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第十五話 『食用人間』はチートスキルでした。

五話連続投稿その二です。

 

 ひどく良い夢を見た気がする。

 アナに抱き締められていて、そのまま眠りにつく。

 そんな夢だったと思う。

 でも、目を覚ましてみれば、それは意外と夢じゃなかったのかもしれないと思えた。


 僕はまたアナに膝枕をされていた。

 彼女自身も僕を膝枕したまま眠ってしまっている。

 ふふ、可愛い寝顔だ。

 二回目ともなれば、恥ずかしいよりも心地良いという感情が湧き起こってくる。

 でも、そんな気持ち良さが続いたのも一瞬だけのことだった。


 ぎゅうるるるるるううううううううう!


「な、何ですか?! 新手の魔物ですか!?」


 アナが飛び起きて、辺りをきょろきょろ見回す。

 その振動で、右膝に強烈な痛みが走った。


 ――っ!!


 あまりの痛みに声も出ない。

 くそっ、大怪我したのを忘れていた。


「ああ、ごめんなさい。ユーヤ。水よ、癒しをもたらせ【アクアヒール】」


 痛みが引いて行くと同時に、またお腹が鳴った。


「肉を、何でもいいから食べ物をくれ!」

「わ、わかりました」


 アナがオーク肉を取り出し、僕に渡す。

 僕はそれを必死に貪った。


「ああ、気が付いてくれて良かったのです。本当に心配しました」

「うん、ごめんね」


 肉を食いつつ答える。

 同時に、一つの疑問が浮かんだ。

 足の酷い痛みや異常な食欲がある以上間違いはないと思うのだが、念のために聞いておく。


「アナ、……えっとね、僕ってさ、生きてる?」


 そう、記憶が確かなら、僕は間違いなく食われて死んだはずなのだ。

 今生きているのは間違いないけど、一度死んだというのも間違いないことだと思える。

 アナは眉間に皺を寄せ、神妙な面持ちをした。


「はい、ユーヤは生きているのです。ですが、ユーヤの疑問もわかります。アナにもよくわからないのですが、ユーヤは生きているのが不思議な状況でした」


 その後、アナが、僕がどうなっていたのかを教えてくれた。

 正直耳を疑うような内容だった。


 アナはあの後魔力が回復してから、あそこから飛び降り(それも十分驚愕したけど)僕を見つけたらしいのだが、それは首から下のない、変わり果てた僕の姿だったらしい。

 アナが僕の後を追おうとしたところ(また驚愕した。ちょっと嬉しいけど)、僕の体が再生を始めたそうだ。その時に一瞬だけ意識を取り戻したらしい。


 ああ、あれはやっぱり夢じゃなかったんだ。というのは、今は一度置いておこう。

 これは間違いない。

 スキル『食用人間』の効果だ。

 とんでもない能力だと思う。戦闘には使えないけど、死なないという事においては十分にチートだ。

 それにしても、足が複雑骨折した状態で再生することはないと思うんだけど……。


 ん? アナが話を聞かせてくれているうちに、いつの間にか右足が……治っていた。

 多分これは『不死身』の効果だ。

 そうか、腹が満たされたことで治ったのかもしれない。

 本当に僕の体はチートだ。

 だけど、同時に恐ろしくもあった。

 僕はこれから先、楽に死ねることはないんじゃないだろうか。


 そんなことを考えつつ右膝をさすっていたのだが、ある異常に気付く。むしろ何で今まで気づかなかったのか。

 僕、全裸じゃないか!

 何で? 何で全裸? まさか人が瀕死の隙に脱がしたのか、このセクハラゴブリン。

 あ、いや、そうか、単純に服が再生されなかったのか……。


「あ、アナさんや、何か体を隠す物は「ないのです!」……」


 くっ、食い気味で否定された。

 とりあえず一番恥ずかしい所を手で隠す。


「十分堪能したのでいいのです。ご立派なモノをお持ちで」


 君は他に見たことがあるの?

 まぁいい、最悪バックパックを引き裂いて下半身だけでも隠そう。


「ところで、ご相談したいことがあるのです」


 アナはそう言って背後を振り返る。

 何だろう、そこに何かあるのだろうか?


 僕は起き上がってアナの背後を見た。

 そしてそのまま固まった。


「アレ、どうしましょうか?」


 そこには真っ黒な大きな犬がいた。

 間違いなく僕を食ったやつだ。

 あれ? しかも初めに見た時より大きくなっていないか?

 ともかく、そのヘルハウンドが嬉しそうに舌を出し、千切れんばかりの勢いで尻尾をぶんぶん振っているのだ。


「いや、どうと言われても……」


 とりあえず鑑定してみよう。


≪名前≫なし

≪種族≫ヘルハウンド(変異種)

≪称号≫黒帝

≪年齢≫12

≪体長≫302cm

≪体重≫297kg

≪体力≫28

≪攻撃力≫31

≪耐久力≫28

≪敏捷≫30

≪知力≫10

≪魔力≫5

≪精神力≫8

≪愛≫0

≪忠誠≫50

≪スキル≫威圧:一定のステータス以下の者の動きを封じる。

 グラスシャッター:指向性の音弾を飛ばせる。


 うん、でっかくなってる。

 こいつ、ライオンより大きいんじゃないか?

 しかも年齢も変わっている。

 確か七歳だったはずだぞ。

 何でいきなり五歳も年を取ったんだ?

 あ、僕の『食用人間』の効果か? 寿命を使って再生するっていう……。

 寿命を使うっていうのは、年を取らせるってことなのか。

 あとはステータスが全体的にちょっと伸びた気がするけど、体力だけ最大値が減っているような気もする。あ、あと忠誠も五十増えている。

 もう、直感でそうだろうとは思うんだけど……。


≪忠誠≫50(永倉勇也:50)


 だろうと思ったよ。

 だってぶんぶん尻尾振ってるし。

 だけど、何で?

 ホントそれがわからない。

 考えられるのは、僕の肉を食べたから、ぐらいしかないけれど……。


 僕は恐る恐るヘルハウンドに近づいて行く。

 そいつも僕が近づくと、尻尾を振り振りしながら寄ってきた。

 ま、マジ怖いんですけど!


「ま、待て! そこに座りなさい。おすわりだ」


 ヘルハウンドは僕の言葉通り、動きを止めて「おすわり」した。


「よ、よし、お手」


 さらに言葉通りに、僕が差し出した右手に巨大な前足を置いた。


「だ、大丈夫みたいだね」

「おぉ、ユーヤ凄いのです。全裸でヘルハウンドを従えているその姿は、一つの芸術なのですよ」


 マジ、ヤメて。

 しかしアナは馬鹿にしているようではなく、本気みたいなのだ。

 僕にとってはホント恥ずかしいだけなんだけど。


「ですが、いい加減教えて欲しいのです。普通の人族、ううん、普通の人はあの状態で生き返ったりしません。吸血鬼族(ヴァンパイア)だって、首だけでは生き返らないのです。……人狼族(ライカン)は大丈夫かもしれませんが。でも、ユーヤは人族です。ユーヤが人族なら考えられるのは一つだけです。それはユーヤの持つスキルなのです。『食用人間』とは何なのですか?」


 と言われても、僕にだって『鑑定』で調べられることしかわからない。


「いや、アナにだって『鑑定』で見えてるでしょ? 捕食者の旨いと感じる味になり、肉体の再生に捕食者の寿命を使用できる、って」

「っ!!」


 何だろう、アナが突然ふるふると震え始めた。


「わ、わかったのです。いえ、もしかたらそうかもしれないとは思っていたのですが……。ユーヤのスキルはアドバンスドスキル、もしくはエクストラスキルなのです」

「何それ?」


 アナの話によると、他人が『鑑定』しても正確に見通すことができず、スキル内にアビリティとして別のスキルを内包しているスキルがあるのだという。

 それがアドバンスドスキルである。

 そしてさらに上級であるエクストラスキルは、自分ですら正確に情報を掴むことができず、思わぬ力を発揮するのだという。

 しかもエクストラスキルに代表されるスキルは、『勇者』スキルといった正に伝説級のものなのだそうだ。

 ということは、僕の持っているスキルは……、


「ユーヤの持っているスキルは恐らく、伝説級のスキルであるエクストラスキルでしょう。ステータスに『愛』や『忠誠』が現れるというのも、それが原因だと思うのです。それに、アナには捕食者の旨いと感じる味になる、という箇所しか見えていないのです」


 そうだったのか。

 というか、そんなスキルは最早外れですらない地雷スキルだと思うんだけど。

 まぁ、実際は外れどころか大当たりだった、と思っていいのだろうか。


「ユーヤのスキルは回復、再生系のスキルではかなりレアな上に、最上級クラスと呼んでも差し支えないとは思うのですが、その真価は『調教(テイム)』能力だと思うのです」


 ヘルハウンドを見る。


「わんっ」


 ヘルハウンドは犬然としてしっぽを振っていた。ちなみにまだちゃんとおすわりもしている。

 従順な犬に見えなくもない。サイズに無理があるけど。

 ともかく、こいつはステータスを見る限り、今まで出会った中で最強のモンスターだ。

 こんな強力なモンスターを従えられるのは、確かに願ってもない限りではある。


 だけど、前提条件が厳しすぎる。

 仲間にしたかったら食われなきゃいけないとか、絶対に無理だ。

 いくら強力なスキルとはいえ、自分から発動させることは今後絶対ないだろう。

 だいたい僕は、誰にも食い物にされたくなかったから、力をつけていたんだ。

 文字通り食われる前に、僕は戦う。


「ですが、アナはユーヤが食べられるなんて耐えられないのです。できたらその能力は使わないでください」


 僕は微笑んで頷いた。

 アナも同じことを考えていてくれたらしい。


 しかしどっちにしろ、当分そのスキルの出番はなさそうだ。

 何て言ったって、目の前の強力な力を持ったヘルハウンドが仲間になったのだ。

 当分はどんな敵が出てきても、何とかなるような気がする。なる、よね?


「ところでアナ、このヘルハウンドってこの階層で有名じゃないの?」

「う~ん、おそらくこのヘルハウンドは元々この階層に住んでいなかったのでは、と思うのです。ですが、お師匠様から黒い帝王の話は聞いたことがあるのです。お師匠様も遭ったことが無いそうで、そんなのがいるらしい、程度ですが」

「へっへっへっへっへっ」


 ふーん、そうなのか。

 まぁそれがわかったところで、何かあるわけでもないんだけど。

 ちょっと気になっただけだ。


 実は、さっきは確認のためおすわりやらお手やらをやってみたが、僕は若干こいつが苦手だったりする。

 何て言ったって一度食われているしね。

 この様子なら大丈夫そうだけど、二度目が無いとも限らない。

 少なくとも僕のことを旨いとは思っているわけだし。

 まぁ、でも、名前ぐらいは付けてやろう。

 ずっとヘルハウンドと呼んでいるわけにもいかないし、黒帝って呼ぶのもちょっと……。


「アナ、こいつの名前何にする?」

「ふむふむ、名前を付けるのですね。まぁ、何でもいいのではないですか」


 うーん……。

 とりあえず後ろに回って、股の間を確認する。

 雌か。


「じゃあ、……クロで」

「……安直なのです。あと、性別を確認した意味は?」


 何でもいいって言ったじゃん……。

 僕だって色々考えたよ?

 黒き旋風(ブラックハリケーン)とか、黒き牙(ブラックファング)とか。

 でも、雌にそんな名前付けるのもどうかと思うし、万が一誰かに知られたら恥ずかしい。

 もう二度とクラスの連中と会うつもりもないけれど、同じ迷宮内にいるんだから絶対に会わないとも言い切れないし。

 うん、というわけで、クロで。


「よ、よし、今日からお前の名前はクロだ。僕とアナの言うことをちゃんと聞くんだぞ」

「わんっ」


 心得たとばかりにクロが吠えた。

 多分ちゃんと理解しているんだろうな。

 何て言ったって知力が僕と同じなんだから。

 あれ? 何だろう? 目から汗が出てきたぞ。


 僕がちょっと黄昏ていると、アナが唐突に叫び声を上げた。


「ニギャーーー! やっちまったなのです!」

「んん? どうしたの?」

「アナのスキルが、アナのスキルがぁ……」


 スキルが一体どうしたというんだろう?

『鑑定』を発動させる。


≪名前≫アナベル

≪種族≫メイジゴブリーナ(変異種)

≪称号≫赤熱の魔女の申し子

≪年齢≫14

≪身長≫129cm

≪体重≫27kg

≪体力≫7

≪攻撃力≫5

≪耐久力≫5

≪敏捷≫6

≪知力≫18

≪魔力≫16

≪精神力≫14

≪愛≫90

≪忠誠≫40

≪精霊魔法≫火:43 水:57 風:52 土:48

≪スキル≫炎獄魔法:術式魔法、理によって熱と炎を生む魔術の中で、最上級のクラスのものの一つ。

 鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。

 憤怒:怒りの感情に反応し、能力にブーストがかかる。


 なるほど、大罪系スキルっていうやつか。

 でも、有用そうじゃないか。

 ゴブリンなのに憤怒か、とは思うけど、何がダメなんだろう。


「何が起こるかはわからないのです。でも、お師匠様に大罪系のスキルは付けないようにと注意されていたのです」

「だ、大丈夫だって。付いたからって特に何も起きてないでしょ?」

「そうですが……」


 もしかして、アレかな?

 暴走するとか、そういう事かもしれないな。

 そういう設定のストーリーを読んだことがある。


 心配そうなアナには悪いけど、もう一つ僕には気になっていたことがあった。

 それはずばり『愛』だ。

 いつの間にやら三十も増えている。

 詳細を確認してみる。


≪愛≫90(永倉勇也:60、イザベラ・スカーレット30)


 ハッハッハ!

 ざまぁないな、赤熱の魔女め。

 僕への『愛』の半分しかないじゃないか。


 それにしてもそうか、アナはそんなに僕のことを愛してくれているのか。

 何て言ったってアナにとって僕は「愛しい人」だもんな。

 でも、僕だってそうだ。

 僕だってアナのことを負けないくらい愛していると思う。

 うん、どうなったか見てみよう。


≪名前≫永倉勇也

≪種族≫人族(変異種)

≪称号≫ゴブリンの友

≪年齢≫16

≪身長≫168cm

≪体重≫58kg

≪体力≫17

≪攻撃力≫15

≪耐久力≫13

≪敏捷≫12

≪知力≫10

≪魔力≫20

≪精神力≫17

≪愛≫70

≪忠誠≫0

≪精霊魔法≫火:94 水:6 風:85 土:15

≪スキル≫食用人間:捕食者の旨いと感じる味になり、肉体の再生に捕食者の寿命を使用できる。

 鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。

 自己犠牲:自分が死ぬ時、仲間と認識した者の能力にブーストがかかる。


 ……。

 お、本当に『愛』が、アナより勝っている。

 自己犠牲のスキルね。うん、いらん。

 でも、そうか。僕が死ぬことでアナが生き延びる場面が生まれるかもしれない。それだったら、僕はこのスキルをつか……使えないじゃん。不死身なんだから。

 本当に死にスキルだな。

 あとはあれだな、ステータスが全体的に伸びたな。

 なぜか体力が大幅に伸びている。

 もしかしてクロの体力が減ったのと関係があるのかもしれない。


 うん、もうあとは何もない。

 何もないったら何もないぞ。


「ユーヤが変異種になっているのです……」


 僕はその場で四つん這いになった。




二時間後21時に16話を投稿します。

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