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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
1st Quest - 最強カップルのVR温泉旅行
7/262

第6話 弱点がバレてイジられる


 村長の娘は、秘湯の場所についていくつかのヒントをくれた。


 その1。

 かつての炭鉱夫たちは、夕方に仕事が終わってから日が沈むまでの間に、温泉まで行って帰ってきていた。


 その2。

 温泉から見る景色は絶景で、地平線に沈む夕日を望むことができたと言う。


 その3。

 炭鉱夫たちはいつも、リンゴやバナナといった果物を持って温泉へと向かっていた。


「日が沈むまでに行って帰って来られるってことは、せいぜい片道20分の距離ですね」


「地平線に沈む夕日が見えるってことは、西向きで、しかも西側に背の高い山のない場所だな」


「ってことは……あの辺ですか?」


 チェリーはキルマの村の東側――

 ナイン山脈にしては珍しく緑が生い茂っている山の中腹を指差した。

 俺たちのそんなやり取りを見て、ウェルダが「ほへー」と息をつく。


「すごいですねっ。なんでそんなにすぐわかっちゃうんですかっ?」


 目を輝かせる小学生。

 そう改めて褒められると恥ずかしい。

 俺は照れ隠しで首をさすりつつ、


「いや、まあ……慣れ?」


「空間認識能力鍛えられますよねこのゲーム。方向音痴とか治るんじゃないですか?」


「現実よりも遥かに色んなところ歩くからな。特に汽車もポータルも使えない最前線だと」


「ふむふむ。なるほど」


 ガリガリとメモるブランク。

 やることなすことメモられると、間違ったこと言ってないかと不安になるな。


「問題は3つ目ですね。なんで果物を持って行くんでしょう?」


「それな」


 出掛けに村長の娘からもらったバナナを見る。

 弁当か?

 遠足か?

 おやつに入らないのか?


「とりあえず実体(オブジェクト)化させたまま持っとくか」


「1本ずつに分けておきます?」


 ちょうど4本くっついていたので、1本ずつに分けてそれぞれに配った。

 パーティメンバーと同じ本数ってのが怪しい。


「ウェルダ。食べないようにするのだぞ」


「たっ、食べませんっ!」


「うむ」


 ぷくっと頬を膨らませるウェルダの頭を撫でつつ、ブランクはムシャッとバナナを頬張った。


「いやおい! 食ってる食ってる!!」


「あ。しまった」


「しまったじゃないですよ! 何してるんですか!」


「無意識につい……。だが案ずるな。このブランク、おやつを切らしたことは一度とてない」


 言いながら、白黒ストレートロングの白衣女はアイテムストレージからリンゴを引っ張り出した。


「あいはばあっぽー!」


 ドヤ顔で言うな。


「なんで持ってるんですか……」


「知っているかね。仮想世界では何をどれだけ飲み食いしても太らないし糖尿にもならない」


「先生は毎年健康診断で引っかかっているのですっ」


 今世紀一番どうでもいい情報を得た。

 とにかく、果物は全員に行き渡ったので、適当に当たりを付けた方角に行ってみることにする。


 村の東側に行ってみると洞窟を発見した。

 向こう側に光が見えるので、そんなに長くはない。

 洞窟というかトンネルだ。


「こ、ここを通るんですかっ……?」


「大丈夫だよ。思ったより暗くないから。ね?」


 怯えるウェルダを、チェリーが聞いたこともないような優しい声で励ました。

 こいつ、人によって態度違いすぎない?


 狭いトンネルを二列縦隊で進む。

 こういう暗い場所にはたいてい《バッド・バット》というコウモリ型モンスターがいるんだが、何もいないみたいだな。


 トンネルを抜けると、左右に木々が茂った道に出た。

 なだらかな坂道が緩やかに曲がりくねりながらずーっと伸びて、右のほうに曲がる形で消えている。

 右か……。

 俺は左右を見渡して位置を確認した。


「んー? あの山に行くには左に曲がらないといけないよな?」


 俺たちがひとまずの目的地と見定めた山は左手にある。


「道を間違えましたかね?」


「いや……もうちょっと進んでみよう。見えにくい道があるのかもしれん」


「なるほど……学校での先輩みたいに気配を消しているんですね」


「なんで学年違うのに学校での俺を知ってんだっつーの」


「黙秘権を行使しまーす」


 ぷいっとそっぽを向いて、ピンク髪を翻してみせるチェリー。

 こいつ……。


 特に左側に注意して、なだらかな坂道を歩いていく。

 森が広がるばかりだが、まさかここを突っ切れってわけじゃねえよなあ。


「あのっ!」


 手持ち無沙汰になってきた頃、後ろからウェルダが話しかけてきた。


「マナー違反だとは思うんですけど……お二人はリアルでも仲がいいんですかっ?」


 俺とチェリーは顔を見合わせた。


「いや?」

「べつに?」


 回答がほぼ被る。


「ええっ!? そっ、そうなんですかっ?」


 ウェルダは目を丸くした。

 そんなに驚くことか?


「そいつはわたしも意外だな。てっきりリアルではズブズブのズブなのかと」


 ブランクが小首を傾げながら言った。

 なんだよズブズブのズブって。


「いちおう顔見知りではある、ってくらいだよ」


「リアルで喋ったことなんて、数えるくらいしかないんじゃないですか?」


「お前、学校だとあからさまに『私はスクールカーストの頂点に君臨してます』って顔してるからな」


「してませんよそんな顔! ……っていうか、先輩だってよく見てるじゃないですか、学校の私」


「嫌でも目に入るだけだわ! 俺みたいな目立たない奴のところまで噂が入ってくるって相当だからな?」


「え? ……目立たない奴?」


「どうした?」


「いえ……今まで冗談でいじってましたけど……自覚ないんですか? 先輩、実際は――あ、いえ、やっぱやめときます」


「おいい!! 気になるんだけど!?」


 実際は!?

 実際はなんなの!?

 チェリーの顔がなんとなく不満そうなのも怖い!


「ふうん……。リアルでは顔を知ってるだけで話さない……でもゲーム内では……おっ」


 ぶつぶつ呟いたかと思うと、ブランクは猛然とノートにメモり始めた。

 不穏な気配がする!


「オイコラ何をメモってる」


「……『ゲームの中ではあんなによがってたくせに』っと」


「本当になにをメモってましゅかあーっ!!」


「ああっ!! リアルじゃ真面目なあの子とVRエロゲーの中でだけ逢瀬を重ねる渾身の傑作が!!」


「ぶいあーるえろげー?」


 不思議そうに首を捻るウェルダ。

 小学生がいる場所でなんてこと口走るんだコイツ!

 チェリーが奪い取ったノートに目を走らせた。

 その顔がほのかに赤く染まっていく。


「……うわー。うわー、うわー……。放送禁止用語の連続……」


「え? 書けんのそういうこと? ちょっと見せ――」


「先輩見ちゃだめですへんたいっ!!」


 勢いよく顔面を押し退けられる。

 いや、ノートに手書きだとNGワードに引っかからないんだーって思っただけじゃん!

 人を変態呼ばわりしながら自分は読んでるし!


「ぶ……ブランクさん……こういうのも書くんですか?」


「専門ではなくとも、今時この程度は基本スキルだとも。

 ……興味がおありかね?」


「ないですよっ!!」


「(……実は特別料金で、好きな相手と自分とであれやこれやするドリームな小説をオーダーメイドするサービスもやっているんだが……)」


「い…………いりません」


「(例えば、そうだなあ、人気のない放課後の校舎、ひょんなことから狭い倉庫に二人きりで閉じ込められた君は、彼のほうから強引に迫られ―――)」


「あうっ……! ……い、いや、いいですから! いりませんから!」


「むう、残念だ。……『ちょっと強引なのが好き』っと」


「メモるなあっ!! 好きじゃないですっ!!」


「(……へえ、本当に? いつもは消極的な彼から、たまにはがっつり求められたくない? 耳元で、余裕のない声で、愛を囁かれてみたくない? 本当に?)」


「そっ、しょんなわけなっ―――あっ!」


 耳元で何事か囁くブランクを振り払おうと、チェリーが腕を振り回したときだった。

 ぽーん、と。

 手に握られていたバナナがすっぽ抜けた。


「あ」

「あ」

「あっ」


 バナナは放物線を描いて、緑生い茂る森へと消えていく。

 あーあ。


「何を囁かれたか知らんけど、興奮しすぎだろ」


「こうふっ……ん、なんて、してませんし! ……取ってきますっ!!」


 森に分け入ろうとするチェリーの背中を見て、ブランクが「いひひひひ」と意地の悪い笑い方をした。


「かわゆいのう。リア充は憎むわたしだが、美少女をからかうのは大好物だ」


「あっ、先生っ! ウェルダ、そういう人をなんて言うか知ってますっ! 『性根が腐ってる』って言うんですよねっ! 先生に言ってあげろってお父さんが言ってましたっ!」


「……ほう。語彙力がついてきたなウェルダ。ログアウトしたら兄者にこう伝えてくれ。『てめーの部屋に残されてるノートをてめーの嫁に進呈してやるからな』」


 お父さん?

 で、兄者?

 今のやりとりで二人の本当の関係性がわかってしまったが、まあ聞かなかったことにしよう。


「……あれ?」


 森に分け入ったチェリーが、不意に足を止めた。

 さらには、こっちに振り向いて言う。


「あのー。あれ、見えますかー?」


 あれって?

 ……あ。


 森の奥。

 チェリーが指さす先。

 そこに、バナナを持った小さなサルがいた。


 デフォルメされたサルで、身体より頭のほうがでかい。

 目もつぶらで、可愛らしいと言って言えないこともなかった。

 あんなモンスターいたっけ……?


「おさるさんですっ!」


「持っているバナナは、先ほどすっぽ抜けたものかな?」


「イベントが起動したみたいだな」


 炭鉱夫たちが温泉に持っていったという果物は、あのサルを呼び出すのに使われていたに違いない。


「ウキャッ」


 サルは俺たちに気付くと、一声鳴いて森の奥に走り去っていく。


「先輩! どうしますかー?」


「追いかけよう!」


「了解です!」


 俺たちはチェリーに続いて森の中へと入っていく。

 サルを追いかけて森深くまで突っ込むと、獣道があった。

 草むらに隠れてほとんど見えないから、あのサルがいなかったらとても気付けなかっただろう。


 小さなサルの背中は、獣道の先にある。

 俺はその背中に視線をフォーカスさせた。

 ロックオン状態になって、キャラネームがポップアップする。


《子ザル?》


 ……なんだそのハテナ。

 ネームカラーは白だから、敵性モンスターではないはずだが。


「後ろ、ついてきてますか?」


 チェリーが走りながら振り向いて声を放った。


「な、なんとか……」

「だいじょうぶですっ」


 といった返事が返ってくる。


「この速度を維持します! 遅れないでくださいね!」


 歩く速度と違って、走る速度はAGIの数値で結構変わってくるので、好き勝手走ってると気付いたときにはバラバラに、みたいなことがたまに起こるのだ。

 集団行動時はステータスの高いほうが気を遣わなければならない。

 俺はそういうの苦手だからチェリーに丸投げ。


 俺一人ならサルに追いつくこともできたかもしれないが、向こうが俺に合わせて速度を上げてきたら面倒くさいことになる。

『追いかける』系のイベントは大抵そういう仕様なのだ。


 なので俺たちは、大人しくサルの小さな背中を追いかけ続けた。


 獣道をしばらく走っていくと、視界の先で木々が途切れた。

 その先にサルは飛び出していく。

 俺たちも続いて、獣道を飛び出した。


 丘のような場所だった。

 右手には断崖絶壁が切り立っているが、左手には地平線まで見渡せる絶景が広がっていた。


 そして、正面に。

 横ざまの夕日に照らされた、半ば朽ちた建物があった。


 これって――

 旅館?


 俺には和風の旅館が廃墟になったもののように見えた。

 木造建築で、至る所が腐食して黒ずんでいる。

 こうなっては、旅館というよりは――


「ウキャッ」


 その玄関に当たる場所の手前で、サルは俺たちを待っていた。

 そして――

 フ~っと。

 半透明に透けて、そのまま、消滅した。

 バナナだけをその場に残して……。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 俺たちは立ち止まって黙り込む。


「……あのうー……今の消え方って……」


 可哀想にすでに半泣きになっているウェルダが言う。

 うん、そうだね、そうだよね。


「……俺、見ちゃったわ」


「なっ、何をですかっ?」


「ずっとロックオンしてたからさあ……キャラネームがずっと出ててさあ……それがさあ……消える瞬間にさあ…………《子ザル?》から《子ザルの霊》に変わったんだよなあ…………」


「いやあーっ!!!」


 ウェルダは頭を抱えてうずくまった。

 俺もそうしたい。

 だって、ほら。

 この建物、旅館っていうよりお化け屋敷なんだもん!!!


「なんですか、そのくらいで。アストラル系のモンスターなんてその辺にいるでしょう?」


「いやいやいやいや違うって!! 俺の危機回避センサーが言ってる!! これガチのホラークエストだって!!!」


「……おやぁ~?」


 チェリーはニマニマと笑った。


「もしかして、苦手なんですか~? ゲームが唯一の取り柄の先輩が~? ホラーゲームが怖いんですか~?」


「うぐぐぐぐ……!!」


 RPG。

 格ゲー。

 アクション。

 ADVにSTG、音ゲー、クイズゲームに至るまで。

 俺は、VRに限らずデジタルゲームは大抵得意だ。


 ただし。

 ホラーゲームを除く。


 ……昔。

 小学生の頃のことである。

 俺にいろんなゲームをやらせるのが好きな、一回りくらい年上の従兄がいた。


 従兄はコントローラーが有線だった頃のゲームから当時の最新型まで、ありとあらゆるゲームを俺にやらせてくれた。

 こう語ってみると優しい親戚のように思えるが、とんでもない。

 ヤツは、俺を泣かせるのが何よりも大好きな男だったのだ。


 ヤツは難易度設定ガバガバなレトロゲームを幼い俺にやらせては、クリアできずに半泣きになる俺を見て嬉しそうに笑っていた。


『かーっ! やっぱできないよなー! 俺らが子供の頃はみんな普通にやってたんだけどなー! 今の子供には難しすぎるかー!』


 今にして思えば、懐古厨の鑑みたいな人だった。


 その言い様があまりにも悔しくてムカついて、俺はいつも意地になってクリアしたものだった。

 俺のゲームスキルは、そのときにやった数々のクソ難易度レトロゲーに育てられたと言っても過言ではない。


 そしてある日。

 その従兄が俺に押しつけたのが、当時最新式の、全感覚没入(フルダイブ)じゃないVRホラーゲームだった。


 泣き叫んだ。


 もう、次元が違うのだ。

 いくらフルダイブじゃなくても、VRのホラゲーは恐怖の次元が違う。

 真剣に生命の危機を感じるレベルで怖いのだ。

 あまりの恐怖に、俺は人生で初めてゲームを途中で放り出した。


 俺が尋常じゃない恐がり方をしたので、従兄はいい歳こいて俺の親に叱られて、さすがに罪悪感が芽生えたらしく反省し、二度とホラゲーは持ってこなくなった。

 まあ鬼畜レトロゲーをやらせるのはやめなかったんだが。


 以降、俺はそのことがトラウマになって、ホラーゲームができなくなったのだ。

 ……いや、別にこんなトラウマがなくたって、怖いの普通に苦手だからできないと思うが。


「普段は『ことゲームと名の付くもので俺に苦手なものはない』とか言ってるのに~? ホラーは苦手なんですね~? お化けが怖いんだ~? へ~、かっわいい~♪」


「に、……苦手じゃねえし!!」


 あまりにチェリーが調子に乗っていたので、つい女子と仲がいいのをからかわれた男子小学生みたいな否定をしてしまった。

 チェリーはニマニマ笑いをさらに濃くする。


「じゃあ大丈夫ですよね~? 一緒に行きましょうか~! 私と一緒なら怖くありませんよね~?」


「え、……い、いや……そうだ、四人で!!」


 四人いればさすがに怖くない!!

 と思って、俺はブランクとウェルダに振り向いた。

 のだが。


「わわわわわわたしたちはここで待っていよう!! もし戦闘になったら足手まままといだからなっ!!」


「せっ、先生っ! 足がっ! 足が子鹿みたいに!!」


 お前もダメなのかよ!!

 取材はどうした!!


「ち、違う……! 書くのは! 書くのは大丈夫だから!! 人を怖がらせるのは好きだけど自分が怖いのは嫌なだけだから!!」


「このクズ作家……!!」


 思わず罵る。

 もう逃げ場がない。


「さあ。じゃあ行きましょうか♪」


 チェリーがくっそ楽しそうな笑顔で俺の手を掴んだ。

 本気で振り払うのもみっともないしさりとて――

 などと考えているうちに、俺はずるずる引きずられていく。


「むっ、無理っ!! 無理無理無理マジで無理だからほんと勘弁してお願いしますほんとほんとほんとほーんーとーにぃー!!」


「お化けさん出ーておーいでー!」


「いやあああああああああああっ!!!」



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