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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅱ - 最強カップルのリベンジ・イン・ダンジョン

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第80話 戦法はパクられてナンボ


「押すなよ! 絶対押すなよ!」


 俺は巨大ドラゴン像の足下にある祭壇の隅っこで、じりじりと距離を測っていた。

 巨大ドラゴン像――ダ・モラドガイアが反応する位置を探ろうとしているのだ。


 祭壇に入って、2メートルほど中央に進むと火を吐いてくる。

 これはわかっている。

 じゃあ、端っこはどうなのか?

 ギリギリ端を通れば、火を吐かれることなく、奥の扉にたどり着けるんじゃないか?


 そんな提案があったので、試すことになった。

 俺が。

 ……ジャンケンで負けたのだ。


「押しませんよー」


 すぐ後ろでチェリーが言う。


「絶対だからな! フリとかじゃねえから!!」


「押しませんってー」


「そんなこと言いながらドーン! とか――」


「しませんよー。可愛い後輩の言うことを信じ――あっ、足が滑ったー」


 ドーン!

 前につんのめった。


 ガパッ。

 ドラゴン像の口が開く。


「うぎゃーっ!!」


 俺は後ろに倒れ、押しつぶすように降ってきた炎の息から間一髪で逃れた。


「あっっっっっっっぶねえーっ!!!」


 仰向けになったまま空に叫ぶと、チェリーが隣にしゃがみ込んで、俺の顔を覗き込んでくる。


「いやー、すみません先輩。足が滑ってしまってー」


「顔が笑ってんだよ!! 悪意が透けて見える!!」


「そーんなことありませんよー?」


 こいつ……!


「ん?」


 視界の端が妙に眩しい。

 なんだこの光?

 ……あ。


 しゃがみ込むことで丸見えになってしまっているチェリーのスカートの中が、規制の光で隠されているのだった。


「……むう」


 白い光の中を覗き込むように凝視する俺。


「え? 何を見て――んにゃっ!? どこ見てるんですか先輩っ!」


「いやー、悪いな後輩。目が滑ってしまって」


「どういう眼球してるんですか!」


 ぺたっと女の子座りになって、スカートの中を隠すチェリー。

 隠したところで隠さなかったところで、どうせパンツなんて見えないけどな。

 見えるのはせいぜい、ニーソックスが食い込んだ太ももくらいだ(実はそっち見てた)。


「女の子の股間を堂々と凝視するとか、どういう神経してるんですか先輩は……!」


「女の子の股間ではない。俺を公然と抹殺しようとした奴の股間だ。……よっと」


 俺は起き上がると、座り込んだままのチェリーに手を差し伸べる。


「まったくもう。可愛げがなくなっちゃったんですから……」


 チェリーはぶつくさ言いながら俺の手を取った。

 チェリーを立ち上がらせたところで、ストルキンがやってくる。


「端にも判定があるようだな」


「あ……おう」


 俺が人見知り特有の『あ……』を挟みつつ頷くと、ストルキンは眼鏡を押し上げながら、岸壁の中にそびえ立つドラゴンの巨像を見上げた。


「ということは、やはりあのブレスをどうにかしなければならないのか……。今のを見るに、すぐに引き返して避ける余裕はあるようだが」


「1回吐かせて、それが終わった直後に突っ込むというのはどうですか? 2回目はすぐに来ないかもしれません」


「試してみたいところだな。2回目までの猶予はどの程度なのか」


 と、視線が俺に集中した。

 また俺!?


 とっさに言い訳を探していると、ドラゴンのいななきが遠くから聞こえた。

 誰かが呪竜と戦っているのか。

 俺を含めた全員の視線が、何気なくそちらに移る。


 棚田状の地形の一番上の段に、いっとう高くそびえ立っているこの祭壇からは、呪竜遺跡全体を一望することができた。

 さらに彼方にあるフェンコール・ホールも小さく見えるし、その向こうにある温泉街もかすかにだが見える。


 戦闘が起こっているのは、遺跡の西側だ。

 もう結構長いこと戦いが続いているが、呪竜を倒せたという報告はまだ聞いていない。


「うわー、群れてる群れてる」


「魚を狩りに来た水鳥みたいですね」


 一体一体が一軒家みたいなサイズの呪竜が、何匹も同じ場所でばっさばっさと羽ばたいていた。

 あの下に戦っているプレイヤーがいるんだろう。

 空を飛ぶ呪竜は、遺跡の中に向かって何度も炎の息を吐いている。


「ああなったらひとたまりもないよな」


「今のところは、ですけどね。ほら、さっきの避雷針戦法、あれをうまく使ったらもしかすると――」


 という。

 話をしていた、まさにそのときだった。


 地上から槍が投げ放たれた。


 それは空を飛ぶ呪竜の1匹に突き刺さり――

 直後、その呪竜に向かって、幾条もの紫電が殺到する。


 呪竜は麻痺エフェクトを纏い、遺跡の中に墜落した。


「……おい、あれって……」


「もうパクられたんですか!?」


 紛れもなく、あれはついさっき、俺たちがほとんど偶然で編み出した対呪竜戦法。

 あれから30分も経ってないってのに……!


「……死んだメンバーがSNSで発言したみたいだな」


 ストルキンがSNSアプリを開きながら、かすかに眉根にしわを寄せた。


「戦法には著作権も特許もない。真似し真似されはいつものことだ。今回はそれが早かっただけだろう」


「それはそうですけど……! なんだか釈然としないです……!」


 チェリーは少し恨みがましげな目を呪竜が集っている場所に向けた。


「……真似する奴には真似させとこうぜ」


 俺はチェリーの肩を叩きながら言う。


「人の真似に頼っている限りは、最前線にはいられない。誰かの後ろを歩くしかないんだ。俺たちはまた新しい戦法を生み出せばいい」


「……ですね」


 丸く収まったところで、ストルキンが難しい顔をした。


「しかし、予想外なことになった。このまま行くと、呪竜を安定的に倒す方法が開発されるかもしれない」


「あー……たぶん、遅くとも明日には9割方できてるんじゃないかって気がするけど……」


「オレも同じ意見だ。今までの例からすると、早ければ今日にも攻略法が完成するだろう。すると、あとは……」


 ストルキンはダ・モラドガイアを見上げた。


「……こいつの攻略合戦だ」


 この呪竜遺跡の厄介なところは、エリアを闊歩する呪竜が強すぎて、大軍勢をボスのところまで送り込めないというところにあった。

 その問題が早晩、解決される。

 とすると、残る問題はこのボス――ダ・モラドガイアの攻略方法だった。


「いずれ大規模クランが来て、資源力のごり押しで攻略法を割り出そうとするはずだ。それに一歩でも多く先んじなければならない。今のところ、この祭壇までたどり着けているのは、オレたちだけのようだからな――」


 そこははぐれもの集団の面目躍如というか、パーティプレイを必ずしも優先しない姿勢の副作用だろう。

 仲間が途中でどれだけ死のうと俺たちは止まったりしない。

 今回は陽動作戦ってことでチームプレイの真似事をしたが、本来はそれぞれ別個のグループだから、多少メンバーが損耗したところで、プレイスタイルに影響を及ぼさないのだ。


 これが役割までかっちり決まったパーティやクランだと、そうはいかなくなるだろう。

 パーティプレイは確かに強力だし有効だが、パーツが一つでも欠ければ立ちゆかなくなるというリスクも背負っているのである。


 だから。

 例えば、たった一人でパーティをも凌駕するような、超人みたいな奴がいたとしたら――

 俺たちの優位性は、あっさり消え去ることになる。


「――ん?」


 ストルキンがウインドウで何かを見て、眉をあげた。

 そしてすぐに眉間にしわを寄せる。


「……早いな……」


「どうしました?」


 ストルキンは眼鏡を押し上げて言った。


「GamersGardenを開いてくれ。

 ――《闘神》のご降臨だ」


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