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第二十三話 出会いたくない奴らに出会いました。

五話連続投稿のラストです。

三章突入しました。

 

 僕は酷い空腹に襲われていた。

 立っていることもできずに、その場にしゃがみ込み、バックパックの中から蛇肉を取り出して噛り付く。

 今目の前にいる魔物は食えない。

 黒焦げになっているグランチュラを『鑑定』したところ、『食用不可、毒有り』と出てきた。

 まぁ、それに虫だしね。

 虫食は出来れば遠慮したい。

 あ、でも、普通に日本で蜂の子食べたことあったな。

 味は甘かったけど、食感は完全に幼虫だった。

 でも、僕は残さずに完食したな。

 それに比べたら、この目の前にいる巨大な蜘蛛は、足をもいで中の肉を食おうとしたら、普通に蟹を食べていると勘違いできそうである。ま、毒があるんだけど。


 しかしこの光景をアナには見せられないな。

 僕の格好はズタボロで、神父服も切り裂かれている。

 魔力を流し込めば直るらしいので、それは助かる限りだ。

 アナには、アナが単独行動で、僕がクロと共に行動するよう説得されていたんだけど、男の意地というか、意固地になって僕が一人で行動すると主張してしまった。

 結果、グランチュラに不意を突かれてこのざまである。

 だけど一つだけ文句を言いたい。

 このグランチュラ、名前からしてタランチュラみたいに土蜘蛛の一種であるらしいのだが、完全に誤解をしていた。

 こいつ、糸を投げてきたのだ。

 そういえば、アナの作ってくれた耳栓には、グランチュラの糸を使っているのだという事をすっかり失念していた。

 それでもお尻をこっちに向けるとか、わかりやすいポーズを取ってくれたら、僕だって対処できたと思う。

 グランチュラは足から糸を飛ばしてくるのだ。


 まぁ、何とか勝てたから良かったものの、もし食われでもしていたら、こいつが仲間になっていたわけである。

 ……悪くないな。

 僕は蜘蛛が結構好きだったりする。他の虫は駄目だけど。

 まぁ、でも、こいつを連れて帰ったら、結局食われたことがアナにばれるし、何より食われるのはご免こうむりたい。


 はぁ。

 僕は盛大に溜息を吐いて立ち上がった。

 結局何も得ることができず、無駄に体力と魔力を消費しただけであった。

 襲われたのがまだグラコンダとかなら良かった。

 僕は食料を探しに来たのだ。


 でも、おかげで一つ分かったことがある。

 酷い空腹に襲われる直前、自分の体力を『鑑定』したら0だったのだ。

 前からそうではないかと思っていたのだが、体力は0になっても死なないらしい。

 その代わり、さっきの僕の状態からも分かる通り、動けなくなってしまうようだ。

 きっと疲れて体力が無くなったら、一度動けなくなってから、しばらく経って回復したら、また動けるようになるんだと思う。

 反対に怪我して動けなくなったら、そのまま死ぬんじゃないかという気がする。僕の空腹も多分そうだろう。

 傷が回復した後の飢餓感は尋常じゃない。

 放っておけば、そのまま餓死してしまうのではないだろうかとさえ思えた。

 ま、そんなことがわかったところで腹の足しにはならない。

 出来ればグラコンダ、駄目だったら吸血蝙蝠、最悪ヘルハウンドを捕まえるのが目的なのだ。


 僕がこうして食料を探している間、アナが何をしているのかというと、宝箱部屋を回っていた。

 クロの足はかなり速い上に体力もある。

 全力疾走すれば、一般道を走っている車と同じぐらい早いんじゃないかと思う。

 もちろんそれでは一気に体力が減ってしまうため、半分ぐらいの速度に落としているようだが。

 それでも早いことに変わりはなく、恐らく一周何百キロかはある道のりを、クロは半日以上時間があれば回ることができてしまうのだ。

 おかげで、アナが進化してからの四日間、かなりの数の宝箱を開けることができた。


 さて、問題はなぜそんなことをしているのか、という事だ。

 いつ刺客が来るかもわからないし、いつクラスの連中に追いつかれるかもわからない。

 アナの進化という目的を達した今、さっさと四階層に向かいたかったのだが、大きな問題があった。

 いや、アナが進化して人型になってしまったせいで、大きな問題が生まれてしまったのである。


 アナは下着を履いていなかった。


 進化したアナは、確かに羊みたいな角が生えていたり、蝙蝠みたいな羽が生えていたり、トラブルを起こしそうな尻尾を生やしていたりしたが、それ以外は人間の少女と変わらなくなっていたのだ。

 いや、それどころか美少女だと言える。

 緑色のショートヘアに白磁のように白くつるっとした肌、ハーフのような整った顔立ちと、テレビでしか見たことのないような美少女に、アナはなってしまったのである。

 それに合わせるように、体も大きくなっていた。

 人間の小学校低学年ぐらいしかなかった身長は、僕の頭一個分低いぐらいまでには成長している。


 だが、問題はそのせいで起きた。

 今まで着ていた白いワンピースはもともと少し大きかったらしい。

 いろいろ工夫して着ていたから、着られなくなったという事はなく、むしろちょうど良いサイズになったそうだ。

 だが、問題はここで、丈は膝より下の長さだったのに、今では太ももが露出するミニスカートへと変貌してしまっていたのである。

 嘘みたいだろ。履いてないんだぜ。それで。

 しかも、あまり胸は大きくならなかったとはいえ、着けてないなというのがわかった。


 ということで、僕が宝箱にこう願う日が始まった。


「アナのぱんてぃおくれーーーっ!!」


 いや、割とマジで。

 僕の理性がお空の彼方に飛んで行ってしまう前に、どうかお願いします。邪神様。


 そう言うと、まだアナといたしていないと思うだろう。

 したよ?

 あの日、あの後、僕たちは結ばれた。

 少しあの後のことを振り返る。




「申し訳ないのです、ユーヤ。アナは変な姿へと変わってしまいました」

「確かに……」

「そこは『アナはどんなに姿が変わっても可愛いよ』とか、慰めてくれても良くはないですかぁ!」


 アナが僕の肩を掴み、前後に揺すった。

 そう言ってあげたいのは山々なんだけど、納得できていない自分がいるのである。


 目の前にいる女の子は、早々見かけることが無いレベルの美少女だった。

 クラスで一番可愛いとされる、いや、そんな話を誰かとしたことなんてないから、あくまで僕個人の意見だが、あの委員長よりも可愛い。

 こんな美少女が恋人だと言われたら、舞い上がってしまうこと間違いなしだ。

 だけど、それはアナじゃなければの話である。

 僕の頭の中には、どうしても緑色のちんちくりんで、小動物みたいな可愛さを持った、あのゴブリーナの姿が離れなかった。


 アナは自分の体をぺたぺたと触って、改めてどうなったか確認しているようであった。


「でも、尻尾と羽と角さえなければ、だいぶ人族の姿に近づいたとは思いませんか? 背もユーヤに近くなったのです」


 そう言って彼女は僕を見上げてきた。

 唯一変わらなかった赤い目で。

 良かった、ここだけは変わらなかったんだ。

 僕はそう思いつつ、何気なくアナの右目を片手で広げて顔を近づけた。


「ゆ、ユーヤ? お顔が近いのです……」


 僕はそのまま思わず、彼女の眼球をぺろりと舐めてしまった。


「ニギャーーー! 何するですか?!」


 アナが全力で僕から離れて行く。

 何と言うか、仕草もやっぱり彼女のままだ。


「いや、目はそのままだなと思ったら、つい」

「うぅ……、アナだって好きでこんなに変わったわけではないのです。だいたい何ですか、魔王種って」


 いや、僕に聞かれても……。


「魔王というのは昔からいて、倒しても何度も復活する存在だと物語では描かれてきました。ですが、アナの持っている『外法・禁術大全』によると、魔王とは魔族を束ねる存在のことだそうなのです。確かにそれなら何度でも復活するのです。でも、どっちにしてもそれでは魔王種の意味がわからないのです」

「へぇ、そうなんだぁ」


 としか言いようがない。

 僕はアナがたとえ魔王になったとしても、ずっとそばにいるつもりだし、アナがそんなことするとは言わないだろうが、人族を滅ぼすとか言い出したら、手伝う覚悟だってある。

 ただ、今はちょっとアナの姿に慣れない、と思っていたのだが、目や仕草だけじゃなく、声や口調も以前のアナと変わらないものだった。


「ユ、ユーヤはアナがもし魔王になっても見捨てたりしませんか?」

「うん、アナがたとえ何になっても、僕はずっとアナのことを好きでい続けるよ」


 本心からそう言い、微笑んだ。

 アナも嬉しそうに笑う。

 うん、やっぱりアナはアナなんだ。


「ところで、アナはどうなったのですか? 色々と余計なものはついてしまいましたが、女の子として見えるのでしょうか?」


 そうか、鏡なんかないもんな。

 そういえば、確かに色々と変なものがついているけど、胸はあんまりつかなかったらしい。真っ平だったのが、ちょっと盛り上がった? ぐらいしか変わっていない。

 ざ、残念なんかじゃないぞ。それに、無いわけじゃないし。

 もちろんそういう余計なことは胸にそっとしまっておく。


「うん、見えるよ。すごく可愛い」


 正直な感想を言うと、アナの顔が真っ赤に染まっていった。


「では、そ、その、約束を……」

「え?」


 うん? 約束って何だっけ?

 本気でそう思ってしまったのだが、クロがまたしても気を効かせて、広間から出て行ったのを見て察した。

 そういえば約束したねっ! 進化したら、その、いたすという約束を。

 でもちょっと待て。

 本当にこのアナとするのか? いや、できるのか?


「それとも、変わり果てたアナとはしたくないですか?」

「アナ……」


 捨てられた子犬のような目でアナが見詰めてくる。

 そして、僕に詰め寄ってきた。

 僕は自然と彼女を抱き締め、大人の階段を上ったのだった。




 という事があってからというもの、再び僕の中の雄オークが覚醒してしまった。

 なんか大人になったな、僕も、と思えたのはその日だけで、その日以降は僕の中の雄オークさんが大暴れしている。

 このままではアナに嫌われてしまう、と思うのだが、どうやらアナの方も雌オークさんが覚醒してしまったらしく、このままでは仲良く『色欲』当たりに目覚めそうである。

 まぁ、別にそうなって僕にも角だのなんだのと生えてきたら、悪魔の夫婦でちょうどいいかなどと考えていると、何やらシュルシュルと岩の間を縫って、何かを追っているらしきグラコンダを見つけた。


 グラコンダの向かっている先を風魔法で調べると、そこには我が友ゴブリンが二匹いるらしい。

 ほほう、どうやら我が友はグラコンダにロックオンされているようだ。

 しかも追われていることに気付いていないようである。

 これは絶好のチャンスであった。

 獲物を追っている時が一番油断しやすいと、何かで聞いたことがある気がする。

 ま、それは僕にも言えることなので、僕も周囲を警戒しつつグラコンダの後を追う。

 そうだ、彼は自分の周囲の警戒を怠ったから、後ろからパンっ、されたのだ。

 うん、いい加減ネタから離れよう。


 僕はなるべく気配を消して、グラコンダの後を追った。

 ここ数日、アナに指導してもらって気配を消したり、足音を立てないようにしたりと、だいぶ冒険者ぽくなってきたと思う。

 戦い方が、銃を使うか魔法を使うかになってしまっているけど、そもそも魔物に対して素手で立ち向かおうとする方が間違っているのかもしれない。

 魔物じゃなく、相手が野生動物だったとしてもそうだ。

 熊に人間が素手で戦って、人間が勝つことはあっても、倒すことは出来ないのである。

 要は、追い払うことは出来ても、殺すことは出来ないという事だ。

 その熊より魔物の方が強いのだから、武器を使って戦いを挑むのは当然だ。

 あれ? 本当にそうかな?

 グラコンダと羆だったら、羆の方が強くないか?


 僕が余計なことを考えている内に、随分移動してしまった。

 暗すぎてよくわからないが、多分二階層の方に近づいて来てしまっている。

 今日中に帰れるか不安だが、まぁ、最悪クロが迎えに来てくれるだろう。


 グラコンダが止まった。

 ようやく襲う気になったらしい。

 僕は先回りして、グラコンダの口を狙う。

 ゴブリンは二匹ともまだ気づいていない。

 グラコンダが鎌首をもたげた。


「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」


 グラコンダが大口を開け、ゴブリンに襲い掛かろうとする。

 ゴブリンがようやく気づき、恐怖に固まるが、


 ズガァァァンっ!


 僕の放った魔法弾が、グラコンダの口腔内に吸い込まれ、グラコンダが中から『ファイアボール』に焼かれた。

 グラコンダがその場に倒れ、ゴブリン達は慌てて逃げて行った。


「アーメン」


 十字を切ってグラコンダに近づいて行こうとするのだが、今度は複数の足音が、僕が来たのとは反対方向から聞こえてきた。

 ゴブリンがヘルハウンドにでも追われているのだろうか?


「風よ、音を集めよ」


 しかし、それはゴブリンの足音でも、ヘルハウンドの足音でもなかった。

 すぐにわかったのは、足音以外にも、話し声が聞こえてきたからだ。


「みんな早く走って。骸骨に追いつかれるわ」

「ちくしょうっ、死にたくない!」

「あぁん、もう、どうせなら触手とかが良かった」

「その意見に一票でござる」

「門田キモい」

「みんなしゃべってないで走りなさい!」


 こっちに向かって走ってくるのは、人間が六人と八体の骸骨騎士だった。

 僕は咄嗟にウェルダンに焼かれたグラコンダの陰に隠れ、額に手を当て、天を仰いだ。






次回ですが、明日というか今日(8/13(日))もまた投稿します。

連続で行きたいのですが、ストックがあと二話しか残っていません。

あと一話仕上がれば、それも投稿します。

一応予定としては17時、19時に投稿いたします。

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