴音は首を振った。


「……どうせ帰れるかわからないし。だったら、永倉君の彼女の一人にしてもらうのも悪くない。永倉君、日本にいた頃、私の胸元見て、顔赤くしたことがあるから。他の人は気持ち悪い顔する」


 勇也に冷たい視線と、にやけた視線が集中した。

 なぜそんな恥ずかしいことをバラすのか、勇也は焦った。


「……それに、臭いって言われてるけど、今は私たちだって変わらない。何日もお風呂に入ってない」

「え? 入ってないの? ウチらは入ってたよー」


 バっという勢いで心結と琴音が凜華を見た。


「でも、上の階層ってすごく寒いし、そのまま水浴びって、凍え死んじゃうよ。かといって、水魔法に火魔法ぶつけると、両方消えちゃうし。それに、魔物に襲われるかもしれない時にお風呂って、危なくない?」


 心結が勢い込んで凜華に聞く。


「ああ、ウチらにはクロがいたからねぇ。でも、交代で入れば何とかなんじゃん。あとぉ、精霊魔法は駄目だったけどぉ、術式魔法っていうのがあって、それなら大丈夫だよ。この階層は暑いから水浴びで十分だと思うけど、あとで二人にも教えたげる」

「うん、ありがとう!」

「……」

「では、今後の課題は、お二人は知力を上げて『鑑定』を取得することと、スキルを使えるようになることですね。僕たちは、ステータスを上げる以外特にできそうなことが無いかな」


 勇也は、流れがエロいだの臭いだのから変わってくれたことに安堵しつつ、明日からの予定を出すことによって無理矢理場をまとめた。

 勇也の作戦は上手く行ったようで、さらに凜華が手を上げて意見を出す。


「それだったらぁ、考えがあんだよね。火魔法の『ブーストヒート』ってあんじゃん。あれって使った後、動けなくなるだけだけど、中級の方の『デッドヒート』って、アレ筋肉痛になるんじゃないかなぁ」


 凜華の言う通り、『ブーストヒート』効果時間の十分が過ぎると、同じ十分間体が動かなくなる。しかし、『デッドヒート』は、効果時間が三十分なのだが、その後丸二十四時間動けなくなってしまうのだ。

 あまりにも使い勝手が悪く、使う必要もなかったので死蔵していた技であるが、凜華の言う通りであれば、使ってみる価値はある。ただの筋肉痛なら、『アクアヒール』で治すこともできるのだ。ただし、違った場合は丸一日戦力外になってしまうが。


「じゃあ、試してみるか。千佳が」

「え? 私!?」


 勇也は頷いた。

 この中で一番体を鍛えて効果がありそうなのが、彼女か心結、もしくは卓だからである。勇也は、本当は心結を一番優先させたかったのだが、まだスキルを使いこなせないため後回し。そうすると、もし凜華の言う事が外れていた場合、卓を一日引きずって歩く羽目になるなど論外。ということで、千佳が選ばれたのだった。


「いいじゃん、失敗したら負ぶってもらえるよー」

「私、やる!」


 まぁ、確かに背負ってもらえるだろう。卓に。

 勇也と凜華はそのつもりであった。


 だがそこで、ふと千佳が暗い顔をした。


「そういえば私、魔法使えないんだった……」


 勇也と凜華が目を合わせる。

 そして二人の視線はそのまま心結へと移動した。


「え? えっ、えっ?」


 二人の結論は、それならばスキルの練習をさせつつ、『デッドヒート』の実験台にもなってもらうという事で、無言のうちに一致したのだった。


「無理だよ! 私まだちゃんと戦えないし」

「大丈夫ですよ。僕が近くで守りますから」


 千佳と凜華がバっと勇也を振り返る。


「しょ、しょうがないなぁ……」


 どこか心結はまんざらでもなさそうなのだが、千佳と凜華はジト目を向けるだけで何も言わなかった。藪蛇ということもある。


 今後の方針について意見が固まり始めた時、辺りが暗くなり始めた。

 このダンジョンにいる神様は、「光あれ」だけでなく、「闇あれ」とも唱えたらしい。

 勇也がそんなことを考えていると、さらに天井が満天の星空のように明るく輝き始める。

 これは二階層にあった青白く光る水晶おかげだ。

 二階層も幻想的な景色ではあったが、ここは天井が見渡せる分、より神秘さを増していた。


「わぁ、綺麗」


 勇也のすぐ隣にいる千佳が感嘆の声を上げた。

 他の者たちもその景色に見惚れていた。

 勇也も美しいとは思うのだが、出来ることならアナと見たかった、そう思ってしまう。


(アナ、何でここにいないの?)


 勇也がアナベルのことを考えていると、柔らかい感触が勇也を包んだ。


「ねぇ、大丈夫だよ。今は私が隣にいるから。私をアナベルさんの代わりだと思ってもいいから、ね」


 勇也は千佳を見て、その頭を撫でた。


「ごめん、アナはアナだし、千佳は千佳だ。だけど、その、ありがとう」


 勇也がはにかんだように微笑むと、千佳はその何倍も温かく、嬉しそうな微笑みを返す。


「あぁ、また、抜け駆けしようとしてるぅ!」


 目敏く気付いた凜華が声を上げる。

 勇也は苦笑いしつつ、全員に声を掛けた。


「とりあえず今日は交代で水浴びして、交代で寝よっか」


 知らず知らずのうちに、この場では勇也が中心となっているのだった。




次回9/9(土)20:00に第三十九話を投稿します。タイトルは後々変更するかもしれません。

感想等お待ちしております。もし良かったら評価もお願いしますm(_ _)m


※千佳が魔法使えないの忘れてた件……。修正しました。

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