第二十話 アナが進化(?)しました。
五話連続投稿二話目です。
邪神(?)に出会ってから四日が経った。
ちなみに僕がここに閉じ込められてから、一週間である。
この四日間で変わったことは特にない。
一つ変わったことがあるとすれば、ステータスだろうか。
僕もアナも、銃をしっかり持てるようにするため、腕立てなどをして体を鍛えるようになった。
尤も、僕は日本にいた時はずっとしていたから、再開したというだけだけれど。
でも、そのおかげなのか、ステータスが少し伸びたのだ。
ただ、やっぱり実戦の後の方がステータスは伸びているような気はする。
ちなみに僕のステータスは次の通りだ。
≪名前≫永倉勇也
≪種族≫人族(変異種)
≪称号≫ゴブリンの友
≪年齢≫16
≪身長≫169cm
≪体重≫59kg
≪体力≫17
≪攻撃力≫15
≪耐久力≫15
≪敏捷≫14
≪知力≫12
≪魔力≫21
≪精神力≫18
≪愛≫70
≪忠誠≫0
≪精霊魔法≫火:94 水:6 風:85 土:15
≪スキル≫食用人間:捕食者の旨いと感じる味になり、肉体の再生に捕食者の寿命を使用できる。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
自己犠牲:自分が死ぬ時、仲間と認識した者の能力にブーストがかかる。
まぁ、ぱっと見わからないかもしれないが、伸びたと言ったら伸びたのである。
次にアナのステータスだ。
≪名前≫アナベル
≪種族≫メイジゴブリーナ(変異種)
≪称号≫赤熱の魔女の申し子
≪年齢≫14
≪身長≫129cm
≪体重≫28kg
≪体力≫9
≪攻撃力≫6
≪耐久力≫7
≪敏捷≫7
≪知力≫18
≪魔力≫16
≪精神力≫15
≪愛≫90
≪忠誠≫40
≪精霊魔法≫火:43 水:57 風:52 土:48
≪スキル≫炎獄魔法:術式魔法、理によって熱と炎を生む魔術の中で、最上級のクラスのものの一つ。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
憤怒:怒りの感情に反応し、能力にブーストがかかる。
うん、ちょっとずつ伸びている。
さて、ここでアナに教えてもらった面白いことを披露しようと思う。
この世界の冒険者とステータスについてだ。
やっぱりこんなダンジョンが存在する異世界なんだ。冒険者というのは存在したらしい。
アナの師匠も高ランクの冒険者らしく、かなりの有名人であるらしい。
そう、ちゃんとランクも存在するのだ。
面白いのはアルファベットだったり、金属の名前だったりじゃないことで、魔物の名前なのである。
最下級がオーク級である。またの名をオークブレイカーともいう。
これはどういうことかというと、オークを一対一で討伐できる、ということなのだ。
オークのステータスは高いもので13に到達することがあるらしく、一般の成人男性よりは明らかに強いのだそうだ。
僕が勝てたのはボクシングを使ったのと、もともと体を鍛えていて、ステータスが高かったおかげだろう。
冒険者ともなれば、最低でもそのオークは倒せなくてはいけないらしい。
以降もその名前の魔物を一対一で討伐できるかどうかでランクが決まって行く。
ステータスも個体差はあるが、変異種でなければそれほど大きな違いはないため、それを自分のステータスと比べてみて、参考にすることもある。
特に魔力が10に満たない冒険者は、攻撃力、耐久、敏捷辺りを特に参考にするのだそうだ。
まぁ、尤も自分かパーティメンバーか、もしくは知り合いとかが『鑑定』を使えればの話だけど。
ちなみに僕はステータスでいえばオーク級に当て嵌まるようだ。
正面から殴り合ったら、次のトロール級には絶対届かないらしい。
トロールは三メートルある巨人で、体力、力、耐久が高いもので20を超えるそうだ。
ただ、知能がオークよりも低く動きも鈍重なため、差し引いてこちらの攻撃と敏捷が17から19に達していれば何とでもなるらしい。まぁ、どっちにしろ僕には無理だ。
だけど実際は、人間には魔法もあるし、武器や防具だってある。スキルを出すと、それは魔物にも言えるから何とも言えなくなってしまうけど、前者が人間のアドバンテージになっているのは間違いない。
僕もエカレスありきなら、トロール級のさらに先、キマイラ級でも行けるかもしれないとアナに言われた。
キマイラはおそらく僕の知っているキマイラなんだと思う。
四足歩行でクロ並の巨体で、鬣があって、尻尾から火を噴くらしいから。
こいつのステータスは高いもので25を超えてくるそうだ。
そして、こいつを倒せるようになると、人間とは認められなくなってくるらしい。
化物に片足を突っ込んだというか、ほとんど化物扱いなのだそうだ。
特にそれが素手だと、トロール級の時点で人外扱いのだが、キマイラ級ともなれば、憧れられるか恐れられるかの二択しかない。
まぁ、僕が倒せたとしても、エカレスなしでは無理そうだし、というか、エカレスヤバいな……。
しかし、その次のバジリスク級、アナの師匠もこれらしいのだが、バジリスクが相手だとどうなるかわからないようだ。
いや、アナの言葉から察するに、多分勝てないのではないかと思う。
アナの師匠が相手でも、弾を当てられれば僕が勝てるかもしれないらしいが、一発でも外せば、もしくは初めから銃の性能を知られていれば、ほぼ確実に僕では勝てないのだそうだ。
正しく人外なのである。
さらにアナの師匠が恐ろしいのは、ステータスが全体的には僕よりも低いという事だ。
アナの師匠は知力と魔力、次いで精神力が高く、あとは並の冒険者と変わらないらしい。
それだけでそこまで上り詰めたというのだから驚きだ。
だが、それでもその上がある。
一番上である階級はドラゴン級、またの名をドラゴンスレイヤー。
か、カッコいい。
男なら憧れて当然だ。……当然、だよね?
オーク級がブレイカーだったのに対し、トロール、キマイラ級はバスター、バジリスク級はキラー、そして、ドラゴン級はスレイヤーである。
うん、やっぱりドラゴンはスレイヤーでないとだめだ。
もうこのクラスになると、英雄だ。
人族の中でドラゴンを倒せるのは、両手の指の数より少ないらしい。
まぁ、そんなことを聞いた僕は、このダンジョンから出て冒険者になるという事に憧れていたりする。
アナと一緒に冒険者になって、異世界中を回るのだ。
ドラゴンスレイヤーは無理でも、バジリスクは目標にしたい。
というわけで、まずはこのダンジョンの魔物を一対一で倒せることを目指すことにしていた。
なんといっても、このダンジョンも最難関のダンジョンの一つらしい。
三階層以降は、並の冒険者では辿り着くこともできないのだそうだ。
ここで強力な魔物に揉まれていれば、きっと脱出してからも冒険者として上手く立ち回れるようになるだろう。
だから今はアナと別行動をしていた。
アナはアナでゴブリンの心臓を集めないといけないし、僕も一人で立ち回れるようになりたかったから、別行動をすることにしたのだ。ちなみにクロはアナについて行ってもらっている。
元々アナはこの階層では隠れて過ごしていたらしいから、戦うのであればクロがいてくれた方が安心だ。
それでは僕が危ないと怒られたけど、僕だって一人で戦えるようになりたいし、何より、僕は死なないのだから、最悪死んでも問題ない。……言っていることがおかしいけど。
そんなことを考えている間に、魔物を発見した。
というより、こっちに気付かれたのに、僕が気付いたのだ。
シュルシュルと背後から近づいてくる気配があり、咄嗟に振り返ると、岩で出来た鱗を持つ大蛇、グラコンダが僕の後をつけて来ていた。
僕が気付いた瞬間に口をがぱっと開けて襲い掛かってくる。
僕はグラコンダが口を開けたと同時に横に向かって走っていた。
グラコンダ相手に真っ直ぐ下がるのは危険だ。
なぜなら奴は口から岩の弾を発射してくるのである。
これは精霊魔法にも術式魔法にも当て嵌らない魔法で、内蔵魔法という。
読んで字の如くであるが、魔物の中には魔法を発生させるための内臓を持っている魔物がいるのだ。ドラゴンのブレスもそれに当て嵌まり、このグラコンダもそうである。
このグラコンダ、この階層でもステータスが一番高く魔法まで使ってくるから非常に厄介なのだ。
僕は走り始めると同時に耳栓をつけた。皮手袋は初めからつけている。
エカレスを神父服の中から抜き放ち、いつでもぶっ放せるようにしておく。
グラコンダもすぐに方今転換して僕を追ってきている。
僕はすぐにその場で止まり、エカレスを構えた。
どうせグラコンダと追いかけっこしたって勝ち目はないのだ。
だったら、早く魔法弾をぶち込んで決着をつけるに限る。
グラコンダは僕が突然立ち止まったことに驚いたのか、自身も動きを止めている。
隙だらけだ。
ヘッドショットを狙いたいが、素早く動いて避けられる気がして、狙いをもっと胴体の方に絞った。
引き金を引く。
ズガァァァンっ!
着弾。
炸裂。
破壊。
炎上。
だけどまだ倒すには至っていない。
グラコンダも、鱗の一部を破壊され、そこをちょっと燃やされて驚いている、という程度である。
すぐさま怒ったグラコンダが岩を飛ばしてきた。
全力で避ける。
当たったら砕けて潰されそうだ。
横っ飛びした僕に、チャンスとばかりにグラコンダが食らいついてきた。
残念。僕だって銃を撃ってから、何もしていなかったわけじゃない。
僕はエカレスの先で描いた術式を発動させた。
「【紅蓮の柱】」
魔法陣がグラコンダの頭上に飛んでいく。
そして、
ドンッッッ。
アナほど強烈じゃないけど、炎の柱がグラコンダに向かって降り注いでいった。
まぁ、低火力で僕も助かった。
位置的に一緒に燃えていただろうから。
しかし、やっぱり僕の『紅蓮の柱』じゃ、火力不足みたいだ。
グラコンダが燃やされながらも、僕を睨みつけている。
まだまだやれるらしい。
冗談じゃない。
僕はグラコンダの頭に狙いを定めた。
「主のために守らん。主の御力を得て、主の命を実行せん。川は主の下へ流れ、魂は一つにならん。父と子と聖霊の御名において」
ズガァァァンっ!
ズガァァァンっ!
ズガァァァンっ!
三発目でやっと頭が吹き飛んだ。
何とも固い奴だ。
ま、これで今夜は蛇の丸焼きにありつける。
「アーメン」
そういえば、大事なことを忘れていた。
今の戦いから分かる通り、僕はアナに術式魔法を習い始めたのだ。
まぁ、だけど、ご覧の通り、あまり才能はないらしい。
何と言うか、難しすぎて理解できないのである。
簡単な術式の書き方は何とか覚えられたが、それを応用していくのが何とも……。
それに実戦で使うには、その場で暗算しなくてはいけない。
二桁同士の掛け算を五秒以内で解けと言われているようなものだ。
それでも、愛するアナに追いつくため、何とかあの『紅蓮の柱』を使えるようにはなった。
おかげで知力が上がってしまったぐらいだ。
でも、努力の甲斐はあったと思う。
あれで上級魔法と同程度の火力があるのだ。いや、僕のがそうかと言うと、ちょっと首を傾げざるを得ないのだが。
まぁ、それでも魔力を20消費するらしい上級魔法を15程度使えるようになったのである。これは僥倖だ。
あれ? でも、僕は火魔法の親和性がやたら高いおかげで、魔力が消費軽減されているよな。20なら12程度で使えるんじゃ……。
うん、今夜はアナに上級魔法を教えてもらおう。
アナのゴブリンの心臓集めも順調に進んでいる。
一日に何度もえずいている姿は可哀想ではあるが。
それに本人もやる気なんだ。止めるわけにもいくまい。
そのおかげで、あと十個程度で進化できるらしい。
上手くいけば明日にでも進化できるだろう。
今から楽しみだ。
ん? 何が楽しみかって? ははは、察してくれたまえよ。
僕はウキウキしながらグラコンダを解体し、何回かに分けて宝箱部屋に持っていった。
あんな重たい物を一度に持っていくのはちょっと無理だ。
今日はこいつで前祝いといこう。
うん、こいつ結構旨いのだ。魚……? いや、鶏肉の方が近いかもしれない。若干臭みがあるが、歯応えがあり、噛むと肉汁が溢れてくる。
アナが帰って来るのが今から楽しみだった。
僕が最後のグラコンダの肉片を運び入れてから一時間ぐらい経っただろうか。
扉の外から何かが近づいてくる気配がする。
というか、近付いて来るのが丸わかりである。
「わぁぁぁん、わぁぁぁん」
クロの鳴き声ではない。
アナの泣き声だ。
なぜかアナが泣きながら近付いて来るのだ。
どうしたのだろう? まさか怪我でもしてしまったのか?
それともクロに何かあったとか?
「ユーヤぁ、アナは計算を間違えましたぁっ」
アナが広間に入ってきた。
途端に、僕は目玉が飛び出るほどに目を見開いてしまった。
「アナは『外法・禁術大全』を読んでから、食べたゴブリンの心臓の数は数えていたのですが、それ以前に空腹で食べた心臓の数を数えていなかったのです。進化する瞬間を一緒に祝おうと言っていたのに、さっきゴブリンの心臓を食べたら進化してしまいましたぁ。わぁぁぁんっ、ごめんなさぁいぃぃぃ」
うん、確かに残念だけど、問題はそこじゃない。
「しかも、なぜか種族に括弧書きでおかしなのがついているのです。もしかしたら大罪系のスキルを取ったせいかもしれないのです。こんなはずじゃなかったのです」
いや、うん、僕の目の前にいるのは、どう見てもホブゴブリンとか、そんな感じの魔物ではないのだ。
というか、魔物なのか?
僕は『鑑定』を発動させた。
≪名前≫アナベル
≪種族≫メイジホブゴブリーナ(魔王種)
≪称号≫赤熱の魔女の申し子
≪年齢≫14
≪身長≫150cm
≪体重≫44kg
≪体力≫25
≪攻撃力≫19
≪耐久力≫21
≪敏捷≫23
≪知力≫18
≪魔力≫31
≪精神力≫15
≪愛≫90
≪忠誠≫40
≪精霊魔法≫火:43 水:57 風:52 土:48
≪スキル≫炎獄魔法:術式魔法、理によって熱と炎を生む魔術の中で、最上級のクラスのものの一つ。
鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。
憤怒:怒りの感情に反応し、能力にブーストがかかる。
魔王の種子:魔王に覚醒する可能性を秘めている。
うん、なんか色々と凄いことになっているね。
え? アナは魔王になるの? 体型変わり過ぎだし、ステータスもおかしいし……。
あれ? もうアナと殴り合ったら、普通に僕が負けるぞ?
だけど、何より一番の変貌を果たしたのがその見た目だ。
僕の目の前にいるアナは、先っちょがハート形になった尻尾を生やし、蝙蝠みたいな羽を生やし、羊みたいな捩じれた角を生やしている。
うん、ホブゴブリンじゃないね。悪魔だね。
そして、緑色のショートヘアの美少女になっていたのであった。
二時間後、21時にまた投稿します。