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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅰ - 最強カップルと愉快な仲間たちの遠征攻略合宿
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第57話 刹那の見斬り


 最初に見つけた階段は上りだった。

 最初に出会った階段に入る決まりである。

 2階に上がった俺たちは、探索を始める前に廊下を覗き込んだ。

 骸骨の剣士――エターナル・ガードナーが、3体ほど巡回している。


「やりますか?」


「スニーキングするほどのレベルじゃない。この先にも結構いるっぽいし、ログアウトボーナス使うわ」


「あ、じゃあ私も」


 ログアウトボーナスってのは、その名の通りログアウトしている間に貯まるポイントのことで、これを消費することで一定時間もらえる経験値を増やすことができる。

 まあ、レベル100代にもなると焼け石に水だけど、使わない理由はない。


「誘き出して1体ずつ片付けようぜ」


「了解でーす」


 チェリーが魔法攻撃でエターナル・ガードナーの気を惹き、誘き出して孤立させてから片付ける。

 骸骨剣士の群れに出会うたび同じ方法で全滅させ、俺たちは複雑な神殿内を探索した。


「先輩。この壁に貼ってあるやつ……」


「この神殿の地図か? 3分の1くらい破れてるけど」


「これだけじゃいまいち道がわかりませんね……一応スクショに撮っておきます」


 また別の部屋で地図を発見する。


「また3分の1くらいだな」


「全部見つければ完全な地図になるってことでしょうね。撮っておきます」


 さらに片っ端から部屋を見ていくと、完全な地図が完成した。


「3階建てか?」


「地下ですし、建てっていうのもおかしいですけど」


「宝物庫は3階の真ん中か。えーっと……一番近い階段から逆算していくと……こう行ってここ上ってこっち曲がって……なるほど、こうか」


 道はわかった。

 残りの問題は、道中の敵と戦ってる間にせっかく導き出した道順を忘れてしまわないかということだけだ(よくある)。

 幸い、チェリーが地図を全部スクショしておいてくれてるので、忘れたとしてもまた確認すればいいだけだが。


「ふふふ。内助の功ですね」


「うわっ。お前から最も縁遠い言葉だな」


「失礼ですよ! 普通に!」


「お前が男より3歩下がって歩いてたら、『背中を刺そうとしてるのかな?』って警戒するわ」


「さっ、刺したことはないじゃないですか! まだ!」


「まだ!?」


 こいつを背後に立たせないようにしようと決意しつつ、俺たちは地図に従って神殿内を進む。


 途中、出てきた敵モンスターは――

 エターナル・ガードナー(骸骨剣士)。

 エターナル・プリースト(骸骨神官)。

 エターナル・アーチャー(骸骨弓兵)。

 エターナル・ウォッチドッグ(骸骨番犬)。

 ――などなど、骸骨まみれだった。


 やはり、かつてこの神殿で働いていた人間たちがアンデッド化したということなんだろう。

 洞窟にいたエターナル・ガードナーは、たまたま神殿の外で死んだ奴だ。


「死体を弔わずにほっといたらアンデッド化するんだよな?」


「ですね。死んだNPCがアンデッド化したなんて噂も……」


「うげえ」


 もう違うゲームだろそれは。


「きちんと埋葬された死体でも、魔族のネクロマンサーが操ってアンデッドにしちゃうこともありますよ」


「墓場とかにたまにいるらしいな」


「ぷくく。先輩は行ったことないんですよね? 怖いから」


「おい、俺まだ忘れてないからな! 旅館のときのお前の醜態を!」


「あっ、あれははっきりと怖がらせてくるやつだったからですよ! ただの墓地ならだっ……だいじょうぶ、です。たぶん!」


 俺の腕をひしっと掴んで放さなかった奴がよく言う。

 ずっと半泣きだったくせに。


 最後の階段を上ると、正面に大きな扉があった。

 あれが宝物庫か。

 手前には、例によって骸骨剣士が1体、佇んでいる。

 ……いや、待て、あれは……?


「あの骸骨……なんかデカくね?」


 ロックオンしてみれば、《エターナル・センチネル Lv109》と出た。


「109……」


「高いですね……。中ボスですかね?」


「とりあえずガードナーと同じパターンで当たってみるか?」


「そうしましょう」


 そうすることにした。

 まずチェリーが《ファラゾーガ》で先制攻撃。

 そっちに注意が行ったところで俺が横から攻撃してヘイトを奪う。

 薙ぎ払い攻撃をバックステップでかわしつつ、縦斬りを《受け流し》でパリィ――


「うげっ!?」


 ――できなかった。

 俺はぶっ飛ばされて、後衛のチェリーのところまで転がっていく。


「はっ? 何やってるんですか、先輩!」


「判定がめちゃくちゃ強いんだよ!」


 叫びながら瞼の裏の簡易メニューを確認すると、HPが半分以上消し飛んでいた。

 俺はポーションの小瓶を取り出そうとするが、舌打ちして中止する。

 2メートルを超える骸骨が剣を振り上げて、突進攻撃の姿勢に入ったのだ。


「させませんっ……!」


 チェリーが《聖杖エンマ》の先端から《ファラゾーガ》を射出し、エターナル・センチネルを正確にヘッドショットした。

 しかし、骸骨剣士の突進姿勢が崩れることはない。


「うぎゃあ! スーパーアーマー!」


「だから言ったろ!」


 攻撃パターン自体はエターナル・ガードナーと同じだ。

 ただ、攻撃力と判定の強さが違う。

 パッと見同じだからって同じ対応をすると、痛い目を見ることになるのだ。


 エターナル・センチネルが強く地を蹴った。

 猛然と俺たちに迫りながら、剣を水平に構える。

 横薙ぎ。

 それを確認した瞬間、俺は呟いた。


第三ショート(キャスト)―――」


 まだだ。

 一瞬待て。


 ズン! と骸骨が目の前に踏み込んで。

 ぐっと力を貯めるように、水平に構えられた剣が一瞬だけ静止した。


「―――カット発動(スリー)ッ!」


 瞬間、《焔昇斬》を起動する。

 同時に骸骨の剣が振るわれ、《受け流し》の効果でスローモーションになったが、剣技魔法を発動した俺にはもはや自由はない。


 だが、ジャストだった。

 横に薙ぎ払われる骸骨の剣と、まっすぐ斬り上がった俺の魔剣とが、ちょうど十字を描くように交差した。

 派手な金属音と火花が散って、エターナル・センチネルが大きく仰け反る。


「よおっしゃあ!!」


 剣技魔法を使えば何とか弾ける!


「どんな目してるんですか、もう!」


 チェリーがなぜか文句を垂れながら、素早くスペルブックのページを繰った。


「《グランバニッシュ》!!」


 仰け反ったエターナル・センチネルの胸に、まばゆく輝く光球が突き刺さる。

 弱点である光属性魔法の直撃を喰らった骸骨剣士は、そのHPをガクンと減らした。

 あと一撃いるか……!?


「先輩! もういっかい!」


「無茶言うなあお前!」


 横薙ぎに斬り上げを噛み合わせるの、超難しいんだぞ!!


「っていうかクールタイム中!」


「ああっ!?」


 というわけで、エターナル・センチネルが仰け反っている間に大人しく距離を取った。

 併行してポーションを飲んでおく。

 HPが致死圏内を脱したところで、《焔昇斬》のクールタイムも終わった。


 俺たちが距離を取ったからだろう、エターナル・センチネルは再び突進姿勢を取る。


「よっし。追撃の準備しとけよ!」


「わかりました!」


 俺は前に出て、骸骨剣士の挙動を注視した。

 穴の空いた靴が強く床を蹴る。

 猛然と走りながら、剣を水平に構える。


第三ショート(キャスト)―――」


 ズン! と足が踏み込まれ、


「―――カット発(スリ)ッ……!」




 あっ、ちょっと早かった。




「どわぁーっ!!」


「先輩ーっ!?」


《焔昇斬》が見事に空振りし、派手にぶっ飛ばされていく俺。

 ポーション飲んでおいてよかった。


 一命を取り留めた俺は、2回目のチャレンジで見事パリィに成功し、チェリーの《グランバニッシュ》によってエターナル・センチネルに勝利を収めるのだった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「宝物庫……素晴らしい言葉の響きだ。根こそぎ持っていってやるぜぐへへへ」


「盗賊の部分が出てますよ先輩」


「盗賊って言うな。せめて怪盗と言え」


「誰の心も盗んだことないくせに」


「心ない言葉!」


「心がないんじゃあ盗もうにも盗めませんね。ふふふ」


「お前は次にこう言う。『まあ、私の心はとっくに誰かさんに……なんちゃって』」


「まあ、私の心はとっくに――あっ!? ネタバレしないでくださいよ!」


 読みやすいんだよ!

 いいかげん新たな芸風を開拓しろ!


 ともあれ、1階で手に入れた鍵を使って、宝物庫に入ることができた。

 金銀財宝が山のように――あるわけじゃないが、埃っぽい部屋の中には、宝箱がいくつも並んでいた。

 俺たちは喜び勇んでそれらを開けていく。


「うおっ! 見たことない鎧!」


「うあっ!? 魔法の巻物(スクロール)ですよ!」


「換金用の宝石!」


「武器強化素材!」


「大量の通貨(セルク)!」


「白い(ふえ)!」


「笛?」


「笛?」


 俺たちは首を傾げた。

 宝箱から出てきたのは、1本の細く白い笛。

 フルートか?


 アイテムステータス画面を開いてみたが、名前も説明文も【白い笛】の三文字だけだった。


「名前はともかく、説明文まで【白い笛。】だけって、なんか怖いな」


「吹くとどうなるんでしょう……」


 チェリーは白い笛を様々な角度から眺め回した。


「……あっ、ここ」


「どうした?」


「1階の扉にあったのと同じマークじゃないですか? 二重丸の」


 笛のお尻のほうに、内側の丸だけ塗りつぶされた二重丸が描かれていた。


「……あの扉の前で吹けばいいのか?」


「『鍵がないと』ってメッセージに書いてありましたよ」


「うーむ……」


 この弓矢の的みたいな二重丸は結局、何を意味するのか……。


 あれこれと可能性を語り合いながら、俺たちは宝物庫を出た。

 この笛の使い方がわからない限り、先には進めそうにない。


「まだ入ってない部屋ありますよね? 何かヒントがないか探してみましょう」


 そういうことになり、来た道を戻って2階に降りた。

 すると。


「あ!」


 他のプレイヤーに遭遇した。 

 4人ほどのパーティの先頭にいるイケメンはセツナだ。

 背後に配信用カメラである妖精、通称《ジュゲム》を飛ばしている。


「洞窟にいつの間にか出口ができてるって話を聞いて慌てて来てみたら……案の定君たちか」


 セツナは苦笑して言った。

 情報が早いな。

 俺たちがこの神殿の入口を見つけてから、まだ1時間も経っていないと思うが。


「何かわかったのかな? 1階の奥に出口っぽい扉があったけど開かなくって、とりあえず上がってきてみたんだけど」


「はい。実はですね――」


 チェリーがセツナにこれまでの経緯を話す。

 例の的マークの扉を守っていたガードナーから宝物庫の鍵を入手して、センチネルを倒し、宝物庫から謎の笛を見つけ出したところまで。


「これがその笛なんですけど」


 チェリーがストレージから《白い笛》を出して、セツナに差し出した。

 セツナはそれをまじまじと観察する。


「ううん……? ちょっといい?」


「はい」


 セツナはチェリーから《白い笛》を受け取って眺め回し、的っぽいマークに目を留めた。


「これ……1階の扉にもあったマークだね」


「そうなんです。それの意味がわからないんですよ。他に特徴ありませんし、その笛の使い方に関するヒントなのかな、と思うんですけど……」


「うん……。――え? ああ、ごめん。ほら、見えるかな?」


 セツナが唐突に誰にともなく喋ったかと思うと、背後の妖精型カメラ・ジュゲムに白い笛の二重丸マークを向けた。

 配信のリスナーに見せているのだ。


「みんな、何か思い当たることあるかな? ――いやいやいや。乳首じゃなくて」


「ぶほあっ」


 噴き出してしまった。

 内側の丸だけ塗りつぶされた二重丸。

 弓矢の的だとばかり思っていたが、言われてみればもう乳首にしか見えない。


 隣のチェリーがじとーっとした目で見ているのに気付いて、俺は平然を装った。

 なーにが乳首だよ。

 小学生かっつーの。


「みんな! 大喜利大会じゃないからこれ! そろそろ真面目になろう! やればできる!

 ――え、『霧』? どういうこと?」


「「霧?」」


 配信のコメントを読み上げたんだろうセツナの言葉に、俺とチェリーは同時に反応した。

 セツナは笛をジュゲムに見せたまま、身体の横に開いた配信画面に顔を近付ける。


「――『天気記号』……? あっ、晴れは丸とか、雨は黒丸とか、そういうやつ? そういえば大昔に習ったな……」


 あー!!

 あったな、そういうの!

 夏休みの日記くらいにしか使わなかったやつ!


 チェリーがさっとネットブラウザを開いて、『天気記号』と検索した。


「あ、ほんとだ……。ほら、先輩」


 見せられたブラウザには、天気記号の一覧が映っている。

 その中の一つ、内側の丸だけ塗りつぶされた二重丸は、霧を意味する記号らしかった。


「マジだ……。こんなの覚えてねえよ」


「私もすっかり忘れてました。霧ってこんなマークなんですね」


 扉にも、白い笛にも、霧の天気記号が描かれていた?


「これ、たぶん正解だぞ。霧といえば……」


「湖ですね」


 霧に包まれて、中心まで行けなかった湖。

 きっとあの場所に関係あるアイテムだ。


 セツナは頷いて言った。


「やはり湖か……いつ出発する? 僕も同行する」


「?」

「?」


「……………………」

 

 俺たちの反応を見てセツナは非常に気まずそうな顔をして、それを見たセツナの仲間たちが思いっきり爆笑した。


「セツナ院!」

「スベってるぞセツナ院!」

「普通の高校生がジョジョ知ってるわけないだろセツナ院!」


「待って! 言い訳させて! 言い訳!」


 何かのネタだったんなら、わかんなくてごめんとしか言いようがない。

 とはいえ、セツナたちはなんだか楽しそうだったので、まあいいんじゃないかって気もした。


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