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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
4th Quest - 最強カップルのVR学園生活
238/262

第233話 背中が示す隠し場所


「まあ、何はともあれ、トリックからですよね」


 隠し扉から外に出ると、チェリーは黒縁の眼鏡をくいっと上げながら言った。


「虚面伯が《アルタード・ラットマン》の群れを統率し、《万獣のタクト》を鳥籠から取り出した方法……それを説明しないことには、共犯者の正体も何もないと思いますし」


「その口振りから言うと、昨日にはもうわかってたんじゃないの~? 探偵役が板に付いちゃってまあ」


 にひひ、と笑うUO姫は、フリルを付けてロリィタ風に改造したセーラー服を着て、いつもはボブカットの髪をツインテールにしていた。

 今はチェリーがいつものツーサイドアップをやめ、二つ縛りのお下げにしているから、これ幸いと髪型をパクったんだろう。

 チェリーもUO姫も顔を知られているから、変装しておこうという話になった結果だ。俺も帽子を被って、顔が見えにくいようにしている。


「チェリーちゃん、思った以上に似合うよね~、探偵役」


「珍しいじゃないですか。あなたが私を素直に褒めるなんて」


「性格悪そーなところがピッタリ♪」


「いつも通りでした」


 通りを行き交う雑踏に紛れつつ、俺は呆れながら女二人を振り返る。


「じゃれ合いは程々にして、本題に戻れよ。虚面伯はどうやってタクトを盗んだんだ?」


「普通ですよ。鍵で鳥籠を開けたんです」


「鍵? 鍵は犬飼れおなが持ってログアウトしちまってただろ。どうやって盗んだっていうんだ?」


「それは配信に取っておきましょうか。代わりにヒントをあげましょう」


 ふふん、と得意げに笑いながら、チェリーは人差し指を立てた。


「鍵を盗んだのは、私たちに紛れ込んだ共犯者です。そして、共犯者が犬飼さんから鍵を盗み出す機会が、一度だけありました」


「鍵を盗み出す機会……?」


 犬飼がログアウトしていた間は、どうやっても盗み出せない。

 一応、例外がひとつだけあって、鍵の所有権ログに名前があれば《奪還》スキルで盗むことができる。

 その他にも、確か鍵をドロップするとひとりでに戻ってくる魔法がかかってるんだっけ……? それを使って何とか……うーん。


「あー、なるほどねー。わかったわかった」


 うんうんと肯きながら、UO姫が言った。

 俺は呆れた目を向ける。


「本当かよ……」


「ほんとほんと! まあケージ君にはちょっと難しいかな? 未だに誉め言葉一個も出てこないし」


「は?」


「うわ。本当にわかってるじゃないですか、この女……」


「へへー♪」


 UO姫は照れ笑いしてみせてながら、嬉しそうに身体を傾ける。ツインテールがふりんと揺れた。

 誉め言葉……? まったく意味がわからん。


「……まあ、とにかく、鍵を盗んだと仮定して話を進めます」


 眼鏡の位置を直して、チェリーは続ける。


「結論から言うと、タクトが鳥籠から取り出されたのは予告時間より前です。具体的にいつだったのかも大体わかっています」


「マジかよ。いつだ?」


「鳥籠に鍵をかけた後、二人で千鳥さんに話を聞きに行きましたよね、先輩?」


「ああ」


「え? なにそれ。知らないんだけど!」


 ぷくっとあざとく頬を膨らませて、UO姫が俺たちの間に入ってくる。


「配信外で逢引ですかぁー? 炎上だ炎上!」


「聞きたいことがあっただけですよ。配信に載せるようなことでもありませんでしたし」


「それで? 千鳥に話を聞きに行ったのがなんだって?」


「少なくともそのときには、《万獣のタクト》は鳥籠の外に出ていたってことです」


「んん?」


 なんでそういうことになる?


「覚えてますかねー……あのとき、近くの檻にいた《ミュータント・ライガー》が、やけに興奮してガオガオ吠えてたんですけど」


「んんー……? 確かに、妙にうるさかったような気がするな……」


 ――今ちょうど、昼間に交尾してやがった《ミュータント・ライガー》が檻の中でガオガオ興奮気味に吠えているが、あいつが持っているのと同じスキルである


 ――《ミュータント・ライガー》の吠え声に紛れさせるように、千鳥は声を抑えて告げた


「……そうだ。確かになんか騒いでた」


「あれが何に反応して騒いでたのかって話ですよ」


「あー? 発情してたんじゃねえの? 昼に交尾してたし」


「ほほう。交尾……」


 約一人、性欲が強すぎる女が反応していたが無視して。


「ありえませんよ。犬飼さんが言ってたでしょう? 去勢してあるから発情しないって」


「あ、そうだ。言ってたわ」


「あれは《ミュータント・ライガー》が持つある特性の発露です」


「ある特性……?」


「ヒントはもう一個あります」


 歩きながら、チェリーはウインドウを開く。

 ウインドウに映されているのは、どうやら動画――昨日の配信のアーカイブのようだ。


「昨夜、見つけたんですけどね。《アルタード・ラットマン》が先輩に一斉に敵意を見せたとき、1体だけ、背中を見せているんです。別の何かに気を取られているように」


「別の何か……? って言うと、位置的に……」


「鳥籠の中の、《万獣のタクト》だねー」


 UO姫が言った。

 そう。俺に背を向けているということは、鳥籠の方向を見ているということだ。


「さて問題。《ミュータント・ライガー》と《アルタード・ラットマン》の共通点は?」


 そう言われて、すぐに思い至った。


「――《拾い物》か!」


「そうです。ドロップ状態のアイテムを拾って、専用のインベントリに仕舞ってしまうスキル」


 犬飼が交尾中のライガーのそばに適当な鉱石を放り投げて遊んでいたのを思い出す。

《拾い物》が発動している?

 そして、ラットマンは鳥籠の中を見ている……。


「鳥籠の中のタクトが、ドロップ状態だった……」


「ふふ。ここまで言えばわかりますよね?」


 ついに霧切響子みたいなこと言い出したなコイツ。

 だが……確かに、わかった。


「鳥籠の中にあったタクトは……偽物だったんだな?」


「ええー! なんでなんで? なんでそうなるのぉ~?」


 UO姫が急にキャバクラの女みたいになった。

 イラッとしたが、相手にしてたら日が暮れる。


「ドロップ状態になると、時間経過に応じて耐久値が減っていく。だから本物のタクトがドロップ状態で鳥籠の中に置いてあるなんてことはありえない。それに、本物のタクトがドロップ状態だったら、普段からラットマンやライガーがうるさくてしょうがねえじゃん。ってことは、偽物にすり替えられてるってことだろ?」


「そうです。そしてそれは、ミュータント・ライガーが反応していた時間より前のこと……」


「そのときから偽物にすり替わって、しかもドロップ状態で放置されていた……。って考えると、そうか、あのとき、俺たちの目の前でタクトが消えたのも……!」


 耐久値の全損。

 虚面伯のマントが鳥籠を隠したその瞬間、偽物のタクトの耐久値がゼロになった。だから、忽然と消えたように見えた……!


「それと同時に、隠しておいた本物のタクトを取り出したってわけですね。そうして、今まさに盗み出したかのように見せかけたんです」


「あれれ~? おかしいぞぉ~?」


 UO姫がウザい疑問の呈し方をした。


「鳥籠の周りには《ロンリー・ラビット》がいたんだよねぇ? だったら本物のタクトはその近くにあったってことなんじゃないのぉ? あの広場から持ち出したら鳴き出す仕掛けだったんだよねぇ?」


「そうですよ。だから本物のタクトは、予告時間まであの広場に隠してあったんです」


「どこにぃ? そんな場所あったぁ~?」


「いちいちイラつきますね……。隠し場所の手掛かりは、もう言いましたよ。犯人の手順を考えたら自然と違和感が浮き彫りになるはずです」


 まず、とチェリーは指を立て、


「共犯者が広場に入り、鍵を使って鳥籠から本物のタクトを取り出します。共犯者は学園生なので、アルタード・ラットマンが騒ぎ出すことはありません」


「だよな。あの数のラットマンが騒いでたら、さすがに離れてても気付くし」


「はい。で、取り出したタクトを使い、ラットマンに命令を下します。『虚面伯が来たら道を開けるように』――そして、『すり替えた偽物のタクトを拾おうとしないように』」


「あ、なるほど……。《拾い物》スキルを封じておかないと、タクトが偽物なのがバレバレになる――ん?」


 おかしい。

 そうか、おかしいんだ。


「だったら、一匹だけ鳥籠を見てたラットマンはなんなんだ? 《拾い物》は封じてあるはずなのに――」


「封じるわけにはいかなかったんですよ、その一匹だけは」


「……ああ~、なるほどぉ。うまいこと考えるなぁ~」


 普通に感心するUO姫と同様に、俺も得心していた。


「それが隠し場所か――共犯者はラットマンに命令を出した後、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが背中を向けていた一匹……」


「《拾い物》では所有権の移行は起こりませんから、持ち主である犬飼さんも気付けません。あとは、偽物の耐久値全損の瞬間に合わせてマントで鳥籠を隠し、同時に、そこに私たちの視線を集めつつ、《窃盗》スキルでラットマンから本物を取り返した――以上が、《万獣のタクト》を盗み出した手順です」


 説明されればなんてことはない。

 だが、モンスターの習性をこんな風に利用するプレイヤーを、俺は他には知らなかった。

 きっと誰にとってもそうだろう。

 ゆえにこそ、虚面伯にとっては容易に突ける死角だったのだ――


「初日の事件は物理的なトリックだったけど、今回はMAOならではのトリックだな。よくもまあ、こんなことを思いつく……」


「解決篇は今夜やりましょう。……共犯者の正体のことも含めて」


「勿体ぶるなよ。誰なんだ?」


「一応は配信なんですから、瑞々しい反応が重要でしょう? それに……信用できない奴がいますしね」


 そう言ってチェリーがじろりと視線をやったのはUO姫だった。

 UO姫は意味深に微笑んで、


「気にしなくてもいいのに。ミミは部外者だよ?」


「……どうだか。私たちを紹介したのはあなたでしょう?」


「知ってる中で一番適役だっただけだよぉ~」


 怪しいくらいニコニコと笑うUO姫だったが、こいつは普段から怪しいので、俺からは何とも言えなかった。


今回書いてて伏線(ドロップ状態になると耐久値が減るという情報)の張り忘れに気付いたので書き足しました。

改稿ログを見ればどの話数に足したのかわかると思います。

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[良い点] いつも楽しく読ませてもらってます [気になる点] ゲーム内でミステリーやられても… [一言] 早くミステリー終わらせて次の章へお願いします
[一言] へっぽこ探偵な私には何が何やら…… 今出されてる書籍全部買いました、たぶん
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