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第十二話 寄って集って食われるか、殺されて喰われるかの違いでした。

感想、質問、ダメ出し、何でもいいのであれば宜しくお願いいたします。

 

 三階層、暗闇地獄。

 そこが彼の(ねぐら)だった。

 彼はアナベル同様変異種である。

 しかし、その生き方はまるで彼女とは異なるものだった。

 彼には力がある。闘志がある。そして仲間を集めるカリスマ性があった。

 群れの長として君臨し、他の魔物を狩って生きてきた。時には人族の冒険者も狩った。

 雌は彼を見れば欲情し、彼との子を望んだ。

 彼も雄だ。

 雌どもの期待に応え、多くの子孫を残してきた。


 だが、彼の最も望むことは狩でも交尾でもない。

 死闘だ。

 一対一の、血の滾るような、互いの命をベットにした熱い死闘を彼は望んだのだ。

 そんな彼を人はこう呼ぶ。

『銀の牙』と、畏怖を込めて。

 高ランクの冒険者でさえ、彼の存在を恐れていた。

 そもそも三階層レベルの魔物ではないのだ。

 彼は仲間たちに合わせて浅い階層を塒にしているに過ぎなかった。

 下の階層に潜ると他の仲間までついてきてしまうから、彼は自重していた。

 それでも良かったのだ。

 偶に下の階層から現れる強力な魔物、外からやってくる冒険者。

 それらを時々相手にして楽しめれば満足だった。


 そんな彼であるから、当然今の状況に苛立ちを感じていた。

 ここ何日も冒険者がやって来ないのだ。

 だから、彼は上の階層に上がってみることにした。

 普段は退屈なだけの階層であるが、冒険者は上から来るのだ。仕方あるまい。


 必然的に彼らは出会うことになる。

 死闘と言う名の演目を、共に踊り狂うために。




 ************


 僕が走って着いた先は広間だった。

 しかし、そこには絶望的な光景が広がっていた。

 ウェアウルフ、ウェアウルフ、ウェアウルフ……全部で九匹のウェアウルフが広間に陣取っているのだ。

 だが、その中に一つの救いがあった。


「アナ!」


 アナが地面に転がされ、一匹のウェアウルフの前で、他のウェアウルフに取り押さえられている。

 無事だ。怪我をしているかどうかまではわからないけど。


「ユーヤ! 来てはいけないのです。今すぐ逃げるのです」


 そんなことできるわけない。

 アナは僕の……仲間なんだ。


「ヤア、イラッシャイ」


 アナの前にいるウェアウルフがしゃべった。

 僕は、実はそんなに驚いていない。

 なぜなら既にそいつを『鑑定』していたからだ。


≪名前≫なし

≪種族≫ウェアウルフ(変異種)

≪称号≫『銀の牙』

≪年齢≫21

≪身長≫168cm

≪体重≫65kg

≪体力≫22

≪攻撃力≫25

≪耐久力≫23

≪敏捷≫31

≪知力≫11

≪魔力≫10

≪精神力≫15

≪愛≫260

≪忠誠≫0

≪精霊魔法≫火:95 水:5 風:69 土:31

≪スキル≫縮地:0.1秒未来方向に時間を跳躍できる。


 アナと同じ変異種、そしてアナの言っていた化物とは間違いなくこいつのことだ。

 ステータスが他のウェアウルフとは違いすぎる。

 持っているスキルもとんでもない。その上魔法まで使えるようだ。


 見た目も他のウェアウルフとは大きく異なっていた。

 他のウェアウルフが青い体毛に覆われているのに対して、こいつ、銀の牙はその名の通り銀色の体毛に覆われているのだ。

 体格も他のウェアウルフと比べて一回り大きく、筋骨隆々と言った感じだった。

 正直、全くと言っていいほど勝てる気がしない。


「嬢チャンニ聞キタイ事ガアッタンダガ、ソッチノ坊主ニ聞コウ」

「ま、待つのです。協定はどうなったのですか!」


 協定? まさかモンスター同士で協定があるのだろうか。

 いや、言葉の通じる者同士だ。何か取り決めがあってもおかしくはないか。


「別ニ喰ッタリスルツモリハナイ。聞キタイ事ガアッタダケダ」

「わ、わかったのです」


 僕も話し合いで済むなら、そうしてもらいたい。

 アナが捕まっている以上、下手に動けないのだ。


 銀の牙は首を傾げ、不思議そうに口を開いた。


「オ前ハ何ダ? 冒険者カ?」

「違います。無理矢理ここに連れて来られたんです」


 銀の牙が目を細めた。

 嘘か真か見極めようとしている風である。


「赤熱ノ魔女ハドウシタ?」


 そんなの僕が知るか。

 大方ダンジョンの外にいるだけだと思うが。


「知りません。会ったこともないです」

「ほ、本当なのです。今ダンジョンの入り口が封鎖されているので、お師匠様は中に入って来られないのです」

「意味ガ分カラン。ソンナコトヲシテ何ニナル?」


 そんなのこっちが聞きたいよ。


「わかりません。この国の連中が勝手にやっていることなので」

「ソウカ……。冒険者ドモハ、イツニナッタラ来ル?」


 だから知るかって。

 まぁ、でも、考えられるのは、


「僕や僕と一緒に閉じ込められた奴らが、五階層から脱出した後か、全員死んだ後じゃないですかね」


 うん、それぐらいしか思いつかない。


「……ワカッタ。モウイイ、放シテヤレ」


 銀の牙がそう言うと、アナを押さえつけていたウェアウルフが彼女を解放した。

 アナは解放されると、猛然と僕の方に向かって走ってきた。

 そして、僕を抱きついてくる。


 まったく、さっきまでケンカしてたのに。

 僕はアナを抱き返し、優しく頭を撫でてやった。

 本当に喰われたりしてなくてよかった。

 もしも彼女を失ったら、僕は一体どうなってしまうのだろう。

 想像すらしたくない。


「で、では、アナたちはこれで失礼するのですよ」


 アナがびくびくと震えながら、銀の牙に振り返って言った。

 だが、奴の口から出た言葉は、まさかの否定だった。


「イイヤ、駄目ダ。イヤ、嬢チャンハ別ニイイ。ダガ、ソッチノ坊主ハ駄目ダ。久々ノ旨ソウナ人族ダ。逃ガス理由ガナイダロウ」


 背中を冷たい汗が伝う。

 さすがにこの数を相手にして無事で済ませられる自信はない。

 いや、その前に銀の牙一匹で十分オーバーキルだと思う。


「な、なな、何を言っているのですか!? 協定はどうしたのです!?」

「確カニ、赤熱ノ魔女トオ互イ干渉シナイトイウ約束ハシタガ、ソレハ嬢チャント赤熱ノ魔女ダケノ話ダ。ソッチノ坊主ハ駄目ダネ。嫌ナラ俺タチヲ殺シテ止メレバイイ」

「そんな、そんなのあんまりです」


 戦うしかないのか。

 この数を相手に、たった一人で。


「ダケド、マアイイダロウ。坊主ニ選バセテヤル。俺タチニ狩ラレルカ、俺ト一対一デ決闘スルカヲ。弱ソウダガ、退屈凌ギグライニハナルダロ」


 こいつ、舐めやがって。

 どうせやるしかないんだ。

 作戦なんて何もないし、勝てる見込みもないけど、せめて一発ぐらいはぶん殴ってやる。


「アナ、離れてて」

「だ、ダメです。殺されちゃうのです」

「決局やらなくても殺されるんだ。だったら足掻いてやるさ」

「何で、そんな、ユーヤ、ユーヤぁ」


 僕はアナの持っていた荷物からオーク肉を抜き取り、喰らった。

 背中の怪我はすでに回復している。

 あとは体力を少しでも回復させておきたい。

 さて、最後の確認だ。

 あと体力と魔力はどれくらい残っているのだろう。


≪体力≫7/13

≪魔力≫9/20

 

 両方半分近くしかない。

 こんな状態で今までで一番強い敵と戦わなきゃいけないなんて、目も当てられない。

 まぁ、たとえ全快だったとしても、あまり変わらないか。


 準備は整った。これ以上出来ることもない。

 僕がアナを引き離し前に進み出ると、銀の牙はにやりと笑った。


「手加減シテヤル。俺ハ、スキルト魔法ハ使ワナイ。イツデモ、掛カッテ来イ」


 やってやるさ。

 前に進まなきゃ生きていけないんだ。そう、こんなのはいつも通りのことなんだ。

 さぁ、行くぞ!


「火よ、我が敵を焼け【ファイアボール】、火よ、我が敵を焼け【ファイアボール】」


『ファイアボール』を連発すれば当たるかも、なんて甘い考えは当然の如く打ち破られた。

 銀の牙は何でもない事のように、連続で飛んでくる火球を避けてみせる。

 あんなに速い球を避けているのに、動きに無駄がないしそこから隙なんて生まれるべくもない。

 しかも僕はこれで初級魔法が残り一発しか撃てなくなってしまった。


 まあいい、魔法が使えないならぶん殴るだけだ。

 手に持った杖を腰に差し、拳を握り突撃する。


「ガハハハ、面白イ奴ダ。イイゾ、俺モ殴リ合イノ方ガ好キダ」


 射程距離に入った。

 左のジャブを二発放つ。


「速サハ悪クナイ。ダガ、軽イナ。ソンナモノ効カナイゾ」


 左の拳が奴の鼻先をかすめる。

 きっと避けられなかったわけじゃない。避ける必要もないと思ったんだろう。

 そんなことわかってるんだ。

 本命はこっちだからな。

 右のストレートを全力で振るう。

 当たれ!


 ゴキャッ。


 僕の拳が銀の牙の顔面にめり込んだ。

 どうだ!

 刹那、僕の勘が警鐘を鳴らした。

 咄嗟に左手で顔面を庇う。と、同時に車に轢かれたんじゃないかと思うほどの衝撃が左手、いや、全身に走った。

 僕は空中にふわりと投げ出され、次の瞬間には地面に叩きつけられていた。


「――っ!」

「ガハハハハハ、悪クナイ技ダ。少シハ効イタゾ」


 ああ、あれで少しか。渾身の一撃だったのに。

 こっちはガードの上からだってのに、恐ろしく効いたよ。


「あは、あははははは……」


 僕は手をついて立ち上がった。


「ソウカ、オ前モ楽シイカ。ナラ、モット楽シモウ」


 銀の牙の前まで歩いて移動する。

 ここからなら僕の拳が届く。

 背の変わらないこいつもきっとそうだろう。


 左のフックを放つ。

 避けられる。

 返す刀で右のフック。

 鼻先をかすめる。

 左のレバーブロー。

 命中。

 と、同時に奴の右拳が飛んでくる。

 両手をクロスさせてガード、何とか耐える。

 しかし、次に飛んできた左のボディブローがまともに腹に入って行った。


 メキメキ。

 ぐしゃっ。


「うぅっ」


 頭が真っ白になる。息ができない。

 僕は少しの間宙に浮いた後、前のめりになって墜落した。


「アア、ヤリ過ギタ。骨ト内臓ガイクツカ潰レタナ」

「ユーヤぁぁぁ!」


 熱い、苦しい。

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい……。

 …………。

 ……。

 ああ、だけど、楽しい。


「あは、あははははは」

「ナッ?! マダ立チ上ガレルノカ? 面白イ、面白イゾ坊主。ガハハハハハ!」


 一つ忘れていた。

 ここで死ぬんなら、あの魔法を使った方が良いだろう。

 一度だけ使って、効果が五分しか続かなかったうえに、体を動かした分だけ後で反動が来るらしいから、封印していた魔法がある。


「火よ、我が闘志を燃やせ【ブーストヒート】」




 ************


「あはははははははははははははははっ」

「ガハハハハハハハハハハハハハハハっ」


 もうやめて、もうやめてください。


 ユーヤが肉体強化の魔法を使い、銀の牙に食らいついて行きます。

 しかし、アイツには今一歩及んでいません。


 ユーヤが拳を振るいます。

 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 だけど、アイツには当たりません。

 その全てを簡単に避けて行ってしまいます。


 反対にアイツの拳一つで、ユーヤは一気に深手を負います。

 今は『ブーストヒート』のおかげで深刻なダメージは防いでいますが、いずれ効果が切れてユーヤは何もできずに倒れることになるでしょう。


 そうしたら、ユーヤはアイツらに食べられてしまう。

 オオカミどもに、アナの目の前で。

 そんなのは絶対に嫌。嫌なのです。


 ドゴッッッッッ!


「ユーヤぁ!」


 ああ、ユーヤが殴り飛ばされてしまいました。

 アナの後方の壁に激突し、ずるずると崩れ落ちていくのです。


 もうやめて、もう許して。

 アナのユーヤを、愛しい人を殺さないで。

 そうか、アナはユーヤが好きなのですね?

 そう、好きなのです。


 アナの後ろにいるのはユーヤだけ、前にいるのはオオカミどもだけ。

 チャンスは今しかないのです。

 アナの愛しいユーヤ、アナに勇気を下さい。


「主のために守らん。主の御力を得て、主の命を実行せん。川は主の下へ流れ、魂は一つにならん。父と子と聖霊の御名において」


 アナは銀の牙の前に立ち塞がりました。


「これ以上アナの愛しい人に手を出すことは、この『赤熱の魔女の申し子』、アナベルが許さないのです!」

「ホウ、許サナイナラ、ドウスル?」

「こうするのです」


 アナはとっておきの術式を一気に書き上げました。

 これを使うと魔力切れになってしまいますが、威力を抑えればユーヤと一緒に逃げるぐらいなら何とかなるでしょう。


「灰になれ、なのです! 【落炎】!」




次回は8/9(水)21時更新予定です。

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