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第百話 旅の仲間たち再び

連続投稿5日目。


 その場にいる者たちの視線が集中する中、勇也は彼らのちょうど中央に降り立った。

 同時に、後ろから来ていた眷属の魔物たちやジェヴォ達も合流する。


「って、うわぁぁぁ! 今度は恐竜ぽい魔物が出たでござる!」


 卓は後ろからやって来た三体(・・)の地竜を見て叫び声を上げた。


「ああ、皆に紹介するよ。そっちの三体と一人(・・)は僕の新しい仲間。ゼクスとドライとフィアー、それとツヴァイだ。んで、あっちの黒髪の女の人がクロ」


 勇也の紹介したうちの一人(・・)というのは、赤銅色の髪をしたクロより少し背の低いくらいの女だった。

 クロがスレンダーな体型をしているのに対し、こちらはやや肉感的である。そして、赤いシャツと、サスペンダーとショートパンツを履いていた。

 そう、彼女は勇也の言う通り、『天馬の眷属』を得て、『ジャバウォック』という種族に進化したツヴァイなのである。


「色々追いつけないのでござるが、えーっと、そういう貴方はやはり勇也殿なのでござるか? というか、人なのでござるか? 『鑑定』が弾かれるのでござるよ」


 キョトンとした顔で見つめる卓、心結、そして凜華に、勇也は苦笑いして見せた。

 勇也を一目見て勇也だと理解したのは千佳だけのようだ。尤も、勇也が三人もいることになり、千佳も訳が分からなくなっているのだが。


「そうだね、先に説明しとこう。えーっと、千佳の隣にいるのは僕で、あっちの仮面を被っているのも僕だ。つまり、それぞれ違う時間からこの世界に召喚されたみたいなんだ」


 そんな雑な説明ではあったが、千佳以外はすぐに理解できた。


「おー! つまりステーナイト的な感じの三人バージョンですな!」


「うーん、むしろ青い狸型ロボットの世界ぽい感じがするけど」


 その後何とか千佳にも理解してもらえたのだが、千佳の心境は少し複雑そうではあった。

 勇也たちはあまり詳しくは話しておらず、千佳が強姦された挙句自殺してしまったという話もしていない。だが、イーターの世界では千佳が勇也の恋人なのである。

 本来ならその未来を迎えるはずだったのに、異世界に来たばかりにそうならなかったというのも千佳は納得できないし、突然キスしてきた勇也が今まで一緒に旅をしてきた勇也ではないというのもどこか引っかかるものがあるらしい。

 しかし、考え込んでいた千佳であったが、しばらくすると顔を上げ、にこりと微笑んだ。


「やっぱりそれでもいいかな。私には勇也君の違いがわからないし、勇也君が私のこと好きでいてくれるっていうなら」


「いや、滅茶苦茶違うでござるぞ」


 千佳は卓のツッコみを無視した。




 それまで大人しく話を聞いていた凜華だが、話が一段落したところで、急に狼狽え始めた。


「どうして? ウチも勇也(・・)がどれかわかんない……」


 凜華はそう言ってハッとする。

 今までと違うのだ。

 勇也に対して持つ感情が。

 彼を愛し、彼の命令には絶対服従すべきで、彼のためなら命など投げ捨てても惜しくないとすら思えていたはずだった。

 その全てが消えたわけではなかったが、明らかに今までとは勇也に対して持つ感情が違う。


「凜華に掛かってた眷属化のスキルを解いたんだ」


「そっか、そうなんだ……」


 凜華は納得し頷くが、その顔色は優れない。

 彼女は今、恐怖と孤独に襲われていた。


 それもそうだ。

 凜華は今まで勇也の眷属という枠組みに組み込まれていた。

 何かに所属するということは、それだけで安心感を与えてくれる。

 たとえ自由が無いのだとしても、大きな力の中で自分の価値を見出すこともできた。


 凜華はそれを唐突に失ってしまった。

 もし勇也が事前に解除すると言ったのなら、凜華は地に額を擦りつけてでも断っただろう。


「やっぱり、ウチのせい? もういらないってこと……?」


「いや、僕はそんなつもりじゃ……」


 勇也としては、眷属化を解除したのは凜華のためでもあった。

 自分に縛りつけておくことが、彼女の意思を封じてしまっていると思っていたからだ。

 それに、無理矢理勇也を犯したことを、凜華が酷く後悔していることも知っていた。

 眷属から解除することで、その負の感情から解き放つこともできると思ったのだ。

 それがまさか、凜華が望まない結果になるとは思わなかった。


 二人の間に流れる気まずい空気に、黒髪の美女となったクロが割って入ってきた。


「リンカ、主様はお前を罰しに戻って来たのではない。自分をお許しになることができたら戻ってこられたのだ。つまりお前を眷属から外したのは、お前が憎くてしたことではない」


 姉として慕ってきたクロの言葉に、凜華が僅かに微笑む。


 クロとも同じ眷属として縁が切れてしまっていた。

 しかしそれでも、クロの凜華に対する態度は何も変わっていなかったのだ。


「うん、わかってる。きっと勇也は、いつまでも縛られるなって言いたいんだろうしね」


 凜華はそう言って、明るく微笑んで見せた。


 凜華は弱くない人間だ。

 立ち直りと切り替えの早さと、自由を恐れない強さを彼女はもっている。


 目の前で吹っ切れた様子を見せる凜華に、さすがに勇也も苦笑いした。きっと自分ならもっとうじうじ悩んでいただろうと思う。

 自分から去って行く凜華に一抹の寂しさを感じるも、勇也はすぐにそれを払拭した。

 凜華が笑っていられるのに、自分が落ち込むわけにはいかない。そして、そんな時間もないのだ。


「凜華、勝手に眷属を解除したのは悪かったよ。でも、これからは自分の意思で生きて欲しいんだ」


「アナベルちゃんのところへ行くんだね」


 勇也は頷いた。

 

「一応、皆にも話しておくけど、僕はこれからアナに会いに行く」


 誰も何も言わずに勇也を見る。

 勇也がどれほどの覚悟を持っているのか、それが彼の表情から伝わっていた。


 それでもかつての仲間たちは勇也を心配している。

 つい卓が我慢できなくなり、口を開いた。


「でも、その、アナベルたんが勇也殿を……選ぶとは限らないですぞ」


「それでも僕はアナに会いに行く。自分の気持ちをちゃんと伝えたいんだ」


「承知したのでござる。ならばこの俺もついて行って結果を見届けましょう」


 卓の言葉に、千佳や凜華、心結も頷いた。


「あ、いや、それはやめておいた方が良いでしょう」


 決意した勇也、それを応援する仲間たちに対して、なぜかチェイサーが待ったをかけた。

 視線が一斉に彼に集まる。


「一度言ったと思うのですが、あの小さい教師には気を付けた方がいいと」


 勇也は首を傾げた。

 それがどうしたと言うように。


「彼女の持っているスキルですが、相手の体に触れた状態で声を掛けると、その相手を自分の言葉通りに動かすことができるみたいです。声を掛けただけでも少し効果があるみたいなので、相対するのはかなり危険です。まぁ、そこまで強制的なものでもないみたいでしたが」


「ちょっと待って……」


 勇也は今まで出来事を思い返した。

 アナベルはもしかして好きで勇也を捨てたわけではないのだろうか。それだけではない。自分もまたアナベルから離れるように誘導されたのではないだろうか。


「あの女……!」


 勇也の翼が無意識に広げられ、さらに尾が地面を叩いた。


「きっと他の生徒が立ち向かってくるでしょう。もちろん私や貴方、つまり勇者の敵ではありませんが、彼らを排除することが他の方々にはできますか?」


 卓はごくりと唾を飲み、千佳たちを見回した。

 千佳と凜華は少なからず動揺しているようだ。心結の方は完全に駄目そうだった。


「それに、全ての敵を“そっちの私”一人で片付けたとしても、その光景を見ることができますか?」


 一同が黙る。

 そんな中、イーターが口を開いた。


「僕は行くよ。僕の手で決着をつけたい奴がいるし、もう一人の僕を見届けたい」


「そうね。私も行くわ。たとえ何が起きても、ずっと勇也君の傍にいたいから」


「ウチも行くよ。確かにもう勇也の眷属じゃないけど、きっちりケジメつけたいかんね。それに……」


 凜華が思い出したのは田中騎士のことだった。

 凜華は一度彼を振っているが、もう一度会っておきたいと思ったのである。

 思えば凜華を置いて逃げてしまったのも、無理もないことなのかもしれない。

 あんな状況になれば、自分の命を守るのに必死になることだってあるだろう。

 彼ともう一度付き合うというのは考え辛いし、彼が勇也に立ち向かおうというならそれどころでもないかもしれないが、それでも出来るなら一度会って話しておきたかったのだ。


「んぐぐ、拙者には無理なのでござる。勇也殿は仲間でござるが、クラスメイトを殺すことになるかもしれないとなると……」


「ごめんね、私も……」


 勇也は二人に向かって微笑んだ。

 一緒について来なかったとしても、二人は自分にとって仲間であるし、仲間にそんな地獄を見せたくはなかった。


「我々は彼らをここで守っているとしましょう。私や陛下が行っても過剰戦力でしょうしね」


『僕たちもだね』


「俺たちもパスだナ」


 結局その場に残ることが決まったのはチェイサー、マディ、ウィズ、ジャンゴ、陸、ジェヴォ、カトリーナ、卓、心結だった。

 そして勇也と共に行くのはイーター、千佳、凜華、そして彼の眷属のクロ、ツヴァイ、ゼクス、ドライ、フィアーだ。


 勇也は巨大な崖を見上げる。

 崖には横穴がいくつもあり、そこから続く洞窟のどれかにアナベルがいるはずだった。


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