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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅰ - 最強カップルと愉快な仲間たちの遠征攻略合宿

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第56話 随所で世界観設定をほのめかしている神殿


 床の上を水が覆っていた。

 俺たちはそれを、ばしゃばしゃと足でかき分けながら進んでいく。

 石でできた長い廊下には灯りがなく、俺たちの頼りはカンテラの光だけだ。

 油にも限りがあるから、俺だけがカンテラに火を点けて、チェリーの前を歩いていた。


「なんなんでしょう、ここ……神殿?」


 チェリーの声がくわんくわんと反響する。

 廊下の壁際には、一定の間隔でドラゴンをかたどった像が佇んでいた。

 両目に当たる部分には宝石らしき光があり、なんだか睨まれているようで薄気味悪い。


「城か神殿か……少なくとも普通の家じゃあないだろうな」


「あるいは、ただの地下通路だったり」


「うーん」


 俺は足を浸す水に目を落とす。


「あれだけ大量の水が流れ込んだのに、たったこれだけの深さってことは、相当広いはずだよな……」


「おお。先輩にしては鋭いですね」


「褒めるの下手くそか」


「あっ」


 チェリーが声を上げて、前方を指さした。


「なんか明るいですよ」


「明るい……?」


 地下なのに?

 しかし確かに、前方から淡い光が射し込んでいた。

 近付くごとに闇が薄くなり、ついにはカンテラも必要なくなる。

 ばちゃばちゃと水を蹴立てて、俺たちは淡い光に満たされた空間に出た。


「おお……」


「神殿、ですね……」


 そう。

 この雰囲気は、神殿と呼ぶのが一番ふさわしい。


 まず目に付くのは、一番奥にある見上げるほどデカいドラゴン像だ。

 翼を大きく広げ、勇ましく猛るその姿は、単なる怪物の領域を超えている。

 恐怖ではなく、畏怖を呼び起こすもの。

 つまり、神様だ。

 長い年月を経て、(こけ)に各部を覆われてなお衰えない神々しさが、これを作った人間の意図を証明している。


 横合いに目をやれば、巨大な壁画が一面を埋め尽くしていた。

 ところどころが剥がれ落ちてしまっているが、なんとなく雰囲気は読み取れる。

 描かれているのは戦いだ。

 様々な異形の怪物を率いる何者かと、たった一人それに立ち向かう、長い髪の女性……。


「神子と魔神との戦いか?」


「そう見えますね」


 このムラームデウス島の誕生に関わった、2柱の《旧き存在》。

 それらの転生体である《神子》と《魔神》が、遙かな過去に相争った。

 戦いは神子の勝利に終わり、魔神は眷族である魔族だけを地上に残して夜空へと放逐され、二つ目の月《子月》になった……。


 MAOの公式サイトにだって書かれている、ムラームデウス島の伝説だ。

 夜になるとモンスターが強くなるのは、空に彼らの主である子月が現れるかららしい。


「神子と魔神が戦っていた、500年前だか600年前だかに作られた神殿ってことか?」


「あっ、先輩。見てください、あそこ」


 チェリーが壁画の右のほうを指さした。

 そこには、大きな狼のようなものが描かれている。


「もしかして……フェンコール?」


「フェンコールは、魔神が神子と戦うために生み出した神造兵器だったんですよね。六衣さんによると」


 現在ナインサウスと呼ばれているエリアのボスだった《神造炭成獣フェンコール》。

 ヤツはナイン山脈の遙か地下で、すやすやと眠りに就いていた。

 だから、ナイン山脈に存在した文明が残した壁画にその姿があっても、何もおかしくはない、か。


「あるいは、神子と魔神の決戦の地だったのかもしれませんね……この山脈が」


「んん? なんで?」


「だって、フェンコールがわざわざ1匹でここまで寝に来たとは思えないじゃないですか。ここで魔神がお空にさよならされて、そのまま眠りに就いたって考えるほうが自然じゃありません?」


「ああ、なるほどな……」


 納得すると同時、俺はある連想をした。


「……だとしたらさあ。この山脈、他にもヤバい奴が封印されてたりするんじゃ……」


「……確かに」


 ここで魔神が神子に負けたんだとしたら、そのとき取り残されたものが、フェンコールの他にもあるかもしれない。


「何か大きなイベントが起こるかもしれないな……」


「バージョン3もちょうど中盤ですもんね」


「ドラクエ5で言ったら結婚する辺りだからな」


「すみません。あんまりピンと来ません」


「バカな!」


 究極にわかりやすい例えだと思ったのに。


「まあ、むやみに怯えても仕方がありません――それよりも私が気になるのは、どうしてこの神殿はドラゴンを祭ってるのかってことです」


「どうしてって?」


「ここで神子と魔神が対決して、それを目撃した人たちがこの神殿を作ったんだとしたら、神子を祭るのがスジじゃないかなって思うんですよね。教都エムルにあるジェラン教の神殿みたいに」


「ふむ……」


 俺は最奥にそびえ立つ巨大なドラゴン像を見やった。


「そもそも、ドラゴンって立ち位置がモンスターの中でも謎なんですよね。旧支配者ほどじゃないにしても」


「精霊に近い存在って言う割には敵として出てくるしな……」


 精霊と呼ばれる存在は大体、バレンタインのように味方として出てくるものだ。

 俺たちが北を目指しているのだって、その先に《精霊郷》という、精霊たちの故郷みたいな場所があるからだし。


 精霊郷に行けば、そこにいる精霊たちの力でムラームデウス島を完全に人間の手に取り戻せる――という触れ込みである。

 言うまでもなく、本当にそうなったらゲームが終わっちゃうんだが。


 いずれにせよ、精霊はモンスターたち――魔族と敵対しているのだ。

 だってのに、今までに出現したドラゴンは、例外なく俺たちに襲いかかった。

 精霊なのか、魔族なのか。

 結局どっちなんだって話だ。


「まあ、とにかくいろいろ探索してみましょうよ」


「だな。まだ奥があるみたいだし」


 巨大ドラゴン像の両脇に、奥へと続く廊下がある。

 俺たちは巨像と壁画に囲まれた広間を後にして、再び廊下を進み始めた。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「うおっ……らっ!」


 鍔迫り合いを制した俺は、隙を晒した骸骨剣士――《エターナル・ガードナー》の背骨をスパッと断ち切った。

 急所判定が出たが、HPは削りきれない。

 トドメを刺したいのは山々だったが、別の《エターナル・ガードナー》が2体掛かりで俺に襲いかかってくるところだった。


 ここは任せよう。

 俺は三歩下がる。


「《バニシューラ》!!」


 同時、背後からチェリーの詠唱が響き渡った。

 3体の骸骨剣士の頭上に光の球が現れたかと思うと、炸裂して輪っか状の波動をまき散らす。

 それを浴びた骸骨たちは、電撃を受けたかのように震えて、ばちゃっと水の中に倒れた。


 3体すべてが紫色の炎に包まれて消滅したのを確認すると、俺は《魔剣フレードリク+9》を背中の鞘に納める。


「先輩、いえーい」


 振り向くと、チェリーが右手を頭上に挙げていた。


「……何、その手」


「ハイタッチですけど?」


「いつもそんなのしてたっけ?」


「まあまあ。いえーい」


「い、いえーい」


 何の罠だと警戒しながら恐る恐るハイタッチを交わす。

 ぱちん。


「ふっふっふ」


「な、なんだ!?」


「特に何もありません!!」


「ねえのかよ!!」


 無駄に警戒しただろうが!


「私も何かできるかなと思ってハイタッチを求めてみたんですけど、特に何も思いつきませんでした」


「無計画すぎる……」


 と、究極に無駄なやり取りをしている俺たちの前には、一つの扉があった。

 3体ものエターナル・ガードナーが守護していたそれは、錆びてはいるもののぴったりと締め切られている。

 他の扉は壊れたり倒れたりズレたりして機能していなかったのに、これだけは無事なのだ。

 神殿を奥へ奥へとまっすぐ進んだだけで見つけた扉だが、見過ごせる怪しさではなかった。


 もはや邪魔する骸骨はいない。

 俺たちは扉に近づいてみる。

 扉には大きく、内側の丸が塗り潰された二重丸が描かれていた。

 なんだ、この的みたいなの?


「先輩。どうぞ」


 と言いながら、チェリーは一歩下がった。


「おい! ナチュラルに人に開けさせようとすんな! 罠があったらどうする!」


「がんばって♪ せーんぱいっ♪」


「お前可愛らしく言えば何でも許されると思ってるだろ……!」


 やっぱり同類だよ、UO姫と!

 俺は溜め息をついて、扉の取っ手に手を伸ばした。


「なんだかんだ言って身体張ってくれるんですね~。や~さし~!」


「からかうならやめるぞ!」


 取っ手を掴んで、引っ張った。

 押した。

 両手で引っ張った。

 押した。


「……開かない」


「あれ?」


 ピョコン、と扉の前にメッセージが表示される。


【どうやら鍵がないと開かないようだ。扉の表面には奇妙な模様が描かれている】


「んー?」


 俺はそのメッセージを読んで首を傾げた。

 チェリーも近寄ってきて、ひょいっと横からメッセージを覗き込んだ。

 肩が軽く触れ合う。


「鍵を見つけてこいってことですよね。……でも、どうして扉の模様に関する言及が?」


「何らかのヒントなんだろうけど……うーん、わからん!」


 弓矢の的にしか見えん。


「こういうときはとりあえず探索だ。考えるのはここでなくてもできる」


「ですね。……あれ?」


 振り返ったチェリーが、不意に視線を下げた。


「何か落ちてますよ」


「おっ?」


 エターナル・ガードナーが消滅した辺りだった。

 浅く張った水面に、小さな『!』アイコンがポップアップしている。


 チェリーが腰を曲げて水に手を入れ、何か小さなものを拾い上げた。


「あれ。鍵ですよ?」


「は? 早くない?」


 すぐ傍にありすぎだろ。

 半信半疑ながらも、的マークの扉の鍵穴に挿してみたが、解錠できる気配はなかった。


「別の扉の鍵ですか……」


「――あ。それ、ちょっとよく見せろ」


「ひあっ!?」


 俺はチェリーの手を掴んで、指に挟まれた鍵をよく観察した。


「……やっぱり。ここだ、よく見ろ。かなり掠れてるけど、宝箱みたいなマークがあるぞ!」


「そ、それはいいんですが……先輩? あんまり気軽に手とか握られるとですね……その、びっくりするというか……」


「あ、悪い」


 パッと手を放すと、チェリーは俺に握られた手の甲をすりすりとさすった。


「こほん。……仕切り直しますけど、宝箱のマークってことは、宝物庫か何かの鍵ですかね?」


「だろうな。先にそっちに行けってことだ。宝物庫か……どこにあるんだろうな……」


「地下が定番ですけど」


「ここがすでに地下だろ」


「じゃ、最初に見つけた階段に入りましょう。上りにせよ下りにせよ」


「了解」


 大変ざっくばらんな方針を立てて、俺たちはいったん的っぽい模様の扉を離れたのだった。


今回より2日に1回更新になります。

ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴン像の両脇に通路あるなら、それぞれの先にって思うけどもすぐき両方が繋がっていたとか?
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