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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第200話 VS.《呪王》 - Part5


 ワイバーンのコウモリのような翼が、吹き上げる上昇気流をいっぱいに受け止める。

 その背に跨がった俺とチェリーは、ぐっと体勢を屈めてGを堪え、頭上に君臨するそいつを見上げた。


 綿菓子のような白い雲で形作られた巨人。

 筋骨隆々の上半身に、下半身は綿菓子状。まるで絵巻物に描かれた風神の姿。

 綿菓子状の下半身の中に、ぼんやりと青い輝きがある。

《呪王》を守るバリアだ。

 ヤツを直接叩くには、まず外骨格である風神――《風雲総司令クラウタール》を破壊する必要がある!


 俺たちのものを含め、十数頭のワイバーンがクラウタールと同じ高さまで舞い上がった。

 クラウタールは、雲でできた真っ白な目でぐるりと俺たちを見回し。

 もわり(・・・)と、純白の巨腕を空に掲げる。


 白雲の手の中で、轟然と風が渦巻いた。

 細かな雲が吸い寄せられて、洗濯機に入れられたようにぐるぐると回る――当初はそれだけだった。

 しかしやがて、炸裂音が混じる。

 バチバチと、青白い稲光が、豪風の球の中で暴れ狂う……!


「操縦は任せますよ、先輩! ドライブがうまい男子はモテますからね!」


「竜に相乗りするような女子はお前くらいだよ!」


 そんなやり取りの直後に、風雷の球が内から弾けた。

 まるで宙で砕けた隕石の欠片。

 無数の稲妻が花火みたいに散らばって、雨のように俺たちに降り注ぐ……!


「当たるかっ……!」


 稲妻そのものは無論、見てから避けられるような速度じゃない。

 だが、稲妻が落ちるポイントには、先んじてチリッと細い静電気のようなものが走る。

 俺は手綱を操り、その落雷ポイントをかい潜っていく!


 まるで弾幕系のシューティングゲームだ。

 視界が埋め尽くされるほどの稲妻の嵐を躱し、躱し、躱し、クラウタールとの距離を着々と詰める。

 無傷で雷の弾幕を潜り抜け、クラウタールの巨体を間近に望んだそのとき、俺の後ろでチェリーが叫んだ。


「雲は水滴や氷の粒の塊……! ならば当然! 熱せば蒸発するが道理です! 先輩っ!」


「ああ……! 燃やせ、ワイバーン!!」


 ワイバーンの首元を強く叩いた。

 それは合図だ。この鳥のような竜が、確かに竜であるという証明の!


 ワイバーンのアギトから、紅蓮の炎が迸る。

 火炎のブレスはクラウタールの肉体に突き刺さり、まるでソフトクリームを舐めるように蒸発させた。

 だが、浅い。《呪王》を露出させるには至らない。


 俺たちの他にも、セツナが、ろねりあたちが、UO姫たちが、巡空まいるたちが次々と火炎のブレスを噴きかける。

 それらによってクラウタールは明らかに体積を減らすのだが、《呪王》は顔さえ覗かせることはない。


「分厚い……っ! どうする、魔法で追撃するか!?」


「温存したかったんですが、やむを得ませんか――」


 後ろでチェリーが杖を構えたとき、オオッと風が唸る音がした。


 ム、オ、オ――ン!!


 クラウタールの白雲の巨体が猛然と旋転する。

 それに攪拌された大気が髪を強く靡かせ、


「やべっ……!」


 本能的に危機を悟った俺は、大急ぎでワイバーンを後進させた。

 直後、クラウタールを中心に巨大な竜巻が発生する。

 その外縁の強風に強く煽られたが、何とかバランスを取り戻すことに成功した。


「……っ! 大丈夫かチェリー! 落ちてないか!」


「なっ、なんとか……!」


 俺の腰にしがみついたチェリーからの返事を確認して、俺はクラウタールを覆った竜巻を見上げた。


「くそっ……! 何騎巻き込まれた!?」


「3騎は見えましたが……!」


 2人で1騎。つまり最低でも6人だ。

 竜巻はバチバチと帯電している。ただでさえ身を引き裂くような風の乱流。この上空であんなものに巻き込まれたら死は免れない――その上、蘇生待機状態の人魂は重力に引かれて墜落する。蘇生は望むべくもない。


「ここで一気に減らす気か、俺たちを……!」


 竜巻が凪ぐ。

 白雲の風神が再び姿を現し、次いで遙か空から、青白い人魂がいくつも降り注ぐ。

 流星のように尾を引いて落ちていくそれらの数は、明らかに10を超えていた。


 パッと見る限り、まだ飛んでいるワイバーンは10騎ちょっと。

 およそ半数だ。

 人類軍ラスト・パーティのうち、約半数が脱落した――


まだ半分(・・・・)です」


 後ろでチェリーが決然と言う。


「まだ半分も残っています――大して向こうは、あのクラウタールを含めてあと3体分!」


「……ああ。向こうは半分以下だ――つまり、こっちのほうが有利ってことだな!」


 俺は、白雲の中でおぼろに輝く青を見据える。

 その視線に、応えるかのように。

 クラウタールの巨体の一部が、パンのように千切れた。


「あれは……!」


「《飛雲兵》です!」


 クラウタールから分かたれ、空に漂った小さな雲は、鳥のような姿を形作る。

《飛雲兵》。

 クラウタールが生み出す取り巻きモンスターだ。


 10羽以上も生まれたそれらは魚群のように立体的な編隊を組むと、クラウタールを守るように位置取った。

 さらには、クラウタール自身も右腕を高く掲げ、風雷の球をチャージし始める。

 今度は落雷に加えて、あの雲の鳥どもも避けなきゃいけないってわけだ。


「……編隊には編隊。数には数です」


 チェリーが低く呟き、そして声を張り上げた。


「皆さん!! クラウタールの正面、雲状の下半身を狙います!!」


 答えはなかった。

 その代わりに、俺たちは――十数騎の竜騎兵たちは、一斉に空を駆けた。


 飛雲兵が動く。

 風雷の球が弾ける。

 落雷ポイントを示す静電気のガイドラインが、視界を細切れにするように無数走った。


 俺は左手で手綱を操り、落雷を避けながら、右手で背中の魔剣フレードリクを抜き放つ。


 右から1羽。

 左から1羽。

 下からも来てるがこれは無視!


 すぐ右に落ちた雷の陰から襲い来た雲の鳥を、一刀で真っ二つにする。

 同時、左から襲おうとしていた飛雲兵が、雷魔法《デンダー》に貫かれて霧消した。


 弾幕を避けるコツは、ひとつひとつ順番に対処することだ。

 落雷と飛雲兵を同時に相手にしようとするな。

 落雷を避ける。飛雲兵を撃退する。順番に相手取れば、決して難しくはない!


 二たび、クラウタールの膝元へ。

 落雷と飛雲兵の嵐を抜け、俺たちと轡を並べることができたのは、他には7騎ほどだった。


「3、2、1―――!!」


 チェリーのカウントダウンに、その7騎も完全に合わせる。

 計8発の火炎ブレスが、クラウタールの下半身、その一点に集中砲火を浴びせた。


 まるでドリルが、地面を掘り抜くように。

《呪王》を分厚く覆い、守っていた雲が、蒸発して穴を空ける。

 その穴の向こうに青いバリアが垣間見えた。


「《ギガデンダー》―――!!」


 すかさずだった。

 ブレスが空けた穴に、チェリーのものを含めた魔法攻撃が先を争って殺到した。

 届く。

 雲に隠れていた《呪王》のバリアに、亀裂が幾筋も入る。

 だが――


「……っ!? 足りない……!?」


 割れない。

 亀裂だらけになりながら、《呪王》の青のバリアはまだ割れない。


 漆黒の翅を広げた冷たい表情の男の姿が、再び雲に覆われ始める。

 もう一度か。

 仕切り直すのか。

 さらなる犠牲を払って。

 ――いや!


「手綱任せた!」


「えっ!?」


 俺はワイバーンの手綱を放り出し――身を宙に投げた。

 自殺でもなければスカイダイビングでもない。

《呪王》の野郎を、もう二度と隠れさせないために……!


第五ショート(キャスト・)カット発動(ファイブ)!!」


 俺の魔剣が、身体が、龍をかたどった紅蓮の炎に包まれる。

 炎属性奥義級体技魔法《龍炎業破》。

 システムに支配されたアバターが、強引に空を駆ける……!


 炎の龍のアギトが、塞がれつつあったクラウタールの穴を食い破った。

《呪王》の姿が、再び露わになる。

 青く輝くバリアに――俺の剣先が、届く。


 ガラスが割れるような音がした。

《龍炎業破》の紅蓮が、砕け散ったバリアの輝きさえも飲み込んだ。


 炎の向こう。

 俺が突き出した魔剣の先端を、右の手で受け止めながら。

《呪王》が、俺の顔を睨みつけている気がした。


「――《呪い返されよ》――」


 陰々とした声が響く。


「――《プライミッツ・ケセラシファー》……!!」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 石積みの壁が、突如として目の前に立ちはだかった。


「ぃでっ!」


 それにしたたかに額をぶつけて、俺は後ろに引っ繰り返る。

 一瞬、ひやりと背筋が凍えたが――俺の背中は、どすんと硬い地面に激突した。

 ……地面が、ある?


 空中にいるつもりでいた俺は、混乱しながら上体を起こす。

 いつの間にか、俺は地面の上にいた。

 そして、すぐ目の前に――見上げれば首が痛くなるほどの、円筒状の塔が建っていた。


「先輩!」


 たかたかと走ってくる音がして、頭上からチェリーが顔を覗き込んでくる。


「……まったく、なんて無茶をするんですか。せっかくの《魔剣再演》を抱え落ちとかシャレになりませんからね?」


「万が一ミスってもお前が拾ってくれると思ってさ」


「ほっほう?」


 チェリーはにたりと意地の悪い笑みを浮かべる。


「まあ確かに? 私は? とても優秀な後輩なので? きっと無様に墜落する先輩を受け止めて差し上げたでしょうけども? ……ふふっ、信頼されちゃってますね~、私! どっかの媚び媚び姫とは違って!」


「うおらぁっ! こんなときまで嫌味か淫乱ピンクーっ!!」


「うきゃあっ!?」


 突如、後ろから膝の裏を蹴られ、カクンッとその場にコケるチェリー。

 その背後に視線を向ければ、ボス戦でも相変わらず甘ロリ姿のUO姫と、影のように付き従う巨人騎士・火紹がいた。


「よお、無事だったか、お前ら」


「なんとかね! 火紹君は盾としてすっごく優秀だから!」


「防具扱いしてやんなよ……」


 寡黙な武将の(ロールプレイをしている)火紹は、不満そうにもせずむっつりと黙り込んでいる。

 こいつ的には、防具扱いでも嬉しいのかもしれない。

 UO姫は、砂糖の匂いがしそうな溜め息をついて、


「……でも、ウチの庶民(みんな)はだいぶやられちゃった。生き残ってるのはミミたち除けば二人だけ」


「蘇生は……間に合わなかったか」


「アイテム自体、ほとんど残ってないんだよね~。ああ、庶民(みんな)……安らかに眠ってね……」


 いや、死んだ連中は今頃、地上の宿屋にリスポーンしてると思うが。


「……本当に、だいぶ少なくなっちゃったね」


 爽やかなイケメンボイスがしたかと思えば、青の鎧にマント姿のセツナがやってくるところだった。


「ゼタニートさんもストルキンさんもさっきの形態で脱落したよ。残ってるのは――」


「はいはーい! まだ生きてまーっす!」


 ビキニアーマーの双剣くらげが両手とツインテールをブンブン振る。

 そのそばには、プリーストのろねりあ、ウィザードのショーコ、ウォーリアのポニータが揃っていた。JK4人組、全員生存か。


「ろねりあの指示がなかったら3回は全滅してたね! ナイスろねりあ! 黒髪ロングは伊達じゃないっ!」


「別にわたしの髪型は優等生の象徴とかじゃないんですけれど。大体、その3回はくらげさんが何も考えずに突っ込もうとした分じゃないですか!」


 ポニータが飄々と肩を竦め、ショーコがろねりあと双剣くらげの間であわあわする。

 どんな状況でもノリが変わらないのは、こいつらの強みだな。


「いや~、ここまで頻繁に戦闘形式が変わると、なかなか対応しきれないものですね~」


 少し疲れた調子で言ったのは、クラン《赤光の夜明け》を率いる巡空まいるだ。

 踊り子衣装に魔女帽子の女子中学生の後ろには、クランメンバーだろうウィザードが4人ほど控えている。


「チェリーさんはすごいです~! よくああも次々と的確な指示を! はあ~……やっぱり憧れです……」


「い、いえいえ。元から攻略法を把握してただけですから!」


 UO姫の膝カックンから起き上がったチェリーが恐縮して一歩引きつつ、生き残ったメンバーを見回した。


「……生き残ってるのは、16人ですか」


 思った以上に減らされた。

 戦闘開始時の、およそ3割程度ってところか。

 一方、《呪王》の形態は、おそらくあと二つ残っている……。


「この人数でこの形態か。……厳しいね」


 難しい表情で、セツナが石造りの塔を見上げた。

 この塔が現れたということは……間違いない。


「《堕天魔霊長ケセラシファー》――戦略十二剣将最強のボスですね」


 俺は直接には関わらなかったが、結界攻略戦において最も苦戦したのが《ケセラシファー》だと聞いている。

 俺や《聖ミミ騎士団》の連中も《呪王》の介入によってイザカラに酷く手を焼かされたものだが、ケセラシファー戦もそれに匹敵するほどの地獄の様相を呈していたらしい……。


「ですが所詮、一度は倒した敵です」


 チェリーは生き残ったメンバーに――そして、セツナの背後に浮かぶ妖精型カメラの向こうに宣言するようにして告げた。


「教えてやりましょう。私たちの辞書にゲームオーバーの文字はないと」


 プレイヤーたちそれぞれから応えが返った、その直後。

 石造りの塔の、遙か頂上で。


 漆黒に染まった天使の翼が、大きく広がるのが見えた。


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