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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
4th Quest - 最強カップルのVR学園生活
239/262

第234話 カップルで恋愛運を占う奴らはただ惚気の材料が欲しいだけ(偏見)


『百空学園学園祭、これより開幕です!!』


 無数の拍手が響き渡り、解放された校門に大勢の人間が雪崩れ込んでいく。

 すると、待ち構えていた出店の店員が一斉に声を張り上げ、客の呼び込みを始めた。

 クレープ、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、わたあめ――まあ一般的な祭りの出店だが、入場客は面白いように店に吸い寄せられていく。

 それを校舎の中から見下ろしていた俺は、隣のチェリーに問いかけた。


「どうする? なんか食うか?」


「んー、そうですねー……。わたあめなんて久しく食べてないかもですね」


「はいはーい! ミミはたこ焼き食べたい! たこ焼き!」


 ぴょんぴょんとジャンプし、ぶるんぶるんとこれ見よがしに胸を揺らすUO姫を、チェリーがうざったそうな目で見た。


「なんで一緒に回る流れになってるんですか。イベントに呼ばれてるんじゃなかったんですか?」


「ちょっとだけ時間あるも~ん」


「というか、たこ焼きなんて別に好きじゃないでしょう」


「だってさ~、たこ焼きってさ~、ふーふーって冷ますとことか、はふはふって頬張るとことか、なんかエロくない?」


「どんなフェチですか! あなただけですよ、そんなの!」


 ……いや、ごめん。正直ちょっとわかる。


「とにかく! 先輩は私と一緒に学園祭回るって約束してるんですから、さっさと消えてください! しっしっ!」


「へえ~? 学園祭デートだ?」


 ニヤニヤと言うUO姫に、チェリーは「んぐっ」と声を詰まらせる。

 まったく、いつになっても慣れない奴だ。ここは俺がビシッと『デートじゃねえよ』と否定して――


「……そう、ですよ」


 ――やろうと思ったら。

 チェリーがぐいっと俺の腕を引っ張って、自分の腕を絡めた。


「これからデートなんです。だから、お邪魔虫は消えてもらえますか?」


「えっ」

「おっ?」


 俺は当惑して、UO姫は意外そうに、チェリーの顔を見る。

 その顔は平静なものだったが、一方で俺に絡めた腕には、必要以上の力が籠もっていた。


「……へえ~」


 UO姫は面白いものを見る目をして、唇に軽く指を触れさせた。


「そっかぁ。デートかぁ。だったらミミも引き下がらざるを得ないけどぉ……それって本当かなぁ?」


「本当ですよ。ね、先輩?」


「お……おお」


 圧のある目で見上げられたので、俺はそう答えるしかなかった。

 これは、あれだ。UO姫を追っ払うための方便だ。そうに違いない。


「じゃあ説明してよ。今日はどういうデートプランなのかにゃ?」


 ことりと小首を傾げて、UO姫は言った。


「もちろん考えてるでしょ~? 年に一度の大イベントだもんねぇ?」


「と、当然ですよ! 詰め将棋並みの精密なプランを組んでありますよ!」


「ふう~ん。じゃあこの後は?」


「えーっと……適当に食べ歩きつつ、各地のイベントを回ります」


「その後は?」


「……こ、今夜の虚面伯配信があるので、それに出ます」


「うんうん。じゃあその後は?」


「その頃にはもう夜遅いじゃないですか!」


「ええ~? それだけ~? せっかくのデートなのに、食べ歩いて終わりぃ? MAOだしホテルとまでは言わないけど、普通はキスのひとつもするもんじゃないの~?」


「うぐっ……!」


 マズい! チェリーには煽り耐性がない!


「するよね~、キスくらい! 二人っきりでデートする仲だもんねぇ? それはそれはディープでラブラブなやつをしちゃうよね~?」


「おい……! チェリー、乗せられ――」


「当然です!!」


 あ。


「やりますよ! 当然ですよ! 挨拶みたいなものですからそんなの!」


「にゅふふ。言ったね? 言質取ったよ?」


 あーあ……。

 楽しげに笑うUO姫を見て、チェリーは束の間、ぐむむと悔しげに唇を引き結ぶも、すぐに不敵な笑みを顔面に張りつけた。


「ええ。どうぞどうぞ取ってください? 私と先輩にとって、キスくらいなんでもありませんから。日常茶飯事ですから。毎日のようにやってることですから」


「へえ~、毎日のように?」


「それはもう。朝起きるときに夜寝るとき、食後にも必ずね!」


 薬かよ。


「(おい! そんなこと言っていいのかよ!)」


 俺が小声で突っ込むと、チェリーはふんと鼻を鳴らして、


「(どうせ確認なんかできないんですからいいんですよ! とにかく今、この女を追っ払うことが重要です!)」


 本当かぁ?

 俺にはどうも、嫌な予感がするんだけど――


「それじゃあ仕方ないなあ。今は退散しよっかな~」


 俺の予感とは裏腹に、UO姫はそう言って小さな背中を向けた。

 チェリーの判断が正しかったのか……?

 と思いきや、UO姫は肩越しに振り返り、にやりと唇を歪める。


「それじゃあ夜、また遊びに来るね?」


「「は?」」


「ケージ君とチェリーちゃんのディープキス、絶対に見たいもん。日常茶飯事なんだから別にいいよねー?」


 ……マジかこいつ。

 イベントだのなんだので忙しいくせに、そのためだけに俺たちんところに来る気かよ。


「それじゃあね! 学園祭、楽しんでね~!」


 明るくそう言って、UO姫はてこてこと去っていった。

 ……………………。

 取り残された俺たちは、祭りの喧騒を遠くに聞きながら立ち尽くす。


 キス……はともかく、ディープって。

 それって、アレだろ? こう、舌をお互いの口に突っ込んで……。


「……………………」


 ちらりと隣を見ると、チェリーが軽く、自分の唇に指を触れさせていた。

 それから――

 ちろっと、わずかに、赤い舌を出す。


「……っ!」


 瞬間、顔に火がついたようになった。

 唾液に濡れた、あの赤く小さな舌に、視覚のすべてが吸いつけられて――


「あっ」


 チェリーは俺に視線に気づき、ハッとこちらを見上げた。


「な……何、見てるんですか」


「……いや、べつに?」


「べつにじゃないでしょう?」


「べつに」


 努めてぶっきらぼうに言うと、チェリーは目を泳がせる。


「……期待、しないでくださいよ」


「してないっつの」


「そっちじゃなくて、……いえ、やっぱいいです!」


「は?」


 絡めた腕をほどいて、チェリーはすたすたと歩き始める。

 そっちじゃないって、何が――


「……初めては、誰だって下手なんですからね」


 小さく呟いた声を聞いて、俺はすべてを理解した。

 ……乗せられてんじゃねえよ。本当に。






「あむっ」


 ふわふわの白いわたあめを、チェリーが小さく口を開けて噛りつく。

 雑踏を歩きながら、ぺろりと舌で唇を舐め取り、


「……先輩、わたあめって食べた気しませんよね」


「お前が食いたいって言ったんだろ」


「ただでさえ口の中で一瞬で消えるのに、VRだとなおさら感触が……」


「そんなもんか?」


「あっ」


 気になって、チェリーが持つわたあめをぱくりと一口。

 一瞬、砂糖の味が口の中に広げるも、本当に一瞬ですべて消える……。


「ん~……」


 味の残滓を求めて唇を舐めるも、あんまり味がしない。


「……確かに……」


「でしょう? これじゃあ食べてる私がちょっと可愛いだけですね」


「その発言で可愛くなくなったが?」


「本当ですか?」


 チェリーはわたあめで口元を隠し、上目遣いで俺を見上げる。

 ……いや、それは、お前さあ……。わたあめがどうこうっていうより、ただ単にお前が――

 俺は表情を変えないようにした。からかわれるような隙は、極力見せるべきじゃない。


「……あー、あっちでなんかやってるな。見に行こうぜ」


「ふふっ。今は乗ってあげましょう、そのへたっくそな話題転換」


 うるせえ。


 人波の流れに乗っていくと、校舎の中に入った。

 校舎内も外と同じく、あえて手作り感の溢れる飾りつけがされている。教室がそれぞれブースになっていて、企業が手掛けているものもあれば、百空学園の生徒が運営しているものもあるようだ。


「どこもかしこも行列だな……」


「あそこの列ってメイド喫茶ですか? うわー、学園祭のメイド喫茶! リアルで初めて見た!」


「リアルじゃねえけどな」


『本格JKメイド喫茶』と看板がかかっている。

 本格っつーのは、たぶん、メイド設定の学園生がやってるからなんだろう。

 俺たちが配信で関わった学園生はみんな割と真っ当に高校生だが、中にはメイドとか、魔法使いとか、悪魔とか、ロリババアとか、宇宙人とか、とんでもねえ設定がプラスされている奴もいるのだ。大昔のギャルゲーみたいだよな。


「行きますか? 先輩、どうせリアルでメイド喫茶なんて入れないでしょう?」


「入ろうとも思わねえよ。列長いからやだ」


「仕方ないですねえ。じゃあメイド服は今度私が着てあげるとしてー……」


「んな気の遣い方いらん!」


「あそこ行きましょうよ。比較的、列も短そうですよ」


 確かに、チェリーが指差したブースは、他に比べて並んでいる人間が少なかった。って言っても、普通に6~7人は並んでるんだが。


「なんだ、あそこ? ……占いの館?」


「ふふ。デートっぽくありません?」


「うえー……『私たちの恋愛運占ってください♪』って言いに行く気か? お前……」


「ガチのドン引きやめてくださいよ! いいじゃないですか。滅多にない経験でしょう?」


「悪い結果だったらどうすんの? 無駄に気まずくなりたくねえんだけど」


「運命は自分で切り開くものですよ、先輩」


「だったら占ってもらう意味ねえだろ!」


 まあまあまあ、とゴリ押しで列に並ばされる俺。

 Vtuberのイベントだってことで、ほとんどが男なのかなと思っていたが、入場客は意外にも男女半々くらいだ。中にはカップルらしき奴もいる。

 この辺り、MAOのコアプレイヤーとの層の違いを感じるんだよな。連中は基本的にむさ苦しいし、ろねりあみたいな女子がいてもあまり近付こうとしない。そういうところが安心できる部分でもあるんだが。


 しばらく列に並び、前の奴らが紫色のカーテンに飲み込まれていくのを眺める。


「これ、中に学園生がいるんだろ? あんな暗い部屋で一般の人間と二人きりにしていいのかよ」


「まあMAOの中ですし、滅多なことはできませんよ。そもそも女性とも限りませんし」


「いやー、占い師って言ったら大体女だろー」


 などと話していると、ほどなくして俺たちの番が来た。

 紫色のカーテンを抜けて、薄暗く、狭苦しい部屋に入る。

 部屋の中には、お香を焚いているのか、薄っすらとした煙が揺蕩っている。中央に丸いテーブルが一つあり、その上には綺麗な水晶玉があった。

 その奥に座るのは、紫色のヴェールを被った一人の人間――

 いかにもな雰囲気だな。

 占いの館なんて入ったことないから、ちょっと緊張する。


 俺とチェリーがそれぞれ椅子に座ると、ヴェールの向こうから鋭い眼光が俺たちを射た。


「――フゥン」


 ん?

 鼻を鳴らす音。……なんだけど。

 何、その渋いバリトンボイス。


「可愛らしいカップルが来たじゃあねぇの。言ってみな。何を占ってほしい?」


 そう言って、占い師はヴェールの中でタバコを咥え、ライターで火をつけた。

 ふうー……と吐き出された紫煙が、部屋の天井辺りに揺蕩う。


 ……男じゃねえか!!

 煙もお香じゃなくてタバコだし!


 男占い師は水晶玉を乗せたテーブルで頬杖を突き、シニカルに唇を歪めた。よく見るとその口元には無精ひげが生えている。


「王道の恋愛運かい? それとも金運か。子供ができるかどうかでもいいぜ? 俺は手広くやってるんでな」


 むやみにハードボイルドな雰囲気を纏った占い師に、俺もチェリーも圧倒される。

 いや、っつーか、その雰囲気で高校生は無理があるだろ。教師側なのか? いや学校に占い師って役職ねえだろ。

 突っ込みどころが渋滞していたが、どうにかチェリーが口を開く。


「そ、それじゃあ……恋愛運で」


「オーケイ。いいねぇ、若いってのは」


 あんたも高校生設定じゃねえのかよ。

 ハードボイルド占い師は、水晶玉を片手でむんずと掴むと、顔の前までひょいと持ち上げ、まるで宝石のように覗き込んだ。水晶玉ってそう見るもんなの?


「フゥン……なるほどねぇ……」


 数秒そうすると、男占い師は水晶玉をぽすっとクッションに戻す。

 あれ? 終わり?


「結論から言や、相性は良すぎるくらいだな」


 渋いバリトンボイスがそう言った瞬間、にわかに全身が緊張した。


「へえ~……良すぎるくらいなんですか~……。ふう~ん……。ですって、先輩」


「……どう返せばいいんだよ……」


「お好きにどうぞ~? 私はべつに? どっちでもよかったんですけど~」


 と言いながら、チェリーはゆらゆら左右に揺れる。

 ……ますますどうリアクションを取ればいいのかわからない。

 と、ふわふわした雰囲気になった俺たちに、


「だが」


 と、占い師のバリトンボイスが割り込んだ。


「それは諸刃の剣だ――運命と呼べるほどに相性のいい二人は、だからこそ、うまくいかなかったときの反動が大きい。二度と恋ができなくなるほどにな……」


「えっ? ……あ、相性がいいっていうのは、うまくいくって意味じゃないんですか?」


「いろいろあるのさ、男と女にはな……」


 そのいろいろを訊いてんだよ!


「俺から言えることは、互いを大切にしろっていう、月並みなお説教だけさ……。特に、愛情を誤魔化すのは程々にしておくんだな。意地は人生に指針を与えてくれるが、前に進めてはくれない……」


 こんなに渋い声で言われたら、何でも説得力ありげに聞こえる……。

 愛情を誤魔化す……ねぇ。

 ちらりと隣を見ると、チェリーは膝の上でぎゅっと拳を握り、真剣な目で占い師を見ていた。


「とはいえ、今を楽しむのが若者の仕事だ。年寄りの小言になんか、耳を貸すんじゃねぇぜ?」


 じゃあなんなんだよこの空間とこの時間は。


 釈然としないまま、俺たちは占いの館を出た。

 他の教室より列が短い理由がわかった気がするし、列の人数がずっと変わらない理由もわかった気がした。コアなファン多そうだなー、あの占い師……。


「役に立ったかはともかく、面白くはあったな。……チェリー?」


 返事が来ないのに気付いて、俺は頭一つ分背の低い後輩を見下ろした。

 考え込むように俯いていたチェリーは、「あっ」と顔を上げて、


「すみません。……ちょっと、考えてしまって」


「何を?」


「……このままでいられるのは、いつまでなんだろうなって」


 チェリーは人がひしめく廊下の先を、茫洋とした瞳で見やる。


「高校を卒業したら……大学を卒業したら……それに、もし、MAOが終わるときが来たら。そのとき、私はどうするんだろうな、って……」


 ……MAOが終わるとき、か。

 あまり考えたくはないが、ゲームである以上、そのときはいつか来る。

 そうなれば、俺とチェリーの接点はなくなる。

 ああ、わかってる。もはやその程度じゃない。ゲームだけの繋がりじゃない。

 それでも――俺たちを繋いでいる最も太い絆が、そのとき、途切れてしまうのは確かなのだ。


「先輩は、どうしますか? もし、MAOが終わったら――」


 俺は少し考えた。

 答えはすぐに出た。


「別のゲームを遊ぶよ」


「……そうですか」


「で、お前にそのゲームを教える」


 チェリーは俯けかけていた顔を上げて、俺の顔を見上げた。

 俺はほのかに唇を歪める。


「ダメか?」


「……いえ」


 ふるふると首を振って、チェリーもほのかに笑った。


「先輩は、ゲームを見る目だけは確かですからね」


「他を見る目は確かじゃないみたいに言うなよ」


「ああ、そうですね。年下の女の子を見る目も確かです」


「限定的!」


 くすくすと肩を揺らして、チェリーは俺の腕を取った。


「次はどこ行きますか? 先輩!」


 チェリーに引っ張られていきながら、俺には頭の端で考えていることがあった。

 俺とチェリーが、MAOで繋がっているように――百空学園の奴らも、Vtuberという在り方で繋がっている。


 いつも仲良さげな氷室白瀬と千鳥・ヒューミット。

 天初百花や雨矢鳥フランたち生徒会。

 そして――晴屋京。


 彼らは。

 彼女らは。


 Vtuberじゃなくなったら――どうなるんだろう?


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[良い点] 相変わらず意味深な発言が死ぬ程上手いですね いっつも読み終わったら更新はよとか思ってる気がしますw
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