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異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。  作者: 捨一留勉
第三章 お別れ
32/114

第三十一話 全員集合してしまいました。

ブックマーク有難うございます!

 

「残りの蝙蝠は任せてもいいですか?」


 僕は騒がしくなってきた暗闇の向こうを睨んで、凜華達に言った。

 クラスの連中なんて放っておいて、魔物の餌になればいいとは思う。

 でも、きっとアナが飛び出して行ってしまうだろう。


「まっかしといてー」

「うん、二人はみんなをお願い」

「委員長は俺が守る」


 僕とアナは頷き合い、魔物の群に向かって行った。


「グラコンダが左に一、グランチュラが右に一、ヘルハウンドが後方に四なのです。他の方たちはその前方にいて、魔物の群に追われているようです」


 魔物は普通お互い喰い合う間柄ではあるが、よほど人間が美味しそうに見えたのだろう。

 この中で一番強いのはグラコンダであるが、グランチュラは獲物を何匹か掠め取るつもりで、ヘルハウンドはおこぼれを狙っているのかもしれない。

 よし、僕が一番強いグラコンダを……、


「アナがグラコンダをやります。あとは任せていいですか?」

「……了解」


 うん、ですよね。

 今やアナはクロに次ぐ二番目の戦力で、僕はその次……あ、スキル使った凜華には勝てないな。

 あれ? 僕ヤバくね?

 いや、でも、クロと凜華は僕の従魔(サーヴァント)だ。

 うん、クロと凜華は僕のサーヴァント、クロと凜華は僕のサーヴァント、クロと凜華は僕のサーヴァント。


「では、行くのです。黒焦げにしてやるのでーす!」


 僕が必死に自分に言い聞かせていると、アナがグラコンダに突貫していった。

 もし赤熱の魔女に会うことがあったら、アナの教育方針について文句を言ってやろうと思う。


 僕も火魔法の灯りを多数打ち上げ、暗闇を炎で照らした。


「なんだ!?」

「まさか新手か?」

「助けかも」

「ああ、委員長たちじゃないか」


 残念、僕でした。

 照らし出された暗闇の一番向こうにいる、ヘルハウンドに狙いをつける。

 そして、


 ズガァァァンっ!


 エカレスをぶっ放した。

 込めた弾は僕の持つ最大火力である、『プラネットフレア』だ。

 ヘルハウンドどもの間で、特大級の炎の玉が発生する。

 玉はどんどん膨れ上がり、通路を埋め尽くさんばかりの、いや、埋め尽くしてなお壁を削るまでの大きさになった。


「くふふ、燃えろ燃えろ。……おっと。アーメン」


 慌てて胸の前で十字を切り、心を鎮める。

 あんまりアナのことを、というか、まったくアナのことをうんぬん言えないな。

 しかし、それにしても、


「うわぁ! なんだありゃ、みんな走れ走れ! 巻き込まれて死ぬぞ」


 やりすぎた。

 中級の『フレイムトルネード』ぐらいで良かったかもしれない。

 僕の横を次々にクラスの連中が通り過ぎていく。

 一様に驚いた表情だ。

 その中にイケメンがいて、イケメンだけはふらふらしていた。

 多分魔力欠乏だろう。


「い、委員長じゃないぞ。誰だあれ?」

「し、神父?」

「渋くてかっこ良くなかった?」

「薔薇の神父だ」


 あれ? 誰も僕だって気付かないぞ。

 クラスの連中なんてどうでもいいけど、ここまで気付かれないとさすがに悲しくなってくる。

 委員長はすぐ気付いてくれたのに。

 そういえば凜華も気付いてくれてたっけ? あ、でも、アイツ『鑑定』あるしな。


 そんなことより、今は目の前の魔物に集中しよう。


≪名前≫なし

≪種族≫グランチュラ

≪年齢≫16

≪体長≫108cm

≪体重≫4kg

≪体力≫19

≪攻撃力≫18

≪耐久力≫20

≪敏捷≫21

≪知力≫5

≪魔力≫5

≪精神力≫―

≪忠誠≫30

≪スキル≫岩擬態:岩に擬態できる。


 素の強さなら僕より上だ。

 だけど、殴り合ったりするつもりはない。

 エカレスのシリンダーを開けて、弾を込め直す。


 ――SHUU! SHUU!


 グランチュラが威嚇しながら近づいてきた。

 前足を上げて僕に向けてくる。

 糸を飛ばす気なんでしょ? 知ってるよ。


 ズガァァァンっ!


 早撃ち勝負は僕が勝った。

 だけど、グランチュラはサイドステップで僕の放った銃弾を避けてしまう。

 さっきまでグランチュラがいた場所が燃え上がる。

 一発目は『ファイアボール』を仕込んでおいたのだ。


 くそっ、こいつとは相性が悪い。

 前に会った時も不意を突かれて一撃貰ってしまったし、今回はその時の奴よりも強い個体のようである。


 僕もバックステップで距離を開けつつ、仕切り直す。

 またグランチュラが前足を上げる。

 学習能力のない奴だ。

 早撃ちなら僕の方が早いぞ。


 ズガァァァンっ!


 しかも今度は『フレイムトルネード』だ。

 上手くいけば巻き込める、と思ったのだが、また避けられてしまった。

 いや、片足を炎で吹き飛ばした。

 このまま追い詰めていけば仕留められる。


「勇也君! 私も手伝うわ。ハァっ!」


 吸血蝙蝠を倒したらしい委員長が参戦してきた。

 別にいいんだけど。押してるし。


 委員長の飛ばした気功の塊、まぁ、便宜上気功弾と呼ぼう。気功弾がグランチュラの頭に命中した。

 ちょっとは効いたらしく、グランチュラが怒って前足を委員長に向ける。


「委員長、糸を飛ばして……」

「きゃあ! なにこれ!?」


 遅かった。

 グランチュラがシュバっと前足からネット状の糸を飛ばし、委員長を拘束してしまった。

 かくして巨乳美少女のねばねばした白い糸まみれになる姿が完成したのであった。

 くっ、グランチュラめ。なぜ僕の弱点に気付いたんだ。


「ちょっと勇也君?! 見てもらえるのは嬉しいけど、今はそれどころじゃないから! 前見て、前!」


 シュバっ。


 うぉっ! 

 グランチュラが僕目掛けて糸を飛ばしてきた。

 慌ててサイドステップで避けるも、右足が囚われてしまった。

 これはまずい。非常にまずい。

 グランチュラが嬉しそうに牙をギチギチと慣らし、トドメとばかりに再び前足をこちらに向けてきた。

 僕は旨そうに見えるらしいからね。喜ぶのも無理ないね。

 これで食われても、アナ、許してくれるかな?

 委員長に見惚れてて隙を作ったなんて言ったら、許してくれなさそうだな。


 あまりの気まずさに、走馬灯のようにそんなことを考えていると、突如グランチュラの動きが止まった。

 まるで僕たちの姿を見失ったかのように、辺りをきょろきょろと見回すような仕草をしていている。

 あれ? 蜘蛛って音に敏感だったんじゃないっけ?

 何はともあれ、混乱しているらしい。

 で、あれば、こんなチャンスを見逃してやるほど、僕は甘い生き方をしてきたつもりはない。


 ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!


 一発目の弾丸は頭部に命中し、『エアスラッシュ』となってグランチュラの頭を破壊した。

 さらに二発目の弾丸は『フレイムトルネード』となって、グランチュラを炎の渦に巻き込み、焼き尽くした。


「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において。アーメン」


 グランチュラは息絶える瞬間を、確認できないほどに焼かれている。

 しかし何でまた突然隙ができたんだろう。

 と、思っていると、トントンと肩を叩かれる。


「勇也君、振り返っちゃ駄目よ!」


 は? 委員長は何言っているんだ?

 敵なんだとしても、見ない事には対処できない。

 まぁ、バジリスクっていう、目を合わせるのが危ない魔物もいるらしいけど、今のはどう考えたって、人の指だ。

 僕は委員長の言葉を無視して後ろを振り返った。

 しかし、無意識のうちに顔が元の位置に戻っていた。

 有り得ないものを見た気がする。

 最近色々あって疲れていたからなぁ……。


「助けて頂いてありがとうございます。神父様」


 後ろに人がいたのは気のせいではなかったらしい。

 そしてその人物は、僕がクラスで委員長の次に可愛いと思っていた女子だ。

 委員長より背が高く、僕と背が大して変わらない。

 だが、なにより、その女子は委員長を超える巨峰の持ち主である。

 僕は彼女をこう呼んでいた。

 富士さん、と。


 富士さんが後ろにいる。それは間違いない。

 しかし、その恰好が制服ではなかったような気がした。

 いや、そんなわけないよね。

 僕はもう一度振り返った。


「あれ? 永倉君じゃない? 無事だったんだね。委員長とか、岡田君が心配してたよ」


 そう言って富士さんは微笑んだ。


 僕の目の前には富士さんの顔をした踊り子さんがいた。

 何を言っているのかよくわからないと思う。でも、それは仕方のないことなんだ。

 僕だって何が起こっているのか理解できないんだから。


 某有名RPGゲームの四作目である、導かれた勇者たちが冒険するストーリーの中に、踊り子の衣装をした姉がいたと思うのだが、それよりさらに面積の小さい水着を身に纏った女性が現実に目の前にいたとしよう。

 さあ、どうする?


「もう、芽衣。なんて格好してるの? 勇也君がフリーズしちゃったじゃない」

「委員長、無事だったんだね。確かに自覚はあるんだけどね。でも、委員長に言われたくないなぁ」


 そうだ。一、二の三で、叫びながら逃げよう。

 さ、一、二の三、


「ぎゃああああああああああ!!」

「「あ、逃げた」」


 僕がグラコンダがいた方に向かって走って行くと、倒れたグラコンダの上に、恐らく獣化(ビースト)を使ったと思われる凜華が天井に向かって、「ぐぅるぁぁぁぁぁ!」と雄叫びを上げていた。

 こっちはこっちでカオスだけど、今はそんなことどうでもいい。

 僕にはアナ成分が必要なんだ。

 何人かがアナに近づこうとしているのを跳ね飛ばし、僕はアナに飛びついた。

 アナのステータスなら、僕ぐらい余裕で受け止めてくれる。


「ニギャっ、どうしたのですか、ユーヤ? 珍しく怯えているのです?」

「で、出たんだ」

「ま、ままま、まさか、お、お化けなのです?!」


 どうやらアナはお化けが怖いらしい。

 ああ、可愛いな、アナは。


「いきなり何するんですか!? しかも、俺たちを助けてくれた天使にいきなり抱きつくとは……」


 どうやら僕が跳ね飛ばした中に、イケメンがいたらしい。

 何やら僕に言い募っているらしいが、アナ成分を補給中の僕には何も届かなかった。


「何無視してるんですか!? 彼女も嫌がって……はいないな」


 僕の彼女なんだから嫌がるわけないでしょ。

 アナは僕の頭をガクブルしながら撫でてくれている。


「し、しかし、ゆ、ゆゆゆ、ユーヤもおば、お化けが怖いのですね」

「いや、全然」

「えっ?」


 僕は高い所が若干苦手だが、別にお化けは怖くない。信じてないし。

 ま、いたところで、敵か味方か、倒せるか倒せないか、だ。重要なのは。


「もう、永倉君、逃げることないじゃない」


 僕がアナに甘えていると、僕にトラウマを植え付けた人物がやってきた。

 糸の拘束を解いたらしい委員長も一緒だ。


「え、こいつ永倉なのか?」

「そうよ、それでそっちの小さい悪魔はアナベルさん。勇也君の恋人よ」

「なっ!? こい……。委員長、無事だったんだな。それより先生は無事か!?」

「え、私って“それより”なの? まぁ、いいけど。大丈夫、安全な所にいるから」

「そうか、良かった」


 イケメンが何やらショックを受けていたようだけど、すぐに復活して、先生の安否を確認している。

 どうやら先生は結構人気があったらしい。どうでもいいけど。


「でも、永倉君の恋人かぁ。てっきり委員長がくっついたのかと思ったよ。いつの間にか下の名前で呼んでるし」

「ううん、私は振られちゃった」

「そっか、色々あったんだね」

「それより、何で芽衣はそんな格好してるの?」


 うん、僕もそれは気になる。

 まんま露出狂だし。

 日本でこの格好で歩いてたら、確実に職質される。

 異世界迷宮には警官なんていないだろうけど。


「これね、ここに来る途中で、変な部屋があってその中で拾ったんだけど、私のスキルと相性が良いみたいなんだ」


 僕は恐る恐る振り返って『鑑定』を発動させた。


≪名前≫山南芽衣

≪種族≫人族

≪年齢≫15

≪身長≫165cm

≪体重≫56kg

≪体力≫4/7

≪攻撃力≫5

≪耐久力≫7

≪敏捷≫6

≪知力≫8

≪魔力≫5/10

≪精神力≫9

≪愛≫840

≪忠誠≫90

≪精霊魔法≫火:62 水:38 風:58 土:42

≪スキル≫幻影の踊り子:踊っている間、敵の『状態』に異常を起こす。


≪号≫とても危険な水着

≪種類≫シーカークロス

≪製作者≫ユヒト

≪効果≫【自動回避】【状態異常促進】【温度調整】の永続術式が組み込まれた布。

 ユヒトが作ってばらまいたアイテムの一つ


 なるほど、さっきは富士さんが踊っていたからグランチュラは混乱していたのか。

 なんというか、便利な能力だな。

 これぞ、勇者パーティという気がする。

 そしてユヒトさんや、もっとまともな形には出来なかったんですかい。


「ほら、私ベリーダンス習ってたでしょ。咲良たちの前で踊ってたら、たまたま近くにいたオークが一緒に踊りだしてね、それで気付いたの」

「ともかくその格好でずっといるのはどうかと思うわよ。さ、貸してあげるからこれを着て」


 そう言って、委員長が富士さんに外套を貸してあげようとする。

 だが、富士さんは「そしたら、委員長が寒いでしょ。これ不思議なんだけど温かいから大丈夫」と言って受け取らなかった。

 正直、なんか着てほしい。ていうか、何で制服着ないの?

 それに、アナもさっきから、尻尾をピンと伸ばして警戒してしまっている。


「でも、意外なのです。ユーヤはてっきり大きいのが好きだと思っていました」

「そうね。私も視線を感じてたし」

「うん、私も日本にいた時視線感じたことあるよ」

「ええ、巨乳、大好きですよ」


 つい相撲好きみたいに言ってしまったけど、嘘じゃない。

 ただ、想像してみて欲しい。真っ暗闇で某姉と同じ格好か、それ以上の格好をした人が、振り返ったらにっこりと微笑んでいるのだ。

 怖いよね?


「そうですか、やっぱり大きいのが好きですか」

「いやいやいや、一番はアナだよ。いやだなぁ、当たり前でしょ。ただまぁ、どうしても大きいのに反応してしまうというだけで。でも、さすがにその格好は……一周回って逆に怖い」

「ああ、俺もなんとなくだがわかるぞ。その格好はいくらなんでもはしたない。そもそも俺は小さい方が好みだ」


 いや、別にイケメンの好みなんぞ聞いてない。

 え? ていうか、大きいの嫌いな男って存在するの?

 しかしイケメンを見てみると、確かに蔑むような目を富士さんの富士山に向けていた。

 嘘でしょ?!

 僕は別に嫌いなわけじゃない。怖いだけで。


「ありがとう、悪魔ちゃんと神父様」

「ねぇ、あれって沖田さんじゃない?」

「マジかよ、良かったぁ。凜華、心配してたんだぞ」

「おおう、委員長がおられるが、門田氏はいないな。やはり逝ってしまわれたか」


 僕たちが下らない話をしていると、だんだんと人が集まってきてしまった。

 えっと、これどうしよう?


「とりあえず皆様、宝箱部屋に行くのです」


 マジで嫌だな。

そして、どうやらこれからまた鑑定祭りが始まるらしい。

ホント、アナと二人きりだったあの時間を返してほしい。





次回8/28(月)20:00に第三十二話「勇者パーティーはちゃんと存在しました。」を投稿します。タイトルは後々変更するかもしれません。

感想、質問、ダメだし、何でもいいのであれば、お願いいたします。

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