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第百一話 操り人形たち

連続投稿6日目。


「いい? いざとなったら僕を食べるんだ」


 勇也はそう言いつつ、崖を飛び回る飛竜を次から次にエカレスで撃ち落としていった。

 勇也自身も空を飛んでおり、再び飛竜とドッグファイトを繰り広げている。


「すごいパワーワードだな。まぁ、そうするけどさ」


 同じく空を飛んでいるのはイーターだ。

 彼もまた飛行しながら魔法やスキルで飛竜の群を攻撃していた。


 こうして二人の勇也が派手に暴れ回っているのは、ただ単に空を飛べるのが二人しかいなかったということもあるが、目立つようにしておけば崖を登る千佳たちが気付かれないだろうという作戦からだった。

 結果的に彼女たちを先行させることになるが、この階層の魔物なら進化したクロとツヴァイが後れを取ることは無いだろう。


 しかし、もしも千佳たちが先にクラスメイト達に追いついてしまった場合、千佳たちが元クラスメイト達と戦えるのか勇也は不安だったが、そもそも勇也たちもすぐに追いつくつもりである。

 なるべくなら戦いになる前に。

 勇也なら躊躇いなく同じ人間、たとえそれが元同じクラスの人間でも戦うことができた。すでに人を殺しているし、クラスメイトと言っても名前だって憶えてすらいない。ましてやそれがアナベルを救うためなら迷う余地もない。

 仮にイーターが戦えなかったとしても、今の勇也なら一人でも戦うことができるだろう。


 千佳たちが作戦通り、崖を登って横穴に入って行く。

 飛竜たちは勇也二人に夢中で気付いていない。


「よし、作戦通りだね。あとは一発でっかいのをお見舞いして、僕たちも後に続こう」


「ああ、それは僕がやろう」


 イーターが攻撃するのを中止し、飛び回って逃げながら詠唱を始めた。

 勇也はイーターに邪魔が入らないように、彼に襲い掛かろうとする飛竜を撃ち落として援護する。


「火よ、熱き炎を司りしサラマンダーよ、ここにその力の一端を具現させよ、灼熱の星を生み落せ【プラネットフレア】!」


 イーターが上級火魔法を発動した。

 その場に巨大な火炎の球体が具現し、飛び回る飛竜を焼き尽くしていく。


「今だっ!」


 勇也の合図で二人はその場から離脱した。

 そして穴に飛び込もうとしたところで、上から何かが降ってくる。


 閃光だった。

 真っ白な光が耳をつんざく音と共に降ってきたのだ。


 勇也はすぐさまイーターの前に立ち、背から生える両翼を体の前で交差させ、盾とした。


「がぁぁぁっ!」


 勇也は熱と衝撃に咆哮を上げて耐える。


 もし勇者に至る前の勇也がその一撃を喰らっていれば、当たり所が悪ければ一撃で消滅させられていたかもしれない。

 しかし、勇者に至った勇也を葬るにはその一撃では足りなかった。

 勇者を葬ることはそう容易いことではない。

 そう、それが竜の息吹(ドラゴンブレス)だったとしても。


「はぁぁぁあっ!」


 勇也が気合いと共に翼を広げる。

 その衝撃で白い光が霧散した。


「あれを受け止めるか。最早化物だな、永倉?」


 二人の勇也が声のした頭上を見上げる。


 そこには別の横穴から顔を覗かせる二人の人間がいた。

 一人は今のブレスを放った者、土方大翔。そしてもう一人は声の主、岡田秀一だった。


 勇也たちからはかなり距離があるのだが、今の勇也の視力なら二人の様子を確認することもできる。

 そこで勇也は違和感に気付いた。

 声を掛けてきた秀一は特に変わった様子が無いのだが、その隣にいる大翔の様子がおかしいのだ。

 大翔が勇也たちに向ける表情には一切の感情を感じさせない。ただの無表情、その上死んだ魚のような目で勇也たちを見ていた。


「岡田、僕たちと戦うつもりか?」


 勇也が二人の様子を観察していると、イーターが秀一に声を掛けた。

 秀一は驚いた様子でイーターを見る。


「見間違えかと思ったが、やはり永倉が二人いるな。いや、一人は人かどうかも怪しいが」


 驚いているのはやはり秀一だけだった。

 大翔は変わらずに見つめているだけである。


「悪いが説明している余裕はない。僕たちはこの先にいるゴブリンの雌、じゃなくて、アナベルに用事があるだけだ」


 秀一は訝しげな表情をするが、すぐにかぶりを振り、自嘲するように薄く笑った。


「それはできないな。お前は彼女に会えばきっと先生を許さない。だから……ここを通すわけにはいかない!」


「そうかよ」


 勇也はイーターの表情を見る。

 イーターは眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっていた。


 自分が悔しい時にどんな表情をしているかなんて知るわけがない。

 だけど、イーターの顔からどんなに彼が苦しんでいるか、勇也には痛いほどに伝わってきた。


 勇也は反転していない鏡に向かって話しかける。


「僕が一人でやるよ。先に行っていていい」


 だが、イーターは首を横に振った。


「いいや、僕もやるさ。友達なんだ。岡田たちは知らなくてもな」


 勇也にイーターの気持ちはわからない。

 イーターの持つ友情と、勇也の持つ仲間意識は似て非なるものだった。


 勇也にとって、千佳も凜華も卓も心結も、そして琴音も、友達ではない。彼らは勇也にとって仲間なのだ。

 唯一友達と呼べるのは陸やジェヴォぐらいのものだろうが、彼らとはすぐに道を違える予定である。それでも、もし彼らと戦う必要が生じたら、なるべく避けたいと思うだろう。

 ゆえにイーターが戦いたくないなら無理強いするつもりはなかったのだが、本人が戦えるというなら、勇也はその気持ちを尊重することにした。


「行くよ!」


 勇也とイーターが同時に飛び上がる。

 一気に距離を詰めて決着をつけようとした。


 見開いた秀一の目と目が合う。

 しかし、次の瞬間に二人の姿が消えた。


「何っ!?」

「どこに行った!?」


 二人の勇也が同時に声を上げる。

 だが、勇也はすぐにこれと似た現象を思い出していた。


 かつて蜘蛛の魔物に襲われた時、食い殺されそうになったところで蜘蛛の魔物が勇也の姿を見失ったことがある。

 あれはなぜだったか。


「気を付けて! 二人はまだそこにいる!」


 勇也が慌てて声を上げる。

 しかし、それは一歩間に合わなかった。


「がぁぁぁっ!」


 イーターの絶叫が響いた。

 勇也が後ろを振り返ると、そこには右手を失ったイーターの姿があった。

 それを見た勇也は咄嗟に自分の体を翼で包んで丸くなる。

 同時に、さっきと同じ白い閃光が瞬いた。


 勇也は再び光を弾き飛ばすと、すぐに銃を構える。

 そしてその体勢のままイーターに向かって声を張り上げた。


「僕の体を!」


「ああ!」


 イーターが勇也に向かって飛び付き、奪われたのと同じ右手を食う。

 するとすぐさまイーターの右手が再生し、同時に勇也の腕も再生した。


 勇也はその間に、どこにいるかわからない秀一たちに向けて引き金を引いていた。

 しかし弾丸を撃ち尽くしても当たった感触はない。


「気を付けて、富士山は状態異常の踊り子だ」


「富士山……。山南のことか。まぁ、だいたいわかった」


 さすがは自分というべきか。イーターは勇也の言葉足らずの説明で十分に理解できていた。


「土方のブレスも厄介だけど、岡田にも気を付けろ。僕の腕は多分何か(・・)に斬り飛ばされた。多分やったのは岡田の方だ」


 イーターにはその何か(・・)がわかっていなかった。

 自分の認識外から攻撃されたというのもわからなかった原因の一つだが、その上剣に斬られたという感触もしなかったのである。


 二人の勇也は見えない敵に警戒する。

 辺りには未だ飛竜が溢れかえっているのだが、彼らは勇也たちにはもう目を向けること無く、ひたすら上を目指していた。

 勇也たちに構う様子のない飛竜の鳴き声や翼の音は聞こえてくる。なのに、勇也たちを狙う秀一と大翔の気配はまるでしなかった。もちろん、その原因であるはずの芽衣の気配も。


「それなら……」


 勇也がさらに上空に向かって飛び出した。

 そして同時に唱える。裁きの呪文を。


「キリエ イグニス ディヴィネ エレイソン【フェザーレイ】」


 勇也の翼から羽が放たれる。

 舞う雪のように、この崖全てを覆うほどの量だ。


 放たれた白い羽はやがて崖にぶつかり、極大の火柱を上げた。


「うぉっ!」


 イーターはその無差別範囲攻撃に驚くが、彼のいる場所に勇也の羽は落ちて来なかった。

 勇也の羽は自分の意識で操作することが可能だ。


「きゃあああああっ!!」


 火炎の牢獄の中で、女の悲鳴がどこからか聞こえてきた。

 勇也はすぐさまそちらを見る。

 そしてエカレスを構え、引き金を引いた。

 そこにいるのがクラスメイトだと分かっていても、勇也に迷いはない。自分の障害になるというなら、ただ排除するだけだ。


 燃え盛る炎の中でも、その極大の銃口から発射された弾丸の音が空気を切り裂き響き渡る。

 命中。

 勇也は確かな手応えを感じて、自分が撃ったのが誰なのかを見た。


 芽衣が発動していたスキルが解除されて、彼らの姿が勇也の瞳に映し出される。

 勇也はさっきの悲鳴から、芽衣を撃ったと思っていた。

 確かにそこに芽衣がいる。

 しかし、それだけではない。芽衣を庇うように、彼女の前には大翔もいるのだった。


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