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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
4th Quest - 最強カップルのVR学園生活

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第229話 間接目撃者の証言


 犬飼れおなは結局戻ってこなかった。

 どうやら予告時間が迫ってきたら通話で参加するつもりのようだ。

 同接数万人規模で、自分のホームグラウンドが舞台の配信で、自ら姿を消すって普通におかしいんだよな。チャンスじゃねえのかよ、配信者として。

 百空学園の奴らは、やっぱりどいつもどこかおかしい。


 予告時間には少し間があるため、配信は小休止となった。

 氷室白瀬だけは配信をつけっぱなしにして、事前に現場を検証するつもりのようである。

 昼にも検証配信をしていたのに、本番前に休憩しなくていいのかと心配するところだが――聞いた話だと、氷室は百空学園でも屈指の長時間配信者らしい。毎日12時間配信してたこともあったんだと。ひええ……。


 セツナなんかもそのケがあるが、こいつらはもう、配信で自分を電波に乗せることが自然になっちまってるんだろうな。

 俺たちが朝起き、着替え、歯磨きをするってのと同じくらいに、配信することが身に沁みついているのだ。

 俺なんか、30分も喋ったらへとへとになっちまうんだけどな……。どうやったら12時間も喋り続けられるんだか……。


 他の面子はというと、天初はやはり何か打ち合わせがあるとのことでいったん席を外した。

 雨矢鳥は、何か預けてあるものがあって、それを回収しに行ったらしい。

 そして千鳥・ヒューミットは――


「……あっ、いましたよ、先輩。千鳥さんです。ベンチでSNS見てますね」


「よし、行け!」


「自分で話しかけるつもりはないんですか、自分で」


「馬鹿野郎。あんなギャルに話しかけたらどうなるかわかったもんじゃねえぞ」


「なんなんですか、そのギャルへの警戒心は……」


「俺は知ってるんだ。ひとたびギャルに近付けば、奴らは無防備に胸元をチラつかせたりしてこっちをからかってくるんだ。奴らはオタクのなけなしのプライドをへし折ることが何よりも得意なんだ」


「普通に漫画の読みすぎで気持ち悪いですよ、先輩。まったく……」


 チェリーは溜め息をつきながら、俺のカッターシャツの襟元に指を引っかけ、くいくいと下に引っ張った。

 ん? と顔を下に向けたそのとき、


「ちらっ」


「ッ!?」


 チェリーが、セーラー服の襟元を軽く引っ張って、意外と膨らんだ胸元をチラ見せしてきたのだった。

 チェリーはすぐに襟元をかき寄せて、上目遣いに俺を見つめながらにやにや笑う。


「これは別に、ギャルの専売特許じゃないですよ?」


「…………ギャルと姫の得意技なんだよ…………」


「誰が姫ですか。いいですか、先輩。姫っていうのはですね――」


 また襟元に指を引っかけられた。

 と思うと、ぐいっと下に引っ張られ。

 俺の腰が曲がると同時に、チェリーも背伸びをして。

 耳元に口を寄せて、囁いたのだ。


「(二人っきりになったら、全部見せてあげますね……♪)」


 耳から入り込んだ甘い声が、一気に脳髄を痺れさせる。

 思考が吹き飛んだ俺を置いて、チェリーはかかとを地面に下ろし、くすりと笑いながら俺の瞳を見上げた。


「――こういうのを言うんですよ。わかりました?」


 俺はひたすら目を逸らし、口元を掴むようにして表情を隠しつつ、


「……なんでできるんだよ……」


「そりゃあ、本物を目の前で見たことがありますからね。引っかからないでくださいよ?」


「引っかかるか。こちとらあのUO姫と戦ってんだぞ」


「へえ~? じゃあ今、なんで目を逸らしてるんですか?」


「そ、れ、は~……」


「なんでですかあ、先輩? 百戦錬磨のはずなのに、どうして私の姫ムーブにだけ顔真っ赤なんですかあ~?」


「うっ、うるせえなあ~……っ! いつまでも駄弁ってねえで、さっさと――」


 瞬間だった。

 少し遠くで、魔物園のベンチに座り、アプリウインドウをいじっていたはずの千鳥・ヒューミットと――目が合った。

 金髪ギャルはによによと目を細めて笑っていた。


「……あ……」


 チェリーも遅れてそれに気付くと、見る見る耳を赤くする。

 MAOのアバターのメンタル反映性能はすげえなあ、と逃避気味に思った。


 チェリーは自分の耳を隠すようにぎゅっと押さえつけて、数秒、地面を見る。

 手を離したときには、耳の色はすっかり元に戻っていた。

 それから、しずしずと優雅な足取りでベンチに座る千鳥に近付き、にこやかに言うのだった。


「お疲れ様です、千鳥さん。少々お話よろしいでしょうか?」


「めっちゃなかったことにするじゃん!」


 千鳥は膝を叩いて爆笑するが、さすがはチェリー、動じない。


「少しお聞きしたいことがあるんです。できれば配信外、誰も聞いていないうちに」


「え~? なになに? あたし身持ち固いタイプのギャルだから、カップルの夜の相談にはお答えしかねるんですけど~?」


「ばッ……違いますよ! 私と先輩はそんな関係じゃありませんから!」


「あたし的にはむしろやりまくりであってほしい。二人きりのときはドロ甘であってほしい。ねえケージ君、その辺どうなん?」


「ほんとやめてください、誤解を広めるのは! 先輩が実は結構甘えたがりなのは事実ですけど!」


「誤解を広めてんのはお前だ!」


 たまに猫みたいに甘えてくることがあるのは自分の話だろうが!

 千鳥は腹を抱えてけらけら笑いつつ、


「いやー、ほんといいわー。この恋愛解釈以外受け付けない感じ! 遠慮なく頭ん中でイチャつかせられるわー」


「私たち的には解釈違いなんですけど?」


「いつか歌ってみた出してよ。バチバチのラブソングデュエットしてよ」


「出しません!」


 と、きっぱりチェリーは言うが、そういや昔、カラオケに半ば無理やり連れ込まれたとき、なんか古いデュエット曲――『三年目の浮気』だっけ?――一緒に歌わされたりしたよなー、と思い出す俺。


「あはははは! はーあ……――で、なんだっけー? 話? なにー? 誰にも聞かれちゃダメなんだっけ? ……あ。もしかして犯人? あたしを新しい共犯者にするつもりだったりして?」


「違います。虚面伯とは別件で……」


 チェリーは千鳥に顔を寄せると、他の誰にも聞こえないよう囁いた。


「――1年ほど前の……天初百花さんが、晴屋京さんにキルされた事件について」


 千鳥はぱちくりと目を瞬いた。


「え? え? ……それ、なんで知ってんの?」


「申し訳ありませんが、情報元は明かせません」


 唇の前に人差し指を立てて、チェリーは言った。

《杞憂の民》のことは話さない。連中とはそういう約束だ。

 千鳥はかすかに目を細めた。


「あたしに訊くってことは……あの配信を見たってことじゃんね?」


「そういうことになります」


「なんでそんなこと訊いてくんの? 好奇心ってやつ? だったらごめん、答えらんないけど」


「そうですね……。先ほどは別件と言いましたが、私はこの件、今回の虚面伯の事件とあながち無関係ではないと思っています」


「え? どゆこと?」


「共犯者ですよ。私たちの中に虚面伯の共犯者がいることは、もうご存知ですよね? その動機が不明なんです――もしかしたら、何か隠れた事情があるのではないかと」


「あー……確かにね……」


 千鳥はばつ悪げに顔を逸らしつつ、


「実はそれ、あたしらの中でもビッミョーな話でさあ……配信の一環で虚面伯に協力してるっていうんなら、絶対にスタッフには話を通してるはずなんだよね。あたしらに正体隠すのはわかるよ? でも、フツーに考えたら、スタッフを通じて、アイテム狙われる会長やれおなちゃんには話を通しておくはずじゃん」


「それがなかった、と?」


「そ! 予告状は本当に突然来た。スタッフも誰も許可を出してない。ま、これがリアルなら通報案件だけど、ゲームのことだからさ――みんな面白がって企画にしちゃったけど、まさかあたしらの中に犯人側の奴がいるとは思わないじゃん? ビビったよね。誰にも何も言わないで、勝手に何かやってる奴がいる、って――あたしら一応、企業勢だからさあ。報連相っていうの? そういうの一切ナシで喧嘩吹っ掛けるなんて、基本有り得ないんだよね。ま、個人勢でも一緒だと思うけど」


 そりゃあそうだ。

 今回の虚面伯の配信は、言ってしまえばプロレスだ。コンセンサスの上での即興劇。配信の視聴者は、誰もが事前に話を通した上で行っているものと思っているだろう。


 だが、実際は違う。

 虚面伯の犯行を、誰も知らなかった。

 虚面伯の協力者を、本当に誰も知らない。

 誰にもわからないのだ。この配信が、この先どうなるのか。


 たとえどんなトラブルが起ころうとも、誰も止めることができないのだ。


「それって、アレじゃん。信頼を裏切るっていうかさ……。百空学園は100人以上いるけど、みんな仲間として、信頼し合ってやってきたから……何も話通さずに勝手なことやってる人がいるって、それだけで結構ショックなんだよね。おかげで今、実はビミョーにピリピリしてんの。リアル人狼状態」


 配信では表に出さないけどね、と千鳥。

 やはりプロだな、と俺は思う。俺は今の今まで、学園メンバーに緊張が走っているなんて気付きもしなかった。


「だから確かに、なんでそんなことすんのかなあ、とは思っちゃいたんだよねー……。チェリーちゃん的には、共犯者の動機? ってやつと、1年前の事件が関係してるって思ってんの?」


「断言はできませんが、何か私たちには見えていない事実が絡んでいそうに思うんです。1年前の事件が、その筆頭でしょう」


「ひっとう? うーん……よくわからんけど、わかった」


 どっちだよ。


「あたし、チェリーちゃん好きだし、話してもいいよ。これでチェリーちゃんが共犯者だったら人間不信になるけどねー」


「ありがとうございます。千鳥さんが人間不信にならないよう、全力を尽くします」


 からからと笑って、千鳥は話し始めた。


「って言っても、話せること大してないよ? あたしはキルログを見たってだけで、あのとき、晴天組に何があったのかはわかんない。アーカイブも会長にお願いされて消しただけだし」


「何か切っ掛けになりそうなことはなかったんですか? 二人が喧嘩していたとか……」


「そんなことはなかったかなあ。仲良しだったよ? その直前まで。ただ……」


「ただ?」


「……実は、その事件が起こったときにはさ、まだ、あたしらも知らなかったんだよね」


「知らなかった、ですか?」


「うん。京パイセンの卒業のこと」


 晴屋京の卒業――


「会社のほうには結構前から話してたみたいだからさ、会長と喧嘩したからってわけじゃないと思うけど……あたしたちの中では、ちょっと噂になったんだよね。その事件のときに、卒業のことを打ち明けたんじゃないかな、って」


「ふむ……。パートナーがいなくなるわけですから、真っ先に天初さんに伝えただろうことは、想像に難くないですね……」


「でしょ? 先に伝えられてなかったら、むしろ何? って感じじゃん? だから、卒業のことを話して、それで会長が怒って喧嘩になったんじゃないか、っていうのが、あたしたちの中での予想。ゲームは京パイセンのほうが上手かったしね」


「あの事件の真相を知る人間は、百空学園の中にもいないんですか?」


「あたしが知る限りはね。当時を知ってるメンバーの中では、なんとなく触れちゃいけないみたいな感じになってるしさあ。ホントのことを知ってるのは、たぶん会長と京パイセンだけなんじゃないかなあ……」


 当人たちしか知らない、か……。

 これはいよいよ、天初百花本人を問い詰めるしか仕様がないんじゃないか……?


「では、あの事件の前後で、何か変わったことがありませんでしたか? 特に天初さんや晴屋さんが関わっていることで」


「え~? 別に何もなかったけどな~。京パイセンはMAOにログインはしなくなったけど、他の配信はしてたし。会長は……ん~、みんなで地下迷宮の攻略配信をしたってくらい? あれは神配信だったな~」


「神配信? ですか?」


「そーそー! あたしも含めて何人か――20人くらいいたかな?――でレイド組んでさ、迷宮の一番下にいたボスと戦ったわけ。これが超強くて! 勝てるかどうかわかんなかったんだけど――あともうちょっとで倒せる! ってとこで衝撃の展開!」


「はあ」

「ふうん」


「なんと――そのボス、会長がテイムしちゃった」


「……は!?」

「んん!?」


 本当に衝撃の展開に、俺もチェリーも目を剥いた。

 て……テイムした?

 ダンジョンの大ボスを?


「そのボスがさあ、ボスのくせに《拾い物》を持ってて。会長が落としたポーションを拾い食いして、回復してさあ」


《拾い物》――モンスターがたまに持っているスキルで、ドロップ状態のアイテムを拾って固有のインベントリに収納してしまう習性だ。

 今ちょうど、昼間に交尾してやがった《ミュータント・ライガー》が檻の中でガオガオ興奮気味に吠えているが、あいつが持っているのと同じスキルである。

 確かに、ボスが持っている例もないではないが――


「何こいつやば、って思ったら、よくよく見るとテイム値が上がってんの。これ行けるくない? ってみんな思って、会長の指示で、討伐からテイムに目的が変わったんだよね。で、見事成功。今もここの地下で大人しくお座りしてるよ」


「初見のボスをテイムしたんですか……」


「ほんと持ってる(・・・・)んだな、配信者って……」


「会長はマジで、配信するために生まれてきたような人だよねー」


 嬉しそうにゆらゆら揺れながら、千鳥は言う。

 初見のボスをテイムなんて、他ではセローズ地方の牧場主――MAO最強のモンスターテイマーの一角に数えられる――くらいでしか聞いたことがねえ。


 ……そういえば、その牧場主の相棒も《チドリ》って名前だったっけなあ。よくある名前だし、ただの偶然だろうけど、副アカウントだったりしたら面白い。まあ副アカ作るなら名前変えるだろうけど。

 益体のないことを考える俺をよそに、千鳥・ヒューミットは言う。


「あの事件の前後で変わったことって言ったら、それくらいかな?」


「うーん……事件に関係するとは、あんまり思えませんけどね」


「ごめんねー。ほんとに何もなかったからさあ。他に何か関係ありそうなことって言うとー……――あ」


「どうかしました?」


「いやー……これは、どうかな……喋ったら共演NGにされそう……」


「関係なさそうでしたら、絶対に秘密にしますよ。誓約書を書いても構いません」


「そう? じゃあ約束破ったらケージ君とチューしてよ」


「人前でできるわけないじゃないですか……」


「お? ……つまり、人前以外ではしてる……?」


「……………………」


 チェリーは失言を誤魔化すようにすいーっと目を逸らした。

 千鳥がによによしながら俺に目を向けてきたので、俺もやっぱり目を逸らした。


「ししし! おっけーおっけー! じゃあ絶対に秘密ってことで――実はね」


《ミュータント・ライガー》の吠え声に紛れさせるように、千鳥は声を抑えて告げた。


「――事件のことを訊きに来た人、もう一人だけいるんだよね」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱いバトルも好きですが、こういったイチャラブ回も非常に楽しいです! [気になる点] 今さらですけど、時間軸としては3rd Questの後なんでしょうか?
[一言] 三年目の浮気を歌わされたって、MAO内でUO姫が絡んできた後なんだろうなあ…w
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