第三十七話 気が付いたら持っていたスキル
ブクマ有難うございます。
「あっ! あったよ、アマゾン川」
勇也は太くて背の高い木の枝の上にいた。
地上からは十メートル近くあり、若干怖がっているのだが、それを他の者には悟らせまいとしている。
「……勇也殿、アマゾン川ではない、と思うのでござる」
少し低い位置にある枝に飛んできた卓が声を掛けた。
一行は休憩場所に背の高い木の上を選んだ。
そこならば、少なくとも飛んだり木登りがやたら速かったりする魔物以外には襲われにくいし、一行の目指す太くて長い川も見つけられる。
尤も、それはアナベルに事前に教えてもらった知識であるのだが。
(アナ……)
「もう、勇也君、またアナベルさんの事思い出してたでしょ?」
千佳が勇也と同じ枝にまでに飛び上がってきて、勇也の腕を掴んだ。
そして彼女の持つ巨峰に密着させる。
勇也は初めこそ狼狽えていたが、愛しいゴブリンのことを思い出し、俯いて溜息を吐いた。
「僕は、アナなら絶対に僕と来てくれると思ったんだ。あいつはお人好しでどこか抜けてるし、確かに人間に囲まれる生活を望んでいるけど、それでも最後は僕を選んでくれるって信じてたんだ」
「大丈夫よ。アナベルさんは勇也君のことをちゃんと愛していたわ。きっと最後には勇也君の所に戻って来てくれるから」
千佳はそう言って、勇也に微笑んだ。
しかし、何か言っていることが変わっていないだろうかと、勇也は首を捻る。
勇也の記憶では、確か失望したとか、もらっちゃうね、とか言っていたような……。
と考えていたところで、千佳が勇也の様子に気付き、再び笑顔のまま口を開いた。
「アナベルさんの悪口言うと、勇也君に嫌われちゃうでしょ。だから勇也君の前ではアナベルさんの悪口は言わないの」
(うわぁ……)
勇也は声には出さず心の中にだけ留めておいた。
だが、勇也は思う。アナの悪口を言われたところで、自分は千佳を責めるのか、自分も同じことを思ってしまうのではないか、と。
それにこうやって自分について来てくれた千佳に、勇也は感謝しているのだ。自分をこうして慰めてくれることにも。
「気を使ってくれて、ありがとうね、千佳」
「ううん、いいの。私が好きでしてることだから。……って、今私の事千佳って呼んだ!? しかも、いつの間にか敬語もやめてる!?」
「……そうして欲しいって、言ってたでしょ」
勇也は少し照れたように、千佳から顔を背けた。
勇也は確かに人との関わり合いを意識的に避けてはいるが、ここまで自分について来てくれる人間を無碍にできる程鬼畜でもなかった。
ただし、アナベルがこの場にいればどうなるかはわからない。要するに今勇也の心は隙だらけなのだ。
「ああ、私もついに報われる時が来たんだね!」
千佳が勇也にガバッと抱きついた。
この高い木の上で。
勇也の心臓が違う意味で跳ね上がった。
「あぁ! 千佳ちゃんまた抜け駆けしてる!」
凜華も勇也の元に向かおうとするのだが、
「おい、ゴラァッ! ちょっと待って! これ以上こっち来んな!」
非常に、非常に珍しいことではあるのだが、勇也がドスを利かせた声で凜華を静止した。それは怒っているというよりは、必死な声だ。
怒鳴られた方の凜華はもちろん、抱きついていた千佳も驚いて勇也を見た。
「な、何でよぉ……」
遥か下にいる凜華には気付かれなかったが、抱きついていた千佳と、すぐ真下にいた卓は気付いてしまった。
「も、もしかして勇也君……」
「ぷふっ、高い所が怖いのでござるか?」
千佳の口元が痙攣し、卓は堪えきれず噴き出した。
別に怖い所が苦手な人間などいくらでもいるのだが、あの狂犬のような勇也が高所に怯えていると考えると、二人は何とも愉快な気持ちになってしまったのである。
「はぁっ!? 怖くないし! ちょっと苦手なだけだし!」
勇也は涙目だった。
それから全員がそれぞれ木の枝に座っていき、そのまま休憩を取ることになった。
ついでにお互いがそれぞれ『鑑定』を始める。
≪名前≫今野千佳
≪種族≫人族
≪年齢≫15
≪身長≫158cm
≪体重≫51kg
≪体力≫10
≪攻撃力≫10
≪耐久力≫9
≪敏捷≫11
≪知力≫10
≪魔力≫―
≪精神力≫10
≪愛≫940
≪忠誠≫100
≪精霊魔法≫火:38 水:62 風:33 土:67
≪スキル≫道士:気功を操れるようになる。ただし魔法が使えなくなる。
透視:僅かに物を透視することができる。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
まず、千佳のステータスはそんなには変わっていないのだが、『攻撃力』が伸びている。これは気功を体に纏わせて、そのまま殴ることが増えていたことが原因のようだ。
このステータスであれば、一般の成人男性と互角に戦えるぐらいの強さはあることになる。
さらに変化があるのは『愛』で、勇也が見てみると、
≪愛≫940(永倉勇也60、……)
と彼が一番高くなっていた。ちなみにその後は、母、父と続いている。
また、合計値は変わっていないため勇也は気付かなかったのだが、『忠誠』が担任教師の花の10が消えており、代わりに勇也に10ついていた。
次にスキルであるが、千佳は『鑑定』を覚える条件を満たしていないように見えるのだが、ちゃんと覚えることができた。どうやら表示されていないだけで、千佳にも魔力は存在しているようなのだ。ちなみに、魔術式をある程度覚えることで知力を上げたのであるが、術式魔法だろうと使うことは出来なかった。
また、『鑑定』の一個前にあるスキルであるが、これはいつか語る日が来るかもしれない。
≪名前≫沖田凜華
≪種族≫人族
≪年齢≫18
≪身長≫165cm
≪体重≫56kg
≪体力≫8
≪攻撃力≫9
≪耐久力≫7
≪敏捷≫10
≪知力≫15
≪魔力≫13
≪精神力≫11
≪愛≫100
≪忠誠≫30
≪精霊魔法≫火:41 水:59 風:87 土:13
≪スキル≫獣化:羆の力を得られる。筋肉が膨張し、爪が伸び、牙が生える。燃費が悪いので注意。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
次に勇也が確認した凜華も、軒並みステータスが上がっている以外は、大した変化はなかった。
勇也への愛が60になったのと、勇也への忠誠が30ついたくらいであろうか。
≪名前≫門田卓
≪種族≫人族
≪年齢≫15
≪身長≫175cm
≪体重≫96kg
≪体力≫8
≪攻撃力≫12
≪耐久力≫15
≪敏捷≫6
≪知力≫10
≪魔力≫23
≪精神力≫11
≪愛≫210 ※二次元は除く
≪忠誠≫50
≪精霊魔法≫火:38 水:62 風:41 土:59
≪スキル≫反射:自身の耐久力と相手の攻撃力に応じて、精霊魔法以外の攻撃を跳ね返す。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
何とも偏りのある伸び方であるが、前衛としては徐々に頼もしくなってきているのだ。
そして、卓はどんな状況でも、二次元のヒロインたちを愛し続けるのだった。
ちなみに勇也に『愛』と『忠誠』が20ずつついている。
≪名前≫藤堂心結
≪種族≫人族
≪年齢≫15
≪身長≫148cm
≪体重≫39kg
≪体力≫8
≪攻撃力≫5
≪耐久力≫5
≪敏捷≫7
≪知力≫8
≪魔力≫20
≪精神力≫9
≪愛≫210 ※二次元は除く
≪忠誠≫50
≪精霊魔法≫火:53 水:47 風:42 土:58
≪スキル≫毒手拳:手を金剛石に変化させ、毒属性の攻撃が行える。
次に新たに加わったオタクグループ女子のチビ眼鏡こと、心結のステータスだ。
見た目通りに軒並みステータスが低いのだが、魔力だけはやたら高かった。
そして、最も重要なのはスキルだが、これは使えるのか微妙な所である。手を金剛石に変えられたところで、心結は攻撃力がやたら低いのだ。ただし、それで傷を負わせ、毒を流し込めるのであれば、有用なのかもしれない。
≪名前≫井上琴音
≪種族≫人族
≪年齢≫15
≪身長≫156cm
≪体重≫46kg
≪体力≫8
≪攻撃力≫7
≪耐久力≫6
≪敏捷≫8
≪知力≫7
≪魔力≫22
≪精神力≫13
≪愛≫1130
≪忠誠≫120
≪精霊魔法≫火:39 水:61 風:51 土:49
≪スキル≫完全擬態:周りの景色に同化でき、熱、匂い、魔力も感知されなくなる。
次に新たに加わったオタクグループ女子のもう一人の方、無口こと、琴音のステータスだ。
もう一人の心結よりはまともなステータスではあるが、大したことは無い。そして、やはり魔力が高かった。
だが、彼女はあまりスキルが使えそうもない。
隠れておいて奇襲、以外の戦い方が勇也には思い付けなかった。
しかし、二人が新たに加わったことは、戦力の増強になると言える。
魔力が高ければ、それだけで後衛を任せられるし、魔法弾の補充も手伝わせることができる。
あとは、例えば勇也が千佳にボクシングを教えるなどすれば、前衛組も鍛えることができるだろう。
勇也はそこまで考えてから、やっと自分のステータスを確認することにした。
なんだかんだで、ちょっと見るのが怖かったのである。
勇也は心を落ち着かせ、『鑑定』を行った。
≪名前≫永倉勇也
≪種族≫人族(変異種)
≪称号≫ゴブリンの友
≪年齢≫16
≪身長≫170cm
≪体重≫59kg
≪体力≫18
≪攻撃力≫15
≪耐久力≫17
≪敏捷≫14
≪知力≫12
≪魔力≫23
≪精神力≫18
≪愛≫170
≪忠誠≫0
≪精霊魔法≫火:94 水:6 風:85 土:15
≪スキル≫食用人間:捕食者の旨いと感じる味になり、肉体の再生に捕食者の寿命を使用できる。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
自己犠牲:自分が死ぬ時、仲間と認識した者の能力にブーストがかかる。
自動照準:照準能力に補正がかかる。
嫉妬:嫉妬の感情に反応し、敵と認識したもののステータスを自分と同じにし、スキルを封じる。
「……あ、背が伸びたなぁ」
「「「そこじゃない!」」」
勇也は『鑑定』のできる千佳たち三人に指摘された。
そう、勇也自身も気付いていた。ちょっと現実逃避してしまっただけで。
多分誰もが明言を避けていたのは、最後のスキルの事だろう。
『嫉妬』
大罪系のスキルだ。
ついに勇也の恐れていたことが起きてしまったわけである。
勇也は、もしかしたらその内に自分も尻尾とか生えるんだろうか、と考えつつも、その能力に注目していた。
敵のステータスを自分と同じにする。という事は、自分より強く、その上群れをなさない魔物相手なら効果的であるが、自分より弱く、群れを成す魔物には逆効果になってしまうというわけだ。一時間ほど前に遭遇したカニバモスキーのように。
勇也は首を捻った。しかし、あんな魔物に嫉妬したような記憶はないのだが、と。
そこで一つ思い出す。戦闘中にアナベルのことを考えていたのだ。彼女のことを勇也が考えるとき、アナベルを囲む他の生徒に対して嫉妬を抱いてしまっているらしい。
それにしてもいつ付いたのだろうか。勇也は考えるが、わからなかった。心当たりがあり過ぎて。
「僕に『嫉妬』が付いたのっていつ?」
なので、他の三人に素直に聞いてみた。
千佳と卓は首を傾げる。
「私たちが『鑑定』を使えるようになった時には、もう付いてたの。最近まで勇也君が気付いてないとは思わなかったんだけど」
卓も同意を示すために頷いた。
勇也は答えない凜華を見た。
どうやら彼女は隠そうとしているらしい。
「いつかな?」
勇也がにっこりと微笑んで聞いた。
勇也が本当に怒っている時は笑顔になる、というのは、凜華も知っている。
凜華の額に汗が流れた。
「え、えっと、勇也きゅんがみんな寝ている隙に、皆殺しにしようとした時だと思う」
「「「えっ!?」」」
勇也以外のメンツの顔色が蒼くなる。
寝ている間に殺されそうになっていたんだ、という意味と、この人寝ている間に殺そうとするかもしれないんだ、という意味で。
「随分前だね? 何で教えてくれなかったの?」
勇也の手がエカレスに伸びた。
「だ、だってぇ、そういうのはアナベルちゃんの役目じゃん。彼氏が自分に嫉妬してたら『大丈夫だよ』って、言ってあげるもんでしょ?」
凜華の言っていることは嘘ではないのだが、その後その役目を自分がそっくりそのまま奪っているため、全てを正直に言ったとは言い難い。
「……うん、そうかもね」
勇也は俯き、エカレスから手を放した。
勇也も凜華が本音を隠していることには思い当たっているのだが、凜華を責める気にはなれなかった。勇也自身、アナベルにそうしてほしかったのだ。
それに、勇也の『愛』のステータスが大きく変わってしまっていた。
≪愛≫170(アナベル:60、クロ:30、今野千佳:30、沖田凜華:30、門田卓:20)
アナベルへの愛が下がってしまっている。
アナベルを愛していることには変わりがない。
それでも勇也は、自分がアナベルに対して失望していることに気付いてしまった。
いや、あんなことがあったのだから当然かもしれない。
そして勇也は、そんな自分について来てくれた三人に、どうやら心を開いているらしい。自分のために色々してくれる凜華を、勇也は責められなかった。
それにしても、と勇也は思う。
勇也は未だに、アナベルを深く想っている。
そして、その数値が正確であるなら、千佳や凜華の数値も同じ60、つまり勇也がアナベルのことを想っているのと同じぐらい、千佳と凜華は勇也のことを想っていてくれるという事になる。
勇也は溜息を吐いた。
二人の想いを嬉しく思う半面、それは彼にとって重荷でもあったのだ。
なぜなら、どんなに想われても、彼はハーレムなど作る気は無く、アナベル一人さえいてくれれば、それで良かったのだから。
次回9/6(水)20:00に第三十八話「木の上で雑談しました。」を投稿します。タイトルは後々変更するかもしれません。
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