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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い
202/262

第201話 VS.《呪王》 - Part6


《堕天魔霊長ケセラシファー》の力を借り受けた《呪王》は、円筒状の塔の頂上にいる。

 塔の入口は東西南北に一つずつ。

 対し、俺たちの人数は16人。

 ちょうど4人ずつに分かれて塔の頂上を目指すことになる。


「ぶーぶぅーっ! ミミもケージ君と一緒に行きたかったのにぃーっ!」


「あなたのところはクランメンバー合わせてちょうど4人生き残ってるんですから、そっちに入るのが当然でしょうが!」


「ま、しょうがないかぁ。庶民(みんな)のことも心配だしね?」


「み、ミミ様……!」

「ご心配には及びません! ミミ様は我々が守りますゆえ……!」


「あっりがとーっ! 庶民(みんな)だいすきーっ!」


 滂沱の涙を流す二人の騎士と巨人騎士・火紹とを連れて、UO姫たちが西の入口から塔に入る。


「それでは、わたしたちも」

「みんな――いっちゃん上で待ってるぜ」

「おっ、くらげかっこいいー」

「あ、あのっ……また、あとで!」


 ろねりあ率いるJK4人組が南の入口から。


「ご武運を、我らが光!」

「赤き曙光が射さんことを!」


 それっぽい合い言葉を残して、《赤光の夜明け》の生き残りたちが北の入口へ向かう。

 そして、東の入口から塔に入るのが俺たちだ。


「なんだか悪いね、入れてもらっちゃって」


「チェリーさんと同じパーティなんて恐れ多いです~……! まいる、頑張って足を引っ張らないようにします!」


「いえいえ。お二人がいれば安心です。少なくとも、打ち合わせもなくいきなりワイバーンから飛び降りたりする人に比べれば」


「おい。それは誰のことだ。まさか一番付き合いの長い奴のことじゃないだろうな」


「あはは」


「笑って誤魔化すな!」


 俺とチェリーに加えて、セツナと巡空まいるを加えた4人で、東の入口の前に立った。

 見上げれば、塔の屋上の縁からは、漆黒に染まった天使の翼が大きくはみ出している。

 まずは、あそこに辿り着く。


「さあ、一気に行きますよ!」


 めいめいに応えを返し、俺たちは塔内に突入した。






 円筒状の塔の中は、極めて単純な構造だ。

 螺旋階段。

 ひたすら螺旋階段。

 緩く左にカーブする階段が延々と続き、右手の壁にはガラスのない窓が等間隔に並んでいる。


 もしこの塔にマップがあれば、4つの螺旋階段がDNA構造のように絡み合っているのが見えるはずだ。

 それでいて、それらは一度として合流しない――螺旋階段の終端である屋上に辿り着くまで。


「そろそろ中間ポイントです……! 準備はいいですか!?」


 階段を駆け上がりながらチェリーが言い、俺たちは揃ってうなずいた。

 直後、小さな部屋に出る。

 学校の教室よりも少し大きいくらいで、奥にはやはり階段がある。だがそれは、俺たち全員が部屋に足を踏み入れた途端、


 ――ガシャン!


 俺たちが来た道も、奥に見える階段も、不意に落ちた鉄格子に封鎖された。

 続いて、床に穴が開いた。

 その穴から演劇のようにせり上がってきたのは、人を模ったと思しき鉄の人形――否、ロボットだった。


 スカートのように広がった白い装甲の奥で、キュィイイン、という駆動音が、徐々に音階を上げていく。

 頭部には赤く輝くモノアイ。それが上下左右に、非生物的な等速度で動いたかと思うと、ひたと正面の俺たちに向いて静止する。

 そして言うのだ。

 無機質な電子音声で。


『排除シマス。排除シマス』


 実にわかりやすい宣言だった。

 同時、金色に輝くレーザーの剣が右手に、バリバリと帯電する盾が左手に現れる。

 それから、ブウン、と音を立てて、頭上に光の輪と、背中から天使の翼を生やした。

 身体も武器も科学の匂いしかしない中で、頭上の輪だけがいやに幻想的で、背中の翼だけがいやに神々しい。


「僕、好きだよああいうの。SFとファンタジーの融合っていうかさ」


 そんなのんきなことを言いながら、セツナが片手剣と盾を構える。


「同感だけど、詳しく見物してる時間はないな」


「ええ。最速で行きますよ!」


「ラジャーでーっす!!」


 天使型ロボットの頭上にネームタグが現れる。

《ケセラシファー・サーヴァント Lv130》。

 それが戦闘開始の合図だったのだろう――キュウィイン、という音と共にサーヴァントが一歩踏み出した。

 直後だった。


「スウッ――――!!」


 鋭く息を吸う気配がしたかと思うと、火球や雷や風刃や水弾がマシンガンのようにサーヴァントに殺到した。

 巡空まいるが舞っている。

 踊り子装束の袖を優美に翻し、一挙手一投足を詠唱とする《完全暗唱術》でもって、下級魔法の機関銃と化す。


「まいるさん! MP大丈夫ですか!?」


「平気ですっ! まいるの《瞑想》と《魔力節約》は特別製ですよ~っ!」


 さすがはウィザード職の総本山でエースを張るだけはあるか。MP枯渇対策に抜かりはないらしい。


「では、私は支援に徹せそうですね……! 《オール・キャスト》!」


 俺とセツナの身体を支援魔法の光が包み込んだ。


「隙は私たちがいくらでも作ります!」


「好きなだけやっちゃってください、お二人とも~っ!」


 頼もしい後衛たちの声に押されるようにして、俺とセツナは前に出た。

 サーヴァントは巡空まいるの《ダンシング・マシンガン》を盾で防ぐので精一杯だ。俺たちは左右に分かれ、側面に回り込む。


「おらっ……!」

「セイヤあッ!」


 それぞれに魔力の光を帯びた体技魔法を叩き込むと、純白の装甲から赤いダメージエフェクトが激しく撒き散らされた。

 モノアイが強く輝く。

 ギャッギャッ! とレンズが素早く左右に走り、巡空の弾幕を半ば無視する形で、無理やりセツナに光の剣を振るった。


「っと……!」


「《デンダー》!」


 まさにそのとき。サーヴァントがセツナに踏み出したタイミングで、稲妻が金属の駆体に鋭く突き刺さる。

 サーヴァントの行動を気取ったチェリーの攻撃だった。ネームタグの横に束の間、麻痺アイコンが灯り、天使ロボの動きがガキリと止まる。


「うわっ、完璧すぎてビックリした……! ケージ君ズルくない!?」


「何がだよ!」


「いつもこんな支援受けてるなんてズルいでしょ!」


 そんな無駄口を叩きながらも、俺たちは麻痺したサーヴァントに剣を叩きつけていた。


「ああくそっ、なんかムカついてきたよ! 僕も可愛くてゲームが上手い恋人がいたらな……!」


「だから別に付き合ってねえっての!」


「その台詞も1回言ってみたい!」


「そのイケメンボイスで言ったらただの嫌味だぞ! っつーか彼女が欲しけりゃさっさと作ればいいだろ! ろねりあ辺りにさっさと告れ!」


「は!? なんでろねりあさん!?」


「実況者同士お似合いだろ? お前は炎上するかもしれねえけど」


「だったらダメでしょ!」


「だったら? つまり炎上しなければ告るってことだな」


「うわっ、この絡まれ方すごくウザい! 今までごめんケージ君!」


 いくら俺とセツナが熟練者で長い付き合いとはいえ、ここまで無駄口ばかり叩けているのは、それほど余裕だったからだ。

 巡空まいるが弾幕でサーヴァントの行動を制限し、チェリーが敵の反撃をことごとく潰してくれるため、俺たちの仕事はひたすらぶっ叩くだけだった。


 ケセラシファー・サーヴァントはあっという間に鉄屑になって消滅する。

 鉄格子が開かれ、上へ向かう階段に行けるようになった。


「さあ、先を急ぎましょう! あとセツナさんはぜひ告りましょう! 絶対いけると思います!」


「まいるもいけると思います!」


「言っとくけどこれ配信してるんだからね! あとでろねりあさん本人が見るかもしれないんだからね! わかってる!? ……は? アーカイブ? 残すわけないよ! 動画ではここだけカットするから!」


 頭の後ろに飛ばしている妖精型カメラに向かって叫ぶセツナ。セツナはクロニクル・クエストの攻略配信を、資料として動画に残しているのだ。


「結構な再生数と投げ銭でそこそこ小遣いもらってるんだから、このくらい甘んじて受け入れろよ」


「さすが普段からイチャつくのを本にされてる人は違うなぁ……」


「アレは脚色されてるっつの!」


「そうです! 私たちあんなアホっぽくないです!」


「そうかなぁ……割と史実に忠実だけどなぁ……」


 小部屋を後にし、再び階段を駆け上る。

 さあ、この塔はここからが本番だ。

 聞いた話によれば、そろそろ――


 シュウィン、と大気を切るような音がした。


「――来ますっ! 窓の外!」


 チェリーが注意を促したそのとき、右の壁に並ぶ四角い窓の外に、小さな翼を生やした妖精が現れた。

 いや。

 妖精ではない。

 天使の翼によって宙を飛ぶそれは、《ケセラシファー・バッテリー》という固有名を与えられている。

 バッテリー――電池ではない。

 砲台だ。


 窓の外に姿を現したそれは、ケセラシファーが遠隔操作する飛行砲台だ!


「走ってください! 全力で!」


 天使型の砲台がカッと輝きを放つ。

 直後、それは極太のビーム砲となり、塔の壁を消し飛ばしながら俺たちの背後を貫いた。

 ちらと振り返れば、ビーム砲を喰らった階段は完全に崩落している。

 もし、ビームを避けるために足を緩めていれば、屋上へ向かう道が断たれていた。

 走るしかないのだ。上へ行くためには、ひたすらに!


 天使砲台が窓の外に現れる。

 光。

 音。

 衝撃が背中を叩く。


「うっひゃあーっ! 映画みたいです~っ!!」


「ムリムリムリ! そろそろキツい!」


 巡空とセツナが二者二様の騒ぎ方をしながら、崩れ落ちる階段から逃げる、逃げる。

 そのうち、窓の外の光景が様変わりしていることに気付いた。

 漆黒の空と、黒ずんだ地平。

 地平線は見えず、代わりにコールタールのように不気味にテカる壁が、地面をとある一線で遮断している。

《呪王》によって作られた仮想空間ってところか――今まで意識さえしなかったそれが望めるほどの高空まで、俺たちは登ってきたのだ。


 もうすぐだ。

 もうすぐ、屋上に辿り着く……!


 シュウィン、と風を切る音がする。

 来るか、また砲撃が。

 あと一発。

 無傷で切り抜けることができれば!


「――見えたっ!」


 左にカーブする階段の先に、漆黒の空が見えた。

 長い螺旋階段の終わり。

《呪王》が待つ屋上だ。

 さあ、あとは、横から来るビーム砲を躱すだけ――


 その瞬間。

 俺たちの誰もに、多かれ少なかれそれ(・・)があったことは否めない。

 すなわち――

 油断が。


《呪王》は、的確にそれを突いた。


「え」

「な」

「う」

「そっ?」


 ヒュウン、と天使砲台が飛んでくる。

 窓の外――ではなく。

 その窓を通って、塔の中へ!


 言葉が追いつかなかった。

 本来のケセラシファー戦ではこんなことは起こらなかった。ケセラシファー・バッテリーは最後まで窓の外から撃ってくるのみ。


 だが、できる。

 あのサイズならば、ガラスもない窓を通り抜けることは、充分に。

 ならば、やる。

 あの《呪王》ならば、当然の選択として!


 天使砲台は俺たちの()に立ち塞がる。

 そして、カッと輝くのだ。

 階段そのものを、縦断的に狙いながら……!


「かい――」


 ひ、というチェリーの言葉は、最後まで続かなかった。

 壁際まで寄れば、ギリギリ避けられたかもしれない。

 しかし、それをやるにはあまりに遅すぎたし――

 ――その前に、すでに動いている奴がいた。


 壁際に寄って避けようと、俺たちが足を緩めたその瞬間――セツナが、盾を構えながら前に飛び出したのだ。


「…………ッ!!!」


 キュドンッ!! とビーム砲が射出された。

 青白い光の槍を、セツナは盾で真っ向から受け止める。


 一瞬たりとも、保ちはしなかった。


 階段という足場の悪さ。それがよくなかった。セツナはうまく踏ん張ることができず、後ろに弾き飛ばされて、勢い良く階段を転がり落ちた。

 だが。

 行く手を阻まれたビーム砲は――その軌道を、わずかに上に逸らした。


 天井をビームが貫く。

 身を屈め、それを潜り抜けるようにして、俺は階段を登り切り、ケセラシファー・バッテリーを魔剣で串刺しにした。


「セツナ!!」


 それから振り返り、叫ぶ。

 セツナはだいぶ下まで転がり落ちていた。

 生きている。

 階段も破壊されていない。


 ただし。

 その頭上の天井には、すでに大量の亀裂が走っていた。


「――ケージ君!!」


 セツナは顔を上げると、傍に飛ばしていた妖精型カメラをむんずと掴む。

 そして、投げ飛ばした。

 妖精型カメラは俺の胸の辺りにぶつかり、あるメッセージウインドウを表示させる。


【《セツナ》から配信主体の移行を提案されました。受諾しますか?】


 これは……!

 映せって言うのか? 俺に――この先を。


「甘んじて受け入れてよ!!」


 声は明るく、表情は笑顔だった。

 バキリ、と天井が形を崩す。

 無数の瓦礫がセツナの姿を押し潰し、階段さえもぐちゃぐちゃに崩落させた。


 仮想世界では、『死んだと思いきや実は生きていた』は通用しない。

 パーティを組んでいたことによって表示されていたセツナのHPは、完全にゼロ。

 蘇生待機状態の人魂も階段と共に落下し、もはや戦線復帰は叶わない。


「……仕方ねえなあ」


 別に死んだわけじゃない。

 また一緒にパーティを組むこともあるだろう。

 しかし、『今』という時間からセツナが脱落したことは間違いなく。

 しかし、配信者の意地として、あいつはそれを俺に託した。


 映し続ける。

 届け続ける。

 今、この場で紡がれ続ける物語を。

 それがセツナというプレイヤーの信条であることは……あいつの何百本にもなる動画を見ていれば、誰だって知っていることだ。


 俺は妖精型カメラを傍に飛ばし、その向こうの大勢に言う。


「悪いな。コメントは見れねえけど」


 俺は【受諾】をタップした。


「必ず、最後まで見届けさせてやる」


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