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第十話 初めての膝枕は、ゴブリンでした。

ブクマ登録ありがとうございます。

 

「で、さっきの奇行は何だったのです?」


 僕はアナに杖を突き付けられていた。

 早速仲間割れの危機というわけだ。

 いや、全面的に僕が悪いんだけど。


「いやいやいや、違うんだ。ステータスにある『愛』っていう項目は、もう愛情であれば何でもカウントしちゃうんだ。だから、別に深い意味はないんだよ、きっと。むしろ、これは、そう、僕たちは信頼し合える仲間になれるってことなんだよ」

「な、何を言っているのです? ステータスに『愛』なんて項目はないのですよ。よくわからないのですが、ユーヤはアナを信頼してくれているのですね。そ、それなら良いのですよ」


 チョロいな。

 いや、しかし、それよりも『愛』が存在しないというのはどういうことだろう。

 アナのステータスを鑑定してみる。


≪名前≫アナベル

≪種族≫メイジゴブリーナ(変異種)

≪称号≫赤熱の魔女の申し子

≪年齢≫14

≪身長≫129cm

≪体重≫27kg

≪体力≫7

≪攻撃力≫5

≪耐久力≫5

≪敏捷≫6

≪知力≫18

≪魔力≫16

≪精神力≫14

≪愛≫60

≪忠誠≫40

≪精霊魔法≫火:43 水:57 風:52 土:48

≪スキル≫炎獄魔法:術式魔法、理によって熱と炎を生む魔術の中で、最上級のクラスのものの一つ。

 鑑定:あらゆるものの情報を読み取る。


 やっぱりあるじゃないか。

 さらに詳細を確認してみる。


≪愛≫60(イザベラ・スカーレット:30、ナガクラユーヤ:30)


 くっ、お師匠様とやらと同じか。

 おのれ、赤熱の魔女め。

 しかし、どうやらアナにはこの項目が見えていないらしい。

 もしかして、人によって見えたり、見えなかったりするものがあるのだろうか。


 僕とアナの違いと言えば、……ほとんど違うな。

 アナと僕は根本的に種族が異なる。それに、現地産か異世界産かという違いもある。あとは、僕にある『食用人間』のスキルか。もしかしてこれじゃないか。

 聞いた話によれば、イザベラも『鑑定』が使えたらしい。

『鑑定』を使える人間が(アナはゴブリーナだけど)、十年以上一緒にいてその違いに気付かないなんて有り得るのだろうか。だったら、この奇妙なスキルを持った僕だけが見えると考えた方が、しっくり来る気が……別にしないな。

 ダメだ、わからない。


 これ以上、わからないことを考えても仕方あるまい。そもそも判断する材料が少なすぎるのだ。

 とりあえず今は時間を有効活用するために、アナから中級魔法を教わった方が良いだろう。もちろん、ちゃんと謝ってから。


「アナ、さっきはごめんね。それで、早速中級魔法を教えて欲しいんだけど」

「いいのですよ。では早速教えるのです」


 アナはもう本当に怒っていないようだ。ああ、本当にいい子だ。


「ユーヤはところでいくつ魔法を使えるのです?」

「水と土は全く練習してないから四個だね」


 火と風で二個ずつだ。両方とも、攻撃魔法と補助魔法の組み合わせであった。


「それでは、先に初級魔法全て覚えるのを優先させた方が良いのです。相性で消費魔力は増えますが、威力に違いはないのです。魔物の攻撃を防いだり、弱点を突いたりするには全属性ちゃんと覚えていた方が良いのです」


 なるほど、確かにその通りだと思う。

 アナの話だと、三階層以降には魔法を使ってくるモンスターもいるらしい。


 二階層を超えた先にある三階層『暗闇地獄』。

 その名の通り闇で満たされた洞窟で、光る水晶がときどき思い出したかのように道をうっすら照らしているだけの場所だそうだ。

 真っ暗だからといって、松明を持っていったり、魔法で足元を照らしたりするのは厳禁だそうである。

 理由は二つある。

 一つは考えればわかるのだが、魔物に自分の位置を教えているようなものだからだ。餌はここですよ、と言っているようなものである。

 もう一つの理由は、魔法に反応する魔物、『スケルトン』だ。奴らは生きた生物の魔力を餌にしているそうで、魔法を感知すると群れを成して襲い掛かって来るらしい。反対に魔法以外にはあまり反応しないそうで、敵意を向けたり攻撃したりしなければ、目の前を通っても全く気付かないらしい。

 スケルトンだけでなく、出てくる魔物の種類もいきなり増えるのだそうだ。

 ウェアウルフ、ヘルハウンド、グラコンダ(土属性の大蛇)、グランチュラ(推して知るべし)、吸血蝙蝠、そしてゴブリン。

 これらの魔物に対抗していくためにも、ちゃんと全属性覚えておこうと思う。


 というわけで、僕はアナ指導の下、魔法の練習を始めた。


「土よ、我が敵を呑み込め【グランドウェイブ】」


 壁に向かって地面が波のようにうねって進んでいく。


 ドゴッッッ。


 そして、波は壁にぶつかって止まった。

 これは、かなりカッコいいぞ。

 某緑色の巨人の必殺技のウェイブみたいだ。

 くっ、土属性の適性が低いのが悔やまれる。今ので一気に七も魔力が減っているのだ。これでは連発ができない。


「『グランドウェイブ』は直線状にいる敵を全て巻き込むので、かなり強力なのです。ただし、空中にいる敵には全く意味を為さない上に、跳んで避けられたら意味がないのです」


 なるほど、強力ではあるが、使い方に気をつけなくてはいけないのか。

 まぁ、オークとかが相手なら避けられないだろう。あの体型だし。この階層はオークがよく出るらしいから、出会ったら使ってみようと思う。


 よし、次は補助魔法だ。


「土よ、視界を奪え【サンドヘイズ】」

「ニギャー! 何でアナを標的にしたですか?! 目がー、目がー、なのですー!」


 アナの言葉からわかるように、これは目潰しの呪文だ。決して滅びの呪文ではない。

 標的の顔辺りに砂の霧を発生させ、視界を塞ぐのだ。

 何とも地味ではあるが、効果はありそうだ。

 いや、そんなことよりいい加減何とかしよう。また杖を突き付けられかねない。


「水よ、潤いをもたらせ」


 アナの目に水をかけて砂を落としてあげる。

 本当は『ウォーターボール』という魔法があり、それを試してみたかったのだが、それを使うと魔力がマイナスになりそうな気がするため今回は見送った。

 あれ? ていうか、ヤバいぞ。激しく眠い。

 もしかして、これが魔力欠乏症か。

 魔力を確認してみる。


≪魔力≫1/19


 うん、魔力を使いすぎた。


「さぁ、ユーヤ、覚悟するのです。アナはいい加減頭に来たのです。まずは同じ目に……ユーヤ? もしかして魔力欠乏症なのです?」

「う、うん、そうみた、い。ごめん、よ、アナ」

「もう、ユーヤはしょうがないのです。アナがちゃんと見張りをしておくので、眠るのです。一度魔力欠乏症になれば、ゼロにならない限り強制睡眠の状態にはならなくなるのです」

「うん、ほん、とうに、ごめ……」


 僕は最後まで言い切れずに瞼を下ろしたのだった。




 目を覚ますとまず目に飛び込んできたのだが、アナの逆さの顔だった。アナが僕を上から見下ろしている。

 さらに固い岩の上で寝ていたはずなのだが、全然体が痛くない。しかも、頭だけはやけに柔らかかった。


「目が覚めたのです? 申し訳ないのですが、アナも少し眠る必要があるので、三時間だけ代わってほしいのです」

「うん、あの、それより、これは?」

「ああ、これはクラウドタラテクトという魔物の糸で出来た寝床なのです。空中に張ってその上で寝れば、魔物に発見される確率も減って体も痛くないのです」


 なるほど、要するにハンモックみたいなものか。

 体が痛くない理由はそれで納得できた。だけど、僕が聞きたいのはそこじゃない。頭が柔らかい理由は? アナの顔が近い理由は?

 いや、うん、わかっている。これはあれだ。『膝枕』だ。人生初の『膝枕』なのだ。


「あの、代わってほしいのです」

「ああ、うん、ごめん、すぐ退く」


 僕は慌てて飛び起き、アナから離れた。

 アナは特に気にした風もなく、一つ欠伸をすると横になってしまった。

 あれ? 僕はいいのかな、膝枕しなくて。

 いや、した方が良いだろう。

 何て言っても僕たちは仲間、助け合って困難を乗り越えなくてはいけない。

 というわけで、僕はすでに寝息を立てているアナに近づき、そっと頭を上げて、足を伸ばした姿勢で座った僕の太ももの上に下ろした。

 ああ、癒されるな。こうやってアナの寝顔を見守っているのは。

 それにしても……、


 ――たっか!


 また随分高い所にデカい蜘蛛の巣が張られている。

 まぁ、この方が魔物に見つかり辛いんだろうけど、高い所がちょっと苦手な僕には少し刺激的な光景である。


「うぅ、お師匠様……」


 おや、アナが寝言を言っている。

 お師匠様とやらにこうやって膝枕をしてもらったことがあるのだろうか。

 ちっ、赤熱の魔女め。

 まぁいい、今は僕がアナを膝枕しているのだ。


 だけど、五階層についた時、もしも本当にそこに赤熱の魔女がいたら、アナはそこからどうするつもりなのだろう。

 そこでお別れなのかな?

 それは僕にとって、あまりにも……寂しい。

 いや、違う。僕は本来一人でも生きていけるはずなんだ。今までだって一人で生きてきたんだ。アナがいなくなっても、きっと一人で……、アナがいなくなったら……?

 やめよう、今これ以上考えるのは。

 それに少なくとも、今は寂しくないのだから。

 僕はアナの頭を優しく撫でたのだった。




「あ、お早う、アナ。今何時ぐらいかな、わかる?」


 アナは目を開けると、僕の顔をじっと見つめていた。


「あの、これは……?」

「これ? これって、どれ?」


 アナはガバッと起き上がり正座をすると、そのまま器用にスススッと後退していった。


「い、今は四時ぐらいだと思うのです。お早うございます。とてもいい朝なのです!」


 僕は内心ほくそ笑んでいた。

 ふふふ、恥ずかしかろう。

 まぁでも、アナにされたのと同じことを仕返しただけだ。これぐらいは許されるだろう。


 その後僕たちはすぐに地上に降りた。

 僕は何でもない風を装いながら内心で絶叫しながら飛び降りて、『エアジェット』という任意の方向に風を噴出させる、風の初級補助魔法で減速しながら着地した。

 アナは器用に岩にへばりつきながらハンモックを回収し、そのままボルダリングを逆向きにするように下りてきた。


 朝食に持てるだけ持ってきたオーク肉と、黒パンを二人で分け合い、すぐに魔法の練習を再開する。

 今日は水の魔法だ。

 水の補助魔法は『アクアヒール』といい、補助魔法というか回復魔法である。

 怪我などをした時に自己治癒力を促進させ、一気に怪我を治してしまうのだそうだ。つまりこれは、怪我をしないと練習できないので今は放置するより他ない。

 あれ? 確か怪我が治るスキルが僕にはついてなかったか。しかも効果がパッシブなら、この魔法は必要ないような……。いや、アナが怪我した時に僕が使えばいいのだ。結局アナが怪我しないと、使う機会はないのだけど。

 ということで、『アクアヒール』はひとまず放置し、今日こそ『ウォーターボール』の練習をする。


「アナに向かって撃つのはダメなのです」


 僕は苦笑いでそれに答えた。


 アナに聞いたところ、『ウォーターボール』は『ファイアボール』と同じように水球を生み出す魔法だそうで、それを敵に投げつけて命中すると、当たった部分をそのまま覆うのだそうだ。

 つまり使い方としては、敵の顔面に投げつけて溺死させるという何ともエグイ魔法なのである。

 早速右手を上に向け、準備をする。


「あ、ちょっと待つのです。ユーヤにこれを上げるのです」


 アナはそう言ってポシェットから、三十センチほどの長さの木の杖を取り出した。

 んん?? あのポシェットにどうやったら、あの長さの杖が入っていたんだ?

 いや、ここは異世界。きっとあれは定番アイテム『アイテムボックス』に違いない。あれはこっそり四次元ポシェットと呼ぼう。

 とりあえず四次元ポシェットは置いておいて、今は渡された杖である。

 アナからそれを受け取り、眺める。

 こういう時こそ『鑑定』だ。


≪号≫なし

≪種類≫インジェクションワンド

≪製作者≫ユヒト

≪効果≫【射出】の永続術式が組み込まれた杖。

 ユヒトが適当に作ってばらまいたアイテムの一つ。


 突っ込みどころが一つある。


「ユヒトって誰?!」

「さぁ、謎の人物なのです。ただ、このダンジョンで発見される多くのアイテムの製作者はユヒト様なのです。お師匠様も知らない方らしいのですが、きっと偉大な方なのです。

 アナはお師匠様からもらった杖があるので、それはアナが自分で見つけた予備の杖なのですが、使って欲しいのです」

「そうか、ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」


 それにしても、すごいな、ユヒト。

 地球にいた頃は神なんて信じていなかったけど、ここは異世界。もしかしたら、そのユヒトっていう人は神様なのかもしれないな。

 あ、もしかして、


≪号≫なし

≪種類≫四次元ポシェット

≪製作者≫ユヒト

≪効果≫【圧縮】、【解凍】の永続術式が組み込まれたポシェット。生物はしまえないので注意。

 ユヒトが適当に作ってばらまいたアイテムの一つ。


 やっぱり、ユヒト作だったよ。

『圧縮』と『解凍』って、まるでパソコン用語みたいだけど、要するにあのポシェットの中ではしまった物が縮んでいるというか小さくなっているっていうことなんだろうか。それが取り出す時には元のサイズに戻る、という事だと思うんだけど。

 それにしても、四次元ポシェットでいいんだ……。


「さ、それを使って魔法の練習をするのです。それを対象に向けて呪文を唱えれば、勝手に魔法が飛んで行ってくれるのです」


 それは助かる。

 僕が投げる球じゃ、止まっている相手にだってぶつけるのが難しいのだ。

 僕は壁に向かって杖を構えた。

 おう、なんだ、魔法使いらしくなってきたぞ。

 一度杖をベルトに挟み、ガンマンの早撃ちのようにスチャッと構え直してみた。


「様になっているのですよ、ユーヤ。しかし、なぜわざわざやり直したのです……?」

「水よ、呼吸を奪え【アクアボール】」


 杖の先から水球が射出され、そのまま予想を上回る速度で飛んでいき、壁にめり込んで止まった。

 もうあれで倒せるんじゃないか。魔法の効果が別物になってしまっている。

 しかしこれで大幅に戦力アップだ。


「ありがとう、アナ。これは良いものをもらったよ」

「え? う、うふふ、き、気にしなくていいのですよ?」


 おや? 様子がおかしいぞ。

 アナは体を捻り、まるで何かを僕から隠すようにした。

 確かアナが体を隠した側には、ベルトに差さった杖があったはずだ。

 なるほど、僕の杖より性能が高いから、気まずくて隠したんだな。

 そんなこと気にしなくていいのに、何ていうか、可愛らしい子だ。

 ま、アナの杖の性能は今度こっそり調べよう。

 そして、赤熱の魔女にもらったというその杖より、遥かに性能の高い杖を見つけて僕がプレゼントしよう。


 僕が密かに野望に燃えていると、アナが両手をぱちんと胸の前で叩いた。


「さ、これでユーヤの準備もだいぶ整ったので、そろそろ先に進むのです。中級魔法は道すがら教えるのです」


 僕は頷いた。

 結局使う魔法は『ファイアボール』ばっかりになりそうだけど、他の魔法も状況によって使い分けることができそうだ。

 まだ『地獄』ですらない、二階層。さくさくと進んでいきたい。

 尤も、未だに苦戦したこともないし、この階層は余裕で進めそうだ。


 僕はそんな風に楽観的に考えていた。

 しかし、僕はまだ知らないだけだった。

 もしもこの階層に奴がいることを予め知っていれば、絶対そんな風には思わなかっただろう。

 僕は「狂気」に向かって進んでいたんだ。そしてアナは「絶望」に向かって……。


 だけど、その前に僕は驚愕的な事実を知ることになる。

 それは、


「そういえば言い忘れていたのですが、アナは戦闘が苦手なのです」

「はい?」

「アナは極度のビビりなのです!」

「はいいい?!」


 アナは胸を張って自慢げに語ったのだった。




今後の予定について活動報告に載せました(後書きを書いている時点では書いてませんが、必ずや書き上げているものと未来の自分を信じます)。

とりあえず次回は8/2(水)21:00投稿予定です。

誤字脱字、おかしな文章、表現など、何かあればよろしくお願いします。

質問などもございましたら、出来る限りお答えしたいと思います。

もちろん感想もお待ちしております。

それでは今後とも『異世界迷宮に転移したら、僕はみんなの食糧でした。』を、宜しくお願い致します。

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