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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅱ - 最強カップルのリベンジ・イン・ダンジョン
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第84話 乙女は傷心にかこつけて好き放題できる


「――ッくあっ……! やられた……!!」


 俺のラストアタックが決まり、中ボスのドラゴンが消滅すると、ジンケは悔しげに顔を歪めた。


「ちょっと欲張ったか……! トドメに入ろうとしたところを突かれたな……!」


 抜かせよコイツ。

 レベルも人数も俺らのほうが上なのに、なんでダメージ効率が大して変わんねえんだよ。


 人間性能が違う、と言わざるを得ない。

 これがコンマ1秒以下の世界で日常的に勝ち負けを競っている人間なのだ。


「あん? ハイハイわかったわかった悪かったな負けて!」


 配信の視聴者に喋っているんだろう、ジンケは妖精型カメラに向かって言う。


「次は勝つって。中ボスはまだいるんだろ? BO3だから! BO3!」


「でも、扉とか見当たりませんよね?」


 チェリーの言う通り、中ボスを倒しても扉やワープゾーンなどは出現していない。

 ここから先に進めるんじゃないのか……?


「あっ」


 と思ったちょうどそのとき、奥の壁に大きな紋章みたいなものが光り輝いた。


「これって……?」


「なんだ?」


 首を傾げていると、


『えっ?』


 という声が、セツナの配信から聞こえた。


『もう来た? どこが? ……あー、なるほど』


 他のプレイヤーと話しているみたいだが、相手の声は入ってこない。


『ケージ君、チェリーさん、聞こえる? 君たちはたぶん戻ってこないほうが――』




「リア充はいるかあ―――――っっっ!!!」




 それは配信越しじゃなく、生の声だった。

 甲高く甘ったるい声が、ダンジョン内にキンキンと反響した。


「うわっ、なんだ今の声」


「……なんだかわからないけど、癪に障る」


 ジンケとリリィさんは怪訝そうにする。

 しかし、俺とチェリーには一発でわかった。


「今の声……」


「来たんですか、あの女……!」


 ついに……本格参戦ってわけだ。


『リア充絶対許さない系オンナのコ、ダーク・ミミちゃん参上♪

 いつもの二人に加えて、メイドを侍らせたプロゲーマーまでいると聞いて!

 はい庶民(みんな)ー! リア充はー?』


「「「爆発しろー!!!!!!」」」


『よくできましたー! じゃ、爆破しに行こうね~☆』


 よく見知ったゴスロリファッションの姫が、白銀の騎士たちと一人の巨人を扇動していた。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『あれあれ~? 意外と天井が低いな~? 2階が近くな~い?』


 ダンジョン1階のロビーに姿を現したUO姫は、やたらに豪奢な神輿の上から、身長2メートル半の《巨人》の頭をぺしぺし叩いた。


『いっけー! 火紹くん! 登っちゃえー! 他のみんなも急いで来てね~☆ あっ、何人かはここでマップのモニターよろしく~♪』


『『『イエス、マイプリンセス!』』』


 現時点でおそらく唯一の《巨人》クラス使い、火紹。

 UO姫が乗った小型の神輿を背中に担いだまま、そいつは思い切りジャンプした。


「オォオオオオッ―――!!!」


 直接聞こえてくるほどの雄叫びをあげながら、巨体が伸ばした手が――

 ――2階の床の縁に引っかかる。


「「はあっ!?」」


 俺とチェリーは同時に叫んだ。

 ひっ、卑怯!

 卑怯だぞ、そのショートカットは!

 デバッグ班仕事してねえ!!


 通常のアバターでは有り得ない超高身長。

 それを活かしたショートカットを繰り返し、UO姫を担いだ火紹が吹き抜けを直接登ってくる!


「うわうわうわうわ……来るぞ、あいつ! すぐに来る!」


「出口はどこですか、出口は! どこに行けば先に進めるんですかっ!?」


 慌てる俺たちをよそに、ジンケは首を傾げていた。


「どうしたんだ、いったい? さっきから下のほうが騒がしいが」


「UO姫が来たんだって」


〈UO姫来たの?〉

〈マジ? 本物?〉

〈セツナ配信見た! 本物だった!〉


 リリィさんとコメントの両方に教えられて、ジンケはハッとした顔になる。


「UO姫って……スクショ見たことある! あの異常にエロ可愛いアバターの子か!」


「……ジンケ。1回までだよ」


「おっ……おう。わ、わかってるからそんな怖い目で見んなよ……」


 ズンッ!

 床が揺れた。


「来た……!」


 足音があっという間に迫り、中ボスとの戦場となっていた大空間に、巨大な人影が現れる。


「でッ……でっか――っ!?」


 火紹を目の当たりにしたジンケが目を剥いた。

 そうだよな。

 そうなるよな。

 モンスターならともかく、プレイヤーに許されるデカさじゃないよな。


「あ~っ! ケージ君と淫乱ピンク――じゃなかった、チェリーちゃんはっけ~ん☆」


「わざとらしいんですよ言い間違いが!」


 火紹が背負った神輿の上からの第一声に、早速チェリーが食ってかかった。

 あーあ。

 もう無事に治まんねえぞコレ。


「大体、なに当たり前のように来てるんですかあなた! 先輩には近付かないって約束でしたよね!?」


「知らないも~ん。最前線の攻略を進めちゃおっかな~って思ったら、たまたまそこにケージ君もいただけだも~ん」


「普段は攻略に顔なんて出さないくせに……!! あと『も~ん』が腹立つ……!!」


 もう知ーらない、と我関せずを決め込む構えを取った俺だったが、後ろからひそひそと話し声が聞こえた。


「どういう関係……?」

「三角関係……」

「こんな美少女二人を……?」

「顔に似合わず意外と……」


「おいプロゲーマー! デマを流すな!!」


 自分の発言力の大きさを理解しろ!


「どういうつもりですか媚び女……! そんなにここのエリアが欲しいんですか!?」


「ふっふふ~。よくぞ聞いてくれましたっ」


 UO姫は神輿の上で立ち上がった。

 幼さと妖艶さを併せ持つそのアバターは、フリルまみれの漆黒の衣装――ゴシックロリータに包まれている。


「今日のミミはミミじゃない! 暗黒面に堕ちたミミ、ダーク・ミミなのだっ!」


「はあ? 頭沸きましたか?」


「やん。ひどいチェリーちゃんっ! でもダーク・ミミはダークなので、心の傷をも糧とするの!」


「心の傷ぅ?」


 はっ、と鼻で笑うチェリー。

 マジでUO姫相手にすると性格変わるよなコイツ。


「暗黒面に堕ちたダーク・ミミは、心の傷と他者の不幸、そして破滅するリア充を糧として生きる悲しき獣……カップルでいちゃいちゃゲームをしてる輩を血祭りにあげなければならない宿命を背負っているのっ!」


「堂々と逆ハーを作り上げて姫プレイしてる人間の言うこととは思えないんですが」


「こうなってしまったのも、あのときがきっかけだった―――」


「回想に入ろうとしないでください!」


 チェリーの突っ込みを無視して、UO姫はしなを作りながら俺のほうをチラチラと見た。


誰かさん(・・・・)が、あんなヒドいことをしなかったら……。あの夜、誰かさん(・・・・)がミミに癒えない心の傷を刻みつけたの……」


 ぐるん!

 と。

 チェリーが俺を見た。


「…………先輩?」


 俺は顔を逸らした。


「もしかして……私の知らないところで、あの女と会ってます?」


「…………ま、まさかー」


「嘘が下手くそなんですよーっ!」


 胸倉を掴まれ、ぐわんぐわんと揺さぶられる。


「何があったんですかっ! どうして私に黙ってたんですかーっ!!」


「なっ、何もしてない! してねえから!」


「そんな……ケージ君……忘れちゃったの? ミミ、あんなに恥ずかしかったのに……」


「なーにーをーしーたーんーでーすーかーっ!!!」


「惑わされるなーっ!! 今のは叙述トリックだ!!」


 あいつが勝手に自爆して勝手に羞恥心で闇堕ちしただけだ!!


「えー。現在、人類圏外の最前線より、MAOトッププレイヤー3人による修羅場をお送りしております。どうですか解説のリリィさん」


「とりあえず男は死ねばいいんじゃないかなと」


「オレは正直ちょっと羨ましい気も、」


「浮気者はすべからく死ねばいいんじゃないかなと」


「うおふっ!? ストップ! PKになるから!!」


 ほらー!

 事態が混迷を極め始めた!

 UO姫が絡むといつもこうだよ!


「と、まあ、破局に至る伏線を仕込みつつ! ミミは当たりを付けちゃいました☆」


 俺たちがぐだぐだやっている間に、UO姫が正面を指さす。


「――火紹君! あの紋章のところをドカンと一発!」


「オオォオオッ!!」


 ボウン!

 と、巨体が打ち出されたように動いた。


 俺たちのそばを豪風が駆け抜け――

 直後。

 大きな紋章が輝いている壁に激突する。


 壁が、音を立てて崩れ去った。

 その向こうに――


「あっ……!」


「階段……!」


 紋章の奥に、上り階段が隠れていたのだ。

 瓦礫の中から、巨人が何事もなかったかのように立ち上がる。


「それじゃ、お先に~☆」


 UO姫が手を振って、火紹を馬車馬のように走らせる。

 巨体はすぐに階段の先に消えていった。


「……先輩」


「お、おう」


 まだチェリーの声が低い。

 怖い。


「さっきの話は、あとでじっくりと聞かせてもらいます。今はあの女に先を越されないことが先決です」


「は、はい。わかってます」


「行きますよ!」


 チェリーに引きずられるようにして、俺も現れた階段に向かう。


「……やれやれ。いろんな奴がいるな、MAOの最前線ってところは」


 そして。

 背中でプロゲーマーの声を聞いた。


「これは簡単な仕事じゃなさそうだぜ。

 ――リリィ、ここからはお前も手伝え」


「うん」



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