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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅱ - 最強カップルのリベンジ・イン・ダンジョン

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第82話 問題と発明と解決と改良と普及


「――と、啖呵を切ってはみたが」


 階段を上ってくると、ジンケは肩を竦めた。


「戦うとPKになるからやめろって言われてんだよな」


「はあ……あっそう……」


 俺の気合い入った台詞を返せ。


「こいつが問題のボスか?」


 ジンケは普通に俺たちのそばに立ち、岸壁から彫り出されたドラゴン像を見上げた。


「そう。《呪転磨崖竜ダ・モラドガイア》」


 答えたのは起伏のない声だった。

 俺でも、チェリーでも、ストルキンでもない。

 ジンケについてきた、メイド服の銀髪少女だ。


 メイド服なんて奇抜な格好をしている割に、顔はマネキンみたいな無表情。

 喜怒哀楽のひとかけらも見て取れない。

《ジュゲム》をそばに飛ばしているから、配信スタッフか何かだと思っていたが、その割にはジンケとの話し方や距離感が気安いなと思った。


「むむむ……」


「……? どうしたチェリー」


「……いえ、なんでもありませんし。脂肪が多ければいいってわけじゃありませんし」


 …………人が意識しないようにしていたことを。

 ジンケに侍ったメイド少女は、非常にたわわなお胸をお持ちだった。

 黒いブラウスのボタンは弾け飛ばんばかりで、白いエプロンはぐぐっと山なりになっている。

 ちょっと不自然に見えるくらいだ。


 と、メイド少女がこちらを見た。

 てこてこと歩いてきたかと思うと、チェリーに手を差し出す。


「リリィ」


「……はい?」


「わたしの名前。お近づきの握手」


 リリィと名乗ったメイド少女は、チェリーの手を勝手に握る。


「は、はあ……チェリーです」


 と困った調子で、チェリーも握手に応じた。

 リリィさんはチェリーの顔をジーッと見つめる。


「お噂はかねがね」


「それはどうも」


「数々の素晴らしい小悪魔テク、いつも参考にしてます」


「はい?」


「《クロニクル》バージョン2編の1巻で使っていた『じゃあ、先輩が育ててくれますか?』はわたしも使わせていただきました」


「ちょっ、ちょっとストップ!!」


 チェリーは顔をひくつかせながら、恐る恐る尋ねた。


「く……《クロニクル》の読者さんですか?」


 こくりと頷くメイド少女リリィ。


 ……《クロニクル》ってのは、MAOの公式ノベライズ本のことで、MAO内で起こったことがほぼそのまま小説化されたものだ。

 実在プレイヤーもキャラとして多数出演する。

 オープンベータからの古参である俺とチェリーは、現在皆勤賞だ。


 が。

 小説は小説。

 脚色だってあるのである。


「《クロニクル》の私たちは脚色だらけですからね!? あんな頭の悪いカップルみたいな会話しませんし!」


 うむ。

 俺は深く頷いた。


「……そう思っているのは君たちだけだと思うが」


 ストルキンの呟きは聞かなかったことにした。

 リリィさんは無表情のまま、銀髪をさらりと揺らして小首を傾げる。


「じゃあ、胸の大きさをいじられて『じゃあ、先輩が育ててくれますか?』と返したシーンも、実際にはなかった?」


「あるわけっ……ある…………ど、どうでしょうね~?」


 俺とチェリーは揃って目を逸らす。

 ノーコメント!


「ふむ」


 銀髪メイド少女はなぜかこくこくと頷くと、ジンケに振り返って言った。


「ジンケ。これがバカップル。わたしたちもこれになりたい」


「絶っっっっっっっっ対イヤだ」


 第六闘神は力いっぱい拒絶した。

 今、すっげえ不本意な呼ばれ方された気がするんですけど?


「悪いな。ウチのバイトが」


 ジンケが申し訳なさそうに言った。


「バイト?」


「ああ。こいつはリリィって言って――」


「1時間1200円でジンケにイロイロしてあげてます」


 リリィさんが無表情でピースして言った。

 俺たちはジンケに非難の視線を送る。


「いや! ただの雑用だっつの! スケジューリングとか! そういうマネージャー的なやつ!」


 リリィさんはこくりと頷く。

 なんだ……。

 プロゲーマーにもなると、たとえ高校生でもいかがわしい店を利用できるのかと思った。


「いかがわしいことは無料でしてあげてるから――もごご」


 ジンケが若干顔を赤くしながらリリィさんの口を塞いだ。

 えっ?

 マジで?

 そういう関係?


「本題に入ろう」


 ジンケはリリィさんの口を塞いだまま、至極真面目な声と顔で言う。

 これ以上触れるなと仰っておられる。


「とにかく、あのでっかい像がボスなんだな?」


「おう。でも今のとこ、近付く方法すら見つかってない」


「ふうん。……おいリリィ、ここで待ってろよ。あともう一言も喋んな」


「…………(こくこく)」


 リリィさんを放すと、ジンケは無造作にダ・モラドガイアに向かって歩き始めた。


「あ! あぶな――」


 チェリーが止める前に、ドラゴン像が口を開ける。

 祭壇全体を飲み込むブレスが吐き出され、


「あっぶね!」


 ジンケはすんでのところで下がって避けた。


「おお……」


 俺は感心する。

 今のも初見で避けた。

 やっぱり反射神経が普通じゃない。


「なるほど……。これのせいで近付けねーのか」


 口を閉じたドラゴン像の顔を見上げ、ジンケは呟いた。

 視線を下げ、祭壇の向こう側を見やる。


「奥に扉があるな。開くのか?」


「わからん。誰もあそこまでたどり着いたことがない」


「へえ……」


 再びダ・モラドガイアを見上げるジンケ。


「今のブレス……」


 そして。

 何でもないことのように呟いた。


「発生が15F、持続が150F、硬直が30Fってとこか?」


 ……なんだって?


 Fというのはフレームの頭文字だ。

 対人戦で使われるスラングで、1Fは60分の1秒を意味する。

 今ジンケが呟いた数字を、秒に換算すると――


 ダ・モラドガイアが敵を関知して炎を吐くまでが約0.25秒。

 炎が祭壇全体を覆っている時間が約2.5秒。

 炎を吐き終えたアギトが閉じられるまでが約0.5秒。


 ――ということになる。


「(……先輩)」


「(ああ……俺たちが動画で検証したのと大体合ってる)」


 とんでもない体内時計だ……。


「成功するかわかんねーけど……何事も挑戦だな。リリィ、ブクマ石くれ」


 リリィさんはこくりと頷いて、ジンケにブクマ石を渡した。

 事前に記録した場所にワープできるアイテムだ。


「よしっ……」


 ジンケは槍を強く握り、少し腰を低くした。


〈焼かれる前に駆け抜けるのか?〉

〈縮地使ってもさすがに間に合わなくね?〉


 ジンケの姿勢を見て、配信のコメントがざわつく。

 俺も同じ意見だ。

 MAO全体を見渡してもかなりAGIが高いほうだろう俺でも、炎の息が来る前に、この広い祭壇を駆け抜けるのは難しいだろう。

《魔剣再演》を使えば可能かもしれんけど……。


「まあ――」


 ジンケは不敵に笑った。


「――見てろ!」


 強く地面を蹴る。

 同時、


第四ショート(フォース・)カット発動(ブロウ)!」


 ロケットのようなスピードで、ジンケの身体が弾き出された。

《縮地》のスイッチを入れたのだ。

 ジンケは地面を舐めるような低い姿勢で祭壇を駆け――


 巨像がアギトを開ける。


 やっぱり間に合わない。

 半分行ったところで炎に呑まれる!


「――こ」


 巨像の口腔が紅蓮の炎で満ちる。


「――こ」


 溢れ出すようにそれが吐き出され。


「――か」


 瀑布のように祭壇へと流れ落ちて。


「――らっ!」


 ジンケの身体を呑み込む。


 寸前に。




 ――ジャンプした。




 直上から滝のように祭壇中央に降り注ぐファイアブレス。

 ジンケはそれが祭壇全体に広がる寸前のタイミングで、大きくジャンプしたのだ。

 炎の海の上空に、ジンケのアバターが躍る。


 確かに、これならほんの少しだけ寿命が延びる。

 だが一時凌ぎだ。

 炎は約2.5秒間、祭壇を灼熱地獄に変える。

 完全に回避しきるには、2秒半もの間、滞空し続けていなければならない……!


《縮地》によって跳躍力が上がっていると言っても、2秒半も空中にいられるほどではない。

 この方法じゃあ、重力に囚われ、落下し、炎の海に沈むしかないんだ。


 ――でも。


「何かあるんだろ? プロゲーマー――」


 俺が呟いたのと、ほとんど同時だった。


第二ショート(セカンド・)カット発動(ブロウ)!」


 ジンケの槍が炎を帯びた。

 そして直後、紅蓮の軌跡が満月を描く。


 ブオン! と。

 回転したのだ。

 まるでヘリコプターのように。


 槍系炎属性体技魔法《炎旋(エンセン)》――


 それによって、一瞬。

 本当に一瞬だが、ジンケの滞空時間が延びた。


 その間に、ブレスの放出が終わる。


 わずかな火の粉が残るばかりとなった祭壇に、ジンケは無事着地した。


〈うおおおおおおおおおお!!〉

〈避けたあああああああああああ〉


 硬直は約0.5秒。

 次のブレスが来るより先に――

 ジンケは悠々と、巨像の足下にある扉にたどり着いたのだった。


「……なんてことだ……」


 ストルキンは愕然とうめく。

 俺はどうしてか、あまり驚けなかった。

 このくらいできて当然だと、心のどこかで思っていたのかもしれない。


「おっ!」


 ガチャン。

 巨像の足下にたどり着いたジンケが、そこにある扉を開いた。

 やっぱり開いてたのか!


「これ、中かなり広いぞ……! ――リリィ、来い!」


 ジンケが何か小さなものを放り投げてくる。

 それは見事なコントロールで、メイド少女リリィの手元に収まった。

 投擲されてきたのはブクマ石だった。


 リリィさんはこくりと頷いてから、平坦な声で俺たちに言う。


「お先に」


 ブクマ石を使用し、メイド姿が消えた。

 と思ったら、その姿は祭壇の向こう側――ジンケの側に移動していた。


「おい!」


 ジンケが不意に叫び、俺を指さす。

 と思うと――

 その指で、くいくいと、手招くようにした。


 それからプロゲーマーはメイドと連れ立ち、扉の向こうに消える。


「……ついてこいってか」


 俺はダ・モラドガイアを見上げた。

 その横で、ストルキンが難しい顔をする。


「まさか、いきなり突破するとはな……。何度か挑戦したならともかく、あんなシビアなタイミングを要求される神業を、一発で成功させるとは……。一度戻ってセツナさんたちに相談するか」


「そう、です、ね……。さすがにアレを真似するわけにはいきませんし……。何回デスペナルティを払えばいいのやら――先輩?」


 俺は頭の中でシミュレーションをしていた。

 発生が0.25秒。

 持続が2.5秒。

 硬直が0.5秒――


「あの、先輩? 聞いてますか?」


「――なあ」


「はい?」


「さっきジンケがやったやつさ……」


「え? も、もしかして真似するつもりですか!?」


「いや」


 俺は首を横に振った。


「そうじゃなくてさ。

 ……あの方法、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「…………へ?」


 俺はストレージから『あるもの』を取り出した。

 それから、()()()()()()()()()、腰を低くして唱える。


第三ショート(キャスト・)カット発動(スリー)


《縮地》。

 弾かれたように駆け出す。


「ちょっ、先輩っ!!」


 半分を少し過ぎた辺りで、炎のブレスが降ってきた。

 俺はそれを全力でジャンプしてかわす。


 このまま重力に身を任せれば、灼熱地獄がお出迎えだ。

 体技魔法で滞空時間を稼げば、もしかしたら助かるかもしれない。

 だが、俺は剣の柄には触れなかった。

 代わりに――

 ストレージから取り出した『あるもの』を、頭上に広げる。


「あっ……!」


 それは、ほとんどのプレイヤーがまず必ず携帯しているもの。

 リアルでだって携帯している奴は多いだろう。

 それほどありふれた、何の変哲もない――


 ――傘だった。


 広がった傘が、空気を受ける。

 ただの空気ではない。

 祭壇を覆い尽くした炎から、沸き起こるようにして吹き上がる――

 ――上昇気流。


 炎がある場所には上昇気流が起こる。

 それがMAOの仕様だ!


 俺の身体は、落下するどころか浮き上がった。

 祭壇が地獄と化す2.5秒を、悠々とやり過ごす。

 傘を閉じて着地し、再び走ると、あっさり扉までたどり着くことができた。


 俺は振り返って叫ぶ。


「チェリー! お前も来い!

 ()()()()()()()()()()()()!」


「……! わかりましたっ!」


 チェリーもストレージから傘を取り出し、祭壇を走った。

 俺に比べるとAGIをあまり上げていないから、3分の1ほど行ったところでファイアブレスに襲われたが――


 ジャンプする。

 すぐ傘を開く。

 浮く。

 ブレスが終わるのを待って着地。


 実に簡単だった。

 神業でも何でもない。

 チェリーもまたあっさりと、扉にたどり着いた。


「先輩っ!」


 チェリーは俺に駆け寄って快哉を叫ぶ。


「超っ、簡単ですっ!!」


「だろ?」


 俺はチェリーににやっと笑みを返す。

 たった一人の天才にしか実行できない方法に意味なんかない。

 なぜなら、俺たちは―――


「ストルキン!」


 俺は祭壇の入口に残ったストルキンに叫んだ。


「この方法をセツナたちに伝えてくれ! なんなら他のクランに喋ってもいい! 細かいことは任せる!

 ――俺たちは先に行って、ジンケたちを追いかける!」


「了解した!」


 ストルキンは背を向け、階段を駆け下っていった。


「行くぞチェリー……!」


「はい! プロだからって、そう簡単に最前線は渡しません!」


 俺たちは巨像の足下に開いた鉄扉に飛び込んだ。


 ―――なぜなら俺たちは、VRMM(・・)Oプレイヤー。

 集団で戦うのが、本来の姿なのだから。


MAOを舞台とした新作

『オフライン最強の第六闘神』

を開始しました。

リンクは下にあると思います。


相変わらず主人公とヒロインがイチャつきながら、

プロゲーマーとして成り上がる話です。

時間軸は本作の半年くらい前。

主な舞台は対人戦の聖地ことアグナポットです。

もしかしたらケージとチェリーもいつか出てくるかも(予定は未定)


そういうわけで新作もよろしくお願いします!

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