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第十七話 頭蓋骨に話し掛けられました。

五話連続投稿その四です。

 

 さっきから結構な距離進んでいるのに、魔物に全く出くわさない。

 いや、さっきからちょいちょい気配は感じているのだが、クロの姿を見てそのまま硬直してしまっているらしい。

 試しに明りを灯して見てみたのだが、僕の顔より大きい蝙蝠や蜘蛛、大型犬サイズのヘルハウンドに、クロと同サイズはあろうかという蛇、そのどれもがクロを見ただけで動きを止めてしまっていた。

 どうやらこれが『威圧』の効果らしい。

 僕とアナに効いていないのは、多分一定のステータスとやらに達しているからではないかと考えられる。

 まぁ、僕はちょっと怖いんだけど。


 と言いつつも、僕はクロの背中にしっかりとしがみついている。そして、そのまま運ばれているだけだった。

 一階層、二階層も寒かったけど、三階層はさらに寒いのだ。

 数メートル先が暗闇であるのも、この寒々しさを助長させていた。

 まったく、何でこんな寒い所を上半身裸でいるのだろう。

 いや、僕のしがみついているこいつのせいなんだけど。


「そ、そんなに寒いなら、アナが後ろから抱き締めましょうか?」

「大丈夫、クロにしがみついている分には暖かいから。あと、進化するまでお触りも禁止ね」

「クロ、ゴブリンを見つけたら捕まえてくるのです! くれぐれも心臓を潰してはならないのですよ」

「わんっ」


 いや、それよりも今は宝箱部屋とやらを優先してほしい。


 アナの話によると、このダンジョンの三階層以降には、宝箱部屋と呼ばれる部屋が存在するらしい。

 どんな部屋かといえば、その名の通り宝箱が存在する部屋だそうだ。

 しかも、その部屋は強力な骸骨騎士が守っているのだとか。

 何か本当に現実離れしているなぁ……。


 このダンジョンを訪れる冒険者の目的は、素材や食料の収集だとか、単なる修行だとか、色々あるらしいのだが、何と言っても一番の目的は宝箱なのだという。

 実はアナの持っているアイテムのほとんども、このダンジョンで集めたものらしいのだ。あ、もちろん赤熱の魔女が。

 つまり僕も宝箱部屋に挑めば、アナに送る何か良いプレゼントが手に入るかもしれない。

 尤も、今は僕の服を探す方が優先である。

アナのワンピースもこのダンジョン内で手に入れたものであるらしいし、期待はできるだろう。

 ちなみにアナのワンピースの鑑定結果であるが、


≪号≫なし

≪種類≫ミスリル銀の衣

≪製作者≫ユヒト

≪効果≫【温度調整】【耐熱】の永続術式が組み込まれた杖。

 ユヒトが素材にこだわって作ってばらまいたアイテムの一つ。


 なるほど、素材にこだわったのか。

 いや、待て待て。ミスリル銀がこのファンタジー世界(迷宮以外知らないけど)にあるのはまだ許せる。

 だけど、何で服になってるんだ?

 ミスリル銀といえば鎖帷子とか、せめてプレートメイルだったりするよね。

 どうやったら服になるの?


 そのアイテムの製法はどんなに考えてもわからないけど、次の内の二択でわかったことがある。


 ・このダンジョンにはこれらのレアアイテムが多数転がっている。

 ・アナの師匠はアナを溺愛していて、レアアイテムを惜しげもなく与えている。


 前者であってほしい。

 そうであれば、僕だって有用なアイテムを手に入れる可能性がぐっと上がるのだ。

 反対に後者だと、もっと深い層に行かなければ良アイテムが手に入らないかもしれないばかりでなく、アナの師匠に会った時、アナを僕に下さいと言った途端、燃やされる可能性が出てくる。


 しかし、僕の願いは無情にも、アナの言葉で崩れ去った。


「三階層はお師匠様曰く、価値の有るお宝が無いのだそうです。今は服が必要なので、贅沢は言えないのですが。ちなみにアナのあげた杖は、この階層で取れたものらしいのですよ」


 くっ、そう上手くはいかないか。

 まぁ、最悪燃やされても、死なないしね、僕。


 そういえば、アナにもらった杖は残念ながら折れてしまっていた。

 クロに喰われた時ではなく、落下した時に折れてしまったらしい。

 折角アナがくれたものなのに、初めてのプレゼントだったのに……。

 そんな大切なものではあるけど、単純に武器としても必要だったのだ。

 これに代わるものも、また見つけてなくてはいけない。

 一体何回宝箱部屋に行かなきゃいけないんだろう……。


 肝心の宝箱部屋であるけれど、この『暗闇地獄』には三部屋あるらしい。

 っと、その前にこの『暗闇地獄』の作りを説明しておこう。


 三階層『暗闇地獄』は一つの巨大なトンネルである。

 横幅だけでも百メートルぐらいはあるらしいが、圧巻なのはその長さで、一周するのに半日歩き続けたとしても一週間近くかかるのだそうだ。一体何百キロあるのだろう……?

 一周するというのは、この巨大なトンネルが円、正確には楕円を描いているからだ。

 多分形としては、ラグビーボール、みたいなものなのだと思う。

 そのラグビーボールの端の片方が二階層に続いており、反対側が四階層『釜茹で地獄』に繋がっているらしい。

 寒さの次は釜茹でか、というのは置いておいて、四階層に行くのにはつまり、三日以上かかるという事である。

 尤も、僕たちが今いる位置は、ちょうど端から端の中間地点らしいけれど。そして、クロがいればもっと早く着くと思う。


 さて、それで宝箱部屋なのだが、それは楕円の内側の岩場にある。

 端から端の中間地点にそれぞれ二か所。あとは四階層へ続く道側に一か所だった。

 要するにちょうど僕たちは宝箱部屋の近くにいたのだ。


 アナの話ではその部屋には今日中に、というか、もうすぐ着くらしい。


「あ、見えてきたのです」


 言われてアナの指差す方向を見るけど、何も見えない。

 うん、真っ暗だしね。

 しかししばらくすると、目の前に大きな鉄製の扉が現れた。

 いかにもボス部屋ですよ、といった感じだ。いや、宝箱部屋なんだけど。

 ただ、中には強力な骸骨騎士がいて、宝箱を守っているらしいから、ボス部屋みたいなものではあると思う。


 それにしても、これを開けたら戦闘になるわけか。

 ちょっと緊張してきたぞ。


「ではユーヤ、扉を開けて欲しいのです。開けたと同時にアナが焼き尽くしてやるのですよ」

「ああ、なるほど、そしたら戦わなくて済むしね。でもさ、宝箱も焼けない?」

「ぐっ、否定はできないのです」


 あれ? 僕より高い知力はどこに行ったの?

 前から思ってたけど、アナってやっぱり結構抜けてる……。

 まぁ、そこも可愛いと思うんだけど。


「僕がまた戦いに呑まれるっていうのを心配してるの? なるべくそうならないように気を付けるからさ」


 しかし、アナはかぶりを振った。


「いいのです。どんなユーヤでもアナは受け止めるのです。それにアナもこれからはユーヤの隣で戦うのです」

「アナ……」


 うん、さっさと服を入手してゴブリンを狩りに行こう。


 僕たちはクロの背中から降り、冷たい鉄の扉に手を掛けた。

 さぁ、やってやろうじゃないか。

 僕は力を込めて鉄の扉を押した。


 扉の中は青白い水晶の光で幻想的に照らされていた。

 二階層を連想させる作りだ。

 学校の体育館はあろうかという広さの広間である。

 そして、入ってきた扉の反対側の奥に、二メートル近くはありそうなプレートアーマーで全身を固めた骸骨が立っていた。

 右手には剣を、左手には盾を持っていて、兜からは角が二本生えている。一体何の骨なんだ?


 僕たちが入ってきた時点で反応しているようで、こちらに向かって剣を向けている。

 さて、まずは『鑑定』だ。


≪名前≫なし

≪種族≫骸骨騎士(宝の守護者)

≪身長≫195cm

≪体力≫25

≪攻撃力≫25

≪耐久力≫25

≪敏捷≫20

≪知力≫0

≪魔力≫10

≪精神力≫0


 おや? なんか色々と表示されていない個所がある。

 特に気になるのが『愛』と『忠誠』だ。

 要するにこいつは僕の仲間にはならないという事なのかな。

 そういえば、こいつは魔力を喰らっているから、肉は食わないんだったか。

 まぁ、喰われてやるつもりもないけれど。


「アナ」

「はい、ユーヤ」

「「地上の命は川を流れ、主の下へ。主よ、聖なる焔よ、憐れみ給え。父と子と聖霊の御名において」」

「アナが後衛を務めます。ユーヤはクロに乗って前衛をお願いできますか」

「うん、任せて。行くぞ、クロ!」

「わんっ」


 僕がクロに跨ると同時に、クロが骸骨騎士に向かって突っ込んでいく。

 同時に僕も魔法を唱え、近付いた瞬間にそれを放った。

『エアスラッシュ』が骸骨騎士目掛けて飛んでいく。

 しかし、骸骨騎士はそれに反応して容易に盾で防いで見せた。


 だけど、次の攻撃は防げないだろう。

 クロが骸骨騎士に肉薄する。

 気付いた骸骨騎士は剣を振るうが、クロは難なく避けて骸骨騎士に体当たりした。

 骸骨騎士が弾き飛ばされる。

 さらに、


 ゴウッッッッッ。


 アナの放った『フレイムトルネード』が骸骨騎士を包んだ。


「やりましたか?」


 あ、それ、フラグ……。


 炎の渦から骸骨騎士が出て来ようとする。

 あの炎の中でも無事だったとは、なかなかのタフさだ。

 でも、もうボロボロである。

 これなら僕一人でもなんとかなりそうな気がする。

 何て言ってもここまでほとんど活躍してないしね。

 うん、ちょっとは見せ場があると助かる。


 だけど、アレはどうしよう?

 殴って効くのか? 関節技は絶対に効かなさそうだし。

 うん、魔法だ。『エアスラッシュ』で細切れにしてやろう。


 と思っていたのだが、


「アオォォォォォォォン!!」


 クロが吠えるとソニックムーブのようなものが発生し、骸骨騎士目掛けて飛んで行った。

 それが命中した途端、骸骨騎士は粉々に砕け散った。

 多分今のはクロのスキル、『グラスシャッター』だ。

 何という威力だろう。元からボロボロだったとはいえ、鎧ごと砕け散ってしまうとは。

 やっぱりクロがいればこの階層は余裕なのだろう。

 骸骨騎士は外にいた魔物と比べてもステータスは高い方だったのだから。


 それにしても、僕の出番は……?


「ふふふ、アナたちにかかれば宝の守護者といえど、大したことはないのです」

「わんっ」

「僕は何もしてないけどね」

「そ、そんなことはないのですよ。ユーヤの『エアスラッシュ』がなければ、クロも上手く攻撃できなかったのです。ね、クロ?」

「わ、わん」


 あれ? 気を遣わせている……?

 何かアナが戦えるようになった途端、僕のお荷物感が半端ない。


「そ、それに、クロはユーヤの従魔(サーヴァント)です。つまり、クロの活躍は全てユーヤの活躍なのですよ」


 うーん、それでいいのか?

 まぁ、確かに魔物使いとか、召喚士って自分では戦わないものだし。

 ゲームでも、ポケットサイズにしまえるモンスターだとか、モンスターをパレードみたいに引き連れている奴だとかの主人公は、自分で戦ったりしないわけだし。

 スキル的には、僕は魔物使い扱い、でいいと思うし。


 まぁ、考えても仕方ない。

 ステータスで言うと、正直この階層は結構厳しいのだ。

 通常サイズのヘルハウンドは僕と同じ程度のステータスで、アナコンダの魔物は僕より格上で、だいたいのステータスが二十を超えていた。

 僕が対抗できるのは魔力ぐらいのものだ。

 だけど、それだけでは厳しい。

 本当にこの階層で戦い抜いて行こうと思えば、スキルを使う以外ないんだろう。


 あと、期待するのは武器や防具だ。

 実は鑑定で見たステータスと、実際のステータスには違いがある。

 防具や武器の上乗せ分が表示されていないからだ。

 つまり、より良い武器や防具があれば、実際のステータスより強くなるというわけである。

 まぁ、それを言うと、スキルの存在も当て嵌まるのだけど。

 とりあえず、今は宝箱に期待しよう。


 というわけで、辺りを見回して宝箱を探すのだが、


「ん? 宝箱ってどこにあるの?」


 肝心の宝箱がどこにも見当たらない。

 まさか、名前が宝箱というだけで、もっと別の形をした何かなのだろうか。


「おかしいのです。普通は一番奥に置いてあるものらしいのですが、ありません。宝箱部屋が空の時もありますが、その場合、守護者も存在しないのです」


 僕、アナ、クロで部屋中を探すけど、やはり何も見当たらない。

 あるのは砕け散った骸骨騎士の残骸だけだ。

 もしかして、下敷きになっているとかではないだろうか。


 そう思って、骸骨騎士の頭蓋骨に手を掛けたところで、


「宝の守護者の討伐おめでとうございまーす!」

「あひゃあああっ!」

「ニギャーーー!」

「うぅぅぅぅぅぅ」


 頭蓋骨がしゃべったのであった。



二時間後、1時に18話を投稿します。

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