第二十六話 アナはやっぱり悪魔のような天使でした。
三話連続投稿のラストです。
ストックが死にました。
僕は中学時代、告白してもいない、別に好きでもない女に「私はアンタみたいな男お断り、二度とこっち見んな」と振られたことがある。
僕はその時、酷い屈辱を味わったものだが、別に向こうは苛めのつもりはなかったのかもしれない。いや、でも、半分ぐらいは僕を陥れたいという気持ちもあったのだろう。
シチュはその時と似ている。真逆ではあるが。
そして今感じるのは焦りと恐怖であった。
「委員長! 永倉なんかと付き合うなんて、何考えてんだよ!」
何で真っ先に糸目が反応する……?
ただ、見下されるのは腹立たしいけど、否定的な意見には僕も同意だ。
さっさと色んな誤解を解かないと、アナが……ほぅらね、ゴゴゴゴゴってなってるよ。
「アナ、ちょっと待って、落ち着いて。そんなの僕が認めるわけないでしょ」
「ええ、そうでしょうとも。それに、アナはユーヤが過去に違う女と恋愛していても、許容するのですよ。それぐらいの度量はあるつもりなのです。ですが、ユーヤ、言いましたよね。『僕が初めて好きになったのはアナだよ』って。言いましたよね!?」
「だから誤解だって」
言ったし、事実だよ。
もうやだ。
何で僕が涙目で、こんな浮気の言い訳みたいなこと言っているんだろう。
やっぱりこいつら問答無用でぶっ殺しておけばよかった。
「委員長も変なこと言わないでください」
「永倉君、私は本気だよ。だから、その、委員長っていうのはやめて。千佳って呼んでくれないかな? 私も勇也君って呼ぶから。あと敬語もなしで、ね?」
そのやり取りならすでにアナとやったよ!
委員長が頬を染めて僕を見ている。
だいたい何でアナと付き合ってるって言ってるのに、そんなこと言ってくるんだ?
僕がアナを捨てるとでも思ってるのだろうか。
こんなに愛しいアナを僕が捨てたりするはずないのに。
「委員長、正気になれって。永倉はきっと委員長の体が目当てなんだよ。こいつ、いっつも委員長の胸ばっか見てんだ」
糸目め。
しかし、うん、それは否定できない。
「そんなの気付いてたよ」
そして気付かれていたのか。
どうしよう、いい加減こいつら本当に黙らせるか?
でも、今そんなことしたら、アナに浮気を認めるようなもんだし。
「でも、だいたいそんなの男の人なら同じだよ。見てるのを隠すのが上手いか下手かの違いでしょ。大石君だって私の胸見てるじゃない」
「そんなことは……」
大石の顔が赤く染まって行く。
うん、見てたんだな。
「それに、別にそれでもいいの。勇也君を正気に戻せるなら」
ああ、そういうことか。
委員長はアナを未だに悪魔だと思っているのか。
それで、僕がみんなを殺そうとするのは、アナに操られているからだ、と。
それこそ酷い誤解だ。
むしろ、アナがいなければとっくに全員殺している。
「委員長、僕は本当に貴女に告白なんかしていません。あの時恋人が欲しいって言ったのは、言葉通りの意味で、別に委員長に求めていたんじゃないんですよ。むしろ貴女のことなんか好きじゃありません。貴女の言っていた言葉ですが、クラス全員が友達? 正直反吐が出ますね。僕にとってあのクラスは地獄です。この世界よりよっぽど地獄だった。僕はただその地獄の中を、必死に生きていただけなんですよ」
「永倉、お前っ!」
「勇也君……」
委員長が泣きそうな顔をして俯いた。
しかし、それは一瞬のことで、すぐに顔を上げて微笑んできた。
「それでも、私は勇也君のこと好きだよ。だって勇也君はすごく努力家で、こんな世界でもたった一人で生きてきたじゃない。すごく大変だったでしょ。そんないつでも必死で生きられる勇也君のそばにいたいって、私は思うの」
「別に大変なんかじゃなかったです。僕にはいつもアナがいてくれましたから」
「だから、あの悪魔のせいなんだね」
そう言って委員長はアナを睨んだ。
ああ、もう駄目だ。
この感情を我慢できそうにはない。
気が付けば僕の左手が委員長の首を絞めていた。
さらに右手のエカレスの銃身を、委員長の口の中に突っ込んでいる。
でも、良かったね、委員長。
拳銃が好きなんでしょ?
そんな大好きな拳銃を咥えて逝けるんだから。
委員長は目を大きく見開いて僕を見ていた。
「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」
「ユーヤ! アナは大丈夫です。だからやめてください!」
「永倉、やめろっ!!」
全員が口々に、僕にやめるよう懇願してくる。
だけどもういい、もう我慢できない。
正に引き金を今引こうとした時、アナが委員長に飛びついてきた。
「その弾丸は何ですか? 『ファイアボール』ですか? それとも『フレイムトルネード』ですか? どっちにしたって今引き金を引けば、アナも巻き込まれて死んでしまうかもしれませんよ」
「っ!!」
アナはそこまでしてこの女の命を救いたいのか?
だけど、引き金を引かなくたって、殺すことは出来る。
このまま手に力を掛け続ければいい。
でも……。
僕は委員長の口から銃を抜いた。
「委員長、アナに謝ってください。そして、お礼を言ってください」
委員長が横目で自分に抱きついているアナを見る。
「さぁ、早く」
さらに腕に力を込めた。
「っ!! ご、ごべん゛な゛、ざい゛。あ゛ぎがとう、ござい゛ばず」
僕は手を放し、にっこりと微笑む。
委員長はそのまま地面に膝をつき、四つん這いの姿勢になった。
「わかっていただければ、それでいいんですよ」
「ごほっ、ごほっ」
「水よ、癒しをもたらせ【アクアヒール】」
アナがそのまま委員長を介抱し、回復魔法まで掛けてあげている。
本当に優しいな。
アナは僕の天使だ。見た目は悪魔だけど。
と思っていたら、立ち上がって何やら僕を睨んできた。
「ユーヤ、いい加減にするのです! 何ですぐに殺そうとするのですか!? ちょっと悪しざまに言われるぐらい、アナは気にしないのです。事実アナは悪魔族に見えるのですから」
「そうは言うけどね、アナ「十三回です」え?」
「ユーヤがコンノチカ様のお胸をチラ見した回数なのです」
か、数えていた、だと?
「他にもオキタリンカ様のお胸を二十回チラ見していましたし、ヤマザキエミ様のお胸も六回、シマムラカホ様のお胸を四回チラ見していたのです」
「あれ? 私は?」
先生が何やら言っているが、それは、今はどうでも良かった。
僕は無言でゆっくりと正座した。
うん、だって制服がボロボロでなんかちらちら見えているんだもの。
「はっ、やっぱり永倉はキモい性犯罪者なんだよ。な、委員長わかっただろ?」
「ううん、私はいくらでも見られていいよ。勇也君なら」
委員長は未だに四つん這いだが、微笑んで僕を見ている。
僕に殺されかけたのに、よく笑っていられるな。
「ていうか、私たちのことも見てたの。永倉、キッモ」
「うーん、私は別にいいかなぁ。私のことそういう目で見てくれんのって永倉君だけだしね」
「で、私は?」
「ウチはぁ、もちろんオッケーだよぉ」
そう言って元ギャル子が僕に抱きついてきた。
しかも、胸を側頭部に押し付けてくる。
こ、こいつ、僕が奪った寿命分、胸も成長してるっぽい。
しかし、次に言った元ギャル子との言葉のせいで、胸の感触なんてどうでもよくなってしまった。
「ああ、勇也きゅん、ホント美味しそう」
背中に怖気が走った。
「ちょっと沖田さん、勇也君から離れて」
委員長が元ギャル子を引き離す。
僕は離された元ギャル子のステータスを確認した。
≪名前≫沖田凜華
≪種族≫人族
≪年齢≫18
≪身長≫165cm
≪体重≫56kg
≪体力≫7
≪攻撃力≫8
≪耐久力≫6
≪敏捷≫9
≪知力≫12
≪魔力≫10
≪精神力≫12
≪愛≫80
≪忠誠≫0
≪精霊魔法≫火:41 水:59 風:87 土:13
≪スキル≫獣化:羆の力を得られる。筋肉が膨張し、爪が伸び、牙が生える。燃費が悪いので注意。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
クロとは違う。
クロは五年ぐらい年を取っていたのに、こいつは三年しか年を取っていない。
しかも、確か百以上あったとは思う『愛』が著しく減っていて、『忠誠』は無くなっているのだ。
愛を詳しく見ると、
≪愛≫80(永倉勇也:40、沖田洋子:20、沖田宗一:10、原田陸:10)
となっている。
あれ? ヤンキー茶は?
まぁ、それは、今は置いておこう。
なんだ? 何で『忠誠』じゃなくて『愛』なんだ?
「元ギャル子は僕に忠誠を誓ったんじゃないの?」
うん、随分ストレートに聞いてしまったけど、他に聞きようもないし。
確認しておかないと不安でしょうがない。
また喰われるんじゃないかと。
だけど、僕は元ギャル子の答えで、この能力の意外な事実を知ることとなった。
そして、アナがお怒りなことを、すっかり忘れていたのであった。
次回投稿は、通常通りに戻し、水曜日8/16に投稿しようと思います。
時間だけちょっと変えてみて、20時に投稿いたします。
後書きを書いている現時点で書き上がっていないのですが。
ストック? 何それ、美味しいの?
感想、質問、ダメ出し、何でもいいので、何かございましたら、宜しくお願い致します。