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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅰ - 最強カップルと愉快な仲間たちの遠征攻略合宿

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第73話 すべてを理解するのは難しいオタクの会話


「あ、あの……わたし、ちょっと……飲み物を……」


「あー、ちょうどいいや! ついでにあたしのも買ってきて! コーラね!」


「ん……わかった……」


「あ、それじゃあ私も――」


 それぞれの欲しい飲み物を聞くと、ショーコさんはこくこくと頷いて、部屋を出ていった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「ふあ……さすがに眠くなってきたか?」


 気付けば男子部屋の5人でドンチャン騒ぎのゲーム大会と化していたが、日付はとっくに回っていた。

 恋狐亭の館内も閑散としたものだったが、そこはネットゲーム、この時間こそ我々のゴールデンタイムだと言わんばかりの連中もいて、人の気配をちらほら感じる。


 桃鉄もゼタニートの勝利に終わり、次なにするー? とそれぞれがバーチャルギアにDLしているソフトを漁り始めたところで、俺は飲み物補給係の命を帯びて部屋を出たのだった。


 売店は地下にある。

 最初の最初こそ六衣しかいなかったこの旅館だが、今はさすがに人手が足りないと見えて、幾人ものNPCが仲居や店員を勤めている。

 六衣は《メタNPC》――自分がNPCであり、この世界がゲームであることを知っているNPC――ではないので、仲居や店員たちも単なるbotではなく、汎用AIが実装されているようだ。


「……最近はもう、botのほうが少なくなってきたくらいだよな……」


 最初――オープンベータの頃は、自由に会話できるNPCなんてほんの一握りだったんだが。

 いまや俺の愛剣となった《魔剣フレードリク》――その元の持ち主のことを思う。


「お、あった」


 地下への階段を降りたところで、売店はすぐに目に付いた。

 中に入る。


「えー……紅茶とお茶とコーラと……」


 注文を反芻しながら飲み物コーナーに向かうと、先客がいた。

 猫背気味の小さな背中。

 普段のトレードマークである魔女帽子はないが、その大人しい雰囲気は、俺にとっては印象に残りやすい。


「よお」


「あっ……」


 ショーコは俺に気付くと、腕に抱えていたコーラを落としかけた。


「っと」


 空中でキャッチして、腕の中に返す。


「あ……ありがと……ございま……」


「ん。いいや。お前らもまだ起きてんの?」


「あ、はい……。えっと……」


「うん」


 相槌を打って、ショーコが言葉を紡ぐのを待つ。

 俺も似た風になることがあるからわかる。

 答えたいことが頭の中にあっても、すぐに口から出てこないのだ。

 そうしてまごまごしているうちに、答える機会を逸してしまって、結局黙っているだけになる。

 無口な奴ってのは、実は頭の中では誰よりも雄弁であったりするのだ。


「……れ、レナさんは、ずっと、寝てます……。他のみんなで、その……お、お話しを……」


「そっか。ありがとうな」


「えっ……あっ、はい」


 レナは起きたら悔しがりそうだが。

『どうしてあたしも混ぜてくんないのーっ!?』って。


「えっと……これと、これと……」


 注文された品を取り出して腕に抱える。

 それをレジに置くと、店員がすぐに、


「600セルクでーす」


 と、やる気のない声で言い、目の前に購買確認のメッセージが現れた。

 イエスを押すと、チャリーンと音がして、代金が自動的に引き落とされ、飲み物がストレージの中に消える。

 これでよし、と。


 売店を出ると、先に精算を終えたらしいショーコが、なぜか立ち止まっていた。

 何してんだ?

 まるで俺を待ってたようだけど。


「どうした? 戻らないのか?」


「あっ……えっと……」


 ショーコは、俺から目を逸らし、ボブカットの毛先をいじり……と、いまいち要領を得ない態度を取る。

 俺は辛抱強く答えを待った。


「あの……その……へ、変な意味じゃないんです、けど……」


「うん」


「…………ちょっと、お話し、できませんかっ?」


「うん?」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「うわー。卓球台だ。やっぱあるんだな、旅館だから」


「……………………」


 ちょうど売店の入口から卓球台が見えて気になったので、そっちに移動することにした。

 俺は壁際に置かれたベンチに腰を下ろし、立ったままのショーコの顔を見る。


「んで? 話って?」


「…………えと」


 ショーコは長めの前髪をくしくし指でこすりながら、あちこちに目を泳がせた。


「あ……あのっ! ……隣、座っても……?」


「ん。おう」


 たまにボリュームの調整をミスったようになったり、さっぱり文脈に合わないことを言ったりするが、それも口下手のご愛嬌というところだ。


 俺が少し横にずれてスペースを作ると、ショーコはベンチの端に座った。

 遠いな。

 これでは隣とは言えんのではあるまいか。

 まあ、あんまりくっつかれても困るけど……。


「…………えっと……」


「無理して間をもたせようとしなくていいぞ。のんびり聞いてる」


「あ……は、はい」


 そもそも、俺は『間がもたない』と思うことがない。

 沈黙をつらいと感じる人種のことが、いまいち理解できない。

 チェリーといるときだって、ずーっと何にも喋らずに、それぞれ好き勝手に違うゲームしてたりすること、あるしな。


「あの……」


「うん」


「…………す、好きなキャラって、いますか?」


「んん?」


 好きなキャラ?


「あのその! アニメとか、漫画とか、小説とか、ゲームとかで……」


「あ、いや、ごめん、わかってる」


 まさかそんな雑談が来るとは思わなかっただけだ。


「うーん……すぐに出てこないな……。それって男キャラか? それとも女キャラか?」


「あっ……お、女キャラで……」


「そうか……」


 となると、パッと思いつくのが一人いるんだが、それは俺の黒歴史と直結しているので言いにくい。

 小学生の頃、初めてやったギャルゲーのヒロインに心を打ち抜かれてしまい、家族に『この人と結婚する!』と言い触らしてしまった黒歴史と……。


 やめよう。

 彼女のことは心の奥に封印するのだ。


 さて、それ以外では誰だ?

 子供の頃、いとこの兄貴にやらされたレトロゲームの数々を思い出す。

 女性キャラの好み、となると、やっぱりアレだよな。


「ドラクエ5ならフローラ派だな」


「あっ……そうなんですね」


「意外か? っていうかわかるのか」


 チェリーにドラクエ5で例えても通じなかったのに。


「一応……有名なのなら、古いのでも」


「ちょっと嬉しいな。チェリーはどっちかというとアナログゲーマーだからな」


「あの、じゃあ8はお姫様のほうですか?」


「そういうことになるよな」


「じゃあテイルズオブシリーズでは?」


「強いて言えばシンフォニアのプレセア」


「歴代のゼルダ姫では……?」


「これはスカイウォードソード。次点でブレスオブザワイルド。でもヒロイン度で言ったらミドナが強すぎだよな」


「次は……あっ、ポケモンの歴代女主人公では?」


「なかなかマニアックな……まあ、BW2のメイ」


「えーっと……あの、アドベンチャーゲームでもいいですか?」


「エロゲー以外なら、相当マイナーじゃない限り大体わかるぞ」


「Fateでは?」


「いきなり元エロゲーじゃねえか。ステイナイトなら遠坂派。エクストラならキャス狐派」


「ちなみにグランドオーダーなら……」


「マシュ。メインシナリオしか知らんけど」


「だと思いました」


 ここでショーコは、初めてふふっと笑った。


「じゃあ、シュタインズ・ゲートでは?」


比屋定(ひやじょう)真帆(まほ)


「……それ、ゼロのキャラですよね?」


「え、なしなの? じゃあフェイリス」


「シリーズ繋がりでカオス・チャイルド」


「有村雛絵」


「……やっぱり」


「やっぱり?」


「いえ……クラナドでは?」


「双子の姉のほう」


「パワプロの女性選手では?」


「それアドベンチャーゲームか? ……んー、六道聖かな」


「ふむ……」


 ショーコは口元に触れて、何事か考える仕草をした。

 いま気付いたが、質問を重ねるうちに、座る位置が少しずつこちらに近づいている。


「あの……ライトノベルとかも、わかりますか?」


「有名なやつならまあ。中学のときに何シリーズかかじった」


「じゃあ安パイで……SAOなら?」


「ロニエ」


「……アリシゼーション編の?」


「そうだな」


「禁書目録なら?」


「まあ御坂美琴かな……」


「物語シリーズ」


「扇ちゃん」


「リゼロ」


「レム」


「ふつう……」


「おい。普通とか言うな」


 殺されるぞ、全国のレムファンに。


「あっ。ご、ごめんなさっ――ひああっ!?」


 気付けば肩が触れ合いそうな距離になっていて、ショーコはびくんと飛び跳ねて俺から離れた。

 徐々に近付いてるの、気付いてなかったのか。


「何をそんなに夢中になってんの? そんなに面白いか、俺の女性キャラの好みか」


「はい……あ、じゃなくて、えと……」


 目元を隠そうとしているのか、前髪をくしくしとこする。


「あ、あの……」


「ん?」


「…………『先輩』って呼ばれるの、好きなんですか?」


「は?」


 思わず語勢を強めると、ショーコは「あうっ」とおののいた。


「だ、だって……マシュ、有村雛絵、ロニエ、忍野扇……」


 ショーコが指を折って挙げたのは、主人公のことを先輩と呼ぶキャラだった。


「……そりゃこんだけ答えれば、後輩キャラの一人や二人いるだろ」


「四人ですけど……」


「大体、ステイナイトなら遠坂派だって言ったし。後輩好きなら桜派のはずだし」


「でも……遠坂凛は、髪型がチェリーさんと同じ……」


 聞こえません。


「……好きなんですね、本当に」


 ひっそりと呟くようにショーコが言ったので、俺は顔を逸らして聞こえなかったフリをした。


「……わたしも……」


 小さな声が続く。


「……わたしも、好きみたいです」


「そっか」


「一途で、優しくて、親しみやすくて、わたしなんかにもちゃんと付き合ってくれて……」


「ふうん」


 まあ、俺以外には普通に優しいらしいからな、チェリーは。


「あの」


「うわっ!?」


 何度目だかわからない『あの』に振り返ると、ショーコがぶつかりそうなくらい詰め寄ってきていた。


「最後の質問、なんですけど」


「お、おう」


「む……胸は、大きいのと小さいの、どちらが好み、ですか……?」


「え」


 何、その質問……。

 なんで性癖訊かれてんの、俺。


「い、いや……そんなの、考えたことねえけど……」


「強いて言うなら?」


 ショーコの瞳には、今まで見たこともない強い光が宿っていた。


「ん、んー……し、強いて言うなら……」


「はい」


「……大きいほう、かな」


 本当にどっちだっていいんだが。

 小さいほうが好きっていうのもロリコンっぽかったので、とりあえずそう答えた。


「そう……ですか」


 ショーコは、かすかに微笑んだ。

 そして、ベンチから腰を上げる。


「それじゃあ、わたし……部屋に、戻りますね」


「あ、ああ……おう」


 ショーコは小走りに、1階へ上がる階段へと去っていった。


 な……なんだったんだ?

 好きなキャラを次々訊かれて、最後には貧乳派か巨乳派か訊かれて……謎の時間だったな。


「……俺も、戻るか」


 俺はベンチから腰を上げた。

 瞬間。


「――いーけないんだー、いけないんだー。チェリーちゃんにー言ってやろー」


 ずいぶん懐かしいメロディの歌が聞こえてきた。

 卓球台が置かれたスペースに、小柄な人影が入ってくる。

 フードを目深に被ったそいつを、俺は知っていた。


「……お前、いたのかよ」


「いたよ~? 一部始終見てたよ。ケージ君の浮気現場を♪」


 UO姫はにっこりと笑って言った。


「何が浮気だよ……。たまたま会ったからちょっと喋っただけだろ」


「ケージ君的にはそうかもね~」


「……お前は、いちいち含みのある言い方をする奴だな」


「ミステリアスで魅力的でしょ? 付き合おっか?」


「ナチュラルに告るな」


「ふふふ」


 UO姫は艶めかしく微笑む。

 俺はその顔をあまり見ないようにする。

 何か呪いでもかけられそうだ。


「それにしても……」


 UO姫はショーコが消えた方向を見た。


「得だか損だかわからない性格してるね、あの子」


「……どういう意味だ?」


「自信がなさすぎて、自分がどうこうなろうなんて最初から考えてない。だからたとえ不毛な恋愛でも、ちょっと構ってさえもらえれば満足できちゃうんだ。……ちょっとだけ羨ましいかな」


 ……何の話だ?


「でも、もし何かの拍子に欲のスイッチが入っちゃったら、すっごいことになるだろうね、ああいうコは。ほら、普段大人しいコほどエッチだって言うし?」


「それは単なる男の願望だろ……」


「どうだろうね~♪」


 ぴょんっぴょんっ、と。

 ステップを踏むようにして、UO姫は俺に近付いた。


「それで、ケージ君。考えておいてくれた?」


「……何を?」


「またまたぁ。ミミを彼女としてレナちゃんに紹介してくれるとき、彼氏としてミミとナニをしたいかってコ・ト」


 くすくす。

 UO姫は、ピンク色の唇を嫣然と歪ませる。


「なんなら……」


「ちょっ」


 UO姫はさらに詰め寄ってきた。

 俺は壁際に追い詰められる。

 なおもUO姫は距離を詰め――

 俺のお腹の辺りに胸を押しつけて、至近距離から見上げてきた。


「……今から、予行演習しよっか?」



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