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第十八話 頭蓋骨の正体は、多分邪神でした。

五話連続投稿のラストです。

感想、質問、意見、ダメ出し、何でもいいのでお待ちしております。

 

「うーん、良い反応ですね。話し掛けた甲斐があるというものです」


 僕たちは一斉に骸骨騎士の頭蓋骨を取り囲んで臨戦体勢に入った。

 しかし、この後どうすればいいかさっぱりわからない。

 向こうはただの頭蓋骨で、何ができるのか、何をしてくるのかわからないのだ。


「おやおや、そう殺気立たないでくださいよ。ただの頭蓋骨に何ができるっていうんですか?」

「少なくとも話し掛けているのです。宝箱部屋の守護者が話すなんて聞いたことがありません。貴方は何なのですか? 敵ですか?」

「……」

「あ、あの、急に黙らないでください」

「返事があるぞ。ただの屍なのに……。なーんて。あっはっはっはっはっは。どうです? 面白かったですか?」


 待て待て、何でただの頭蓋骨がそんなネタ知っているんだろう? 

 もしかして、クラスの誰かがスキルで話し掛けているとかか?


「さて、冗談はほどほどにして、質問にお答えしましょう。

 僕は貴女の敵ではありません。そして、そこのワンちゃんの敵でもありません。ですが、そっちの年の割にダンディなお兄さんの敵かと聞かれると、わかりませんね」


 ダンディとか初めて言われた。

 いや、それは今はいい。

 問題はこいつとこのまま戦闘しなくてはいけないかという事だ。

 正直強さが全く分からない。

『鑑定』してみても、『頭蓋骨』としか出てこないのだ。


「ユ、ユーヤの敵はアナの敵です」

「あっはっはっはっはっは、とりあえず今すぐどうにかしようなんて思っていないから安心してください。ご覧の通りただの骨ですしね。

 それにしても、愛する男のために体を張ろうとは、なかなか良い女ですね。貴女」

「そ、そんな風に褒めたってダメなのです。アナはユーヤのものなのです」

「え? 良い女だとは言いましたが、別に僕のタイプではないですよ。僕は完璧なプロポーションを持つ女性でなくては駄目なんです。貴女じゃあ、ちょっとねぇ」

「ユーヤぁ」


 アナが僕に泣きついてきた。

 とりあえずよしよしと頭を撫でてやる。


 それにしても、完全に向こうのペースだ。

 三体一、向こうは頭だけなのに、上手くやり込められてしまっている。

 まったくこいつは何者なのだろう? そして、何が目的なんだ?


「それで、何か用事があるんじゃないですか?」

「そうそう、すっかり忘れるところでした。単純にアイテムのプレゼントを渡しに来たのと、あとはちょっと愚痴を言いに来ました」

「ぐ、愚痴?」


 僕が少し呆気に取られて訊くと、そいつは溜息を吐きながら「ええ」と答えた。


「全く以て酷いんですよ。今ここに君やクラスのお友達が「友達じゃありません」……、同じクラスの人が来てしまったこともそうですけどね、外も外で酷いことになっているんです」


 僕は咄嗟に否定してしまったが、そいつは意に介することもなく話を続けている。


「まぁ、君たちがここに来たのは君たちのせいじゃないでしょうし、そのおかげで僕もなんか外がおかしなことになっていると気付いたんで、責めるつもりもないんですよ。ただね、君たちが僕の邪魔をするようなら……殺してしまった方が良いかもしれませんねぇ」


 刹那、空気が変わった。

 全身を圧迫するような気配が辺りを満たしている。

 背中を嫌な汗が流れ、瞬き一つすることができない。

 そして、気付いてしまった。

 こいつはその気になれば、いつでも僕を殺すことができるんだ。

 今は何かの気まぐれで放っておかれているに過ぎないのだ。


「なぁんてね」


 途端にさっきまで辺りを包んでいた圧迫感が消え、僕は堪らずに膝をついてしまった。


「ユ、ユーヤ、どうしたのですか?」


 アナが心配そうに僕の肩を掴んできた。

 どうやらさっきの威圧は僕に対してだけ向けられたらしい。

 クロも不思議そうな顔を僕に向けている。


「言ったじゃないですか。今は何もしないって。それにしても、まだ睨むが元気があるとは、君、なかなか見所がありますね。あっはっはっはっはっはっ」


 アナに「大丈夫」と言って、立ち上がった。

 こいつ、何ともふざけた奴であるが、非常に危険だ。

 外がどうとか気になることも言っていたが、今はそんなことどうでもいい。

 戦う気が無いって言うなら、早々にお引き取り願いたい。

 なんか、似たようなパターンがつい最近あった気もするが。


「ご安心を。本当に戦うつもりはないんです。むしろ、お祝いを言いに来たんですよ。何て言っても、君は閉じ込められた人たちの中じゃ、宝箱部屋に一番に辿り着いていますからね。一等賞です。なので、特別に出血大サービスしちゃいますよ。えいっ」


 気の抜けるような掛け声とともに、僕たちと頭蓋骨の間に煙が立ち込めた。

 煙が晴れると、そこには宝箱が二つあった。

 どっちか選べという事だろうか。


「ああ、両方とも差し上げます。どうぞお好きな方から開けてみてください」


 言われて、向かって右から恐る恐るではあるが、開けてみようとする。

 しかし、宝箱に手を掛けたところで止められた。


「ちょっと待ってください。一つアドバイスさせてください。なーに、年を取ると若者に偉そうにしたくなっちゃうんですよ」


 声だけ聴くと、僕より若そうなんだが。

 その前に男なのか女なのかもわからない。

 僕って言っているから男だとは思うけど……。


「さ、ではでは、おほんっ。君にお聞きします。人はみな生まれながらに平等だと思いますか?」

「思いません」


 当たり前だ。

 貧富の差、身体能力の差、生まれながらに人が平等なわけがない。

 むしろ、そんなことを本気で信じている人間がいるのかと思う。


「ふむふむ、なるほど。君の言わんとすることはよくわかります。では、人の命はみな平等だと思いますか?」

「それも違うと思います」


 そんなのほぼ同じことだろう。

 年齢による優劣だってある。

 他にぱっと思いつくのは金だ。

 例えば貧乏人と金持ちが同じ致死性の病気にかかったとして、その治療には莫大な金が必要だったとする。当然助かるのは金持ちの方だ。命はある程度なら金で買えるんじゃないかと思う。


「ふーむふむ、なーるほどー」


 凄い馬鹿にされている感じがする。

 一体何が言いたいんだ?


「では僕が君に『真理』を一つ与えましょう。

 人の命は生まれながらにして『平等』です」


 眉間に皺が寄るのを抑えられない。


「ええ、ええ、わかりますとも。『そんなわけないだろ』そう思っているんですね。ですが、そうとも言い切れません。人は生まれ、死んでいく。過程はどうあれ、それは同じでしょ?」


 僕は頷いた。

 だけど、その過程が問題なんじゃないか。

 幸福に生きるか不幸に生きるか、勝ち組か負け組か、それが人生だろう。

 アナも僕同様訝しむように頭蓋骨を見ていた。

 アナは卑屈な所があるから、もしかしたらゴブリンの命なんて軽いと思っているのかもしれない。


「過程なんてね、問題じゃあないんですよ。ゴブリンに生まれようが「アナはゴブリーナです」……失礼、ゴブリーナに生まれようが、人間に生まれようが、大した違いなんてないんです。なぜか? 答えは簡単です。そもそも生きることに意味なんてないからです。命なんてのはね、等しく無価値なんですよ。価値感なんて個人によって違います。そこにいる御嬢さんの命は、例えば君のクラスの人から見たらきっと軽い物でしょう。ですが、君から見た御嬢さんの命はとても重い。自分の命よりも。人から見たら重さが違うのに、そこに優劣があるとは言えないじゃないですか。ですが、結局はね、死んでしまうんです。遅かれ早かれ、望もうと望ままいと。それが命というものです。生まれて来ようが、生まれて来なかろうが一緒。生きてようが死んでようが変わりません。等しく無価値で、重さなんて存在しません」

「あ、アナはそうは思いません。アナには出来ませんが、人族は交尾して子孫を残していきます。命は繋がっていて、無価値なんかではないと愚考します」

「あっはっはっはっはっはっ、子孫の繁栄なんて無意味でしょ。いくら残していったって、この星はいずれ壊れるんですよ。まぁ、その前に人族が滅亡しますけど。子孫の繁栄なんてね、愚かな本能の命令に過ぎないんです。人間はそれに逆らえないだけ。もう一つ『真理』を上げましょう。人を殺すのは必ずその親である。自分の子供を殺す覚悟が無いなら、子供なんて作らない事です」


 アナが今にも泣きそうな顔で頭蓋骨を睨んでいた。

 アナは、そうか、恋がしたいっていうのもそうだけど、子供も作りたかったんだ。


「人間は、いや、生物はね、生まれた瞬間に死ぬことが決定しているんです。死ぬとわかっていて産む。それは殺すことと何の違いがあるんですか? 結局エゴなんですよ。子供を作るなんていうのは。もしくは命を生み出すことを、素晴らしい行為だと勘違いしているんです。本能のせいでね。子供は生まれて来ることなんて望んでいません。だってほら、生まれたらすぐに泣くでしょ? 生まれたくなかったよぉって。あっはっはっはっはっはっ」


 こいつヤバい。

 何と言うか、常識が通じ無さ過ぎる。

 かと言って、こいつの言っていることが必ずしも間違っているとも思えない。

 少なくとも、今の僕には反論できなかった。

 アナはもうちょっと泣いちゃっているし、さっさと去りたいけど、宝箱は気になるしな。


「はぁ、人と話すのも久々でして、つい長話してしまいました。こう見えて僕ね、すんごい人見知りだったんですよ。成長したなぁ。あ、もう開けていいですよ」


 くそっ、どんだけマイペースなんだ。

 だけど、貰える物は貰っておきたい。

 そして、貰ったらさっさとここを出よう


 僕が宝箱を開けると、そこには二丁の拳銃が収まっていた。

 拳銃ないって言ってたじゃん……。

 まぁ、いい。

 武器は必要だ。

 それにしても、両方ともやたらデカい。

 黒の銃と銀の銃で、特に銀の銃の方が何と言うんだろう、筒の部分が長いのである。


「デザートイーグル.50AEとS(スミス)W(ウェッソン)M500です。その銃が君の敵の命を『平等』に刈り取ってくれるでしょう。それぞれすでにヴェリタスとエカレスの号が入っています。意味は『真理』と『平等』です。ああ、あと、弾は『魔法弾』と言って、それぞれマガジンとシリンダーに魔法を撃ちこむと弾が生成されます。便利でしょ?」


 確かにそれはすごい。

 事前に弾を込めておけば、戦闘時は魔力が全快の状態で魔法を何発か放てるということか。

 S&WM500、エカレスはどうやら五発まで弾を込めておけるらしい。デザートイーグル、ヴェリタスは……これどうやってマガジン出すんだ?


「ああ、それはグリップとトリガーの間にマガジンキャッチボタンがあります。あ、もっとぐぐっと押してください。あと左右両側に安全装置があるので。細かい説明は一緒に説明書を入れておいたので、自分で確認してください。あ、あと、S&WM500は慣れるまでは一発ずつ弾を込めて練習してくださいね。一緒に衝撃吸収の効果がある皮手袋をお付けしますが、もし、素手で撃ったら、すごいですよ」


 なんか最後に気になることを言われたが、一応「ありがとうございます」と礼は言っておく。


「いえいえ、これは正当な報酬ですよ。僕が定めた、ね。それより、ほら、宝箱はまだもう一つありますよ」


 言われて、左の宝箱を開けた。

 心の中で「トレンチコート来い!」と叫んでしまったが、どうやら違うらしい。

 だが、服には違いない、のか?

 中から現れたのは黒い神官服だった。

 いや、神父が来ているような服と言えばいいのだろうか。緩やかなもっさりとした服ではなく、動きやすそうではあるけれど。

 だが、何より特徴的なのは背中だ。

 背中に刺繍が施してある。それも、なぜか薔薇の。


「それはクルヴァラス教の神父服(ストラ)をちょっと改造したものです。『形状記憶』の術式を組み込んであるので、焼かれて灰にならなければ、魔力を注げば元通りになります。しかも『温度調整』もあるので、着心地抜群。至れり尽くせりでしょ? ま、防御力は一切ないんですけどね。

 本当はクルヴァラス教の抱える黒薔薇騎士団のプレートアーマーなんてのもあるんですが、君の戦闘スタイルには向いていませんし、何よりそっちの方が、何と言うか……香ばしいじゃないですか」

「やめろっ!」


 思わず叫んでしまったが、頭蓋骨は相変わらずケタケタと笑っているだけだった。

 これを着て歩くのか? 

 完全にイタイ人だ。いや、トレンチコートでも一緒だったような気はするけど。

 そして、頭蓋骨に言われるまで、ちょっとカッコいいかも、と思っていた僕はもう手遅れなのかもしれない。


「あ、あと、その上履きもなんとかしましょうか。正直……ダサいです」


 そう頭蓋骨が言うと、ポンと煙が上がって、ブーツが現れた。

 神父服にブーツって、どうなんだろう?

 まぁ、でも、上履きよりはマシか。


「ただのブーツです。ABCDマートで売ってました」


 この頭蓋骨、本当に何者なのだろう?

 ABCDマートは日本にもある靴の量販店だ。

 なぜ地球で売っている物を異世界から取り寄せられるのか。

 正直こいつの正体はなんとなく思い付くけれど、今は触れたくない。


 異世界モノの定番と言えば、こういう奴とのラストバトルだけど、今こいつと戦えと言われても、絶対に勝てる自信が無いのだ。

 僕が死ぬだけならまだいい。

 でも、今はアナがそばにいる。彼女のためにもなるべくこいつを刺激したくない。


「そ、それじゃ、何から何までありがとうございました。では、さようなら」

「ええ、また会える日が来ることを楽しみにしていますよ。それと、先ほど述べた『真理』は君に与えたアドバイスです。忘れないでいれば、役に立つ日が来ることも、あるような、ないような」


 どっちだよ!

 と突っ込みたいが、黙っておこう。

 もう、うん。さっさと去りたい。


 しかし、去る間際、アナが聞かなくても良かったことを聞いてしまった。


「ま、待ってください。貴方は神様ではないのですか? 神、『ザ・プレイヤー』様では?」


 おぉう!?

 何だ、そのいかにも邪神ですよっていうネーミングの神様は。

 もう、「この世界は俺のゲームで、俺がそのプレイヤーだ」的な邪神感が詰まり過ぎている。


「ぼ、ぼぼ、僕がそんな変な名前の神様なわけ、な、ないじゃないデスカー」


 誤魔化し切れていません、邪神(?)様。


「ま、まぁ、人が僕をどう呼ぼうが、僕は僕です。僕は自分がしたいようにするだけです。今回こうして会いに来たのも、僕がそうしたかったからです。ただの気まぐれなんですよ」

「あ、アナは神様が言っていたことに、納得してはいないのです。ですが、ユーヤを助けてくれたことは、たとえ気まぐれでも感謝してもし切れないのです。本当にありがとうございました」

「だから、神じゃないって……。まぁ、いいでしょう。僕の行いをどう受け止めようとも貴女の自由です。では、今度こそ、さようなら」


 その言葉を最後に、頭蓋骨はうんともすんとも言わなくなった。

 そして僕たちも、その場をあとにしたのだった。

 僕は何とも釈然としない感じだったのだが……。


次回も明日(日付的には今日ですが)に連続投稿します。

ちょっと話数が未定ですが、少なくとも3話はいけると思います。

また17時から二時間ごとに投稿いたします。

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