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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第198話 VS.《呪王》 - Part3


 ザザッ、ザザザッ、ザザザザザザッ――――!!

 四方から迫り来る葉擦れの音は、木々それ自体が奏でる偽装に過ぎない。

 闇深い森を構成する木の1本1本が、《呪王》の支配下にある魔物なのだ。

 時折、枝葉の中からフケのように飛び出す木の実攻撃(状態異常付き)に気を配りながら、俺は足音に耳を澄ます。


《呪王》の影が、木と木の間に現れては消えた。

 レイドボスらしからぬスピード。しかし、それゆえに、捕らえてしまえばこっちのもんだ……!


 ザグンッ! と土塊を蹴飛ばす音がした。

 同時。

 俺と、もう一人――チェリーの声が完全に重なった。


「「そっち!!」」


 俺たちの背後――セツナやろねりあたち合宿組が警戒していた方角から、人影が躍り出る。

 出端を潰せなければ、ヤツは陣中に入り込んで暴虐の限りを尽くす……!

 だから、その前に!


「せえあああっ!!」

「ちょりゃああああ――――っ!!」


 気勢を上げながら、勇者然とした鎧にマントのセツナと、規制ギリギリのビキニアーマーの双剣くらげが、それぞれに前に出た。

 ゲーム歴に相応の硬さを持つセツナの盾が、キャラネーム通りの二刀流が、体技魔法の輝きを放って《呪王》を迎え撃つ。


 グァインッ!! と緑のバリアが浮き上がった。

 弾き飛ばされたセツナと双剣くらげが地面を転がされていく。だが一方、《呪王》のほうも弾き飛ばされ、空中で体勢を立て直そうとしている!

 その隙を、ろねりあが見逃さなかった。


「《バインド》っ!!」


 じゃらりと魔法の鎖が素早く伸びる。それは空中にある《呪王》を緑のバリアごと縛り上げた。

 動きが止まる。だが相手はエリアボスだ。魔法の鎖はすぐにひび割れ――


「《バインド》!!」

「《バインド》ぉっ!!」

「《バインド》ぉおおおお――――っ!!」


 他のプリーストたちが俺も俺もとばかりに魔法の鎖を伸ばした。ろねりあの鎖が砕ける端から、バリアに守られた《呪王》を雁字搦めにしていく……!

 これですら、動きを止められるのはほんの数秒だろう。

 だが、それだけあれば十二分!


「――《ファラ》!」

「――《ゾー》!」

「――《ガ》ぁああああああああっ!!」


 方々から迸った紅蓮の火球が、雁字搦めになった《呪王》に殺到した。

 緑のバリアに弾かれる。しかし入る。ダメージの証たる亀裂が。ひとつ、ふたつ、みっつ!


「撃ぅて撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃てぇぇぇ――――っ!!!」


 自身も玩具みたいな弓で魔法矢を連射しながら、UO姫が振り切れたテンションで叫んだ。

《バインド》の鎖がバギンと破断する。

《呪王》の動きを制限するそれが、1本残らず砕け散り、消滅すると同時――

 ――亀裂に覆われた緑のバリアもまた、ガラスのように砕け散った。


「くっ……!」


 表情をかすかに歪めながら、《呪王》は強く地面を蹴って森の闇に姿を消す。

 そして。


「《呪い返されよ》――」


 緑深い森が、水に溶かされた絵の具のように滲んだ。


「――《プレジデント・ガルファント》!!」




 乾いた風が、全身を撫でた。




 湿っぽい森の中にいた俺は、急激な環境の変化に脳が混乱する。

 俺たちは、不毛の荒野の真ん中に立っていた。

 一面黄土色の風景に、俺は覚えがあった――そう、俺は、そしてチェリーは一度、この空間を横断している。突然配信したメイアを探しに行くために――


《幻影天統領ガルファント》。

 不可視の巨鳥のテリトリー!


「あっ! あそこ!」


 双剣くらげが叫び、右手の剣で指した先。

 ひび割れた荒野に、大きな影が落ちている。

 それは、巨人が背から翼を生やしたかのようなもの。

 言うまでもなく――《ガルファント》の能力によって姿を隠した《呪王》の影!


「全員散開ですっ!!」


 チェリーが叫ぶと同時、《呪王》の巨影が猛然とこちらに向かってくる。

 っつかデカくねえか……!? 身長5メートルはあるぞ! あれに比べりゃ火紹だって小人のカテゴリだ!


 かつて俺とチェリーは、それぞれ馬に跨がってガルファントの追跡を振り切ろうとした。

 それでさえ完全に逃れるのは不可能だったのだ。いわんや徒歩の今は……!


「うほっおわあああああ――――っ!!?」

「ぎょおおおわああああ――――っ!!!」


 絶叫マシンめいた悲鳴を上げながら、プレイヤーが何人か天高く巻き上げられる。

 軽く10メートルはぶっ飛んだ連中を見上げながら、俺は背筋をひやりとさせた。たとえHPが残ったとしても、高所恐怖症的には余裕で死ねる!


 背後へと通り抜けた巨影は、大きく旋回して再び俺たちを狙ってくる。

 平面上の位置はわかるが、立体的な位置はわからない。それが《ガルファント》の厄介なところだ。

 俺たちがテリトリーを突破したときはまだ攻略法が確立されていなかった。あれから攻略担当クランの《ウィキ・エディターズ》がヤツの透明化能力を破るすべを編み出したはずだが、彼らはほとんどが後方の街の防衛に回ってしまってこの場にはいない。その上、その攻略法には相応の準備が必要だったはず……!


 とにかく今は、散り散りに逃げ回るしかない。

 それで被害は最小限になる。

 だが、ゼロにはならないのだ。


 巨影が高速で通り過ぎた。

 その場にいたプレイヤーが空高く舞い上げられ、高所から地面に叩きつけられる。ダメージは深刻だった。耐久に余裕があるウォーリア系の連中は1発は耐えられるみたいだが、物理ダメージに弱いウィザード系やプリースト系は……!


 どうする。どうすればいい!?

 次の獲物を考えるようにゆっくりと旋回する巨影を睨みながら、俺は歯噛みする。

 何の準備もできていないこの状況で、どうやってヤツの位置を割り出せばいい……!? くそっ! 普通ならこの挑戦をいったん捨てて、情報収集に方針を切り替えられるのに……!


「先輩!」


 焦りながら手を考えていた俺のもとに、チェリーが駆け寄ってきた。

 そして言った。


「ちょっと屈んでください、先輩!」


「おう!」


 戦闘中ゆえ、チェリーの指示に反射的に従うモードに入っていた俺は、何も考えずにその場で身を屈める。

 と。


「んしょっ……」


 屈んだ俺の背中に、チェリーが抱きついた。

 ……んん!?


「お、おいおいおい! 何やってんだこんなときに!?」


「こんなときだからでしょう!?」


「はあ!?」


「私の馬になってください! 私じゃAGIが足りないんです!」


 耳元で切羽詰まった声を聞いて、どうやらシリアスな案件らしいと悟った俺は、幾分か冷静さを取り戻した。


「……何をするんだ? 策があるのか? あいつの位置を割り出せる?」


「そうです。《ガルファント》にはなくて、《呪王》にはあるものを使えばいいんです」


《ガルファント》にはなくて、《呪王》にはあるもの……?

 しばし考えて、はたと思い至った。


「そうか……! バリアか!」


「はい」


《呪王》の身を守るバリア。本物の《ガルファント》はそんなもの纏っていなかった。


「さっきのろねりあさんの《バインド》を見ましたか? 《呪王》のバリアは《バインド》の拘束に対しても発動しました。すなわち、ダメージを与えるものでなくとも、敵対的な現象に対しては自動的に発動するんです」


「それを利用してバリアを出させれば、ヤツの正確な位置が浮き彫りになる……!」


「はい。ですから先輩、《呪王》の影を全力で追ってください! 位置の割り出しは私がやります!」


「よし……!」


 俺は右手の魔剣フレードリクを鞘に仕舞うと、両手でチェリーをしっかりと背負い、


「ひぁんっ!?」


 立ち上がろうとした瞬間、背中から変な声がした。


「どうした!? 何かあったか!?」


「……せ、先輩……もしかして、わざと触ってます……?」


「は? 触るって?」


 何にも触ってる感じはしないんだが……。

 ……ん?

 触ってる感じがない?

 ってことは……。


「……まさか、俺、ヤバいとこ触ってる?」


「…………ふうー」


「ひょおおわっ!?」


 耳の中に突然息が吹き込まれ、ぞくぞくとした感覚が背筋を駆けた。


「いいですよ。先輩がムッツリなのは知ってますし。好きなだけ触ればいいじゃないですか。その代わり、私も好きにさせてもらいますからね。私の息遣いが耳から離れなくなるようにしてやりますから」


「どんな仕返しだよ!」


 あーもうくそっ! 仕方ねえな!

 俺はぐいっと身を捻り、チェリーの肩と膝裏に腕を通して抱え上げた。


「ひぇあっ!?」


「これなら文句ねえだろ! 走りやすいしな! 行くぞ!」


「ちょ、ちょっ……! これはこれで気になるんですけど!? 顔ちかっ――きゃわぁあああっ!?」


 俺がAGIを全開放するや、チェリーは首に抱きついてきた。

 精神的に疲れるのであまりやらないが、MAOでもトップクラスであろう俺のAGI数値は、全力疾走を早馬のそれにも匹敵する速度にする。

 充分なSTRのおかげでチェリーをお姫様抱っこにしていることもハンデにはならず、俺は突進してくる《呪王》の影を余裕をもって回避し、そして通り過ぎ去るそれに並走した。

 その頃には、騒いでいたチェリーも戦闘に意識を向け直していた。


「オーケーです……! この間合いをできるだけ維持してください!」


 声と湿った息が頬に当たり(もうちょっと離れろ)、チェリーは左手にスペルブックを出した。

 開かれたページに記された魔法は――


「《大雨乞い》!」


 俺の腕の中で聖杖エンマを天高く掲げ、詠唱した瞬間、頭上の空が分厚い黒雲に覆われた。


 桜色を基調とした和風の装束からもわかる通り、チェリーは《巫女》である。

 正確なクラス名は《聖杖の巫女》と言って、俺の《魔剣継承者》と同じく《聖杖エンマ》を装備しているプレイヤーがなるユニーククラスだ。

 系統としてはウィザード系とプリースト系の中間――いやハイブリッドとでも呼ぶべき性能であり、しばしば《シャーマン》クラスの上位版として扱われる。

 それゆえに。

《シャーマン》が持つ最大の特徴――他のクラスにはない固有の力を、チェリーもまた行使できるのだ。


 すなわち、天候操作魔法を。


 天空に立ち込めた黒雲から、バケツを引っ繰り返したような雨が降り注いだ。

 乾いた荒野がたちまち湿り、俺とチェリーの服もずぶ濡れになって肌に張りつく。

 普段なら、MAOの異常にディティールの細かい感覚再現能力が生み出す、素肌同士を触れ合わせているような感触に気を取られていたことだろうが、今はそれ以上に注意を惹くものが頭上に現れていた。


 バリアだ。

 黄色の巨大なバリアが、降りしきる雨を弾いているのだ。


 ――見つけた。

 いかに本体を隠しても、そのバリアだけは隠せない。


「皆さんっ!!」


 豪雨の音に負けない声でチェリーが叫んだ。

 具体的な指示を聞くまでもなく、人類軍最後の生き残りたちは、自分のやるべきことを一瞬で悟る。

 天候ステータスが《大雨》のときは、水属性魔法の威力が大きく増幅する。


「「「《ウォルルード》!!」」」


 雨粒を巻き込んで突き進んだ水流の槍が、蛇のように黄色のバリアに噛みついた。


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