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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
4th Quest - 最強カップルのVR学園生活

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第239話 真・怪盗劇場・第三夜


「なんっ……だ、これ? ……え? なんだこれ!?」


「私たち、入れ替わって――ないですけど、他の人のアバターになっちゃってます……!」


 ――《ジ・インフィニット・フェイス》――


 透き通るように響いた声が、耳の奥から呼び起こされる。

 他者のアバターを変身させる。

 それが、虚面伯の独占魔法――その全詠唱効果だって言うのか?


「……あれ? 俺がチェリーのアバターになってるってことは……」


 さっき俺がむにむに揉んでたのは……?


「余計なことは思い出さないでいいんです忘れてるなら忘れててくださいっ!!」


 UO姫――の姿をしたチェリーが顔を赤くして言って、


「それより! 天初さんと雨矢鳥さんは――」


 そうだ!

 天初と一緒に、虚面伯の共犯者だった雨矢鳥を追い詰めていたんだ。

 視界が途切れていたのはどのくらいだ? まさか逃げられて――


「……うう、んー……」


 すぐ近くで寝起きのように唸り、ゆっくりと身を起こす姿があった。

 その大きなツインテールと眠たげなタレ目は、見間違えるはずもない。

 雨矢鳥フラン!


「雨矢鳥さんっ! なんなんですか、これは!?」


「うえっ!? えっ? なになにっ!?」


 雨矢鳥は目を白黒させて、詰め寄ったチェリーと俺を見た。


「え? あなた……確か、ミミさん、ですよね? フランちゃんの友達の……」


「チェリーです! あなたのお仲間の虚面伯のせいでこんな姿になっちゃったんじゃないですか!」


「えっ? チェリーさん? そういえば喋り方が……」


 ……? なんかおかしいぞ?

 っていうか、ついさっき似たような流れをやったような気が……。

 そう思って、改めて雨矢鳥の姿を観察すると、


「ごぶぉっ!?」


 思わずむせた。

 なっ、なんつー露出してんだ、こいつ!

 襟元が胸の下までV字にざっくりと開いたドレス! 天初も同じドレスを着てたけど、雨矢鳥は胸がかなりでかいから、膨らみの下に隙間ができて尚更に――

 ……ん? 天初も同じドレスを着て……?


「……もしかして、天初か?」


「え?」


 チェリーは俺を振り返り、それから雨矢鳥――の姿をした奴に目を戻して、


「……えっ!? 天初さん!?」


「そうだけど……? え? 何? なんで驚いてるの?」


 状況を掴めていない天初に、チェリーは無言で配信画面を見せた。

 まさに今この場所を映した画面には、当惑した顔の雨矢鳥フランのアバターが映っている。


「え? え?」


 画面の中の天初(in雨矢鳥)は自分の顔をぺたぺたと触って、


「――うええーっ!?!?」


 配信者らしい綺麗なリアクションをした。

 それから自分の姿――半分くらい肌色――を見下ろすと、「うあっ!」と焦った顔をする。


「やばばばっ……! BANされるBANされる!」


 腕で胸元を隠して、カメラに背を向ける天初。

 恥ずかしいとか以前に、そっちの心配なんだな。

 ちなみに、さっきから配信画面のコメント欄には『エッッッッッッ』という文字が流れ続けている。

 っつーか、さっきまで普通に同じ服で配信してたのに……スタイルが変わっただけでこうもセンシティブさが変わるとは。


「……おいチェリー。お前、その服にしといてよかったな」


「……まったくですね……」


 もし最初の、半ばふざけて選んでいた胸元の開いたドレスを着ていたら――UO姫のセンシティブの塊みたいな胸がとんでもないことになっていた。


「――どうぞ、百花せんぱい」


 ぱさり、と。

 天初の肩に、不意に毛布がかけられた


 いや、違う……。薄いピンクのそれは、ただの毛布じゃない。

 袖が付いている。

『着る毛布』だ――とある百空学園生の、トレードマークのひとつだった。


 ドクロの髪飾りが、鴉の濡れ羽色の髪に光っている。

 生徒会長らしい凛とした顔つきに、しかしどこかダウナーな表情が宿っている。

 白を基調とした改造制服を身にまとった、長い黒髪を一つに縛った少女を、俺が、チェリーが、天初が見つめた。


「……フラン、ちゃん?」


 毛布をかけてくれたその少女に天初が声をかけると、凛とした少女――天初百花の姿をした雨矢鳥フランは、にっこりと笑った。


「ありがとうございます、百花せんぱい――このアバター、AGI寄りのステ振りなんですね」


「え……?」


「おかげで逃げやすいです」


 瞬間、雨矢鳥がダッと床を蹴った。

 向かうのはただ一つの出入り口。

 逃げるつもりか! 俺の足から逃げられると思うなよ――!


 俺はその背中を追いかけようと床を蹴った――

 ――が。


「ぶおえっ!?」


 思ったより進まなくて、つんのめった挙句に顔面からコケた。


「なっ、なんだこれ!? 遅っせ!」


「何やってるんですか先輩! 初心者じゃあるまいし――ぶえっ!?」


 同じく追いかけようとしたチェリーが、やっぱり一歩目でコケた。

 が、俺のように顔面を打つことはなく、胸がふよんっとクッションになって事なきを得る。


「~~~っ!! なっ、なんなんですかこの身体はーっ!! バランスが悪すぎるんですけど!!」


「そりゃあ、そんな小っちぇえ身体にそんなもんぶら下げてたらな……」


 現実にはいねーから。こんなロリ巨乳。

 UO姫の奴、オタクに媚びるために利便性を犠牲にしすぎだろ。


 そんなことをやっている間に、天初のアバターに入った雨矢鳥は、廊下の向こうへと走り去ってしまった。

 くそ! とてもじゃないが追いつけない――チェリーのアバターはAGIが低すぎる!


「お前、もうちょっとAGIに振っておけよ……! だから言っただろ! 速度が正義だって!」


「だから立ち回り的に無駄だって言ってるじゃないですか! バフでカバーできますし!」


「足が速くて無駄なことなんかあるかバーカ!」


「なんですか紙耐久のくせにぃ!!」


「それはお前もだろうが!!」


 不毛な言い争いをしていると、天初がホロウインドウを見て「うわわっ……!」と慌てた声を漏らした。


「舞踏会も大変なことになってる……!」


 見れば、ウインドウに映った仮面舞踏会も騒然としていた。

 みんな仮面を着けているし、そもそも誰が誰だったかなんて覚えてねえからパッと見わからないが、どうやら向こうもアバターが変わってるらしいな。


「一体何人を対象に取ったんですか……。こんな大規模な魔法、前代未聞ですよ!」


「《赤統連》が独占するだけはあるな……」


「このホールだけじゃない……。コメントを見る感じ、学園全体で起こっているみたい。……わたしが昨日、フランちゃんに化けた虚面伯に、《法律》をいじる権限を与えたから……」


「……そうか。『照準不能』の《法律》を消されたんですね。それでこんな大規模テロが可能になったんだ……」


『照準不能』――魔法やスキルで他者を照準できなくする《法律》か。

 確かに、これは他者を直接照準するタイプの魔法だ――つまり昨日、《法律》をいじられた時点から、こうすることが計画だったってことか?


「やられました……。あのマークはこういうことだったんですね……」


 悔しげに呟いたチェリーに、俺と天初は振り向いた。


「予告状のマークですよ。『顔』のマークを見て、私たちはてっきり、次のターゲットは仮面なんだと思い込みました。ですが――」


「まさか――あれは仮面じゃなくて、そのまま人の顔だったってこと!?」


「そうです――虚面伯が三番目に盗んだのは、私たちのアバターです!」


 アバターを、盗む――

 確かに、そう言って言えないことはない。事実として、俺たちは自分の慣れ親しんだアバターを使えなくなった。

 この世界において、これは手足を縛られたも同然の状態なんじゃないか?

 俺はメニューを開いて、諸々のステータスを確認した。


「……ステータスとクラス、スキル、流派は完全に入れ替わってるな。どれもロックされててイジれないけど――そのままなのは装備だけか。むしろそれも厄介だ」


「フルVRゲームにおいて、アバターの操作感がまったく別物に変わるっていうのはとんでもないデバフですよ……。すぐには頭が追いつきません」


「ありえねえチート魔法だ……。もし戦争とかで使ったら、その瞬間に勝ちが決まるだろうな」


 対策不能だろ。何を考えて実装したんだこんな魔法!


「私たちの知らないところで、何らかの代償は払っているんでしょうけど……いま問題なのは、こうなったことで何が起こるか、です。単にアバターを盗んで終わりとは思えません。何せ学園祭は明日もあるんですから」


「そうだな……。最終日に何もしないとは思えねえ……」


「天初さん、何か心当たりはありませんか?」


「うーん……」


 天初が難しげに首を傾げたそのとき、


「話は聞かせてもらったぁーっ!!」


 と男の声がして、入口に二人の人間が姿を現した。


「呼ばれて飛び出て高学歴! クールインテリ系Vtuberの氷室白瀬でーっす!」


 その片方、眼鏡を掛けた少年がプリキュアみたいなポーズで言い、


「ちょりーっす。くそだりーけどギャル系Vtuberやってまーす。千鳥・ヒューミットでーす。きゃぴ☆」


 もう片方、金髪のギャルが横ピースをして言う。

 俺たちは無言で二人を見比べた。

 沈黙が数秒漂ったところで、天初がおずおずと手を挙げる。


「質問なんだけど、これは乗ったほうがいいやつ?」


「……ごめん会長。乗ってこられると収拾つかないかもです」


「乗るって何のことだっつーの。きゃぴ☆」


「ムロっぺさあ! それあたしの物真似!? あたし言ったことある!? 『きゃぴ☆』って言ったことあるかなあ!?」


 どうやら氷室と千鳥も入れ替わっているらしい。

 氷室は普段は落ち着いた奴のはずだが、やはり配信者か、ふざけるときは誰よりもふざけやがる。


「千鳥さん。先ほど『話は聞かせてもらった』と仰いましたが、虚面伯の目的について、何か心当たりがあるんですか?」


 横ピースを意地でもやめそうにない氷室(in千鳥)を放置して、チェリーが話を本題に戻す。


「そう! それね! 実はそのー……身体が入れ替わった瞬間に、虚面伯には逃げられちゃったんだけどぉ……」


「それは仕方がありませんよ。私たちも雨矢鳥さんに逃げられてしまいました」


「うん。そんでね。虚面伯の代わりに、手の中にこのカードが残されてて……」


 そう言った千鳥(in氷室)が取り出したのは――


「予告状!」


 そうだ。いつも虚面伯が残していく、次の犯行を予告するカード。

 千鳥が差し出したそれを、俺たちは全員で覗き込んだ。

 そこには、こんな文章が刻まれていた。




『天に百花(ひゃっか)が咲く頃に、初めてヴェールを捨てましょう。

 雨天決行、晴天の霹靂。一夜限りの晴れ舞台。

 奇跡の夜を、御覧じよ。


 赤名統一連盟 虚面伯』




「天に百花が咲く頃に……」


 天初が口の中で呟いた。

 俺もすぐにピンと来る。

 今まで強いて指摘してこなかったが――予告文の一行目には、明らかな法則性があった。


 ――輝く夜に月が昇れば。

 ――月の兎が歌うでしょう。

 ――絆も愛も上っ面。


 これらはすべて、有名Vtuberの名前になぞらえた文章だ。


 そして今――おそらくは最後の予告文にて。

 ついに、『天初百花』の名前が使われた。

 そして二行目――『雨天決行』と『晴天の霹靂』は、明らかに示している。

 雨矢鳥フランと晴屋京。

 天初百花が相方となった、二組のコンビを……。


 やはり、繋がっているのだ。

 今回の虚面伯の事件と、晴屋京という存在は。

 根拠はないが、確信する。


 この事件は――晴屋京が中心となって存在しているのだ。


「……マークはありましたか?」


「うん」


 チェリーの問いにうなずいて、千鳥は予告カードを裏返した。

 そこにはいつも、ターゲットを暗喩するマークが刻まれている。

 1枚目は剣。

 2枚目は杖。

 3枚目は顔。

 そして、4枚目は――


「……これって……」


「よく意味がわかんないんだよね。『通行止め』かな?」


 刻まれていたのは、円の中に一本の線が入ったマークだった。

 確かに、『通行止め』の道路標識に見えないこともない。

 だが、その場合は線が斜めになるはずだ。

 今までのマークの向きからして、この線は、斜めではなく縦。

 だとすると、これは――


「……これは、天気記号です」


 チェリーが言う。


「天気記号で、『晴れ』を意味します」


「……え」


「それって……」


 千鳥が、天初が息を飲む。

 氷室はたぶん、自分で気付いていたんだろう。


 ターゲットは、『晴れ』。

 もし予告文がなかったなら、単純に天気を変えるのかと考えたことだろう。

『天に百花が咲く頃に』は、おそらく明日の学園祭の締めくくりに上がる花火のことを意味している。その瞬間に『晴れ』を盗むことができれば、なるほど、これは虚面伯らしい劇場型犯罪と言える。

 しかし、違う。

 違うとわかる。

 この予告文と合わせて考えれば、この『晴れ』が示すのは――


「――次の虚面伯のターゲットは――」


 ついにチェリーは、タブーに触れる。

 今まで、配信上では触れてこなかった。

 だが、虚面伯が――そして、その共犯者たる雨矢鳥が求めている。


 蓋を取れ。

 真実を明かせ。


 ――謎を暴け、と。


「――次に盗まれるのは、晴屋京さんです」


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、流石にこれはチートすぎないか? というか勝手に自分の身体を触られる女性が多いだろうからいくら自由が売りのゲームでも批判待った無しだと思う…… 裁判になったらいくら賠償金払う事に成るんだ…
[一言] 盗んだアバターで走り出す~♪ ケージのアバターがめちゃくちゃなステ振りされて、スピード剣士廃業になるとか。。。は流石にないか。
[一言] 本当に負け続きだな。こんなの最後に勝って解決しても実質負けだろ。 モヤモヤが残るだけ。
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