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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
4th Quest - 最強カップルのVR学園生活

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232/262

第227話 怒っているときでも客にはにこやかに対応できるタイプ


 犬飼れおなの『モンスターウォール』――

 その要諦はひとえに《万獣のタクト》の周囲に配置された、無数の《アルタード・ラットマン》にある。

 ラットマンとは、総じて身長80センチほどのネズミ人間である。中でも《アルタード》と名の付くこいつは、交配と飼育による改良――いわゆる『ブリーディング』が効果的な種族だ。

 犬飼れおなはレベル100オーバーの強力な《アルタード・ラットマン》を量産し、部隊を組織。壁として配置したのだ。


「昨夜は氷室さんの高い壁を飛び越えられたって聞きまして~。だったらこれなら! って思って~」


 ラットマン1匹でさえ充分に手を焼く強さ。ひとたびモンスターウォールに足を踏み入れれば、それが無数に襲いかかってくる。その威力(DPS)に耐えられる者は、フロンティアプレイヤーにだっていやしない。

 だったら、時計塔のときのように、空から降りてきて空に逃げれば?

 その疑問に、犬飼れおなはこう答える。


「空には《サウスドリーズ・ヴァルチャー》が20羽ほど巡回してますから、無許可で誰か飛んできたらすぐに食べちゃいますよ~♪」


 バクバク~♪ と可愛らしく犬飼は言ったが、上空を旋回する怪鳥たちはちっとも可愛らしくない。

 悪名高き《サウスドリーズ樹海》を縄張りとするハゲワシ(ヴァルチャー)たちは、群れれば中ボス級のモンスターさえエサにする獰猛なハンターである。

 それがコウモリのごとく徒党を組んで空を舞う様は、一度でもあの樹海を歩いたことのある人間なら冷や汗必至の悪夢的光景だ。


 となれば、侵入経路は地上しかない。

 しかし、何らかの方法でラットマンを排除し、《万獣のタクト》を収めた鳥カゴに辿り着いたとしても、それには厳重な鍵がかかっている。これは配信で全員が揃ってから施錠し、犬飼が鍵を肌身離さず持っておくつもりのようだ。


 それすらクリアして《万獣のタクト》が持ち出された場合にも、さらなる仕掛けが待っている。

 広場を囲う檻の中には、《ロンリー・ラビット》というウサギのモンスターが潜んでいる。コイツはテイムされると、主本人、または主が所有権を持つアイテムが一定範囲内にないと、寂しがって鳴き声を上げるという習性がある。

《万獣のタクト》が広場の外に持ち出されたり、《窃盗》スキルによって所有権を奪われたりすれば、コイツらの鳴き声がそれを俺たちに知らせてくれる――いわば警報装置というわけだ。

 ロンリー・ラビットのこの習性は、テイマーの指示によって抑え込むことができない。《万獣のタクト》を奪われ、使われたとしても無効化できないのである。


「厳重……というより、エグい仕掛けでしたね」


「それな」


 一通り『モンスターウォール』の説明を聞き、犬飼と別れた俺たちは、魔物園の中に設けられたカフェで意見を一致させた。


「うろ覚えだったので、アルタード・ラットマンの能力を調べ直したんですけど……高い近接攻撃力に加えて、《強奪》も《拾い物》も持ってるんですよ、こいつ」


「ムキムキパワーでぶん殴りながら、インベントリの中身も根こそぎ持っていく追い剥ぎ軍団だな。そのうえコイン1個落っことしただけですっ飛んでくる。絶対に敵に回したくねえ」


「怪盗の身包みを剥ごうとするとは、可愛らしい見た目してとんでもないことを考える人です。……とはいえ、明らかな穴もあります」


 チェリーは砂糖壺から掬った砂糖をさらさらと紅茶に入れながら、


「魔物園のモンスターたちは、学園メンバーを攻撃しないように躾けられています。つまり百空学園の誰かであれば、モンスターウォール内の鳥カゴにアクセスできます」


「鳥カゴに近づけても、鍵の問題はあるけどな。……いずれにせよ、ラットマンの群れをタダで抜けられるのは学園メンバーだけ。共犯者の出番ってわけだ」


「相互監視を徹底すべきですね。予告時間には容疑者を全員集めて、《万獣のタクト》から離しましょう」


「直接警護はなしってことか?」


「共犯者をターゲットに近付けるほうが危険です。学園メンバーさえ押さえておけば、戦力はアルタード・ラットマンだけで足りています」


「ふうむ……確かになあ」


 逆にアルタード・ラットマンが《万獣のタクト》で奪われるような事態になれば、俺たちがいたところで焼け石に水だ。虚面伯がそこまで暴力的な手段に訴えてくるとは思えないが……。


 俺はコーヒーに口をつけながら、魔物園の往来に目をやった。

 俺たちが陣取る2階のテラス席からは、魔物園を広く見渡すことができる。虚面伯の次の狙いがこの魔物園だと知れ渡ってきたのか、ずいぶんと人が増えてきたような気がした。


「こうなると、虚面伯が紛れ込むのは簡単でしょうね。何せあの変身魔法がありますから」


 チェリーはミルクティーを音もなく口に含む。その所作はどこぞの王族かと思うような優雅さだ。

 ところがテーブルの下では子供のように脚をぷらぷらさせている。さっきから爪先が俺の脛に当たっていた。


「他人に変身できる虚面伯に対して水際作戦は困難を極めます――もちろん《万獣のタクト》を守ることが最優先ですが、それが確実ではない以上、先のことも考えておく必要がありますね」


「先のこと? もし《万獣のタクト》を守れなかったら、って話か」


「百空学園最大のイベントである学園祭は、明日と明後日の2日間にわたって開かれます。生粋の劇場型である虚面伯が、この大舞台を逃すはずはない――」


「……今日を含めて、あと3回事件が起こるってのか?」


「はい。ならば、ちょうど半分に当たる今日の事件で、共犯者をあぶりださなければ勝負にならないでしょう」


 いつまでも共犯者に翻弄されてたら、本命の虚面伯に辿り着かない。

 明らかに共犯者が関わってくるであろう今日の事件で、確実に正体を掴んでおく必要がある、か……。


「私が気になるのは、共犯者の正体もそうですが、何よりその動機です」


「動機? そんなもん、誰にしたって配信者だろ? 虚面伯の劇場型犯罪に一枚噛めるなら、特に理由がなくたってやりそうだけどな。現実で犯罪を犯すわけでもねえんだから」


「どうでしょうね。ギリギリだと思いますよ? 学園の皆さんやそのファンの方たちにとって大事な品が盗まれているわけですから、それに学園の誰かが加担していたとなると、充分に炎上の要因になりますよ」


「炎上ねえ……。配信の低評価が増える程度のことを炎上と呼ぶならそうだろうな」


 別に法に触れているわけでもない。

 道義に反しているかといえばそうでもない。

 視聴者の不興を買ったってだけなら、それはただスベったってだけのことだろうに――大袈裟に言いすぎだと、俺は思うけどな。


「動機という話で言うと、虚面伯のほうも気になるんですよね……」


「あいつはただの愉快犯だろ?」


「本人が言うには、そのようですが。……知ってますか、先輩? 虚面伯はここのところ、活動をやめていたんです」


「……確かに、最近はとんと名前を聞かなかった気がするな……」


「ちょっと調べてみると、一番活動していたのはバージョン2の後半からバージョン3初期にかけて――ここ1年くらいは、疎らにしか姿を見せていないんですよね」


「それがどうして急に姿を現したのか、ってことか?」


「ええ。どうにも違和感があるんですよね……。私たちがまだ知らない事実が、隠れているような……」


 頬杖をついて「むう」と考え込むチェリーを見て、俺は思い出すことがあった。


「俺たちが知らない事実といえば、《杞憂の民》の連中の話はどうするんだ?」


「そうです。それもあるんですよねー。あーもう、先輩がラブ――個室喫茶なんかに行こうとしなければ……」


「いや、誘ったのはお前だろうが!」


「そんなはしたないことをするわけがないでしょう。清楚で通っているこの私が」


「歴史修正やめろや。2時間も大はしゃぎでグラビア撮影紛いのことをしてた奴が……」


「あっ……あれは先輩の趣味でしょーっ!?」


「いでっ!」


 テーブルの下で脛を蹴られた。その衝撃で、ソーサーに置いてあったティースプーンが床に落ちた。このやろ!

 しばらく蹴りを応酬していると、


「――あれ? ケーチェリじゃね?」

「え? おっ、マジだ!」


 カフェに入ってきた客が、俺たちを見て声を上げた。

 眉を吊り上げていたチェリーはくるりとにこやかな笑顔を浮かべて、手を振ってみせる。体面を取り繕うのが上手くて結構なことだな。


「とにかく……せ・ん・ぱ・い・の、弱味を握られている以上、無視するわけにはいきません」


 俺に責任をなすりつけつつも、チェリーはにっこりと笑顔を浮かべて、食べかけのケーキをフォークに刺して俺の口に突っ込んだ。

 声音と表情が噛み合ってない。怖い。そこまでしてファンサービスする必要あるか?


「そちらについても折を見て探りを入れていきましょう。なぜ晴屋京さんは天初さんを殺害したのか――天初さん本人に聞ければ楽ですが、まずは周りから攻めるべきでしょうね。具体的には――」


 俺はごくんとケーキを飲み込んで、


「――問題のキルログを目撃した、千鳥・ヒューミットか」


「ええ。今夜の配信の前にでも、話を聞けたらいいんですけどね……」


 パシャパシャパシャ! とスクショを撮る音が聞こえた。

 ったく、肖像権ってもんはねえのかよ。


「そろそろ出ましょうか、先輩」


「ああ。これ以上黒歴史を増やされると困る」


「誰の『あ~ん』が黒歴史ですって?」


「いでっ!」


 思いっきり足を踏まれた。

 連なるスクショ音の裏で、落としっぱなしのティースプーンが、ひっそりと耐久値を全損させて、砕け散った。


ちょっと気が向いたので、

出会ったばかりの頃のケージとチェリーが、

MAO以外のゲームで遊ぶ話を書きました。

今回はいつもより短かったので、代わりにどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054893019483


続きは本っ当に気が向いたときにしか書かないので、

あらかじめご了承ください。

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