第二十四話 今度は同級生に喰われました
評価&ブクマ誠にありがとうございます!
本日は三話連続で投稿します。
三話連続投稿の一話目です。
ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ。
骸骨騎士の足音が暗闇から聞こえてくる。
彼らの目的は獲物から魔力を奪うことだ。
どうやって奪うのか、なんて知らないけど。
「みんな見て、あそこにでっかい岩の塊がある。あそこの裏に回り込もう」
残念ですが、それはグラコンダという魔物の死骸で、先客がいます。別の場所をお探しください。
などと言うこともできず、僕は仕方なくその場から姿を現した。
気付かれていないうちに狙いを定める。
向こうは火魔法で明りを作っているから、どこにいるのか丸わかりだ。
「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」
「え? 誰か何か言った?」
ズガァァァンっ!
僕の放った魔法弾は一人の女子生徒の頭を吹き飛ばし、さらに『エアスラッシュ』となって後方にいた骸骨騎士の体をバラバラにした。
「アーメン」
「キャアアア!」
「なんだっ!? 何が起きた?」
「島村がやられたぞっ!!」
「……」
ああ、やってしまった。
アイツらの声を聞いたら、つい復讐心が燃え上がってしまったのだ。
おや、しかし『鑑定』してみると、どうやら僕が撃った女はまだ死んでいないらしい。
ステータスはどれも10に達していないのに、何とも厄介なスキルの持ち主のようだ。
「今野さん、多分あの岩陰に誰かいるのよ」
「誰! 何で私たちに攻撃するのっ!?」
委員長が詰問するような口調で声を張り上げてくる。
そんなの決まってるだろう。敵だからだ。
「そんなこと言っている場合じゃないって、追いつかれる。別の場所に逃げよう」
五人が方向転換して逃げて行く。
ふう、助かった、と思ったのだが、なぜか僕が撃った一人を置いて行ってしまった。
何でっ?!
委員長は優しい性格だと思っていたのだが、足手まといになったら捨て置くぐらいにはドライな性格だったらしい。
だが、そのせいで骸骨騎士は倒れている女と、僕にまで気づいて近寄ってきてしまった。
これはアレだ。
MPK、もしくはトレインとかっていう奴だ。
結果的に魔物の群をなすりつけられてしまった。
僕は仕方なく岩陰から飛び出し、骸骨騎士を迎え撃つことにした。
「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」
まずは一番近い一匹に狙いを定める。
骸骨騎士はその名の通り、青銅の鎧で身を包み、青銅の剣を持った骸骨である。
宝の守護者と同種ではあるが、骸骨騎士の方は通常の人間サイズであるし、あんなに強くはない。
ま、強敵には違いないが、エカレスの敵ではなかった。
今エカレスに込めている弾は中級火魔法の『フレイムトルネード』だ。
これは範囲攻撃できるし、今みたいに集まって固まっている魔物の群には効果的である。
女、島村とかいう奴(『鑑定』してわかった)が巻き込まれそうな位置にいるが、知ったことではない。
僕は引き金を引いた。
ズガァァァンっ!
爆発音が暗闇に響き、骸骨騎士一体がバラバラに砕け散り、さらに近くにいた四体を炎が包んだ。
ズガァァァンっ! ズガァァァンっ!
さらに残っていた二体にも弾を撃ち込み、あっという間に骸骨騎士の群を殲滅した。
「アーメン」
うん、大したことなかったな。
エカレスが強すぎるっていうだけかもしれないけど。
そういえば、一発目の弾を撃ち込んだ直後、運良く巻き込まれなかった島村は、吹っ飛んだ頭がスライムのようにうねうねと集まって元に戻り、そのまま復活して逃げて行っていた。
スキル『液体人間』、肉体を液体に変えることができる能力らしい。
詳しい説明はなかったが、想像していた通り、どうやら攻撃を受けても無効化してしまう能力のようだ。
多分、僕と同じエクストラスキルだと思う。
まぁ、このままどこかにいなくなってくれればいいや、と思っていたのだが、
「夏帆ちゃん、大丈夫だったの!?」
割と近くから声が聞こえてきた。
ちっ、どうやらそう上手くはいかなかったらしい。
「おい、見ろ。銃を持った神父がいるぞっ!」
『フレイムトルネード』が三つも巻き起こっているせいで、僕の姿が見えてしまったようだ。
僕の方に向かって、六人の人間が近づいて来ようとしている。
「永倉君? 永倉君なの?」
委員長が僕の方を見てそう言った。
ん? 永倉?
ああ、僕の苗字だったか。
最近はずっと「ユーヤ」と呼ばれていたせいで、危うく自分の苗字を忘れるところだった。
もう僕にとって僕が誰かなんてどうでもいいのだ。
僕はアナの「ユーヤ」なのだから。
「永倉君なの?」
「な、永倉だって? い、委員長、いきなり撃ってきたんだ、近付くのはヤバいって」
「おお、永倉殿が香ばしいでござる」
よし、あのピザデブ殺す。
僕が密かにそんな決意をしていると、委員長がこちらに向かって近付いて来た。
「良かった、ずっと心配してたんだよ。ねぇ、どこも怪我してない?」
お母さんか! と突っ込みそうになるが、黙っておく。
僕はこいつらと関わり合いになるつもりはないのだ。
委員長はさらに近づいて来ようとするが、途中でその足をぴたりと止めた。
なぜなら僕が銃口を彼女に向けたからだ。
「な、永倉君?」
「それ以上近付かないでください。本当は皆殺しにしたいんです。でも、委員長が一度助けてくれようとしたのに免じて、この場では見逃してあげます。僕の気が変わらない内にさっさといなくなってください」
「その手に持っているのって……」
委員長の表情がみるみる変わっていく。
何と言うか、あの真面目で「みんな仲良くしようよ」とか言ってそうないつもの感じじゃない。
なんか、僕とキスした後のアナみたいな表情だ。
ああ、あれだ。恍惚とした表情というやつである。
明らかに炎に照らされたというわけではなく、頬が赤く染まり目がとろんとしている。
「それってS&WM500!? しかも、そのバレルの長さ、10.5インチのハンターモデルじゃない? あ~ん、私、実物見るの初めて。でも、右側の刻印が普通のと違うね。きっと、オーダーメイドなのね。でも、大丈夫、私そんな風な特別な子って大好きだから。あぁ、シリンダーがとても大きいぃ。さっき撃ってたのはダブルアクションだよね? シングルアクションでも撃てる? ねぇ、永倉君、私にも撃たせてもらえない? ううん、触るだけでいいから。その長くて太くて逞しいバレルに触りたいの。先っちょだけでいいから、ね?」
「「「い、委員長……?」」」
他の五人がドン引きしている。
僕はそっとエカレスをしまい、代わりに先日手に入れた魔法の杖を取り出して、突きつけなおした。
「あぁ……」
委員長が名残惜しそうに手を伸ばしてくる。
そういえば異世界召喚された日に、貴族ぽい男に銃はないか委員長が聞いていたのを思い出した。
そうか、あれはこういうことだったのか……。
「下がってください」
僕はしっしと杖を振った。
僕が撃った島村は僕に悪口を言ってきたことがあったし、あの糸目は荷物を奪ったから正直殺してやりたいが、委員長や先生に恨みはない。
他の二人にも特に恨みは無いが、あのピザは偶に僕を馬鹿にした目で見てきた。僕が糸目や島村とかに苛められていた時だ。
だけど、本当にこの場で引くというなら全員見逃してやっても良い。
「ね、永倉君、私たちと一緒に行こう。私たち、永倉君のことを本当に心配してたんだよ」
平常運転に戻った委員長が言ってきた。
さっきまでのことは無かったことになっているらしい。
正直、そんなことするわけないだろうと思う。
糸目や島村の表情を見ていればわかる。
僕を蔑むあの目を見れば。
「委員長待てよ、あんな危険な奴と一緒に行動できるわけないじゃないか。俺たちのことを撃ってきたんだぜ」
「撃たれたのは私だけどね」
「な、永倉君は後ろにいた骸骨のモンスターを狙ってたんだよ。それに、ほら、夏帆ちゃんが撃たれても大丈夫だってわかってたんじゃない? 『鑑定』だっけ? それも持ってるみたいだったし」
いや、たまたまだけど。
だけど、そうか、こいつら誰も『鑑定』を持っていないんだ。
クラスで一番頭も良いギャル子と、その次だった僕しか取得の条件を満たせなかったのだろう。
ざまぁみろ、と思うのだが、おかしいことに気付いた。
あいつは持っていそうなのに、持っていなかったのだろうか。
だが、それは、今はどうでもいい。
さっさとこいつらを追っ払わないといけない。
ここにアナが来たら、余計話がこじれそうだ。
「でもさぁ、私は撃たれたんだよね。なら、その物騒なものは慰謝料代わりにもらっても良いんじゃない?」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが切れた。
「そうだよな、永倉みたいな危ない奴が持っているよりは、俺たちの方がよっぽど有用活用できるって」
「そ、そうでござる。さすがにヘッドショットはやり過ぎだと思うのですぞ。おかげでちょっと股間が冷たいでござる……」
「永倉ぁ、その銃こっちに寄越せよ」
いや、思い出したんだ。
僕はこいつらにとって食い物でしかないんだと。
「ふふ、うふふふ、あははははっ!」
「な、永倉君……?」
そう何度も食われてたまるかよ。
それにしても変わらないなぁ、こいつらは。
「あげるわけにはいきませんが、貸してあげますよ。受け取ってください」
僕は島村に向かってエカレスを放り投げた。
それを受け取った島村はすぐさま僕に銃口を向ける。
「おい、杖も寄越しな。言う事を聞かないと撃つよ」
そんなの予想済みだったよ。
僕は杖の照準を島村に向けた。
「ちっ、本当に撃つよ!」
いいだろう、見せてやろうじゃないか。
アナに教えてもらった力を。
何もかもを焼き尽くす火の精霊の力を。
そして教えてやろうじゃないか、僕たちは“平等”なんだってことをさ。
「【取立て】」
「えっ?」
エカレスを失った島村が間抜けな声を上げる。
エカレスは僕の手元に戻っていた。
「火よ! 熱き炎を司りしサラマンダーよ! ここにその力の一端を具現させよ! 灼熱の星を生み落せ……」
「ぐぅぅるぅあああああっ!!」
しかし、僕の詠唱は突如上がった雄叫びによって中断されてしまった。
どうやら二階層の方から聞こえてきたらしい。
雄叫びの聞こえた方に、風魔法を飛ばすと、ヘルハウンドどもがこちらに向かって走ってきているところだった。
数は四、いや、さらにその後ろに二足歩行の何かが猛然と走ってきている。
あ、ヘルハウンドが一撃で二匹殺された。
やばいぞ、何だか知らないが、こいつらの相手をしている場合じゃなくなった。
僕は右手にエカレスを持ち、左手に杖を持ち、ヘルハウンドと何かが向かってくる方に向かって構えた。
「おい、何だ!? 何か来るぞ!」
「もう、何なのよ! 次から次へと」
糸目とツインテールが喚いている。
僕は意識を集中させた。
ヘルハウンドが姿を現す、と同時にまた二匹同時にミンチとなって引き裂かれた。
そのすぐ後ろから、制服姿の金髪の女が走り込んで来て姿を現す。
なんだっ!? ギャル子、なのか?
いや、顔が違う。
なんか血管が浮き出ていて分かり辛いが、ギャル子とは違う、気がする。
血管が浮き出ているのは顔だけではなく、露出している腕や足にもくっきりと浮き出ている。
なんだ、こいつ?
『鑑定』している暇はない。
そいつは真っ直ぐ僕の方に向かってきているのだ。
「肉ぅぅぅ!」
ぬっ!? 僕のグラコンダを横取りするつもりか。
僕は慌ててその人物の前に立ち塞がったのだが、それは大きな勘違いだった。
そいつは距離が近づくと一気に飛び込んできた。
――速いっ!
狙いを定められない。
こいつ、グラコンダより速い。
「うぐぅぅるぅあああっ!!」
そいつはグラコンダには目もくれないで、僕の左腕に噛り付き、僕から腕を奪ったのだった。
次回は19時に投稿します。
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