第二十七話 おっぱいには勝てませんでした。
また感想いただきました。
誠に有難うございます。とても励みになります。
ブックマーク、アクセス数も増えて来ており、益々頑張って行こうと思います。
タイトル直帰なる恐ろしい単語を知ったので、サブタイトルを一変しました。
「ああ、そういえばなんかぁ、女の子か男の子かわかんない声でぇ、『愛』と『忠誠』、どちらを選びますか、って聞かれたかも。んで、ウチぃ、『忠誠』とかって何か怖いなって思って、『愛』を選んだの。ほら、愛する人のお肉を食べたって思えばぁ、なんか良いじゃん。マジ勇也きゅんの腕旨かったしぃ。あぁ、また食べたいなぁ」
「沖田さん、貴女おかしいわよ。私の勇也君に近づかないで」
まず、その声については心当たりがある。
男か女かわからない声と言えば、あの邪神様だ。
あの声の主がスキルに大きく関わっているかもしれない。
事実だとすれば驚愕であるが、同時に「やっぱり」とも思える。
恐らく頭蓋骨に乗り移っていただけだろうに、恐ろしい力を秘めていたからだ。
そして、今はそのことよりも、こっちの方が重要だった。
てっきり従魔が増えたんだと思っていたけど、これはとんでもない地雷だったらしい。
僕の体を、文字通り食べたいと思っているような女に付き纏われるなんて、冗談じゃない。
僕が身震いすると、なぜか委員長が抱き締めてきた。
「大丈夫、勇也君は私が守るから」
「すいません、彼女が見てるんで放してくれませんか」
委員長がしょぼんとした様子で僕を放した。
まさか、そんな様子を一切見せなかったから気付かなかったけど、実はクロも僕を食べたいと思っているのだろうか。
慌ててクロを見ると、クロは落ち着いた様子で首を振った。
うん、どうやら違うらしい。
元ギャル子はともかく、クロに襲われたら、それこそ命が無い。
あ、でも、元ギャル子も獣化とかいうスキルを持っているんだった。
一度だけしか見ていないけど、あの能力は危険だ。
しかし違いは何だ?
『愛』と『忠誠』か? それとも数値の違いか?
「ユーヤ」
「ん?」
「何やら真剣な所申し訳ないのですが、アナの話はまだ終わっていないのですよ」
「んんんっ?!」
えーっと、アナの話って何だっけ? うん、全然思い出せないし、アナの気のせいじゃないかなぁ……。
はい、本当は覚えています。
何とかシリアスな流れにして誤魔化せないかと思ったけど、駄目だったようだ。
「まず、女性の胸をジロジロ見るのは失礼だと思います」
「わかったよ。こいつらの胸を吹っ飛ばす」
僕はエカレスを構えた。
「違うのです! なんでそうなるのですか! 女性を何だと思っているのですか? 今の発言はいくらなんでも最低ですよ」
「そうは言うけどさ、だってこれからしばらくずっとこいつらと一緒にいるんでしょ? 無理だよ、見ちゃうよ。僕の目を抉り出したところで、すぐ再生しちゃうし」
僕がそう言った瞬間、ギョッとした視線が僕に集中した。
ん? なんか変なこと言ったかな?
目を抉り出すっていうのは物の例えで、実際にはそんなことしないよ?
まぁ、ともかく見まいとしようとしても、見てしまうのは事実だ。
だから、日本にいた時はなるべく他のことに集中して、見ないようにしていた。
クラスメイト達から離脱したのにも、実はそういった理由が含まれている。
誰かと一緒にいるよりは、一人でいた方が楽なのだ。
そうすれば、自分の醜い所を見なくて済む。
ただ、どんな僕でも受け入れてくれるアナは、当然別だけど。
「わかりました。いいでしょう。百歩譲って見てしまうのは、アナは許すのです。ですが、何よりアナが失礼だと思うのは、アナの……アナの胸をそんな風にチラチラ見たりしたことは今まで一度もないのです!」
僕は地に頭を擦り付けた。
「ごめん、本当にごめんアナ。だけど、その、アナのおっぱいだって十分魅力的だと思うんだ。そ、それに、アナのことを僕はちゃんといやらしく見てるよ」
「マジキメぇ」
水女の声が聞こえてきたが、そんなのは無視だ。
僕にとって最重要なのは、僕がズタボロに傷つけてしまったアナのプライドを取り戻すことである。
「そ、そう、アナはお尻がとても魅力的なんだ。アナが後ろを向いている時にいやらしい目を向けていたから、気付かなかったんじゃないかな?」
「そうなのですか? アナはちゃんと魅力的なのですか?」
「うん、当たり前でしょ?」
「えへへ、それなら良いのです」
「「「ちょ、チョロい……」」」
折角アナが機嫌を良くしてくれたんだから、ちょっと黙っててほしい。
しかし、機嫌を取り戻したアナは、にこにこと笑って気付いていないようだった。
ああ、こういうチョロいところも可愛いな。
僕は立ち上がって、アナの頭を撫でる。
「永倉殿はわかっていないのですぞっ!」
しかし、そんな僕たちの甘い空気を、一枚のピザが台無しにした。
何だろう、撃ち殺してほしいのかな?
「アナベルちゃんの魅力はお尻などでは決してない! いいでござるか、まずはその角、次に背中の羽、そして、これが最も重要でござるが、お尻から生えたハート形の愛らしい尻尾! これこそが最強の萌えポイントなのでござる! うぉぉぉ! 亜人ちゃん最高!」
「「「うわぁ……」」」
僕を含め、ほぼ全員がドン引きする中、ただ一人の人物がにっこりと微笑んで言った。
「ありがとうございます。正直、アナ自身はこれらの物を気に入っていなかったのですが、魅力的だと言ってもらえると嬉しいのですよ」
そう、アナ本人だった。
アナは悪魔のような天使の笑顔をピザに向ける。
「はぅっ」
ピザは僕にではなく、アナに撃ち殺されたようだった。
しかし、気にしているようだったから、今まで悪魔に見える見た目には触れないようにしていたのに、褒められて喜ぶんであれば、僕も初めから可愛がっておけば良かった。
まさかとは思うけど、可愛いと言えば何でも喜ぶんじゃないよね……。
僕がピザに先を越されたことに忸怩たる思いでいると、追い打ちをかけるように、アナが僕にとっては驚愕的なことを言った。
「さ、皆様、お話合いも済んだことですし、もっと落ち着ける場所に移動しましょう」
え? それってまさか、今や僕たち二人の愛の巣と化した、ここから一番近い宝箱部屋のことじゃないよね。
あそこで僕たちはこの一週間、たくさんの思い出を作ってきたんだ。
そこにこんな奴らを入れるなんて冗談じゃない。
「アナ、それは宝箱部屋のこと? だったら、四階層に近い方に行こう」
しかし、アナは渋い顔で僕を見つめてきた。
「何を言っているのです? ここからだと三日近くかかってしまうのです。一番近いあの宝箱部屋だって一日はかかるのですよ。アナがユーヤを抱えて飛んだとしても、さすがにこの人数をクロに乗せるのは不可能ですし」
「宝箱部屋なんてあるのでござるか? アナベルちゃん最高!」
「なんだかますます現実味が無くなっていくわね」
くそ、こいつらもすっかりついて来る気でいる。
僕だけが納得しないまま、僕たちは宝箱部屋に向かって移動を開始したのだった。
宝箱部屋までの道のりを、僕たちは何事もなく進んでいた。
クロがいるのだから当然だ。
アナとクラスの連中が、クロの隣を歩いて進んでいく。
僕はと言えば、一人クロの背に寝転がってふて寝していた。
「じゃあ、アナベルちゃんはお師匠様を探している内に永倉君と出会ったのね」
「そうなのです。アナとユーヤは運命に導かれ、巡り合ったのですよ」
「あ、アナベルちゃんと永倉殿はお付き合いしているのでござるな? 清い関係で」
「清いの定義によるのですが?」
「まさかとは思うけど、人間の勇也君と悪魔の貴女が、その、したりしていないわよね?」
「ああ、交尾のことですか。しましたよ。あと、アナは悪魔族ではなく、メイジホブゴブリーナなのです」
「「永倉ぁ……」」
ピザと眼鏡ツインテが僕を睨んできた。
ピザはわかるけど、眼鏡ツインテは何だろう?
まさかレズかな? 女同士だろうと僕は許さないよ?
しかも、また委員長が「さすが悪魔ね」とアナに向かって嫌味を言っている。
アナは苦笑いしているけど、きっと悲しんでいるに違いない。
ズガァァァンっ!
腹が立ったので何となく水女の頭を吹っ飛ばした。
全員呆気に取られて僕と水女を交互に見ている。
大丈夫なのに。使ったのは『サンドヘイズ』の弾だし。
「永倉! 今私は話に入ってなかったじゃない!」
「はい、ただの八つ当たりです。どうせ痛くないでしょうし、いいじゃないですか」
すぐに復活した水女が怒鳴ってくる。
水女の体力は一つたりとも減っていないのだ。
やはり『液体人間』のスキルの中には、『物理攻撃無効』とかのスキルが入っていそうである。
「ほ、ほら、島村さん落ち着いて。急に私たちがついて来ることになっちゃったから、永倉君機嫌が悪いのよ。今まで恋人と二人っきりだったでしょ。だけど、先生、そういう交際はちょっと認められないなぁ……」
「せ、先生が言うなら、我慢します」
普通、頭を吹っ飛ばされてそんな簡単に許すかな。
いや、吹っ飛ばしたのは僕なんだけどさ。
何だろう? のどに魚の骨でもつっかえたような気分だ。
「ユーヤもそんな簡単に、人の頭をバンしちゃダメなのです。まったくお子ちゃまなんですから」
前半は怒って、後半はちょっと照れたようにアナは言った。
僕の機嫌が悪い理由が、二人っきりになれないことだと言われて、少し喜んでいるらしい。
全く、アナは可愛いな。
「なぁ、委員長。聞いただろ? 永倉はもうアナベルちゃんとそういう関係なんだよ。もういい加減目を覚ませって」
「うるさい! 私は決めたの。私が勇也君を守るんだって」
委員長が常にない様子で、糸目を怒鳴りつけた。
糸目ざまぁ、とは思うけど、その意見には賛成だ。
もうさっさと僕が好きだとかいう寝言を言うのはやめて、死ぬかこの世から消えるかしてほしい。
「あ、ウチも勇也きゅんのこと守るよぉ」
甘ったるい声がすぐ近くでして、ギョッとして振り返ると、僕のすぐ横に元ギャル子が寝っ転がっていた。
こいつ、僕に気付かれずに飛び乗ったのか?
ステータスだけ見ると、そんなに運動神経は高くなさそうなのに、何かしらスキルを使ったのだろうか。
本当に油断できない奴だ。
「私は貴女からも勇也君を守るの!」
うん、それは是非そうしてほしい。
こいつはまたいつか僕のことを食いそうで怖い。
できれば相打ちになってくれないかな。
「それに貴女には田中君がいたはずでしょ? 勇也君のこと好きって、浮気じゃない。勇也君、ダメだよ。浮気する女は、絶対にすぐ浮気するもの」
「えー、田中とはもう終わったしぃ。だってあいつウチを置いて逃げたんだよぉ。多分今頃、狼男か鉄仮面の男に食われて死んでんじゃん?」
「沖田さん、田中君は生きてるわよ。私たちと合流して、今は岡田君たちと一緒にいるわ。沖田さんのこと、心配してたわよ?」
「ふぅん、生きてたんだぁ。あ、りっくんは?」
「見てないわね。ただ、その、平井君と吉村さんは……」
「ああ、うん、悲鳴が聞こえたから……」
とりあえずその会話の中で、僕の知っている名前は一つもなかったわけだけど、二つ気になることがあった。
一つは狼男だ。
多分銀の牙のことじゃないだろうか。
元ギャル子のスキルを考えたら、彼女に勝てそうな狼男、ウェアウルフなんてあいつしか思いつかない。
もう一つは鉄仮面の男である。
鉄仮面をした魔物とは考え辛い。
それに、鉄仮面をした男という事は、やはり人間なのだろう。
もしかしたら、アナの言っていた「刺客」というやつなのかもしれない。
「オキタリンカ様、その狼男とは、もしかして銀色をしていませんでしたか?」
「ん、そだよ。確か銀の牙とかって、称号があったかもぉ。あとぉ、ウチは凜華でいいよぉ」
「アイツ……、アイツだけは、アナの手で葬ってやらねばならないのです」
おおぅっ!?
アナの様子がおかしいぞ。
全身から何やら黒い湯気のようなものが出ている。
これはもしかして『憤怒』が発動しているんじゃないだろうか。
「えー、でも、もう死んでんじゃん? だって、あの鉄仮面の男に勝負挑んでたし」
「そんなに、その鉄仮面様はお強いのですか? あの銀の牙が簡単に負けるとは考えにくいのですが」
アナの全身から出ていた黒い湯気が止まった。
どうやら、死んだと言われて落ち着いたらしい。
「うん、ステータス差が大きいとかで『鑑定』できなかった。あとぉ、アイツに様なんか付けちゃだめだよぉ。だってー、アイツ人喰いだもん。勇也きゅんも、アイツとは戦っちゃだめだよ。勇也きゅんってぇ、美味しそうだから、絶対食べられちゃうもん」
その前に貴女に食べられそうなんですが。
それにしても、そんなに恐ろしい奴なのか。
銀の牙やクロよりも強いとか、あんまり想像したくないな。
でも、人喰いなら、僕と相性は良いのかもしれない。
僕は多分丸々焼かれるとかしないと死なないっぽいし。
まぁ、食われたくはないけど。
「『魔力』と『知力』の合計値が、相手の『魔力』と『精神力』の合計値の半分以下だと、『鑑定』は失敗するのです。お師匠様の持つ『中級鑑定』なら見えたかもしれませんが。どっちにしろ、弾かれたということは、その方は『魔力』と『精神力』の合計が44以上だという事なのです」
ほう、そんなルールがあったのか。
確かにそういえば、今まで出会った中には、魔力も精神力も僕の倍以上ある相手に遭遇したことが無い。
邪神様がただの頭蓋骨だったから、それは除くとして。
「そういえば、勇也君は『鑑定』が使えるんだよね。私のことを見てくれないかな?」
「アナも使えるのです」
「ウチも使えるよぉ」
「あなた達には頼んでない」
「あ、私も知りたーい」
「当然俺も知りたいのですぞ」
「お、俺も」
「私は別にいい。なんとなくわかったから」
「先生も調べて欲しいな」
面倒臭い……。
だけど、こいつらにあまりアナを近づけたくないし。
「元ギャル子、やっといて」
「さっきから気になってたんだけど、元ギャル子ってウチのこと? なんかその呼び方やだー」
くっ、こいつ、僕の従魔のくせに……。
「凜華って呼んでくれたら、やれでも、やっとけでも、言う事聞いちゃうよぉ」
「ユーヤ、いいのですよ。アナがやるのです」
「俺はアナベルちゃんにお願いしたいですぞ!」
「あ、私もー」
「ちっ、いいです。着いてから僕がやります」
アナが誰かと仲良くしている。
その事実が僕を無性に苛つかせるのだ。
僕はその時まだ、その感情が呼び起こす騒動を想定していなかった。
次回8/19(土)20:00に第二十八話「サーヴァントに慰められました。」を投稿します。
今いるメンツのステータスが明らかになります。




